「あっ、久しぶりにローズヒップ買っちゃおうかな~」
そう言いながら私は、棚にあるローズヒップのティーパックを手に取った。
「うわ! なんっすか、これ? すっぱくて超マズイんですけど。」
純君が、そう言って以来私はローズヒップを飲まなくなっていた。
・・・なんで、純君の事を思い出すのよカヲル!
あんな最低な子供の事なんか早く忘れなさいよ
・・・こんにちは、カヲルです。
―――――――――11月14日(月)―――――――――
久しぶりに、一人で週末を過ごしました。
純君と、喧嘩して別れちゃったんです。
何度か純君から電話が有ったりメールも来てたりしましたが、着拒しましたから、もう連絡が入る事もありません。

こうして独りになってみると、凄く楽な事に気が付きました。
もう肩肘張って生きていかなくて良いんです。
大好きなローズヒップティーを誰にも遠慮する事なく、飲めるんですから。
実際昨日の朝は、純君の苦手な甘~いカフェオレを飲みながら、匂いが苦手って言うシナモントーストで朝食を食べてやりましたし、お昼ご飯は少し横着してカップラーメンで済ませちゃいました。
一緒に居ると、気にしてしまって出来ない事が沢山有るんですが、今の私にはそんな気遣いなんて必要無い、自由奔放に羽ばたけるんです。

今日は、溜まった有給を消化する為に休みを取っています。
朝から良い天気でしたので、お布団を干して買い物に出掛けました。
「あっ、このウェア可愛い。純君に着せたら似合うかも」
・・・う~いかんいかん、彼の事は忘れなくっちゃ。
でも思考の全てが、純君基準だったり、純君が居る事前提だったりするんですよね。

気分転換に、最近出来た喫茶店に入ってみる。
落ち着いた雰囲気の店内には、静かにジャズが流れています。
なかなか良い雰囲気です、今度は純君と来た・・・い・・・
悔しいけど、純君の事が頭から離れません。
「今度会ったら、何って文句を言ってやろう」なんて考えてる時点でアウトですよね、きっと・・・

喧嘩の理由は、純君の浮気・・・純君が他の女と会っているのを目撃してしまいました。
しかも、私の務めている病院の玄関先でですよ!
普通、考えられます?そう言うのって
本人は、「先輩の彼女」って言うけれど、そんな安っぽい嘘には騙されませんよ、私は。
でも、騙されていた方が気が楽だったかなって思ってる自分もいます。

運ばれてきたロイヤルミルクティーに、砂糖をかき混ぜながらボ~ッと考えていた。
隣の席に、「あ~疲れたぁ」って言いながらOLが腰かけた。
私の存在に気付き、軽く会釈をした彼女と目が合った。
・・・あっ、この前純君が連れていた女の子だ。
何て、タイミングが悪いんでしょう。
ここは、ロイヤルミルクティーをさっさと飲んで店を出た方が良さそうですね。

向こうがチラチラと、私を気にしています。
・・・何よ、もう純君とは別れたんだから、煮るなり焼くなり、あんたの好きにすれば良いのよ!
「あっ、あの~ ひょっとして竹下純さんの彼女さんじゃ有りませんか?」
だから、あいつとは別れたんだって
「そうですよ・・・正確には、『彼女だった』って言うべきかな。ところで貴方は?」
これ見よがしに、「純と別れて」っとか「私の彼ですから」とか言うつもりなの?
「あっ、スイマセン。私、金田佳奈絵って言います。先日は竹下さんにモリヒデ・・・森山君が大変お世話になりました。」
「はぁ?」
「お蔭様で、今日から職場に復帰しています。」
「ちょ、ちょっと待って。話が見えないんだけど。」
「あっ竹下さんから、お話聞いておられませんか? 森山君って竹下さんの職場の先輩なんですが、先日雲山の現場で感電事故に遭って、救急車でそちらの病院に搬送されたんです。」
「そうなんですか?」
「森山君の携帯使って、竹下さんが連絡くれた時には、私の方がパニックになってしまって・・・竹下さんって、しっかりしておられますね、そんな私に落ち着いて対応してくれましたから。」
「じゃあ、うちの病院に二人で現れたのって?」
「あぁ、きっと病院の玄関まで出迎えてくれた時だと思います。・・・あのぉ大きなお世話かも知れませんが、さっき『彼女だった』って言っておられましたけど・・・」
「あぁ、それはそのぉ」思わず返答に困ってしまった。
話を逸らす為に一つの疑問を投げかけてみた。

「そんな事より、よく私が純君の知り合いだって分かりましたね。」
「あっ、はい。森山君が治療を受けている間中、待合室で竹下さんが窓口の方を見ながら、そちらの話をしておられましたから。彼なりに私の気を落ち着かせようとしてくれていたんでしょうね、素敵な彼氏さんですね。」
「ははっ・・・ありがとうございます。余計な事言ってませんしたか、純君は?」

全然知らなかった、そんな真実が有っただなんて。
考えてみたら私の一方的な思い込みでしたね。
彼の言い分に耳を貸そうともせず、一人悲劇のヒロインを気取っていた様な気がします。

彼女に挨拶をして店を出た。
早速、携帯を手に取り純君にメールを打った。
何事も無かったかの様に、いつもと同じ始まりのメールだった
“お~い少年、元気にしてるか?”

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