「任せておきなさい、伊達にモリヒデと4年も付き合ってる訳じゃないからね(笑)」
佳奈絵さんの、そんな強気の発言が頭から離れません。
まさか、そう言う意味だったなんて・・・
あっ皆さんには、何の事かさっぱり分かりませんよね(^_^;)
こんばんは楓です。
―――――――――11月06日(土)―――――――――
‥‥‥ったくぅ健吾とお兄ちゃんは、尾道の何をリサーチしたって言うのよ!
コモンを出た後、二人が向かおうとしたのは、尾道市内のとあるパソコンショップ。
何が悲しくて尾道まで来て、パソコンなんか見なきゃいけないんでしょう(-_-#)

「いいわよ別に~。男二人でパソコンショップでもメイドカフェでも行ってらっしゃい♪」
そう言いながら佳奈絵さんは、車のキーホルダーのリングに指を入れてクルクルと回して弄んでいました。
さすがです、佳奈絵さん!!

そんな訳で、私達は佳奈絵さんが行きたがっていた、御袖天満宮に向かって歩いてます。
御袖天満宮は映画「転校生」で、尾美としのりさん演じる一夫と小林聡美さん演じる一美が、石段から転げ落ちて互いの体が入れ替わってしまうシーンのロケ現場なんですよね。
・・・狭い路地には生活感が漂い、どこからともなくラジオかテレビの音が聞こえている。
何気なく見た交差点の奥の路地では、野良猫達がドデーンと路地の真ん中で昼寝をしていたりしている。
昭和なんて時代もちろん知らないけど、きっとこんな感じなんだろうなぁって気がしました。
どこか懐かしい様な温かい様な、そんな時間がこの街には流れています。


「しかし尾道って本当に坂の街よね~」
佳奈絵さんが少し息を弾ませながら、呟いてます。
「何だヒグラシ、もう息が上がったのか?」
「うるさいわね~。か弱い女の子なんだから、仕方ないでしょ~。あ~良いわね~若いって、楓ちゃんも健吾君も息切れてないし‥‥‥」
「そんな佳奈絵さん、『若い』って言ったって俺達と3つしか違わないじゃないですかぁ」
「その3つが大きな違いなのよね、健吾君。もう私ってオバサンの領域に足を踏み入れちゃったのかなぁ?」
「そんな事無いですって佳奈絵さん。きっと運転で疲れてるんですよ、ねぇお兄ちゃん」
「いや、確実にオバサン領域だろうヒグラシは(笑)」
あちゃ~、お兄ちゃんに話題を振ったのが間違いでした(・_・;)
「私がオバサンなら、あんたも確実にオジサンだわよ。‥‥‥あっ、ねえここがそうじゃない、楓ちゃん?」
「あっそうですね、ナビだとここみたいです。うわっ、結構石段多いですね」
「うぉっ、確かにそれなりに数が有るなぁ‥‥‥ヒグラシはここで待っとくか?」
「なんでよ~ここまで来て上らなかったら、来た意味無いじゃないの。いざとなったらモリヒデにおんぶしてもらうからね」
「無理無理リアルに無理~。ヒグラシをおぶったら絶対ギックリ腰になるからよ」
「あ~お兄ちゃん、ひど~い。最愛の彼女にそんな事言うなんて」
「あっ別に良いのよ楓ちゃん♪ モリヒデが最愛の彼氏じゃないから(笑)」
「マジかよヒグラシ様ぁ」
‥‥‥う~ん佳奈絵さんったら、随分とお兄ちゃんの扱いに慣れてきたみたいですね(笑)
「仕方ないわね、最愛の彼氏予備軍に入れてあげるから、泣かないのよ坊や」
「あっ佳奈絵さん、俺もその予備軍に入れて下さいよ~」
「ちょっと~、健吾! 何言ってんのよ~あんたには私が‥‥‥」
「そうよねぇ、健吾君には最愛の楓ちゃんが居るんだから、入会資格は無いわよ(笑) さあ、気合入れて上るわよ」
そう言うと、佳奈絵さんはゆっくりと石段を上り始めた。


IMG_0302.jpg「あっ、この風景。あのシーンのままですね、佳奈絵さん」
「そうね、ここから転げ落ちるんだね。でも、ちょっと痛そうよね。」
「まぁヒグラシの場合、石段の方が壊れそうだけどな」
「いいわよ別に。絶対にモリヒデを下敷きにしてやるんだから(笑)」
「んでヒデ兄と佳奈絵さんの身体が入れ替わる訳ですね」
「やだ~健吾君、気持ち悪い事言わないでよね。モリヒデの体になんか乗り移りたくないわぁ」
「おう、俺だってヒグラシのペタンコの胸なんかに、乗り移りたくないわい」
「いやヒデ兄。胸が有ったら何するつもりなんっすか?」
「ちょっと健吾~、何いやらしい事考えてるのよぉ、この変態!」
とは言いつつ、健吾と私の体が入れ替わった時の事を考えて、少し赤面してしまった(^_^;)。


御袖天満宮をゆっくりと見学した後麓に戻り、もう一度コモンの前を通って、ロープウェイで千光寺に向かう。
ここから眺める尾道の景色は、これぞ瀬戸内の街って感じですね。
お兄ちゃんと佳奈絵さんは、それぞれがカメラを構えて何枚もその風景を写真に収めてました。
何だかんだ言っても、やっぱりこの二人は仲が良いんですよね。

