「パパ、うさちゃんのぬいぐるみ、つんだ?」
後ろで、美結が喋りかけて来ました。
「あぁ、ちゃんと積んだよ。ミーちゃんと、ラビ君。先に美結は車に乗っておきなさい」
後ろのスライドドアを開けて、美結を車内に促した。
「うん」
「テントは積んだし、クーラーボックスもOK。後はスーパーで食材の買出しだな」
トランクを閉めようと、見上げた空は、どこまでも青く澄んでます。
こんにちは・・・って言うか、実は初めましての、木下幸一です。
―――――――――5月30日(土)―――――――――
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最近、仕事が一段落して、週休二日で休めるようになりました。
そうなってくると、天気のいい週末は体が疼いてしょうが有りません。
僕の趣味は、オートキャンプなんです。
そう、車でキャンプ場に行って、車の脇にテントを貼って楽しむんです。
と言っても、貧乏なシングルファザーですから、テントもクーラーも、リサイクル品ばっかりです。
でも、美結に、自然の大切さ、命の尊さをしっかり教えてやりたいんです。
子供の頃、松舞川や支流の大森川で捕った、アメリカザリガニやメダカ、フナ等が激減しているじゃないですか。
松舞は中山間村地域だから、大丈夫だと思ってましたが、美結と同じ保育園に通う子のお父さんに聞いてみると、松舞川も結構居なくなっているそうです。
命の尊さは、きっと子供なりに分かっていると思います。
それに、これは親のエゴなのかも知れませんが、シングルファミリーだからって、肩身の狭い思いはさせたくないんです。大きくなった時、「あの子は、母親が居ないから、料理が出来なくても仕方ないよ」とか、「お母さん居なくて寂しかったでしょ」とか、言われたくないんです。全国のシングルファザーの皆さんなら、分かってくれますよね、この気持ち。
「だから、キャンプなの?」って言われると、困りますが・・・(汗)

そして、もうひとつキャンプをする理由が・・・
フィアンセの真子の存在です。
まぁ、普通に親子三人でデートでも全然問題ないんですが、真子も結構アウトドア派なんです。
だから、デートはアウトドアスタイルで行こうと考えてるんです。

おっと、なんて言っていたら、次の交差点を右に曲がれば、真子の住むアパートです。
アパートの下に車を止め、真子の携帯を鳴らします。
「あっ、幸一? 着いた?・・・そう今、降りるから・・・」
・ ・・そう言えば、気が付いたら、真子が僕の事を苗字じゃなくて名前で呼ぶ様になってます。
その方が、嬉しいんですよね。
「まこちゃ~ん」
美結が大きな声で叫びながら、手を振ってます。
「お待たせ、木下君、美結ちゃん」・・・・・そっか、美結の前では「木下君」なんだ。
真子は助手席じゃなくて、後ろの美結の横に座ろうとした。
「まこちゃんダメ、ここは、みーちゃんとらびくんのすわるところなんだから。おとなはまえにすわってください」
「はいはい、分かりました・・・でも美結ちゃん、ちゃんとジュニアシートに座って、シートベルトしてるのよ。ほら、みーちゃんにラビ君もちゃんとシートベルトしてるでしょ」そういいながら、真子はウサギの縫いぐるみにシートベルトを締めてやっていた。
・ ・・大人は前に座ってか・・・美結なりに気を使っているかも知れないなぁ・・・美結は変にオシャマな所が有るからなぁ(笑)

