「ねえ、ひなちゃん。小原と最近デートしてないみたいだけど、何か有った?」
私は、ソフトクリームを舐めながら、ひなちゃんに話し掛けた。
あれは、高校三年の秋、そろそろソフトクリームを寒く感じる10月初めだったと思う。
こんばんは、あえて旧姓を名乗りますが塚田真子です。
―――――――――10月29日(土)―――――――――
「ヒドイんだよぉ小原ったら、夏休みはあんなに一緒に過ごしたのに、二学期入ったら急に『大学受験に集中したい』なんて言い出すんだよ、信じられないよね。」
「あ~小原って、真面目過ぎる感じだもんね。」
「だから私も、女短受験に集中する事にしたの」
「そっか、ひなちゃんは島根女短希望だったもんね。私は、とりあえず就職決まったから安心だわ」
「真子は、逆に男の心配しなさいよぉ。あんたは、全然恋愛経験無いんだからさぁ」
「ほっといてよ、ひなちゃん」
「どうなの、最近は気になる男子とか居ないの?」
「う~ん正直、居るっちゃあ居るんだけど、向こうは大学進学組だからなぁ」
「えっ?誰、誰?」
「笑わないで聞いてよね。うちのクラスの木下なんだけど」

「え~っ、木下ぁ?」
「だから笑わないでって言ったでしょ、ひなちゃん!」
「ゴメンゴメン。余りにも予想外の男子だったから」
「やっぱり、ひなちゃんもそう思う? でもね、何か惹かれちゃう物が有るんだよね。あっ弥生が来た・・・お~い、弥生~こっちこっち」

「ゴメン、遅くなって。進路の細木に捕まってさぁ」
「何?また進路の事?」
「うん、奨学金制度使って島大に行けって、うるさいのよ」
「確かに、弥生はずっと学年トップの優等生だもんね。生徒会副会長だし、素行もバッチリだからね。ねっ、真子」
「確かに、これぞ女学生の見本って感じよね。」
「何よぉ二人とも。そんなにヨイショしたって奢らないからね・・・ねぇ、それより何話していたの、盛り上がっていたみたいだけど」
「うん、あのね遂に真子が男に目覚めたんだって。」
「ちょっとひなちゃん、それじゃあまるで私がレズみたいに聞こえるじゃん。今まで、心ときめく様な男子が居なかっただけよ。」
「心ときめくねぇ・・・あいつに?」
「何よ二人とも私だけ蚊帳の外? 誰?誰なのよぉ こら、真子教えなさい。あぁもう、ひなちゃんもニヤニヤしてないで、話しなさいよぉ」

私は少し照れながら小声で、「木下君」って呟いた。
その瞬間、少し弥生の表情が曇ったのに、日向が気がついた。
「・・・ねっ弥生、ちょっと有り得ないでしょ あれ?どうした弥生?」
「ううん何でもない。そっかぁ、木下君かぁ・・・でも、あいつは優しいし良い奴だよ。」
「あれ?弥生ぃ 木下の肩持つの? だって木下って、どう見たってアニメオタクだし、ロリコンっぽくない?」

「でも良い人なんだって」
突然、弥生が立ちあがって声を荒げた。
何かを察したひなちゃんが、弥生をなだめた。
「ゴメンね、ひなちゃん真子ちゃん。」少し落ち着いた弥生が、ボソッと呟いた。
私は一末の不安を抱えつつ、弥生に聞いてみた。
「ねぇ、ひょっとして弥生が好きな男子って・・・木下君?」
静かに弥生はうなづいた。

あちゃぁ、最悪の展開ですね。まさかして、親友と同じ男子を好きになるなんて。
「あのね・・・」弥生が静かに口を開いた。
「私って、両親を今年の冬に亡くしてるでしょ。木下君も去年、事故で家族全員亡くなってんだ。だから、私の両親が亡くなった事知った木下君が、何かと気を使って話かけてくれるんだよね。同じ痛みを味わっているんだから、色々分かるんでしょうね。実は、今年の初盆は精霊流しに付き合ってくれたんだよ。」
・・・そんな、話は初耳だった。
木下君と弥生って、実はお互いを信じて頼りにしていたんですね。

「でも・・・最終的な決定権は木下君に有るんだから、あいつがどう判断するか分かるまでは、真子は友達だけどライバルだからね。」
「そんな・・・私は別に・・・」私は、少し諦めた様に呟いた。
「なによ真子、今からそんな弱気でどうするの? 選ぶのは木下なんだし、ひょっとしたら二人ともフラレちゃう可能性だって有るんだから」
「そうなったら木下の奴、皆で釣るし上げなきゃね」少し安心したのか、ひなちゃんがクスクス笑っています。


・・・それから、3カ月経った1月の終わり。学生生活最後の試験が終わって、自由登校が始まろうとしていた頃だったと思う。
学校を休んだ弥生に、夕方私とひなちゃんは、サンモールに呼び出された。

