松舞ラブストーリー

山陰の仮想の町松舞町を舞台にした、様々な恋愛を見守ってやって下さいね

2006年09月

いつもの様に6時に目覚ましが鳴る。
未だ身体の疲れは取れていないみたいですけど、ダラダラと過ごす時間は有りません。
思い切って、窓のカーテンを空けたら、真っ白い朝日が、私の部屋に飛び込んで来ました。
パジャマ代わりに着た、男物のワイシャツ一枚姿のまま、キッチンに行き、コーヒーメーカーのスイッチを入る。
低い冷蔵庫に頭を突っ込み、ベーコンと卵を取り出し、温めたフライパンにベーコンを並べる。
冷蔵庫の上に置いてあったコンビニ袋から、夜買ったクロワッサンの袋を取り出しながら、プチプチとベーコンの油が弾け始めたフライパンに、卵を落とし入れます。
クロワッサンを口に咥えたまま、出来たてのコーヒーをカップに注ぎ、焼き上がったばかりのベーコンエッグを白いディッシュプレートに盛り付ける。
まだ少し怠い身体に、濃い目のブラックコーヒーを流し込む・・・おはようございます、森山小夜です。
―――――――――sérénade編 9月30日(土)―――――――――
同じ時間軸で流れているとするなら、松舞も朝を迎えています。
今日は学園祭です、大盛況になる事を祈ってます。



「ちょっと、モリヒデ~。田舎饅頭届いたわよ。」
「OK、じゃあ一つ味見を・・・。」
「こら、あんたが食べてどうするの~」
「いやだって、今朝は朝ご飯抜きだったから・・・」
「あんたが遅くまで、PSⅢやってるからよ、どうせ寝過ごしそうになったんでしょ(笑)」
「ほっとけよ、ダンジョンが長くて、中々セーブ出来なかったんだよ」
「ったくもう・・・ほら、あんたのおにぎりだよ。」
「おっ♪ 用意が良いな、ヒグラシ」
「実は私も、朝ちゃんと夜遅くまで電話してたから、朝食抜きだったんだ」
「おっ、旨い・・・」
「でしょう~」
「ああ、マジで旨いぞ、この味付け海苔と沢庵」
「ちょっと、それってどう言う意味よ!」
「後、隠し味が利いてるな・・・このおにぎり」
「隠し味? 普通に塩で握っただけだよ」
「あっ、ヒグラシの手の垢の味か・・・」
【こんな楽しい食事って久しぶりです。ホントお二人は仲が良いんですね。夫婦漫才見てるみたいです】
「えっ? ヒグラシ、今何か言ったか?」
「ううん、何も言ってないよ。それより早く食べちゃいなさいよ、朝礼が始まるわよ。」



今日は、午前中身体検査を受けて、今回のタイムトラベルのレポートをまとめた後、午後から久しぶりに松舞へ、里帰りをします。
お母さんに色々とお礼を言わなきゃいけないし、もう一回、お父さんと知り合ってからの、話を聞きたくなったんです。
ずっと、お父さんと顔を合わせたくなくて、松舞には2年以上帰っていませんでした。
でも、今回昔に行ってみて、お父さんの考え方に触れ、少しお父さんの事が好きになりました。
16歳の彼は、純粋で子供だったけど、自分の意見をしっかりと持った男性でした。
彼の優しさに触れ、つい本気で恋をしてしまった事は、本人には内緒です・・・だって、付け上がるだけですからね(笑)
お母さんにも、黙っておこうと思います。
32年前同様、嫉妬されそうですからね。
それ位、うちの両親は未だにラブラブなんですよ。



