松舞ラブストーリー

山陰の仮想の町松舞町を舞台にした、様々な恋愛を見守ってやって下さいね

毎日、雨、雨、雨・・・気分が滅入ってしましますよね。
仕方ないんですけどね、梅雨なんだから・・・
もちろん、今日も雨です・・・
こんにちは、健吾です。
―――――――――7月6日(日)―――――――――
車のハンドルに体を預け、忙しなく動くワイパーを見つめる。
・・・今まで、お袋の軽を借りて乗り回していましたが、今年のボーナスを頭金に新車を買いました。
「ローンなんか組んでどけすーかね!」って楓は怒ってますが、他人のする事にいちいち口をはさんで貰いたく無いですよね。
だいたい、車が来て一番喜んでいるのはアイツなんですから。
俺の車を何だと思って居るんでしょう!

不意に、窓ガラスをノックされる。

「ゴメン健吾待たせちょって。お母さんが序でに千華屋さん寄ってごせって。今、用意しちょうけん、もうちょっと待っちょって。」

・・・この親子いや、ヒデ兄を含めたこの一家は、俺の事を何と思ってるんだよ!

暫くして、おばさんが風呂敷包みを持って現れた。
「ゴメンね健吾君、私が松舞に下りるつもりだったんだけど、楓が序だからって言うもんだけん」
「あっ、いえ全然大丈夫ですよ、おばさん」

・・・やっぱり、楓の仕業か
悔しい事に、楓のおばさんの前では幼稚園の頃の俺の様に、良い子で居てしまうんだよな。

「じゃあこれ、ガソリンとお昼ご飯代、あんま遅にならんうちに帰えだよ、じゃあ気を付けて行って来うだわ。」
そう言いながら、おばさんは俺に茶封筒を渡してくれた
・・・そう言う事なら、話は別ですよおばさん、何時でも僕をお使い下さい♪

一度松舞に下りてから、雲山のリサイクルショップに着きました(千華屋さんで楓もお小遣い貰ったみたいですが・・・)
僕は、中古のゲームソフト、楓は古着やアクセが目当てです。

ゲームコーナーに向かう途中、ベビー服が目に留まりました。
・・・そう言えば、英兄の所11月予定だったなぁ

「何か有った、健吾?」
楓が後ろを振り返った。
「いや、佳奈絵さんの出産予定11月だったがなって思っちょった。因みに出産祝いって、何贈ればいいかや?」
「そうねぇ、ベビー服とかが無難じゃないの・・・あんたはセンス無いから私が一緒に選んであげえけんね。」
「お前のセンスもイマイチ怪しく無いか?」

そう言いながら、披露宴でのヒデ兄の醜態を思い出していた。
「ちょっと健吾、何ニヤニヤしちょうかね。」
「いや、披露宴でのヒデ兄のあわてぶりを、思い出しちょった」
「あぁ、あれは意外だったがぁ」
「楓は、知っちょたかや?」
「いんや、当日の控室で聞いたに。んで、緑川さんとお兄ちゃんには黙っちょて、驚かすかって事になったに。」
「そら、間違いなくおべるわな。」


堅苦しいスピーチも一段落して、各々楽しくお喋りをしている時の事だった。
突然、式場の照明がうす暗くなり、ヒデ兄にスポットライトが当たった。

「え~ご来場の皆様、今日の良き日にもう一つおめでたい出来事がございます。」
そう、颯太さんがアナウンスすると、来場者がザワザワ騒ぎ始めた。
続いて緑川さんが「え~新婦の佳奈絵さんですが、現在妊娠4か月で11月にはお母さんになられます。つまり、新郎英生君は11月にパパとなります」って、嬉しそうにアナウンスした。
一瞬場内が静まり返ったが、誰からともなく拍手が起こり程なくそれが歓声に変わった。

