「マスター、ドライマティーニお願いね。」
私は、いつもと同じカウンターの端の席に腰を落とした。
「いらっしゃい詩音ちゃん。ドライマティーニとは珍しいね。どうしたの、彼氏と何か有った?」
「いいえ、残念ながら順調ですよ。ちょっと仕事でイヤな事が有ったからね」
「大変だね、クリエィターって職業は」そう言いながらマスターは静かにジンのボトルを手に取った。
こんばんわ、実はまだ主役は2回目の詩音です。
―――――――――9月9日(金)―――――――――
駅から自宅へと帰る途中に有るこのバーに寄るのが、ほとんど日課になってしまいました。
落ち着いた照明の中ジャズが静かに流れる店内の雰囲気と、気さくなマスターとの会話がお気に入りです。
ご主人様とも何回か来た事有るんですよ・・・でも私は、実家暮らしだからお店を出たらお互いに帰路につくんですが。

「そうそう、この前話していたNative Sonのアルバムが出てきたんだよ。ここでかけるにはアップテンポ過ぎる曲も有るから、CDに焼いておいたんだけど持って帰って聴いてみるかい?」カウンターの上の、マティーニグラスを滑らせながらマスターが囁いた。
「えっ? うん、聴いてみたい。いつも、ありがとうねマスター」
「いやいや、詩音ちゃんみたいな若い子とジャズ談義出来るなら、苦とは思わないよ。それより随分お疲れの様子だけど、大丈夫かい?」
「もう最悪ですよ、初めてのプレゼンなのにアイディアがまとまらないんですよ。クライアントはともかく、先輩達が色々と口を挟むから全然前に進んでる気がしないんですよね。」
「だからと言って、中途半端なプレゼンはしたくないって所かぁ」
「そうなんです、他の先輩達から見たら小さなプレゼンなんでしょうけど、私から見たら人生初の自分をアピール出来る機会ですからね。」
「まぁ・・・そんなに力まずに、もっと力を抜いてみたらどうだい? そんなに力んでたら、閃くはずのアイディアまで閃かなくなっちゃうよ。」

!?
「そ・・・そんなに、私力んでますか、マスター?」
「あぁ、ガチガチに力んでるってのが、顔に出てるよ。真剣に取り組んでいるのは分かるけど、真剣になり過ぎて焦りまくってる感じだな、悲壮感すら感じられるよ。そんな顔じゃあ、先輩が心配するのも無理ないんじゃないかな。」
「そ・・・そうなんですか? やだぁ、そんな変な顔してたんだ、私。・・・どうしよう・・・」
「だから、何事にも真剣に悩み過ぎなんだって、詩音ちゃんは。 そうだな・・・そうだ、君の彼氏・・・何て言ったっけ?」
「御主・・・隆文さんですか?」

「そうそう隆文・・・村下隆文君だったっけ。村下君なんか、力を抜いて上手い具合に世の中を渡り歩いているって感じだなぁ」
「そうですかぁ?私にはチャランポランな風にしか見えませんけどぉ。」
「オイオイ彼氏の事、そんな風に言ったら可愛想過ぎるだろ(笑) 村下君は、仕事の愚痴とか悩みとかを言った事有るかい?」
「そう言えば・・・無いですねぇ。やっぱり、ほらチャランポランだから(笑)」
「う~ん、それは違うと思うな。彼だって一端のサラリーマンなんだから、ストレスやプレッシャーを相当抱えてるんじゃないかな。でも彼は、それを上手く自分の中でコントロールしているんだと思うよ。」
「え~、抽象的過ぎて、意味が分かんないですよ、それって。」
「そうだな~、例えばONとOFFの切り替えがしっかりしているとか、ストレスやプレッシャーを上手く変換しているとか・・・そんな感じだな。」
「う~ん、そんな器用な人間じゃないですよぉ、隆文さんは。」
「それを無意識でやっているんだから、凄いんじゃないかな? きっと、意識してやっていたら逆にギクシャクしてストレスになったりする物なんだけど、そんな感じは全く無いだろう?」
「そう言えば、そうですね。全く愚痴らない、テンションが低い日が無い訳じゃないんですけど、気が付くといつも通り陽気に振舞ってますね隆文さんは。」
「そうそう、そう言う風に上手く逃がす事を覚えた方が良いんじゃないかな」
「でも、どう考えたって隆文さんのストレス解消法って、萌えキャラフィギアを眺めたり、萌え萌えアニメを見る事だったりするんですよ」
「あちゃぁ・・・そっちの病かぁ(笑) まぁ、ストレス解消法は人それぞれだから、詩音ちゃんは詩音ちゃんに合った解消法で良いんだよ」
「だったら今は、マスターのお店で寛ぐ事かなぁ」
「そう言って貰えると嬉しいね。何かご馳走しようか?」
「へへっ、じゃあお言葉に甘えて、今度はスィートマティーニ貰えますか。」


マスターの店を後にして、表通りを歩く。
夜風が心地よく吹いています。
「ん~随分夜は涼しくなったわね。」
そう言えば、ご主人様は来々週の3連休は休みなんだろうかなぁ。
プレゼンもその頃には決着が付いているはずだから、どこか旅行にでも行きたいなぁ
携帯を取り出し、ご主人様にメールを送ろうとすると、先にご主人様からメールが届いていた。マナーモードだったから、気が付かなかった。
「え~っと、何々」

[詩音お疲れ様。今日営業で秋葉原言った時に、ヘンリエッタのフィギュア見つけた。これはレア過ぎる(^_^;) 思わず大枚はたいて買っちまったぁ やっぱり、GUNSLINGER GIRLは最高だな。んじゃあ、明日も頑張ろうな、おやすみ~]
・・・・・やっぱり、チャランポランな性格にしか思えないんですが(^_^;)
まぁ、元々ヲタク繋がりで付き合い始めた様な物ですから、人の事は言えないんですけどね。
♪♪♪
また、御主人様からメールが届きました。
[書き忘れた。愛してる。では、今度こそ本当におやすみぃぃぃ【布団】*-ω-)ノ" オヤスミー♪]
「・・・・・んもうぅ、御主人様ったら、一番大切な事を書き忘れてるんだからぁ」
気が付いたら、クスクスと笑っている自分が居た。
何だかんだ言っても、私にとって一番の精神安定剤は御主人様なんですね♪






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