「ねぇ、モリヒデ。そろそろ11時だよ。ブラスバンドの演奏会が始まっちゃうよ。」
「あれ、もうそんな時間か~。どれ、緑川さんの演奏に癒されっかな。」
「あら、私じゃ癒しにならないの?」
「あぁ、ストレスの根源だからな、お前は」
「ひっど~い。それが美味しい朝ご飯を、提供した恩人に言うセリフなの~」
「おにぎり食わせてくれって、頼んだ覚えはないぞ」
「あっ、散々文句言いながら食べておいて、今更そのセリフは無いでしょ」
【だから~お二人とも止めて下さいって! お二人には仲良くしていて貰わないと、困るんです私】
「えっ? 誰?」
「ん?どうしたヒグラシ。」
「ううん、何でもない、私の気のせいみたい・・・」
「行くぞ、ほら、ヒグラシ」
「うん」モリヒデが差し出した手をギュッと握る。

「この曲聞いた事有る・・・ヒグラシ何て曲だっけ?」
「ちょっと待ってよ、今プログラム見るから・・・」
【グレン・ミラーの、ムーンライト・セレナーデですよ。・・・セレナーデって漢字で書くと、小夜曲って書くんです。】
「ムーンライト・セレナーデ」「ムーンライト・セレナーデ」
ヒグラシも同時に思い出したみたいですね、二人で口を揃えて曲名を叫んでました。
曲を聴いているうちに、何か大切な物を失った様な、寂しい気分に襲われました。
演奏に感動したって訳でもないのに、涙が頬を伝う・・・
ヒグラシに気づかれてやしないか気になり、あいつの顔を見ると、あいつの頬にも涙が伝っていた。
俺は、そっとヒグラシに手を握偽ってみる。
その暖かくて柔らかい手が、俺には心地よい。



♪♪♪
「あっ、もしもしお父さん? うん小夜。」
「どうした、お前が電話かけてくるなんて珍しいな…。しかし、『現在』に帰ってくるのは3ヶ月後だって、佳奈絵が言ってたけどな」
金田佳奈絵から森山佳奈絵に姓名が変わり、「かなかな」でなくなったお母さんは、、「ヒグラシ」から「佳奈絵」と呼ばれる様になったんですよ。
「うん、向こうの時空で装置がバグっちゃって、一ヶ月しか滞在出来なかったのよ」
「身体は大丈夫だったか?」
「うん大丈夫」
このさり気無い優しさに、私は今迄気が付かずに居たんですね。
「あのね、今から新幹線で松舞に向うから・・・雲山に着くのが、夜7時位かな。駅まで迎えに来れる?」
「お前が、俺を頼るなんて珍しいな・・・7時だな、迎えに行くよ。ちゃんと土産は有るんだろうな。」
「ちゃんと、買ってあるって、お父さん」
今までならカツンと来ていたセリフも、今はそれがお父さん流のコミュニケーションなんだって、素直に聞く事が出来る。
だって、16歳のモリヒデ君は、そうやってお母さんを射止めたんですからね(笑)



珍しくモリヒデの奴が緊張しています。
モリヒデの目の前に、抹茶と田舎饅頭を置く。
「ちょ・・・頂戴致します。」
抹茶茶碗を回してから、静かに口を付ける・・・
一応、御手前は心得ているみたいですね。
「どう?お味の方は・・・」
「抹茶って、苦いだけだと思っていたけど、甘い物を食べて、その甘みを口に残したまま、静かに飲むと結構美味しいもんだな。」
「でしょう、私が、気持ちを込めて建てたお茶何だからね。」
「良かったぜ、憎しみが籠ってなくて」
「あっ、酷い・・・2杯目は思いっきり憎しみを籠めて建ててやるんだから・・・」
【まぁまぁ、お二人とも喧嘩なさらずに・・・『何とかは犬も食わない』って、言いますよ】
二人で、辺りをきょろきょろ見回す。
「ヒグラシも聞こえた、女の人の声?」
「うん、朝から何回か・・・気味の悪い感じじゃないんだけどね、疲れてるのかな私たち・・・」



