「だって、本当の事じゃん。ほら、私相手にリハーサルしてみなさいよ」
楓がそんな事を言ってきた。
リハーサルって・・・お前はそれで本当に満足なのか?
何故かそう、思えてならないです・・・こんにちは、本田です。
―――――――――3月12日(金)―――――――――
楓のセリフは、自棄を起こしているとしか思えなかった。
・・・考えてみたら楓の奴、これで何回目の失恋だ?
保育所の時の、ケンジに始まって、小1の時がシンイチ、小3の時は確か2人にふられたんだっけ?
小5、小6、中2と来て・・・
中3の時は・・・忘れもしない俺との別れだ。
でも、これはどちらかと言うと、楓の方から別れを切り出したんだから、当てはまらないかなぁ

こっちは、当分その失恋を引きずってたんだからな。
ありゃしんどかった・・・
今でもその傷が癒えてないのか、楓の視線をいつも追いかけていた。その視線の先に居るのは、そう、青木先輩だった。
考えてみたら、保育所の頃から、楓の視線の先を、目で追っていた様な気がする。
だから、あいつの好きな奴を、いつも言い当てる事が出来た。
俺の中では、楓って存在が心臓や脳の様に、身体の一部になっているんだろうなぁ。
失恋の傷が癒えたのではなく、他に目を向ける事が出来る様になっただけの事だったって、今になって気付く。
いや、他に目を向けていなきゃ、叶う事の無い楓への思いを断ち切れなかったのだろう。

今、楓にリハーサルとは言え、告白をしたとして、一体どうなるのだろう。
未だに、何かと俺にお節介を焼いてくるが、あいつの気持ちはあの別れを切り出された日に、決まっていたはずだ。
そう、俺はあいつの望む様な男じゃ無かったんだから。
だが・・・もし、楓に少しでも俺への未練が有るのなら・・・
いや、それは無いだろう。
だったら、逆にリハーサルするには好都合かもしれないな。
楓で一度練習をしておくのも、いいアイディアの様に思えてきた。

「じゃあ楓、お前でリハーサルしても良いんだな?」
「もちろんよ、ちゃ~んと私が添削してあげるから。厳しいわよ私のチェックは。」
「でも、この廊下じゃなぁ・・・ちょっと、下の教室に付き合えよ、楓」
「うん」
俺達は音楽室を離れ、下の教室に降りていく。

静まり返った教室、窓の外からは野球部の声が聞こえていた。
「じゃあ良いか、楓。」
俺は深呼吸をする。


松舞ラブストーリーアーカイブ
 ある高校生の夏休み編【完結】
(小夜曲)sérénade編【完結】
ショート・ショート編
モリヒデ・ヒグラシ編
颯太・朝葉編
洋介・日向編
幸一・真子・美結編
楓・青木先輩編
御主人様28号・詩音編
比呂十・美咲編
本田・沢田編
優ママ編
本田・楓編
2009年収穫祭編【完結】


blogram投票ボタン