「ゴメンね、真子、ひなちゃん。突然呼び出して。」
「そんな事より弥生、風邪は大丈夫なの?」
「うん、学校には風邪で病院行って来ますって連絡したけど、実は産婦人科行って来たんだ。」
「どうしたの? 生理不順?」そう言ったひなちゃんは、多分気付いてないんだろうけど、私は何となく不安な気持ちになった。
「実はね、もう4カ月生理が無いんだ私」
「えっ?それって、ひょっとして?」私の予感はどうやら当たってしまった様だ。
「妊娠3カ月目だって・・・」
「うそぉ~、弥生。おめでたなの?」
「ちょっと、ひなちゃん! 声が大きいって。んで弥生、相手ってもちろん・・・」
「ゴメン真子、木下君の赤ちゃんなんだ」

前々から覚悟していたが、やっぱりショックだった。
でも、下を向いたまま黙っている弥生を見ているのは、もっと辛かった。
私の中では、秋にサンモールで弥生と木下君の事を知った時から、きっと気持ちは決まっていたのだと思う。
「私の事なんてどうでも良いからさぁ弥生。それでどうするのこれから?」
「どうすれば良いのかなぁ、私達・・・」弥生の声が少し震えている。
「取りあえず、木下は何て言ってるの?」少し冷静さを取り戻したひなちゃんが、弥生の肩に手をかけながら聞いてきた。
「実は未だ結果を話してないんだ。生理が無い事と、今日産婦人科に行ってくる事は、知ってるけどね。この後、木下君にも会うつもり」
「そうかぁ。んで肝心の弥生の気持ちはどうなの?」
「うん、エコー写真を見たら、小さいけど人の格好してるのよね。それを見たら絶対生まなきゃって思ったんだ。」
「だったら、話は決まってるじゃん弥生。」
「でも、子育て出来るか、凄く不安なんだ。それに産むんだったら、木下君と結婚しなきゃならないのよ。彼とちゃんと暮らして行けるか不安だし、彼って大学進学でしょ。収入も無いのに、生活出来ないじゃん」
「そんなん、木下も大学進学なんて言ってる場合じゃないんじゃない? そうだよね真子」
「でも木下君の夢の邪魔はしたくないもん。」弥生は、俯いて静かに泣き出した。
「それを確認する為に木下君にこれからあうんでしょ弥生。もし弥生が一人ででも産むって言うんなら、私は全面的に応援するから。ひなちゃんだって、保育の道に進むんだし、頼りになると思うよ」
「もちろんよ弥生。そうなったら、三人で赤ちゃん育てよ」
弥生は、俯いたまま何度も頷いていた。


それから、木下君との待ち合わせの時間まで三人で今後の事を色々と話し合った。
サンモールを出て自転車小屋に向かって歩いている時、弥生が私のブレザーの袖を引っ張った。
「ゴメンね真子。大好きな木下君を奪っちゃって」
その言葉に、抑えていた感情が一気に噴き出した。
大丈夫だから、私は大丈夫だから。弥生は、木下君と幸せになって暖かい家庭を作んなよ。木下君の事は、諦めるから。もう秋の時点で弥生には敵わないって分かってたから。だから、あんたは絶対に幸せになりなさいよ弥生」そう言いながら、私は弥生に泣き付いていた。
「真子・・・」弥生も一緒に泣き出した。
傍らで見守っていたひなちゃんも加わって、3人で抱き合いながら大きな声で泣いた。


翌日、弥生は普通に登校してきた。
昼休み、図書館の裏に私達は集まって、木下君の出した・・・2人の出した結論を聞いた。
木下君は大学進学を諦め、親戚を頼って就職するって言ったらしい。
「夢、諦めても良いの?」って」聞いた弥生に木下君は、俺の最終的な夢は弥生と生まれて来る子供と3人で幸せに暮らす事だって言ったらしい。
意外に木下君って男らしかったんですね。
弥生の方も、決まっていた就職を断り、取りあえずアルバイトで様子を見る事にするみたいだ。
放課後に、担任の遠藤先生に報告するって言っていたけど、きっと職員室では大騒ぎになるんだろうなぁ・・・
そう思いながら空を見上げると、そこには私の気持ちと同じ様な、雲一つ無い秋色の青空が広がっていた。
私の心の中には、もう木下君に対する思いなんて、一つ残らず消えていた。

・・・そう思っていたのは、私の勘違いだったみたいですね。
今、私の横には、その木下君が居て、私に寄りかかりながら居眠りをしています。
「ママ、重くない?」美結ちゃんが心配そうに私の顔を覗き込む。
「んっ? ありがとう美結ちゃん。ママは大丈夫だから。美結ちゃんもママの膝でお昼寝する?」そう言いながら私は、正座している自分の足を伸ばして、ふとももをポンポンと軽く叩いた。
「うん♪」
美結ちゃんが嬉しそうに、私の足の上に頭を乗せてきた。
「ねぇママ、美結が生まれた時の事、知ってる?」
「うん、もちろん。パパと一緒に病院に居たからね。」
「じゃあ、お話してママ」
「そうねぇ、あれは・・・」そう言いながら私は、窓から差し込む暖かな日差し、そしてその向こうの秋晴れの青空を見つめていた。


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