ブブブ、ブブブ、ブブブ
不意に携帯のバイブが動き出した。
携帯を開くと、お母さんからのメールだった。
「小夜ちゃん、今、新幹線の中かな? お父さんから聞いたわよ、今、こっちに向かっているんだって。お父さんが『小夜が帰ってくる』って、凄く嬉しそうです、だって2年振りだもんね、お父さんに会うの。夕ご飯準備しておくから、気を付けて帰ってらっしゃいね。」
大騒ぎしているお父さんの姿が、目に浮かびます。
「お母さんの手料理楽しみにしてるからね」そう、短く返信を打ち、携帯を閉じる。
携帯電話をセカンドバッグにしまう時、バッグの中の一枚の写真に目が止まった。
・・・抜ける様な青空をバックに、楽しそうにほほ笑む、私と16歳のモリヒデ君・・・
「もう少し、一緒に過ごしたかったなぁ」
トンネルに入り、車内に走行音が響き渡る。
窓の外に目をやると、そこには吸い込まれそうな暗闇が広がっていた。



「おっ、これこれ。おれが撮影会で写した写真。」
「へぇ、大胆な構図で、意外といい感じじゃん」
「だろ、ファインダーを覗いた瞬間ピピッと来たんだ。」
写真について熱く語るモリヒデは、いつも以上に子供の表情をしている。
でも、そんなモリヒデが大好きです。
そんな事を思いながら、隣の写真に視線を移す・・・
青空の下、笑顔でほほ笑むモリヒデの写真が有った。
私以外の人にも、こんな表情をするんだって思ったら、少し妬けてきた。
「ねぇ、これモリヒデがモデルじゃない?」
「あっ、本当だ。誰だよ、こんな写真撮った奴は! しかも、何だよこの構図は、俺が真ん中でも端っこでもない中途半端な位置に写ってるし。もう少し右側に、そうだな~ちょうど一人分ずらせばいい写真になるけどな」
「モデルが悪いんじゃない?」
「お前なぁ~」
確かに、モリヒデの右側に誰かが笑顔で笑っていたら、すごく素敵な写真になったと思う。
でも、その笑顔の誰かは、私では無い別の誰かと言う気がしていた。



山陰人が待ちに待っていた山陰新幹線が開通して数年が経ちました。
東京から雲山まで、4時間半で帰れる様になったんですよ。
「ただいま、お父さん」駅の改札を抜け、お父さんにお辞儀をする。
「おう小夜、色々と長旅お疲れだったな。ほら、スーツケース持ってやるよ」
ひょいっと、スーツケースを持ち上げる。
この優しい心遣いは、お母さん仕込みなんだろうなぁ・・・
トランクに、スーツケースをしまい、車に乗り込む。
「あれ? 車替えたんだ。」
「あぁ、あちこちガタが来てたし、お前が居なくなったから、大きな車にする必要は無くなったしな。」
「そっか…。ありがとう、お父さん・・・迎えに来てくれて。」
「なんだか、いつもの小夜と違うなぁ・・・向こうの時空で何か有ったのか?」
「ううん、楽しかったよ32年前の松舞。16歳のお父さんもお母さんは、肌がピチピチしていたし。芦川のおじさんとおばさんにも会ったわよ。後、ひいおじいちゃんにも・・・千華屋の田舎饅頭って昔から、変わって無いんだね。」
「あぁ、創業以来頑固に手作りに拘っているからな。16歳かぁ・・・ちょうど、佳奈絵と知り合った年だな。颯太おじさんと朝葉おばさんも、それ以来付き合っているんだぞ。」
「うわ~、大恋愛で結婚したんだ、朝葉おばさん達・・・お父さん達はどうだったの?ねぇ、知り合った頃の話をもっと聞かせてよ。」
「馬鹿、照れ臭いだろ、そんな話・・・佳奈絵にでも聞きなさい。さぁ急いで帰らないと、佳奈絵に怒られるぞ、お前の大好きなオムライス作るって言ってたからな」
照れ臭そうに笑う父の笑顔は、16歳のモリヒデ君のままだった。