真子が助手席に座りシートベルトを締めたのを確認して、僕は「じゃあ出発~」って叫んだ。
「しゅっぱ~つ」真子と美結が同時に叫んで手を上げた。
「先ずは、買い物だな・・・真子、メニューちゃんと考えた?」
「もちろん・・・真子ちゃんが飛びっきりのメニュー考えてきたからね。美結ちゃんもちゃんとお手伝いしてよね。もちろん幸一お父さんもだよ」
「は~い」美結がまたもや手を上げた。
「つまみは俺が作るから・・・燻製作りやってみたいんだ」
「へぇ~燻製かぁ・・・面白そうだね。何を燻製にするの?」
「ん~っと、予定では、チーズに手場先、かまぼこ辺りかな・・・牛タンブロック売ってたら、それも燻製にしてみたいけどな」
「牛タンかぁ・・・サンモールにはスライスしかないかもね。  そうだ、ちゃんと美結ちゃんの着替え持ってきた?」
「ああ・・・言われた通り、3日分くらい持ってきたぞ、あと、バスタオルも多目にな」
・・・うん、真子は本当に美結の事を気にかけてくれる。ありがたい話だ。
車は程なくサンモールに着いた。
「まこちゃん、はなびもかっていい?」
「ん~、パパが良いよって言ったらね」
「ん?美結は花火がしたいんか?じゃあ、後でオモチャコーナー行って買おうか。」
「やった~はなび~」
「じゃあ、美結はカートの後ろに乗っていい子してるんだぞ。そうしないと花火買わないぞ」
そう言いながら、美結をカートに乗せた。
「先ずは、メインのお肉から選ぶね」
美結を乗せたショッピングカートを僕が押して、真子があれこれ食材をカートに入れていく。
時には、二人で値段を比べたり、「こっちがうまい」「いや、あっち」などと、反発したり・・・
弥生と、過ごした短かったけど幸せだった日々を、つい思い出してしまう。
・ ・・弥生

「クーラーボックスに、お肉やジュース移し終わった?」
美結をトイレに連れて行っていた、真子が戻ってきた。
「あぁ・・・」トランクを閉めて振り返ると、美結の手を引いた真子が歩いていた。
誰が何と言おうと、二人は立派な親子だよな。
「じゃあパパしゅっぱ~つ あんぜんうんてんでおねがいしますぅ」
「はいはい(笑)」僕は真子と顔を見合わせクスリと笑い有った。
今回向かうキャンプ場は、広島県に有る中国地方屈指のオートキャンプ場。
ネットサークルで知り合った、キャンプ仲間と何回かオフキャンプをした事あるオートキャンプ場です。
露天風呂も有りますし・・・混浴ではないのは残念ですが(^^ゞ
大型遊具も有るし、自然豊かだし・・・ここなら美結もノビノビ遊べる事でしょう。
緑豊かな山道を走る事1時間、キャンプ場に到着です。
管理棟で受付を済まし外に出ると、顔見知りのキャンプ仲間に出会った。
「あれ?キノサン(僕のハンドルネームです)? 来てたんだ。」
「あっ、たあさん、久しぶり~」
「何?今日は彼女連れてんだ~♪ あっ、初めまして~」
美結の相手をしていた真子が「こんにちは」って頭を下げている。
「デートの邪魔しちゃ悪いかな・・・もし喧嘩してテントを追い出されたら、泊まりにおいで(笑)」
そう言いながら、たあさんは管理棟に消えていった。
「いや~、いきなりサークル仲間に会うとは思わんかったわ。彼が、いっつもお世話になってるたあさん。サークルの会長さんなんだ。」
「いきなり挨拶されるから、びっくりしたわ。」にっこり微笑む真子にキュンっとなった。
この先、僕の奥さんって紹介する日が来るかと思うと・・・

