「すんません、ヒデ兄。便乗させてもらっちゃって。」
「良いって良いって」
「って、お前が言うな!楓~」モリヒデと健吾君が同時に突っ込みを入れた。
モリヒデの小さな車の中は、賑やかです♪
こんばんわ、カナカナです。
―――――――――4月19日(月)―――――――――
松舞は夕方から、土砂降りの雨でした。
列車に乗り遅れた楓ちゃんが、うちのアパートに雨宿りがてら遊びに来ました。
正確に言うと、モリヒデを足として使うつもりで、来たらしいんですが(^^;)ゞ。
もちろん、健吾君も一緒です。

「大した物出来ないけど、2人とも夕ご飯食べて帰ってね。」
「いいですよ、佳奈絵さん。お兄ちゃんが帰って来たらスグに送ってもらいますから。」
「ん~楓ちゃん、遠慮しなくて良いのよ。4人前作るのも6人前作るのも、手間は一緒なんだから。それに、最近モリヒデ少し残業して帰るから、まだまだ帰らないわよ。だから、二人で宿題でもしてなさいよ。」
「でも佳奈絵さん、悪いっすよ。」
「だから、健吾君も気にしない気にしない。本当に大した夕ご飯じゃないからね。」
私は台所に立ち、モリヒデや弟の健太、帰りが遅い母親の分も含め、6人分の夕ご飯の準備に取り掛かった。
「佳奈絵さん、手伝いますよ。」楓ちゃんも台所に立った。
「でも佳奈絵ちゃん、宿題は?」
「私は、明日提出のレポート、昨日の夜に仕上げたから、特に無いんです。健吾の方は、まだひとっつも書いて無いみたいで、必至に今書いてますけどね(笑)」
「へぇ~、楓ちゃんは優秀じゃん。同じ血筋でどうして、ああも違うのかしらね?」
「やっぱり、お兄ちゃんって宿題してませんでした?」
「うん、今だから言えるけど、よく高校卒業出来たなって感じよ」
「家に帰っても、パソコンかゲームばっかりで、教科書開いた所、見た事ないですからねぇ」
「でしょう、あいつの性格から言って・・・健吾君を今から、ちゃんと教育しておかないと、3年生になってから大変よ~(笑)。
2人とも、普通科だから進学よね?」
「う~ん、正直私は悩んでるんですよね、高校卒業したら大学進むか、松舞か雲山で就職しようか、悩んでいるんです。」
「そうかぁ、進学って言っても大学だけじゃないからね、短大だって有るし、私みたいに専門学校だって有るし。」
「そうなんですけどね・・・まぁ、夏休み位までには、方向性を決めようと思っているんですよ。」
「そうね、もう少し時間が有るから、じっくり考えた方が良いわね。モリヒデは就職だし、私は専門学校だし、カップルで東京の大学に行った友達居るから、各方面の話が聞けるわよ、いつでも相談に乗るからね。」
「ありがとうございます、佳奈絵さん。」
「どういたしまして♪ さぁ、じゃあ夕ご飯作るわよ。
ご飯は多めに炊いて有るから、後はおかずよね。
そう言えば、楓ちゃんや健吾君って、苦手な食べ物有るの?」
「えっ?2人とも特に無いですねぇ・・・」
「今日買って帰ったおかずは、刺し身だから・・・海鮮ちらしにしようか♪ それなら、すぐ出来るし。
あと、サラダかな。」
「あっ、じゃあ私、野菜切りますね。」
「じゃあ、楓ちゃんお願いね。」
もし、私とモリヒデが結婚したら、こんな感じで楓ちゃんと会話するんだろうなぁって、考えたら少しくすぐったい気分になった。
モリヒデのお母さんも優しくて良い人だし、姑、小姑の心配はしなくて良いみたいです。
・・・って、私ったら、何を考えてるんでしょうね(^^;)