「よ~し、片付けも終わったな・・・みんなお疲れ様~。じゃあ明日は、朝11時にカラオケ村に集合な。」
学園祭の片付けも終わり、クラスメイトに声をかけるモリヒデ。
大変だった学園祭の実行委員も、もう終わりです。
でも、実行委員会をモリヒデと二人でやってなかったら、モリヒデの事を知らないまま過ごしていたのかもしれません。
「じゃあ、モリヒデ帰ろうか」
今日は学園祭の片づけで遅くなるし、明日は朝から松舞のカラオケ村で打ち上げだから、モリヒデは今夜、うちの隣の201号室に泊まる事になってます。
「あ~腹減った・・・」
「そうね、午後は結構ドタバタしたからね。そうだ、今夜はオムライス作るね、昨日朝ちゃんに美味しいオムライスの作り方を聞いたんだ。」
「つまり、俺は試食係って訳だな・・・いいぞ、覚悟は出来てるから。」
「なによ、覚悟って・・・」
「ははは、嘘だって。お前の手料理大好きだぞ。」
「ふ~ん、じゃあ私の事は?」
馬鹿、このタイミングでそんな事を聞くか? でも、ちゃんとヒグラシに気持ちを伝えておかなければ、ヒグラシがどこかに行ってしまう様な気持ちに襲われた。
「・・・ヒグラシの事、大好きだ。一番大好きだ」
【前から聞いてみたかったんですけど、金田さんとモリヒデさんって、どっちが先に告白したんですか?】
俺の方だったみたいだ・・・

思いがけないモリヒデの言葉に、頭の中が真っ白になる・・・
【意地を張らずに、自分の気持ちに素直になって下さい、金田さん。】
そうよね、今、自分の気持ちに素直にならなきゃ、一生後悔しちゃうわよね。
「私もだよモリヒデ。この世で一番モリヒデの事が大好きだよ。」



うん、やっぱりお母さんの作るオムライスは最高ですね。
私に、お母さんとまったく同じオムライスを作る事は、まだ出来ません
それはきっと、作ってあげたくなる相手が居ないからなんでしょうね。
16歳のモリヒデとヒグラシを見ていたら、私も恋がしたくなりました。
今まで、勉強一筋だったんですが、今からでもきっと間に合いますよね、16歳みたいなピュアな恋愛は出来ないとしても、素敵な恋はまだまだ出来ますよね。
そして、いつかは私も結婚して、子供が生まれ・・・
子供に、胸を張って二人の恋愛話が出来る様な、母親になりたいですね。



くりむぞんから・・・
足かけ、3年以上かけて、松舞ラブストーリーserenade編を書き上げました。
ベースとなるネタは、前半執筆中に固まってたんですけど、色々と個人的な事情が有って、中断してました。
今回、serenade編を書き終えて、大仕事を一つやり終えた気分です。
引き続き、ショートショート編も、宜しくお願い致しますね。
因みにこのストーリーを思いついた切っ掛けは、分かる人には分かると思いますが、マイケル・J・フォクスの「バック・トウ・ザ・フューチャー」です。



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「起立~気を付け~礼! 着席」
今日も一日が始まりました。
ただ一つ昨日と違うのは、藍沢さんが学校を休んでいる事です。
昨日のヒグラシとの喧嘩が原因でしょうか?
すごく気になります。
こんにちは、モリヒデです。
―――――――――sérénade編 9月29日(金)―――――――――
実は月曜日の喧嘩以降、ヒグラシとロクに口を聞いていませんでした。
「何、ガキみたいなことしてるんだ」って思われるかも知れませんが、一体どうヒグラシに話し掛ければ良いのか、僕には分からなかったんです。
普通に話し掛ければ、いつも通り話が出来るのかもしれませんが、俺は話し掛ける勇気が有りませんでした。