「ねぇ、ポールはここに刺せばいいの~?」
「美結、あそこのとんかち取って」
「まこちゃん・・・のどかわいた~ジュースのみたい~」
三人でワイワイ言いながらサイトが出来上がったのは、お昼過ぎでした。
「さぁ、美結ちゃん。お昼ごはん作るよ~」
「は~い。まこちゃん、ちゃんとてをあらった?」
「そ・・・そうよね、先ずは手を洗わなくっちゃね」ペロッて舌を出して、真子が美結を手を洗っている。
「真子、お昼は何作るんだ?」クーラーボックスの中を覗き込みながら、僕はビールを取り出した。
「お昼はね~、バゲットサンド・・・美結ちゃんは噛み切れないだろうから、サンドイッチだよ」
「わ~い、サンドイッチだぁ~」美結が踊りながら喜んでいる(笑)
「ちょっと幸い・・木下君、ビール飲んでないで、手伝いなさいよ。これからは、ビシバシ料理の特訓してもらうんだから」
うっ・・・この前のたぬきうどんを根に持っているんでしょうか?
「はいはい・・・」僕も流しで手を洗った。
「食パンはこうやって包丁を温めててから、耳を落として・・・バゲットは横に切れ目を入れておくだけで、良いから。」
うん、相変わらず真子は手際がいい。
「美結ちゃん、レタスときゅうりさんを洗って下さいな。えっ?きゅうりは嫌い?だめだよ好き嫌いしちゃあ・・きゅうりは美容にも良いんだよ」
「美容に良い」って言葉に美結は反応した・・・うん、真子は美結を扱い慣れてるなぁ。
「さぁ、出来上がったら、今度はテーブルの準備ね。美結ちゃんは、綺麗なお花を摘んできて下さいな。」
真子が、家から持ってきたトートバックの中から、黄色い布を取り出した。
「へへ~この前、雲山の雑貨屋で、可愛いテーブルクロス見つけちゃった」
クロスをバッっと広げる真子
青空に黄色いテーブルクロスそして真子・・・なかなか絵になります。
広げたテーブルクロスの上に、真子が3人分の青いランチョンマットを置いていき、その上に僕が、ナイフとフォーク、マグカップを置いていく。
「まこちゃ~ん、ほら、きいろいおはながいっぱいさいてたよ~」
美結が駆け寄って来て、真子に摘んできた花を渡す。
「わぁ~、美結ちゃん一杯摘んできたね。それじゃあお花さんは、このコップに入れて、ほらテーブルの上に飾りましょ。さぁ、お昼ごはんにするわよ、皆もう一度手を洗って。」
「いただきま~す」
美結が大きなサンドイッチに頬張り付く。
「ほらほら、美結ちゃん、下からきゅうりさんが、こんにちはしてるよ。ちゃんと掴んで食べなきゃ」
「うん、この生ハム美味しい。やっぱ、俺の言った通り、こっちにして正解だろ」
「うん、確かに・・・木下君もたまには、いい事言うね。」
「たまかよ~」
「はいはい、ふたりともけんかせずに、ちゃんとごはんたべなさい・・・」
わいわい三人の幸せな昼食が続いた。

