それは、去年のクリスマスイブの前日、天皇誕生日の23日の話、ヒグラシの奴は、雲山で真昼間からクリスマス女子会だった。
お昼前に雲山駅まで送って、夕方また雲山駅に迎えに行くと言う、完全なる奴隷状態。
一旦、松舞に帰るって選択肢も無い訳ではないけど、峠越えをする事を考えると、こっちで時間を潰した方が楽なので、適当に雲山の街をぶらついていた。
こんばんは、お久しぶりですモリヒデこと、森山英生です。
―――――――――3月16日(日)―――――――――
雲山の街は、クリスマス一色でした。
きっと全国的に、クリスマスカラー一色なんでしょうね。

そう言えば、ヒグラシへのクリスマスプレゼント、まだ決めかねていたなぁって思い、雲山で一番大きなショッピングセンターに寄りました。
エントランスの横の、花屋の前で見た事有る親子が。

「確か、あの人は・・・雲山設計の・・・」
そう、以前松舞川で一緒に、バーベキューした木下さんだった。
って事は、抱いてる子供は確か・・・美結ちゃんだったっけ?
いや、バーベキュー時点で、保育所だったから、それはあり得ないなぁ・・・
挨拶しようかどうしようか、少し躊躇していると店内から、これまた見覚えある顔の女性が・・・
奥さんだった。
そして嬉しそうに、花の鉢を抱えた女の子が・・・美結ちゃんだった。
って言う事は、木下さんが抱いてるのは下のお子さん?
二人目が生まれたんですね。

嬉しそうな笑顔で話す、木下さんと奥さんを見ていたら、何だか邪魔しちゃいけない様な気分になって、敢えて挨拶はしなかった。

「幸せそうだったなぁ」
気が付くと、俺はボソッと呟いていた。
バーベキュー大会からでも、気が付いたら3年は経っていた。
周りの人間は、確実に幸せになって行っているのに、俺達は相変わらず子供っぽいよなぁ。
颯太も、実はこっそり結婚資金を貯め始めているらしい、社会人先輩の俺なんて相変わらずのその日暮らしに近い状態だしな。
「そろそろ、俺も年貢の納め時かな?」なんて思い、苦笑いしてしまった。
出会った頃は、あんなに仲の悪かったヒグラシとの生活を、いつの頃からか真剣に描く様になっていたんですよね。

♪♪♪
ポケットの中の、スマホがメール着信を告げた。

『モリヒデ、ごめん一人急用が出来ちゃって、お開きになっちゃった。3時頃、雲山駅来れる?』
マジかよ、まだプレゼント買ってないのによぉ
焦った俺は、服飾コーナーに向かい、候補の一つだった手袋を手にした。
もう一つの候補だったマフラーは、ちょっぴり予算オーバーだった。
店員さんに、頼み込んでラッピング包装だけは、豪華めにしてもらった。
慣れた手付きでシュルルとリボンをかける店員の仕草を、ボ~ッと眺めながらチョッピリ不甲斐ない自分を悔いてしまった。
こんなんじゃあ、結婚式どころの話じゃないよなぁ。


「ワリイ、遅くなった」
俺は助手席のドアを開けながら、ヒグラシに謝った。
「ううん、こっちこそゴメンね。幸恵がね、憧れの先輩から急に映画の誘いが入っちゃって。」
「ほぉ~、ユキちゃんも遂に腐女子卒業か?」
「幸恵は、別に腐女子じゃないわよ、まぁ結構なアニオタだけどね。それよりさぁ、時間が有る事だしどこか寄り道して帰らない?」
「う~んそうだな・・・でもまぁ、時間が時間だし適当に流すか?」
「そうだね、お任せする。」
お任せが一番面倒なんだよな、まぁ取り敢えず疲れた時帰りやすい様に西にでも向かおう。

「どこ行っちょった?」
「ん~適当にブラブラしちょった・・・そげ言やぁあ雲山設計の木下一家を、イオンで見かけたわ。」
「木下さんって、日向さんの友達の?」
「そうそう美結ちゃん一家。弟が生まれちょったわ。」
「ふ~ん、挨拶した?」
「えんや、ほがほがしちょったら、おらん様になったわ。」
「そげか。んでどぎゃん感じだった?」
「どぎゃんて、何がや?」
「幸せそうだったかね?」
「おう、木下さん子供抱いてニコニコしちょったずぇ。奥さんも美結ちゃんと楽しそうに手繋いどったし」
「そげかそげか。」

ふっと俺は、目の前の点滅信号を右折した。
「か、松崎行く道じゃないかいね?」
「あげだず、松崎海岸行ってみっか。」
「寒ないだあか?」
「そげに前通だけだけん。寒かったら、俺のコート着いだわや。」
「あんたのコート、汗臭いがね」
「まぁ、好きにす~だわや。」

次のT字路を右に曲がれば、松崎海岸です。
「うわ~やっぱり寒いわねぇ」
ハア~ァっと、手に息を吹きかけるヒグラシ。
「あっ、そげだわ」俺は、手袋を買っていたのを思い出し、車のトランクに隠しておいたプレゼントを取り出す。
「ほい、これ、クリスマスプレゼント。開けてみ~だわ。」
「あっ、ありがとうモリヒデ。ゴメン、私、明日渡すつもりだったけん、家に置いちょうわ。」
「俺も明日渡すつもりだったけど、『今でしょ』的なプレゼントだけん。」

ラッピングのリボンを解き、中を覗き込んだヒグラシが顔を上げ、ニッコリ微笑んだ。
「か、確かに『今でしょ』だわな。明日貰っちょったら、嬉しさ半減だったがね」
嬉しそうに手袋をはめ、空にかざして小躍りするヒグラシ。

その姿が、何だか凄く愛おしくって
「なあヒグラシ、こおから毎年クリスマスに手袋買ってや~けん、皺くちゃの手になっても、皺くちゃの手袋買ってや~けん、受け取ってごすかや?」
思わず、ず~っと言えんかった一言を口にしていた。

少しむくれながら、「皺くちゃの手袋は要らんわね。何だね、そ~はプロポーズのつも~かね?」って、ヒグラシが微笑んだ。
「うん」小さく頷く俺に、姿勢を正すヒグラシ。
「やっと、言ってごいたね。待ちょったけんね、その言葉。きっと、初めてここであんたと手を繋いだときから・・・」
急に俺は照れ臭くなり、フリースのポケットに手を突っ込み、黒くうねる波を見つめた。
「私の返事は、当の昔に決まっちょたけんね。・・・毎年、手袋貰っちゃあけん、幸せにしてごしないや」
ヒグラシは右手の手袋を外し、俺の目の前に突き出した。
「ど~せ、あんたの事だけん、指輪なんか準備しちょらんでしょ?」
うっ、確かに図星だった。
「このラッピングのリボン、指に結んでモリヒデ」
上目使いではにかむヒグラシに、ちょっぴりドキドキしながら、俺はぎこちなくヒグラシの左手の薬指にリボンを結び付けた。

「ありがとう、大切にするけんね」
そう言いながら、ポケットに手を入れ俺の手を強く握った。
「・・・しかし貰っちゃあけんって、相変わらずヒグラシらしい上から目線だな。」俺は、そう言いながら、ヒグラシの手を強く握り返した。

「ちょっとぉモリヒデぇ、何ニヤニヤしちょうかね」
風呂上り、ハンドクリームを塗っているヒグラシを見ていたら、ふっとプロポーズした時の事を思い出していた俺だった。