「あっこの石の手すり‥‥‥朝の連続テレビ小説のオープニングに出て来る場所じゃないですか佳奈絵さん?」
「あっ、そうかもそうかも♪ でも楓ちゃん達は、平日絶対に見れないでしょう、あのドラマ」
「そうなんですよ、だから毎日録画して帰ってから見てるんです。たまたま土曜日の朝見たら、はまっちゃってしまって。『駅伝君』カッコイイですよね。」
「あ~分かる、ちょっと不愛想な感じだけどイイ男だから、許せちゃうわよね~。」
「ん~? イイ男って俺の話かぁ?」
「お兄ちゃん、恥ずかしげもなく良くそんな事言えるわねぇ」
「ん? だって事実やんか」
「はいはい、そう言う事にしといてあげるから。ほらねぇ見てごらんモリヒデ、下までず~っと路地が続いてるわよ」
「おっ、これぞ『坂の町 尾道』って景色だな。一枚撮っとかんとな」
「・・・えっ? あんたこの景色をその単焦点で狙う? ここは純正のレンズの方が画像がシャープなんじゃない?」
「そっかぁ? 俺なら手前の石段辺りに置ピンして奥の方をぼかすけどなぁ」
‥‥‥仲が良いのは分かりますが、こんなマニアックな会話のデートって、どうなんでしょうねぇ?
やっぱり佳奈絵さんも、相当なヲタクが入っている様な気がします(笑)


一応、男共の希望を聞き入れて、パソコンショップに顔を出した後(ここでも佳奈絵さんのマニアックな一面を顧みちゃいました‥‥‥お兄ちゃんの影響でしょうか、結構パソコンのパーツとかも詳しかったんですよね)、尾道ラーメンと尾道焼きと言う炭水化物だらけのボリュームたっぷりの夕ご飯を食べました。
そして佳奈絵さんが予約しておいたビジネスホテルにチェックイン。
「はい、これ健吾君たちの部屋の鍵ね。私達は下の階だからね。」
「了解っす。ヒデ兄、部屋入ったら少しゆっくりしましょうよ、今日土曜日だからTVの映画も気になりますし。」
「そうだな健吾。お前先に風呂入れよ」
えっ‥‥‥あの~
「ほら、みんなエレベーター来たわよ。楓ちゃん、5階と6階ね」
健吾‥‥‥折角なのに、お兄ちゃんとゆっくりするって‥‥‥
「さぁ5階着いたわよ」そう言うと佳奈絵さんは、お兄ちゃんの腕を引っ張りエレベーターホールに出た。
「じゃあ明日の朝は7時半に1階のロビー前に集合よ」
佳奈絵さんは、そう言いながら私にウインクをした。


「‥‥‥なんなんだ今のは?」唖然とした健吾が問いかけてきた。
「さっ、さあ~?」
‥‥‥このダブルデートが決まった晩、佳奈絵さんは「ちゃんと、夜は二人っきりにさせてあげるから。」って言っていた。
「でも、そんなのお兄ちゃんが許さないんじゃないですか?佳奈絵さん」
「大丈夫、モリヒデだって邪魔されたくない気持ちと、楓ちゃん達を二人っきりにはさせておけない気持ちと半々なんだから。いざとなったら、私が何とかするから。任せておきなさい、伊達にモリヒデと4年も付き合ってる訳じゃないからね(笑)」
「いざとなったら、何とか」って、こう言う強引な行動の事だったんですね(^^ゞ
エレベーターのドアが開き、私達は6Fのエレベーターホールに降り立つ。
「・・・・・・なぁ楓・・・これってひょっとして・・・お前とおんなじ部屋って事かぁ?」
「何よ、嫌なんなら今から5Fに降りる? きっと佳奈絵さんに睨まれるわよ(笑)」
「いや・・・もちろん嫌じゃないけどさ。明日の朝、ヒデ兄達に会うのがちょっと怖い様な恥ずかしい様な・・・」
「疾しい気持になる様な事しなきゃ良いんじゃないの?」
「当たり前だろ、何で楓とそんな事しなきゃいけないんだよ。」
「ちょ、ちょっと廊下でそんな事言わないでよね・・・」
「すまんすまん・・・603号室、603号室っと。おっここだ、しかしこんなカードのキーなんて初めて使うわ。」
「そうね、私も初めて見たわ。ここに差し込むみたいだよ健吾」
静かに部屋のドアを開けて中に入る。
「あれっ?どうやったら電灯が点くんだ、これ?」
「え~私だって分かんないよぉ・・・」

携帯の明りで、電灯のスイッチを探している健吾の背中に、静かに抱きついてみる。
「楓・・・」
「目が慣れるまでこうしてよ、健吾」
我ながらちょっぴり大胆な行動に出ちゃいました(*^_^*)
カーテンの隙間から青白い街の明りが差し込んでいた。
振り返った健吾が、その明りを頼りに私を抱き締める。
「健吾・・・」
そっと唇を重ねる。そして甘く静かな時間がゆっくりと、この部屋に流れて言った。

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