モリヒデが帰ってきたのは、20時を回ってからでした。
「おう、楓に健吾遊びに来てたんか!」
「お帰り~。お兄ちゃん、大森まで送ってね。」
「それが目的か・・・まぁ、夕方土砂降りだったもんな。」
ふ~ん、何だかんだ言ってても、モリヒデって楓ちゃんには、甘いんですね(笑)
「あっ、モリヒデとりあえず夕ご飯食べてね。今夜は海鮮ちらし寿司と、楓ちゃんが作ったサラダよ。」
楓ちゃんと健吾君が、クスクス笑ってます。
「何々?私、何か変な事言った?」
「いや、今の佳奈絵さんのセリフって、思いっきり奥さんが言うセリフだなって話してたんですよ。」
「ちょっちょっと、変な事言わないでよ~。モリヒデの奥さんなんて、考えた事もないわよ~。」
「おう、俺だってもっと美人で優しい奥さんが、欲しいわい。」
「ひど~い、どうせ私は気が強くて、可愛くないわよ」
「はいはい、お二人さん、夫婦喧嘩は犬も食わないって言うから、それ位にしておきましょうね」
「おい楓!誰が夫婦なんだ?」
「まぁまぁヒデ兄、折角佳奈絵さんが温め直したお吸い物が冷めちゃいますから。佳奈絵さんの料理、最高っすね。」
「だろ~。ヒグラシの料理、結構いけるんだよな。たまに、何これって料理も有るけどな(笑)」
・・・まぁ、いっかぁ~。
褒められたのは私なのに、妙にモリヒデが嬉しそうに笑ってます。
きっと、今のモリヒデの笑顔が、本音なんでしょうからね♪
モリヒデの夕ご飯が終わったら、デザートタイムです。
颯太君お勧めの、雲山に有る青山コーヒーのマンデリン深入りを、学校帰りに買っておいて良かったです。
コーヒーを飲みながら、うちの店のロールケーキを皆で食べていたら、私達の高校時代の話になった。
モリヒデがアルバムを引っ張り出して、高校一年の夏休みの写真を、懐かしそうに見ていた。
「あれ?この人が佳奈絵さんですか?メガネ掛けていたんですね。」健吾君が一枚の写真を指さした。
「うん、高校2年からはコンタクトだけどね。ちょっと、そんなに昔の写真をジロジロ見ないでよ、恥ずかしいでしょ。」
健吾君が指さしたのは、モリヒデと私が笑顔で写っている写真。
確か、颯太君が買ったばかりのデジカメで、自慢げに撮った一枚だったと思う。
考えてみたら、この頃からず~っと私はモリヒデを好きだった気がする。
もちろん、気持ちを口に出した事は無いけど、そうあの頃からモリヒデだけを見ていた。
時が過ぎて、こんな形でモリヒデと日々を過ごすだなんて、あの頃は考えもしなかった。
何だかんだ言っても、やっぱり私はモリヒデの事を・・・


「じゃあね~ぇ、お兄ちゃん」
「ヒデ兄~、サンキュウっしたぁ」
二人が大きく手を降って、私達を見送ってくれました。
楓ちゃんと健吾君を送った帰り道、モリヒデと高校時代の話で盛り上がりました。
あの夏が、大雨続きじゃなかったら、私は今こうしてモリヒデの運転する車の助手席に、乗ってなかった気がする。
あの夏は、2人にとって大切な思い出の日々なんですよね。
「なぁ、ヒグラシ・・・。ちょっと寄り道していいか?」
「ちょっとぉ、変な所連れて行かないでよね、モリヒデ」
「馬鹿、誰がお前と・・・おっと、また楓に夫婦喧嘩は犬も食わないって笑われる所だった。」
「ふふ、そうね。でも私達って、夫婦に近い関係になってない?・・・あっ、変な意味じゃないわよ。
ほら、アンタの食事の世話や、洗濯物だって結構してあげてるし、夜一緒にテレビ見て過ごす事多いしさぁ。」
「う~ん、そう言えばそうかもなぁ・・・俺は全然ヒグラシと暮らしていても、苦じゃなけどな。」
「・・・・・・そりゃそうでしょ。身の回りの世話を、全部やってあげてるんだからね」
私だって、モリヒデと一緒に居て、全然苦じゃないですよ・・・むしろ心地よいです。
モリヒデのセリフの、裏の意味に気が付いてはいましたが、何て返せば良いのか分からなくて、つい、いつもの調子でツッコミを入れてしまいました。
ただ、シフト操作をしようとして、差し出したモリヒデの左手に、そっと自分の右手を重ねてみた。
「ヒグラシ・・・」
「モリヒデ・・・」
「・・・・・・いや、あのな。この車、オートマだけど、さすがにバックする時は、シフトを動かさなきゃいけないんだよな。」
「あっ、ゴメン(^_^;)」私はとっさに手を離した。
「さぁ、着いたぞヒグラシ」
「着いたぞって・・・ここ松舞高校じゃん。駄目だって、今入ったら不法侵入で、捕まっちゃうよ。」
「学校の中に入ったら・・・だろ。車止めるだけだ、ほら川土手を歩くぞ」
「川土手?」
そう、二人にとってこの校門から延びる川土手は、思い出の場所。
「足元暗いから、気をつけろよ」そう言いながら、私の手をモリヒデが握り締める。
「うん・・・あっ、この辺りだよね、カワラナデシコが咲いてたのって。」
「う~ん・・・、おう確かにこの辺だな。」
「あっ、あの茂みだっけ、こっそり隠れて朝ちゃんと颯太君を見守ってったのって?」
「いや、もう少し手前だったろう・・・ほら、あの茂みだ。
結局あの時、颯太は何も言えなかったんだよな。
ったく、本当世話のかかる奴なんだからなぁ」
「ふふふ、確かにそうだよね。今じゃ想像も付かないけどね(笑)」
「確かにな」クスクスとモリヒデが笑う。
その声に釣られて私もクスクスと笑う。
「あれから、3年以上経つんだね」
「そうだな・・・今までありがとうな、ヒグラシ・・・これからも宜しくな」
「モリヒデ・・・」
「馬鹿、食事と洗濯の話だぞ」
「そっちかよ~」
川面に映る月明かりの中、そっとモリヒデの唇に自分の唇を寄せる私が居た。


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