「あれ~、森山の奴、まだ来てないのかよ~」
こっちは、朝早くから、野暮用を済ませて、松舞保育園に駆け付けたって言うのによ。
まだ、保母さん達も来てないみたいで、園の前の門も閉まってます。
こんな所で、うろうろしていたら、確実に不審者に見えるよなぁ~・・・
おっ、年配の女性と若い女性が、門の前で何やら話してます・・・どうやら、松舞保育園の保母さんみたいですね。
若い方の保母さん、結構美人じゃん・・・はっ、そんな目で見たらマジで不審者ですね。
とりあえず、手伝いに来た事を伝えて、車を駐車場に入れさせてもらうかな・・・
あっ、おはようございます、森山と同じ会社に勤める、小村比呂十です。
いっつも、森山がお世話になってます(^^ゞ
―――――――――10月25日(日)―――――――――
門の前に車を進ませると、向こうから、軽自動車が一台曲がって来ました。
ん?彼女も保母さんなのかな?
彼女の後を追う様に門をくぐり、車を駐車場に止める。
出て来た、保母さんらしき女性に、軽く会釈をして声をかけた。
「おはようございます、収穫祭の手伝いに来たんですけど・・・」
「あら、それはありがとうございます。え~っと、少々お待ち願いますか?、今担当の者を呼んで参りますから」
そう言って彼女は小走りに玄関へと消えていった。
うん、清楚で礼儀正しい女性だ・・・あんな女性が彼女だったら、幸せだろうなぁ・・・
あっ、言っときますけど、俺、別に女性に飢えてる訳じゃないですからね。
まぁ、彼女居ない歴3年ですけど・・・(^_^;)
暫らくすると、玄関から朝見かけた保母さんが出て来た。
「おはようございます、今日はお世話になります。保母の緑川って言います。えっとぉ・・・松舞高校の関係者の方ですか?」
「あっ、いえいえ、森山に・・・森山君に頼まれて手伝いに来ました、小村です。」
「あっ、モリヒデ君のお知り合いの方ですが。お忙しい所ありがとうございます。モリヒデ君達そろそろ来るはずなんですけどね・・・」
後ろで、車のクラクションが鳴った。「小村せんぱ~い、日向さ~ん」森山の車でした。
ちっ、邪魔者が入ったな。もう少し、緑川先生とおしゃべりしてたかったのに。


松舞保育園の校門をくぐると、日向さんと小村先輩の姿が目に入りました。
う~ん、小村先輩、早いですね・・・保母さん紹介するってのが、利いたかな(笑)
駐車場に車を止め、ヒグラシと熱々出来たての餡子が入ったタッパーを、車から降ろす。
「ちょっと、モリヒデ、転んで餡子をひっくり返さないでよ」
そう言うヒグラシの方が、フラフラしていて危なっかしいです。
「日向さん、餡子はどこに置いておきましょう?」
ヒグラシは、日向さんと園内へ消えていった。
「んじゃあ、小村先輩、僕らは臼と杵を借りに行きましょうか」
僕は、小村先輩の軽トラの助手席に乗り込んだ。
「おい、森山! お前、緑川先生と知り合いなんか?」
「日向さんですか?ええ、ヒグラシの・・・俺の彼女の友達のお姉さんなんですよ」
「ふ~ん・・・日向って言うんか、可愛い名前だな。年はいくつだ?」
「確か・・・5つ上だから、23歳かな? あっ、でも日向さんは大阪にちゃんと彼氏が居ますよ。」
「ばっ・・・馬鹿、俺は別に彼女にしたいなんて考えて無いよ」
軽く頭を小突かれた・・・そう言う割には、顔が真っ赤ですよ小村先輩(笑)
分かりやすいんだから~


「よ~し、全員無事到着したな。じゃあ、職員室にあいさつした後、女の子は沢田の指示に従って調理室行ってくれ、頼んだぞ沢田。」
「OK、じゃあ女子~ついて来て~」
「んじゃあ、男子は、臼と杵が届くまでの間に、机を外に出して並べるぞ~」
事前に、園長先生と打ち合わせした通りに、指示を出す。
職員室には、金田さんが居た。
「あれ?金田先輩も手伝いですか?」
「あっ、青木君おはよ。うん、おじいちゃんに頼まれて、千華屋特製の餡子を届けに来たの」
「へぇ~、千華屋の餡子って美味しいって、言いますよね。今日はモリヒデさんは?」
「あぁ、あいつなら、今臼と杵借りに出掛けてる」
いっつも、一緒ですよね、金田先輩とモリヒデさん(笑)
「じゃあ、私、楓ちゃん達ともち米を蒸かすから。」
そう言うと、パタパタとスリッパを鳴らしながら、調理室へと消えていった。
「じゃあ、園長先生、机といす運び始めますから。」
「あ~、ごめんなさいね。皆さん怪我しない様に、気を付けて下さいね。」
「お~い、本田~。じゃあ、こっちの教室から運び出すぞ」
「はい、青木部長・・・」
う~ん、まだ、青木部長って呼ばれるのが、しっくり来ないんですよね・・・
次の教室から、机を運び出す時、調理室の前を通った。
楓ちゃんが、金田先輩と楽しそうにお喋りしながら、お米を研いでいるのが見えました。
うん、やっぱり楓ちゃん可愛いよな・・・おっと、机が前を歩く本田にぶつかりました。
「悪りぃ悪りぃ、本田」
「青木さん、森山に見惚れてたんでしょう~」
周りの奴が、クスクス笑ってます。
「馬鹿、違うって・・・」
「おい、青木・・・隠さなくっても良いって」「良いなぁ~俺も彼女欲しいな~」
周りの奴らが、茶々を入れます・・・
「お前らなぁ~ だから俺は調理の進み具合をチェックしただけだって」
みんなが噴出した・・・やばい所を見られてしまった・・・


「美結~、ちゃんとカバンの中にハンカチ入れたか~?」
美結は、カバンの蓋を開け、ゴソゴソとカバンの中を調べてから、笑顔で「うん」って頷いた。
「パパ~、ちゃんと奥の部屋、戸締りした~?」玄関から真子が声をかける。
「あぁ、ちゃんとチェックしたよ」
・・・パパかぁ・・・なんか懐かしい響きです。
車のドアを開け、美結を抱き入れ、ジュニアシートに座らせ、シートベルトを付けてやった。
「あのね、おとうしゃん。きょう、みゆね、じろうくんとげきするんだよ」
次郎君・・・美結が今好きな男の子だな。ちゃんと、ビデオに撮ってやらなくっちゃな、その為に会社の後輩から借りて来たんだから。
「そっか、ちゃんと、ビデオ撮ってやるからな。頑張れよ」
「うん」
「お待たせ~じゃあ出発しましょ」真子が助手席に乗り込んで来た。
車は静かに走り出す、黄金色の田んぼの脇をいくつも通り過ぎた。



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