食後のコーヒーを真子と飲んでいると、美結が女の子を連れてきた。
「あれ?美結ちゃん、お友達?」
「うん、あのね、ゆうちゃん・・・ゆうちゃん、ほらあっちにいっぱいきいろいおはながさいてたよ」
優ちゃんの手を引き、美結がトコトコかけて行く。
「優ちゃんなら、たあさんの娘さんだよ。昔っからキャンプの度に、遊んでんだよあの二人」
「そっかあ・・・美結ちゃん友達居なくて退屈かと思ったけど、大丈夫みたいだね。」
美結達は、目の届く範囲で花を摘んでいるから、少し放っておいても大丈夫みたいです。
「じゃあ、俺は、燻製の準備するわ。」
「あっ、何か手伝おうか? 大体、幸一は料理苦手でしょ(笑)」
うっ・・・痛い所を突いてくる。
この前読んだ、How to本によると、思ったより簡単に出来るみたいなんだが、折角だから真子に手伝ってもらおうかな♪
「じゃあ、先ずは・・・ササミをパックから取り出して、表面の水気を取ってくれる?」
真子は手際よく、ササミの筋を引き抜き、ペーパータオルで水気を拭き取っていく。
うん、やっぱり真子は素敵な奥さんになってくれそうだ。
「本当はちゃんとした燻製器とか、欲しいんだけどな・・・」そう言いながら、僕は、中華なべと金属ボールを取り出した。
「何?それで燻製作れるの?」
「あぁ・・・」実は僕もイマイチ不安では有るんだけど。
中華なべの底に、スモークチップ(要は木屑です)と粗目を敷いて、金網を被せる。金網に先程のササミに塩を振った物、かまぼこ、チーズを乗せる。そして、金属ボールで蓋をすれば、即席の燻製器の完成です。
少し弱めの中火にかけて、後はひたすら完成を待つだけです。
僕は、二本目のビールを取り出し、プルタブを引いた。
視線の向こうには、美結と優ちゃんが楽しそうに、花飾りを作ってます。
「キノサン、なに作ってるんの?」
たあさん夫婦が尋ねてきました。
「ん?今、初めての燻製作り」
クーラーからビールを取り出し、たあさんに渡す。
「キノサン、聞いたわよ、彼女連れて来てんだって! ちゃんと紹介しなさいよ」明るくて姉御肌のたあさんの奥さん由美さんが、話しかけてくる。
「ったく、いつの間に、彼女なんて作ったのよ・・・いっつも仕事で残業残業って、書き込みしてるくせに・・・」
そこに、真子が洗い物から帰ってきた。
「あっ、真子・・・こちら、たあさんの奥さんの由美さん。由美さん、こっちが連れの真子」
「初めまして」お互いに挨拶を交わす。
「真子さん、お酒飲める?美味しいワイン持ってきたのよ。良かったら一緒に飲まない?」
そう言うと、由美さんは真子を連れて自分たちのテントサイトへと消えていった。
「なかなか、若くて美人の彼女じゃん・・・もう、プロポーズしたの?」
「えっ・・・まっまあ・・・」ゴールデンウィークの公園での出来事をプロポーズと呼んで良いのかは、少し疑問だが・・・
「お~、やるねぇ・・・。じゃあ、うちらのサークルで披露宴キャンプを企画しなくちゃね。」
「いや・・・まだ、具体的にいつ結婚するなんて考えてないっすよ。」
「でも、美結ちゃんの事考えたら、少しでも早い方が良いんじゃない? まぁ、美結ちゃんが嫌がってるんなら少し時間を置いた方が良いかも知れないけどね。」
もちろん、美結は拒んでいない、むしろもう真子の事をお母さんとして、認識している様だ。
僕は・・・実は少し迷っている。「真子との結婚」をじゃなくて、弥生が二人の結婚を許してくれるかどうかって事ばっかり、考えている。
きっと、赤の他人と結婚するなら、そこまで気にしなかったのかも知れないが、弥生の親友だった真子が相手だから、どうなんだろうって考えてしまう。
「いや、美結はもう真子の事をお母さんみたいに思ってますよ。産まれてからずっと、そばに居ましたから」
「そっか、以前話していた美結ちゃんの面倒を見てくれている、女性が彼女なんだ・・・。彼女なら美結ちゃんのいいお母さんになれそうだね。」
そこに、ワインとグラスを抱えて、真子と由美さんが帰ってくる。
「洋介、まだ、フランスパンにチーズ残ってたよね。」
キッチンコーナーから、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
美結や優ちゃんも、帰って来ておやつをおねだりしている。
「やれやれ・・・いっぺんに騒がしくなったな・・・これだから女は・・・」
たあさんは、ディレクターチェアから腰を浮かし立ち上がった。
「キノサン、又新しいテント買ったんだ、見に来る?」
そう言って、僕を手招きした。
たあさんのテントサイトに向かう途中、たあさんが静かに話し始めた。
「実は俺も再婚なんだ。優は俺の連れ子でさ・・・まぁうちは死別じゃなくて、喧嘩別れしたんだけど」
えっ、そうなんだ・・・それは知らなかった。
「俺さ、再婚する時、随分と悩んだよ。由美がちゃんと優の事を可愛がってくれるかは、もちろんだけど、別れた嫁さんが、俺の再婚を認めてくれるかどうか、優を引き取るって言い出すんじゃないかって。」
テントサイトに着くと、たあさんはバーナーに火を入れ、お湯を沸かし始めた。
「コーヒーでいい?」たあさんは、コーヒーミルを取り出し、コーヒー豆を挽き始めた。
「でもな、結局、別れた嫁さんは、優を引き取らなかった。街中で、優が由美と楽しそうに歩いているのを見たらしいんだ。優がすごく楽しそうな顔をしていて、由美も優しく微笑んでいるのを見たら、この人なら任せて安心だって思ったんだって。」
コッフェルにドリッパーをセットして、たあさんは静かにお湯を注ぎ始めた。
「天国にいる奥さんだって、ちゃんと美結ちゃんと真子さんの事見ていると思うよ。そして、この人ならって、認めていると思う。それは、地上にいる俺達から見ても同じ見解だから。彼女なら、美結ちゃんやキノサンを幸せにしてくるって、思えるもん。あの美結ちゃんの笑顔見てたら誰だって反対はしないさ。」
たあさんが、淹れたてのコーヒーを俺に手渡してくれた。
たあさんが淹れたコーヒーは、少しほろ苦くてとっても優しい味がした。



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