「えぇっ? ヒグラシマジ?」慌ててビールを溢しそうになりながら、ヒデ兄は佳奈絵さんの方に振り向いた。
はにかみながら小さく頷く佳奈絵さんが、年上とは言え妙に可愛らしかった。
「えっとえっと、役場に申請に行って、病院予約して・・・あっ、社長家族手当の申請お願いします」
「森山ぁ落ち着け、そんな事じゃあ立派な父親に為れないぞ」そう言う社長さんに場内には笑い声が溢れた。


あんな慌てたヒデ兄を見たのは、初めてだったなぁ。
父親になるって、いまいちピンっと来ないんだけど、嬉しいけど大変な事なんでしょうね。

ぼんやりと、俺が赤ん坊を抱き上げてる姿を想像してみた。
想像した風景には、少し心配そうな笑顔の楓が居た。


松舞ラブストーリーアーカイブ
 
ショート・ショート編
モリヒデ・ヒグラシ編
颯太・朝葉編
洋介・日向編
幸一・真子・美結編
御主人様28号・詩音編
比呂十・美咲編
優ママ編
本田・楓編
android game編
純・カヲル編
瑞穂編
ちょい、言ったー。
僕と彼女の日々
ある高校生の夏休み編【完結】
(小夜曲)sérénade編【完結】
楓・青木先輩編【完結】
本田・沢田編【完結】
2009年収穫祭編【完結】

♪♪♪
部屋中に、ヒグラシのスマホの着信音が鳴り響いた。
「も・・・もしもし・・・お母さん?なに?こんなに朝早く・・・」
上半身を起こして話をするヒグラシの横で、俺は捲れ上がった掛け布団を手繰り寄せた。
「ウソ!マジっ・・・うん、分かった。ちょっとぉ、モリヒデ起きなさいよ!」
せっかく手繰り寄せた掛け布団を、ヒグラシが撥ね退けた。

松舞の朝方は、まだまだ寒いです。
おはようございます、モリヒデです。
―――――――――5月25日(日)―――――――――
「もう、10時回っちょうがね、モリヒデ!」
「うぉっ、マジ?」
俺は慌てて、枕元のスマホを手に取った。

今日は午前中、ご近所にあいさつ回りに行く予定でした。
・・・実は、昨日ヒグラシとの結婚式でした。
これで、自他ともに認める夫婦となりました・・・実感はないんですが。

いや~、結婚式って飲んで騒いでって簡単に考えてたんですが、緊張しちゃって疲れ果てました。
次は結婚式はしないぞ・・・おっと、そんな事言っちゃいけませんよね(笑)
人前式だったし、そんな盛大な式したわけじゃないんですけどね。
呼んだのは、お互いの親戚と極々親しい友人数名、そして夫々の職場から社長と上司と2名づつ位です。

おっと、そんな悠長に考えてる時間はないですね、急いで支度をしなければ。

・・・

「お~い、ヒグラシ~準備できたかぁ?」
「ちょっと待って、ワンピースのチャックがぁ・・・」
「ったく、相変わらずトロいなぁ」
俺は、そう言いながらヒグラシの背中に回りワンピースのチャックを静かに上げた。
「お前・・・腹出て来たな・・・」
ちょっと剥れ顔のヒグラシが振り返った。

「・・・・ちょ、ちょっと何?そのネクタイ・・・ヨレヨレじゃないのよ!」
「あっ、適当にクローゼットから引っ張り出したから・・」
「んもう~、相変わらず私がチェックしないといけないんだから・・・しっかりしてよねパパ」
そう言って微笑むヒグラシを見て、俺も一緒に笑ってた。


松舞ラブストーリーアーカイブ

 ショート・ショート編
モリヒデ・ヒグラシ編
颯太・朝葉編
洋介・日向編
幸一・真子・美結編
御主人様28号・詩音編
比呂十・美咲編
優ママ編
本田・楓編
android game編
純・カヲル編
瑞穂編
ちょい、言ったー。
僕と彼女の日々
ある高校生の夏休み編【完結】
(小夜曲)sérénade編【完結】
楓・青木先輩編【完結】
本田・沢田編【完結】
2009年収穫祭編【完結】


