「へぇ~、なかなか良い雰囲気のお店ね」
中庭には木が植えてあり、木材を多用した落ち着いた感じの喫茶店で、都内で有る事を思わず忘れてしまいそうです。洋君がお気に入りなのも分かる気がします
「だろう。ここのベルギーワッフルが旨いんだよ」
今朝は、そんな洋君お気に入りの喫茶店でモーニングを食べる事にしました。
おはようございます、日向です。
―――――――――9月24日(木)―――――――――SH3G0019.jpg
その喫茶店は洋君のアパートから15分ほど歩かなきゃいけないんですが、折角の機会ですから散歩がてらに出掛ける事にしました。
レポートや書類関係は昨夜のうちに二人とも済ませましたから、今日は一日のんびりと過ごせそうです♪
「今日は一日、何やって過ごそうか? 日向は結局東京観光ってやって無いよな?」
・・・以前もお話ししたと思いますが、私は人いきれに弱いので人が多い所と言うのは基本的に苦手なんですよね。
「ん~っ、特に行ってみたい所は無いんだけどなぁ。それに土曜日は朝葉や颯太君と遊びに行くんだし。それより、いつも電車から見える河川敷の公園をお散歩したいかな♪」
「荒川の河川敷かぁ?そっかぁ・・・じゃあ、今日は健康的にウォーキングだな。」
「ゴメンね、洋君。折角誘ってくれたのにね。」
「別に良いんだって、一人で過ごして居たとしても特に出掛ける用事も無いから、適当に店をブラブラする位だからな。」
「それなら良いんだけど・・・ねぇ、いつもどんなお店をブラブラするの?」
「そうだな~・・・時間が有ったらアキバでパソコンショップ覗いたり家電屋巡りとかかな。後は本屋行ったりリサイクルショップ物色したり、雑貨屋で小物を見たり・・・そうだ、河川敷に行く途中にお気に入りの雑貨屋が有るんだ、特に欲しいものは無いけど顔出してみるか?」
「うん、行くいくぅ。行って見たい~」
特に何が欲しいって言う訳じゃないんですけどね・・・強いて言うと洋君と共通の話題が欲しいんですよね。
四日間一緒に過ごしてみて、色々と私の知らない洋君が少しづつ見えて来ました、それは決して嫌な事ではなく新鮮で愛おしく思える部分なんですけどね。


「美味しかったね洋君。さすが洋君がお勧めするだけ有ってワッフルもコーヒーも美味しかったわぁ♪」
喫茶店を出て、そう言いながら洋君の腕に抱きついてみる。
「だろう♪ 中庭の向こうは荒川だから空が開けてて気持ちが良いんだよな・・・強いて言うなら、車や船の音が無ければもっと良いんだけどな・・・流石に都内じゃそこまでは望めないしな」
「そうね・・・松舞だったら、うるさい位に鳥の声とか聞こえて来そうな感じだったわよね。」
「あぁ、鳥どころかニワトリや牛の鳴き声とかも聞こえてるかもな。」
「ひど~い、松舞はそんなに田舎じゃないわよ・・・まぁ確かに少し車で走ればそんな感じだけどね(笑)」
「だろう(笑)」
お互いニンマリと笑う。
「そう言えば洋君、雲山に向かう途中の喫茶店がリニューアルしてたよ。」
「あっ、あのよくモーニング食べた店? 確かおしゃべり好きなママさんだったよなぁ」
「そうそう・・・懐かしい~また行きたいね」
「そうだな、早く松舞に帰りたいなぁ・・・」

「松舞に帰りたい」・・・何気ない洋君の一言でしたけど、私にはそれなりに意味が有りました。
東京での生活をエンジョイしている様に見えたんですが、やっぱり松舞での生活を望んでいるんですね。
そのセリフを聞いて少し安心しました。
洋君と一生寄り添いあって生きて行きたいけど、東京と言う街はやっぱり私には合いそうも有りません。
馴れの問題とかではなく、何と言うか肌が合わないと言うか空気や水が合わないって感じです。
東京の時間軸は明らかに松舞と違っていて、私はその時間軸が早過ぎるんですよね。

