「ふぅ~」
俺は、新幹線の座席に座り、一息ついた。
「何とか座れたな・・・まぁ、喫煙席じゃないのは少し不便だけど。」
帰省ラッシュのこの時期、座れるだけでも、恩の字なんじゃないって思われるかもしれませんが、この席取合戦の為に、1時間位ホームで並んでましたからね。
日向の待つ松舞は、遠く西の彼方です。
こんにちは、洋介です。
―――――――――12月29日(火)―――――――――
先週、日向が東京に遊びに来たばかりなんですが、やっぱり正月休みは特別ですよね。
まぁ、今更お年玉を貰える年齢じゃないですが、(って言うか、あげる方なんですよね)普通の休みと違い、一年の締めくくりを日向と一緒に過ごす事自体が、大切なんですよね。
一緒に炬燵にあたりながら、紅白やレコード大賞を見て、年越し蕎麦を食べる。
そんなドドメチックな行動が、逆に新鮮です。
これが、家族なら当たり前の風景なんでしょうけど、まだ結婚どころか婚約もしていない俺達には、幸せな時間なんですよ。

おっ、新幹線が動き出しました。
やれやれ、これで取りあえず岡山に着くまでは、ゆっくりして居られます。
品川、新横浜と、駅を過ぎていく。
暇つぶしに文庫本を読んでいましたが、普段の疲れのせいでしょうか、気が付いたら眠り込んでいました。
気が付いたら、新大阪の手前でした。
ipodが止まっていたので、再生ボタンを押す。
一曲目の曲は、日向の好きなアーチスト、槇原敬之の曲。
「♪君に~早く会いたいよ~」
う~ん、なんてタイミングのいい(笑)
曲を聴きながら、日向の事をボンヤリと考えていた。
「結局、今年もプロポーズ出来んかったなぁ・・・」
そうです、先週のクリスマスイブも、タイミングを逃してしまい、結局指輪を渡せずじまいです。
日向自体も気が付いているんでしょうから、もっと告白し易い雰囲気作りに協力してくれても、良いと思うんですが・・・まぁ、どんな雰囲気なのかは、分かりませんが・・・
言問橋から見た夜景は、日向にも好評でした。
まぁ、松舞では絶対有り得ない様な、建物の数ですからね。
「キレイ・・・。洋君が連れて来たかったも分かるわぁ。」
「おっ、おう。だろ~・・・なぁ日向・・・」
「何?洋君?」
俺は深く深呼吸をした。
「なあ日向。ここでも、松舞でも・・・」
改めて日向の眼を見つめると、それ以上何も言えなくなってしまった。
今まで待たせたなって思ったら、様々な思い出が蘇ってきた。
サークルで初めて見掛けた時に一目惚れした事。初デートで映画を見た事。初めてキスした時、歯が当たってしまった事。初めて一緒に迎えた朝の事。転勤が決まって大阪に行く事を伝えた夜。突然、松舞に帰った日の事。一緒に過ごしたバレンタインの事・・・
様々な思い出が一気に、蘇りそれだけで、胸が一杯になった。
「どうした洋君?大丈夫?」
「いや・・・何でもない・・・そろそろ、銀座に向かおうか・・・」
「えっ・・・うん・・・」
そっと日向が、俺の手を握ってきた。
手を引っ張られ、嫌々歩く子供の様だった。
小さく「バカっ」って、日向が言ったのを、俺は聞き逃さなかった。
きっと、日向は俺の言いたかった事、分かってんだろうな。
もう少し、言問橋に留まるべきだったのかな?
まぁ、今更気にしても、後の祭りですよね。

気が付くと、もう少しで岡山駅到着のアナウンスを流していた。
岡山で山陰に向かう特急に乗り換えです。
あと、2時間半もすれば、また日向の笑顔に会えるんです。
今度こそ、ちゃんとプロポーズしなきゃいけませんよね・・・でも出来るかな~(^^ゞ

blogram投票ボタン