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それは、去年のクリスマスイブの前日、天皇誕生日の23日の話、ヒグラシの奴は、雲山で真昼間からクリスマス女子会だった。
お昼前に雲山駅まで送って、夕方また雲山駅に迎えに行くと言う、完全なる奴隷状態。
一旦、松舞に帰るって選択肢も無い訳ではないけど、峠越えをする事を考えると、こっちで時間を潰した方が楽なので、適当に雲山の街をぶらついていた。
こんばんは、お久しぶりですモリヒデこと、森山英生です。
―――――――――3月16日(日)―――――――――
雲山の街は、クリスマス一色でした。
きっと全国的に、クリスマスカラー一色なんでしょうね。

そう言えば、ヒグラシへのクリスマスプレゼント、まだ決めかねていたなぁって思い、雲山で一番大きなショッピングセンターに寄りました。
エントランスの横の、花屋の前で見た事有る親子が。

「確か、あの人は・・・雲山設計の・・・」
そう、以前松舞川で一緒に、バーベキューした木下さんだった。
って事は、抱いてる子供は確か・・・美結ちゃんだったっけ?
いや、バーベキュー時点で、保育所だったから、それはあり得ないなぁ・・・
挨拶しようかどうしようか、少し躊躇していると店内から、これまた見覚えある顔の女性が・・・
奥さんだった。
そして嬉しそうに、花の鉢を抱えた女の子が・・・美結ちゃんだった。
って言う事は、木下さんが抱いてるのは下のお子さん?
二人目が生まれたんですね。

嬉しそうな笑顔で話す、木下さんと奥さんを見ていたら、何だか邪魔しちゃいけない様な気分になって、敢えて挨拶はしなかった。

「幸せそうだったなぁ」
気が付くと、俺はボソッと呟いていた。
バーベキュー大会からでも、気が付いたら3年は経っていた。
周りの人間は、確実に幸せになって行っているのに、俺達は相変わらず子供っぽいよなぁ。
颯太も、実はこっそり結婚資金を貯め始めているらしい、社会人先輩の俺なんて相変わらずのその日暮らしに近い状態だしな。
「そろそろ、俺も年貢の納め時かな?」なんて思い、苦笑いしてしまった。
出会った頃は、あんなに仲の悪かったヒグラシとの生活を、いつの頃からか真剣に描く様になっていたんですよね。

♪♪♪
ポケットの中の、スマホがメール着信を告げた。

『モリヒデ、ごめん一人急用が出来ちゃって、お開きになっちゃった。3時頃、雲山駅来れる?』
マジかよ、まだプレゼント買ってないのによぉ
焦った俺は、服飾コーナーに向かい、候補の一つだった手袋を手にした。
もう一つの候補だったマフラーは、ちょっぴり予算オーバーだった。
店員さんに、頼み込んでラッピング包装だけは、豪華めにしてもらった。
慣れた手付きでシュルルとリボンをかける店員の仕草を、ボ~ッと眺めながらチョッピリ不甲斐ない自分を悔いてしまった。
こんなんじゃあ、結婚式どころの話じゃないよなぁ。


「ワリイ、遅くなった」
俺は助手席のドアを開けながら、ヒグラシに謝った。
「ううん、こっちこそゴメンね。幸恵がね、憧れの先輩から急に映画の誘いが入っちゃって。」
「ほぉ~、ユキちゃんも遂に腐女子卒業か?」
「幸恵は、別に腐女子じゃないわよ、まぁ結構なアニオタだけどね。それよりさぁ、時間が有る事だしどこか寄り道して帰らない?」
「う~んそうだな・・・でもまぁ、時間が時間だし適当に流すか?」
「そうだね、お任せする。」
お任せが一番面倒なんだよな、まぁ取り敢えず疲れた時帰りやすい様に西にでも向かおう。