「どうした日向?」心配そうに洋君が覗き込んで来る‥‥‥
「ゴメンゴメン。そうね、早く松舞に帰って来てもらいたいよぉ」
「やっぱり東京の空気には馴染めないか?」
「えっ? うっ、うん。ゴメンね洋君」
「謝る事は無いさ。俺だって完全には東京に馴染めてないからな」
「そうかな~? 凄くエンジョイしている様に見えるけどなぁ」
「そう言う風に見えるだけさ。心底楽しんでいる訳じゃないぞ。俺はやっぱり田舎の方が好きだな、気が休まるんだよな~。それにこの街には日向が居ないしな。日向が一緒なら松舞じゃなくても、別の静かな街でも構わないんだけどな。」
「じゃあ二人で知らない街に住んでみる?」ちょっと意地悪な質問を、洋君にぶつけてみた。
「日向が本気でそう思うなら、俺は覚悟は出来ているぞ。」
真剣なまなざしで、そう呟く洋君に私はどう返事をして良いのか悩んでしまった。
洋君と暮らす事に躊躇しているのではなく、松舞をそして東京を離れる事に躊躇してしまった。
全てを捨てて、洋君の元に駆け出せる勇気が、私には持てなかった。
そんな私の思いを感じ取ったのか、洋君が「な~んてな。覚悟出来ているなんて格好良い事言ったけど、やっぱり会社を退職して知らない土地で一から生活するって無謀な話なんだよな。あくまで理想だよ理想。やっぱり松舞でのんびり暮らす方が楽だよな」って、私の頭をポンポンと叩いた。
そんな洋君の優しさに、小さく頷く事しか出来ない自分を情け無く思えた。


突然洋君が立ち止まる
「日向ここだよ、ここ。久しく来てなかったから何か目新しい雑貨有るかな~」洋君は私の手を引っ張り、どんどん店内に入って行く。DSCN1672.jpg

「痛いって、そんなに引っ張ったら・・・」
「おっ、悪りい悪りい。どう、この店?中々の品揃えだろ♪」
そう言われて店舗を見渡してみる・・・店内には所狭しとカラフルな雑貨が並べられている。
「見て。このミトン・・・可愛い♪ あっ、こっちの調味料入れもオシャレ~」
確かに私好みの雑貨が沢山並んでました。
「このソーサーなら、この前買ったマグカップに色が合うんじゃない?」
「えっ?俺的にはこっちの皿の方が合うと思うけどなぁ?」
「う~ん・・・確かにどっちも捨て難いわよね」
「それよりさぁ、こっちのトング、柄の所だけじゃなくて先っぽも黄色でお洒落じゃない?」
「本当だ、やだ~欲しくなっちゃうよ~」
・・・いつの間にか、いつもの私に戻ってますね。小さな洋君の心遣いに感謝感謝です。


「なぁ日向ぁ・・・こんなに買い込んじゃってどうするんだよぉ」
「だって欲しい雑貨が一杯有ったんだもん♪」
洋君は雑貨がたくさん入った紙袋を重そうに抱え直す。
二人、手を繋ぎながら荒川の河川敷公園を散歩する。
適当なベンチを見付け、途中のベーカリーで買ったサンドイッチをテーブル一杯に広げます。
「あっ、美味しいよ洋君、このカツサンド♪」
「こっちの玉子サンドも、なかなかイケるぞ」

温かな日差しがポカポカと降り注いで、気持ちいいです。
東京にもこんな環境が有るんですね。意外でした・・・むしろ松舞川の河川敷公園でランチするより、この街が他人に無関心な分、落ち着ける様な気がします。
「なあ日向、さっきの知らない街で生活する話だけど、気にしなくて良いからな。変な事言ってゴメンな」
「ううん・・・。こっちこそ、思っても無い話だったから、返答できずにゴメンね。もし洋君がそうしたいって言うんなら、私は洋君に付いて行くからね。今直ぐは無理だけども、3月の卒園式の後だったら、動き易いからね。」
「ありがとうな、具体的にいついつなんて考えは無いから、心配しなくて良いぞ。さて・・・ぼちぼちアパートに帰るか?」
「そうだね。ねぇ行きと違った道通って帰らない?」
「少し大周りになるけど良いか?」
「私は良いけど、洋君荷物重くない?」
「大丈夫だと思う。・・・・・大体、こんな大荷物、公園の行き掛けに買うのが間違いだよな。普通帰り道に買うよな普通(笑)」
「そっそれもそうね(^_^;)・・・ゴメンね洋君」
「まぁ・・・良いけどな。日向に笑顔が戻って来たからさ。」そう言いながら、洋君は左手を差し出す。
差し出された手を握り返し、私達はアパートに向かって歩き始めた。


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