今年もお盆がやって来ましたね。
松舞のお盆と言えば、花火大会に、夏祭り、精霊流しと、イベントが盛り沢山です。
先日、同じ職場の日向ちゃんと、一緒に花火大会を堪能しました。
初めまして、松舞保育園で、保母をしている錦織(にしこおり)美咲です。
―――――――――8月16日(日)―――――――――
花火の日、日向ちゃんは、園児の美結ちゃんに、寂しい女と思われたみたいです(笑)
私ですか?私だって恋愛経験位は有りますよ。今はフリーなんですけどね。
ちょっと、彼と喧嘩しちゃいまして・・・
初めは、少し考えないと思えだせない位、些細な事だったんです。
確か、私のアパートで彼の為に、料理を作っていた時だったと思います。

「あっ、ソースが切れちゃってる。ごめん潤一、このトンカツ、ソースじゃなくておろしポン酢で、和風にしても良い?」
「え~、まぁ仕方ないなぁ。しかし、お前は相変わらず準備が悪いなぁ」
「ゴメン。でも、準備が悪いのは潤一だって一緒じゃん。大体、なんでいきなり出張なのよ。折角今度の旅行楽しみにしてたのに。」
「だから、それは何回も謝っているだろ。仕方ないじゃんか、本社の方のプロジェクトが炎上していて、サポート人員が必要だって。」
「分かってるわよ、でもなんで潤一ばかりが貧乏くじ引くのよ。もうこれで、ドタキャン3回目よ」
「貧乏くじって言うな、プロジェクトの内容を把握していて、対処出来る人間が少ないんだから、どうしようもないんだよ。お前だってこの前のデート、ドタキャンしたじゃんか。」
確かにドタキャンしちゃって、その穴埋めが今日の手料理なんですが・・・
「だって、それはうちのクラスのこうちゃんが、交通事故に有ってお見舞い行かなきゃいけなかったんだもん」
「だったら、俺だって同じだろ」
「同じじゃないもん」
分かってます、わがまま言っているのは、充分分かってます。でも、言い始めたら次々と不満が再噴出しちゃって。
「どこが、違うんよ。同じだろ。園児の見舞いだって、大切な事なんだから。俺がそれで何か文句言ったか?」
「言ってないけど・・・もういい・・・」
私は、プイっとキッチンの方を向いた。
「あ~もう・・・良い・・・好きにすーだわや。」
背後で潤一が、玄関に歩いて行く音がした。
「ちょっと、どこ行くのよ! トンカツどうするのよ」
「イライラするから、タバコ買ってくる。」
そう言って、潤一はバタンと扉を閉めた。
それが、潤一と交わした最後の言葉だった。
うちのアパートは、少し町はずれに有るから、ちょっとした買い物でも、車で出かけます。
一番近い自動販売機にせよ、コンビニにせよ、片道10分位かかります。
でも、潤一は1時間立っても2時間経っても帰ってこらず・・・
テーブルの上のおろしトンカツも、潤一が大好きなオニオングラタンスープも、すっかり冷たくなった頃、二人の橋渡しをしてくれた潤一の会社の先輩から電話が・・・

病室のベッドの上の潤一の身体は、青白く冷たかった。
清らかな顔でベッドに横たわる潤一を、見てただ呆然と立っている事しか出来なかった。
即死だったらしい・・・苦しまずに逝ったのが、せめてもの救いだったと今になって思う。
道路に飛び出した幼児を救おうとして、トラックに轢かれたって、警察の人が話していた。
幸い、飛び出した子供は、潤一が抱き抱えて守ったので、軽傷で済んだそうだ。
潤一は、人一倍子供が大好きだったから、とっさに身体が動いたんだろうね、きっと。
「馬鹿なんだから・・・後先考えずに行動するんだから・・・本当に馬鹿なんだから、私を置いてけぼりにして」
でも、そんな潤一が大好きで誇りに思う。
冷暗所から潤一の自宅に、遺体は移され、私は喪服の準備が有ったので、一度アパートに帰った。
デーブルの上に、置いたままのおろしトンカツを見たら、色々な思いが込み上げて来て、私は初めて声を上げて泣いた。
4年前の秋の話です。

あれから、3回目の夏がやってきた。
私は一人松舞川の精霊流しに出掛けました。
雑踏を避け、少し離れた河原に下りる。
灯篭の中の蝋燭に火を点し、そっと流れに送り出した。
流れの加減か、一度岸から離れた灯篭が、私の手が届くか届かないかの距離まで戻ってきた。
すこし、灯篭が揺れた気がした・・・まるで、お礼をしている様だった。
そして、静かに水面に揺られ灯篭は流されていった・・・
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