「どこ行っちょった?」
「ん~適当にブラブラしちょった・・・そげ言やぁあ雲山設計の木下一家を、イオンで見かけたわ。」
「木下さんって、日向さんの友達の?」
「そうそう美結ちゃん一家。弟が生まれちょったわ。」
「ふ~ん、挨拶した?」
「えんや、ほがほがしちょったら、おらん様になったわ。」
「そげか。んでどぎゃん感じだった?」
「どぎゃんて、何がや?」
「幸せそうだったかね?」
「おう、木下さん子供抱いてニコニコしちょったずぇ。奥さんも美結ちゃんと楽しそうに手繋いどったし」
「そげかそげか。」

ふっと俺は、目の前の点滅信号を右折した。
「か、松崎行く道じゃないかいね?」
「あげだず、松崎海岸行ってみっか。」
「寒ないだあか?」
「そげに前通だけだけん。寒かったら、俺のコート着いだわや。」
「あんたのコート、汗臭いがね」
「まぁ、好きにす~だわや。」

次のT字路を右に曲がれば、松崎海岸です。
「うわ~やっぱり寒いわねぇ」
ハア~ァっと、手に息を吹きかけるヒグラシ。
「あっ、そげだわ」俺は、手袋を買っていたのを思い出し、車のトランクに隠しておいたプレゼントを取り出す。
「ほい、これ、クリスマスプレゼント。開けてみ~だわ。」
「あっ、ありがとうモリヒデ。ゴメン、私、明日渡すつもりだったけん、家に置いちょうわ。」
「俺も明日渡すつもりだったけど、『今でしょ』的なプレゼントだけん。」

ラッピングのリボンを解き、中を覗き込んだヒグラシが顔を上げ、ニッコリ微笑んだ。
「か、確かに『今でしょ』だわな。明日貰っちょったら、嬉しさ半減だったがね」
嬉しそうに手袋をはめ、空にかざして小躍りするヒグラシ。

その姿が、何だか凄く愛おしくって
「なあヒグラシ、こおから毎年クリスマスに手袋買ってや~けん、皺くちゃの手になっても、皺くちゃの手袋買ってや~けん、受け取ってごすかや?」
思わず、ず~っと言えんかった一言を口にしていた。

少しむくれながら、「皺くちゃの手袋は要らんわね。何だね、そ~はプロポーズのつも~かね?」って、ヒグラシが微笑んだ。
「うん」小さく頷く俺に、姿勢を正すヒグラシ。
「やっと、言ってごいたね。待ちょったけんね、その言葉。きっと、初めてここであんたと手を繋いだときから・・・」
急に俺は照れ臭くなり、フリースのポケットに手を突っ込み、黒くうねる波を見つめた。
「私の返事は、当の昔に決まっちょたけんね。・・・毎年、手袋貰っちゃあけん、幸せにしてごしないや」
ヒグラシは右手の手袋を外し、俺の目の前に突き出した。
「ど~せ、あんたの事だけん、指輪なんか準備しちょらんでしょ?」
うっ、確かに図星だった。
「このラッピングのリボン、指に結んでモリヒデ」
上目使いではにかむヒグラシに、ちょっぴりドキドキしながら、俺はぎこちなくヒグラシの左手の薬指にリボンを結び付けた。

「ありがとう、大切にするけんね」
そう言いながら、ポケットに手を入れ俺の手を強く握った。
「・・・しかし貰っちゃあけんって、相変わらずヒグラシらしい上から目線だな。」俺は、そう言いながら、ヒグラシの手を強く握り返した。

「ちょっとぉモリヒデぇ、何ニヤニヤしちょうかね」
風呂上り、ハンドクリームを塗っているヒグラシを見ていたら、ふっとプロポーズした時の事を思い出していた俺だった。

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