昼休み、クラスメイトといつもの様に図書館に出掛けました。
えっ?勉強熱心だねって?
いや、ただ単に静かに昼寝するか、漫画読んでるかなんですが。
こんにちは、本田健吾です
―――――――――11月13日(金)―――――――――
図書館の一番奥の窓際、そこが僕のお気に入りの席です。
今日は・・・おっ、空いてるじゃないですか。
先ずは、快適な眠りに誘ってくれる難しい本を、本棚からチョイスしてきます。
ふっと横を見ると、そこには口を少し尖らせた沢田先輩が、本棚の上の方を、じ~っと見つめています。
軽く背伸びをして、本棚の上の方の本を取ろうとしていますが、流石の先輩もあと少しの所で手が届かないみたいです。
「沢田先輩、どの本ですか?」先輩の横に立ち、本棚に手を伸ばす。
「あっ本田君、ごめん。もう少し右。そうその民族楽器大全集って本」
「これですね、はいどうぞ。返却する時は、また言って下さいね。」
「ありがとう。あれ?『進化論』なんて、難しい本読むんだ本田君」
「えっ?いや、これ位難しい本なら、ス~ッと眠れちゃいますからね」
沢田先輩が「なるほど」って笑ってます。
美人って、やっぱり笑顔も素敵ですね。
「沢田先輩だって、民族楽器大全集なんて、いくらブラスバンド部員だからって、滅多に読まないっすよ。」
「うん、ちょっと気になる楽器が有ってね。東儀秀樹さんって、知ってる本田君?」
「あっ、確かアルバムも出してる雅楽の人ですよね?」
「そう。東儀さんが吹く篳篥(ひちりき)って楽器が有るんだけど、その音がすごく素敵なのよ。ダブルリードの楽器で、音にビブラートがかかってて、一回聞いただけで気に入っちゃった。高音系の楽器なんだけど、すごく芯の強い音が出せるの。それもチャルメラみたいな下品な音じゃないのよ。」
「へぇ~、それってマックのCMで、伊東たけしと演奏する奴ですか?」
「あっ、そうそう。でもねあれって取り扱いが難しいらしいの。それで、代わりに気軽に吹ける楽器無いかなって、思って。本田君、心当たり無い?」
う~ん、ダブルリードってオーボエかファゴット位しか思い浮かばないなぁ
「すいません、思い当たんないですよ。」
「ううん、良いんだって。」そう言いながら、沢田先輩は席に坐り、ページを捲り始めた。
じゃあ俺は、向こうの席で昼寝でもしようかなって、振り向こうとした。
「あっ、見て見て本田君。ほらこの楽器、リコーダーの原型だって。」そう言いながら、本を隣の空いた席に差し出す。
えっ?それって、横に坐れって事?
沢田先輩に、心臓の音が聞こえやしないか、心配する位、脈拍が上がってます。
僕は本に注意を向ける振りをしながら、さりげなく沢田先輩の隣に坐った。
「ほら見て、リコーダーの原型ってこんな格好してたんだね。あっ、こっちにマリンバが載ってる。」
本を見る振りをしながら、チラチラと沢田先輩の顔を盗み見る。
夢みたいです、部活の時ならともかく、普段の生活中に沢田先輩が居るなんて。
今、憧れの沢田先輩と、時間を共有しているのだと思うと、それだけで幸せです。
「んっ?何?顔に何か付いてる?」
「えっ?いや、すいません」僕は、本の方に集中する。
「ナカナカこれって楽器無いもんですねぇ~」
「そうねぇ。そう言えば本田君はどうしてサックスを選んだの? 男子なら金管を選ぶ子が多いじゃない」
「僕ですかぁ? 父親の影響ですかね。父親も高校時代にジャズが大好きで、サックスを吹いていたらしいんです。だから小さい頃から、サックスに慣れ親しんでるんです。」
「へぇ~、じゃあジャジーなサックス吹けるんだ。」
「ええ、一応。ブラスバンドでは滅多に吹きませんけどね。」
「ねぇ、ジャズってどんな曲吹ける?」
「メジャーな曲だけですよ、茶色の小瓶とか、スターダストとか、あっピンクパンサーのテーマも得意ですよ。(笑)」
「あっ、スターダスト大好き~。ねぇ今度聴かせてよ」
「いや、人に聴かせる程の腕じゃないですから。」
「え~絶対に聴かせてよ。約束だよ」
そう言いながら沢田先輩が、僕の目の前に小指を突き出した。
少し照れ臭いけど、ゆっくりと沢田先輩の小指に僕の小指を絡めた。
「指切りげんまん、嘘付いたら針千本飲~ます。はいこれで、もう逃げられないからね♪」
「マジっすかぁ」沢田先輩に僅かながら触れた事自体がマジっすかぁなんですが。
「あっ、チャイムだ。」
早っ、もう少し沢田先輩と時間を共有したかったのに。
「本田君、じゃあゴメン。この本一度返しておいてくれる?」そう言って、頭を下げてきた。
「はいはい、それ位お安い御用ですよ。」
「それと本田君、良かったら明日もお昼休みに、楽器探すの手伝ってくれると助かるんだけど、駄目?」
駄目じゃないっす、もう一生付いていきますよ。
「いえ、大丈夫ですよ。いっつも昼休みは図書館に来てますから」
「助かるわ~ありがとう。じゃあ又、放課後ね。」
そう言って沢田先輩は、渡り廊下を小走りに去って行った。
そんな、沢田先輩の後ろ姿に手を振る。
突然、後ろからバシッと頭を叩かれた。
振り返るとそこには、クラスメイトの姿が・・・
「なんでお前が、学校のアイドル沢田さんと親しく喋ってんだよ~。」
あっ・・・僕はひょっとして、学校中の男子を敵に回しちゃったんでしょうか・・・


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