3人での生活にも慣れて、家の中が落ち着いて来ると、色々と日用品で足らない物が出てきました。
今日は、3人でホームセンターに行きました。
美結を挟んで親子3人手をつないで、買い物です。
それは、真子にとって、そして美結にとって、もちろん僕にとっても、幸せな時間です。
こんばんわ、幸一です。
―――――――――01月24日(日)―――――――――
「父しゃん、プリキュアのDVD買ってぇ~」
「え~、だって美結、この前もお母さんに買って貰っただろう。」
「そうよ、この前買ってあげたばかりでしょ、美結ちゃん」
「だって、あのDVDもう見飽きちゃったんだもん。ねっ、美結ちゃんと良い子にして、まこしゃんのお手伝いもするからぁ」
「だめだめ、そんな我儘は許さないぞ。」
「やだやだ~、買って買って~」

駄々を捏ねて、半べそをかいている美結の手を引っ張って歩いていたら、後ろから声をかけられた。
「よう、木下~。久しぶり~」
振り返るとそこには、高校時代のクラスメイトの男が数人で、買い物をしてました。
「よう、川本~久しぶりだな。なんだ相変わらず、お前ら釣るんでんだ。」
「あっ、みんな久しぶり~」
「えっ?塚田さん? あれっ?お前ら結婚したの? だって木下は・・・」
「まぁまぁ、それよりこの女の子が、お前の娘?」
少しは事情を知っている足立が、助け船を出してくれた。
「そう、美結って言うんだ。ほら、美結オジサン達に挨拶は?」
「オジサンは、ないだろ~」
「ふふ、美結ちゃんから見れば、みんなオジサンだって(笑)」
「じゃあ、塚田さんだってオバサンじゃん」
「大丈夫、私は永遠に若いんだから」
みんなで一斉に笑ってしまった。
「塚田は、相変わらず明るいなぁ。今日は家族でお買い物?」
「そうそう。俺、今、加田に住んでんだけど、色々と日用雑貨が足らなくてなぁ。」
「お~、しっかり父親してるなぁ。それに比べて川本は、PSⅢのソフト買いに来たんだもんなぁ」
「なんだよ、そう言う浅野だって、車のパーツ物色しに来たんだろ。足立も、スノボーのグローブ探しに来てんだぜ」
「相変わらず、お前らは遊び好きだな~。」
「そうだ、俺この前、車を買い替えたんだ。憧れのBMWよBMW。またドライブ行こうな」
「お~川本、BM買ったんだ。お前高校時代から、欲しいって騒いでたモンな。」

「父しゃん、お腹空いた~」
おっと、美結の事を忘れて、つい話し込んでしまいました。
「じゃあ、又、どこか遊びに行こうな~」
「おう、電話すぅけんな。美結ちゃんバイバイ~」
川本達と手を振って分かれた。
「スマンスマン、美結。今の人達は、お父さんが高校生の時のお友達なんだ。」
「ふ~ん、お父しゃん美結ね、アイスが食べたい」
「え~、寒いぞ~。じゃあ小さいアイスな。」
「うん」そう言うと美結は、目の前のアイスコーナーに走っていった。
すっかりDVDの事は忘れたみたいですね、百円のアイスなら安いもんですね。
三人でベンチに座り、一つのソフトクリームを交代で舐める。
「お~、寒~。ほら、美結、落とすなよ」
美結は、嬉しそうにソフトクリームを舐めている。
「ねぇ幸ちゃん・・・ううん何でもない」
美結をチラッと見た真子が、言葉を飲み込む。
「なんだよ、気になるなぁ~」
「だから、何でも無いって・・・あっ美結ちゃん、コーンの後ろを齧ったら、クリームが垂れて来ちゃうよ」そう言いながらバックからハンカチを取り出す。
「俺も、子供の頃ケツを齧ってて、いっつも叱られてたわ。やっぱり親子だな」
二人で、美結を見つめ笑い合った。

キッチンに真子が降りてきた。
「美結ちゃん、寝たよ。」テレビを見ながら、先に始めてる僕にそう話し掛ける。
「そっか。真子もビール飲むか?」
「ソフトクリームは寒いって言ってたくせに、ビールはOKなんだ。それともそれ、ビールの熱燗?」
「飲めるか、そんなの。ビールは冬でも旨いんだって」
そう言いながら、真子のグラスにビールを注ぐ。
「それじゃあ、今日も一日お疲れ様でした。」
グラスを鳴らして、真子が一口ビールを飲んだ。
「確かに、冬でもビールは美味しいわね。ねぇ、今日川本君達と会った時、自分だけ取り残された気分にならなかった?」
残りのビールを、僕のグラスに注ぎながら、真子が聞いて来た。
「取り残されたって?」
「う~ん、なんて言うか・・・、同級生は遊び放題遊んでいるのに、自分は家庭を抱えあくせく働いているみたいな焦り? 川本君達みたいに、色々遊びたいんじゃないの?」
「う~ん、そう言う思いは無いかな。弥生と結婚するって決めた時に、そんな思いは無くなったかな。むしろ、あいつらより優越感を感じてるよ。」
「優越感って?」
「確かに、独身だったら川本みたいに遊んでいたかも知れないけど、俺には美結や真子って大切な家族が居る。
家族で過ごす幸せを、あいつらより早く実感出来ている事が、嬉しいんだ。
遊びはいつでも出来るさ。でも子供と遊ぶ時、自分にそんな元気が無かったら、どうする?きっと後悔すると思うんだ。
若い親って大変だけど、他人には出来ない事をやっているって、誇りに思ってるよ。」
「そっか、なら安心した。疎外感を感じてないか、ちょっぴり心配してたんだ」
「大丈夫だって、俺は今の生活に満足しているよ。『若いお父さん』って、チヤホヤされるの結構気に入ってんだぜ。」
「ふ~ん、チヤホヤされてんだ、色んな所で(笑)」
「まっまぁな・・・それに響きがかっこいいだろ、『若いお父さん』って。」
「まぁ、確かに響きはカッコイイかもね。スタイルは、そんなビール腹だけどね。」
「は~ん、そんなビール腹の男に惚れたのは、どいつだっけ?」
「ビール腹に惚れた訳じゃないからね、私は。美結ちゃんの将来が心配だったから、助け舟出しただけよ」
そう、真子は悪戯っぽく笑った。
その笑顔を見て、僕は気が付いた。
美結に真子と一緒に暮らしている事自体に、誰よりも優越感を感じている事を。



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