教室の飾り付けもあらかた終わった頃、俺とヒグラシは担任の相原に呼び出された。
「おう、二人とも来たか。藍沢だが実は今日は無断欠席なんだ。
それで、本人の携帯と、自宅に電話してみたんだが両方とも不通なんだよ。
森山お前、同じ写真部だし電車通学だろ、金田も席が隣だし同じ学園祭の実行委員だろ、何か藍沢から聞いてないか?」
「いや、俺達、何も藍沢さんから聞いて無いっすよ。」
「そう言えば、今週に入って、せれなちゃんの携帯に電話が掛ってて、昨日も電話が掛かってその後急用で帰るって急いで出て行きましたけど・・・」
「そうか・・・、その時何か変わった事は?」
「それは・・・」ヒグラシが言葉に困っている。
「まぁいい、自宅の方に行ってみなきゃとは、思うんだが、あいにく今日は夕方から職員会議なんだ。今夜遅くなっても顔を出してみるか・・・」
「あの・・・相原先生。住所教えてもらえれば、俺が行ってみますよ。学園祭準備も殆ど終わりましたら、他の奴らに指示の確認すれば、任せておいても大丈夫ですし」
「そうか・・・でも、お前を藍沢の家に行かせてもなぁ・・・実はここだけの話だが、彼女は上奥沢のアパートに一人で住んでいるんだ。俺の判断で他の生徒にはその事は伏せているんだが・・・」
「じゃあ、私も行きます。私が一緒なら全然問題ないですよね」
・・・いや、何が問題なんだよ!
「・・・そうだな、じゃあ二人で行って来てくれるか。とりあえず電車代2000円渡しておくから。藍沢に会ったら学校に電話してくれ。」

職員室を出て一旦鞄を取りに教室へ向かう。
突然、ヒグラシが立ち止まった
「私のせいだ、私が変に嫉妬なんかしなければ・・・」
「・・・いや、ヒグラシ。それは違うって。藍沢さんは芯の強い子だよ。『明日から普通のクラスメイトに戻ります』って、言った言葉通り、あの日以降、藍沢さんはいつもと同じ様に俺と接しているんだから。」
「でもでも、モリヒデと口げんかしている所を見て、せれなちゃんが責任を感じたとしたら・・・。どうしようモリヒデ、せれなちゃん大丈夫かな・・・」
「お前意外にマイナス思考なんだな。大丈夫だって、心配するな。それより早く行かないと、こっちに帰って来れなくなるぞ。」
「うっうん・・・」
ヒグラシも俺と一緒で、昨日の喧嘩の事が気になっているみたいです。
それと、もう一つ気になる事が・・・

「ねぇモリヒデ、上奥沢ってどんな町なの?」
「えっ?そうかヒグラシは元々松舞生まれじゃないもんな。上奥沢は駅の周りに少し民家が有るだけで、5分も歩けば山と田んぼだけの何も無い田舎なんだ。」
「そうなんだ。そんな場所に一人で住んでるなんて知らなかった。」
「あぁ俺も初耳だ。でもあんな田舎にアパートなんて有ったかなぁ? それに、この前『弟にDSのソフトを頼まれた』って、言ってたんだけど。」
「そうよね、『お母さんと待ち合わせ』って聞いた事も有ったわよ。」
「一体、何が真実なんだろう。嘘をつかなきゃいけない理由も良く分からないし」

「ねぇモリヒデ、こんな時に話す話じゃないのかも知れないけど・・・」
ヒグラシが改まって話始めた。
「昨日はゴメンなさい。私、せれなちゃんとモリヒデが仲良くしている事に嫉妬していた。私がちゃんとモリヒデの事を信じてなきゃいけないのよね。」
「俺こそ黙っていてスマン。でも、本当に藍沢さんとは何も無かったんだぞ。それだけは俺の言葉を信用してくれ」
「うん、分かってる。モリヒデの事信用しているから」手で顔を覆いながらヒグラシが頷いている。
そんな、ヒグラシが凄く愛しく思える。
この子を好きになって、間違いは無かったって、今、心から思えます。

「うわ~、本当に何も無い町だね」
「馬鹿、そんな大きな声で叫ぶなよ。」
「ゴメンゴメン、それでどの辺りなの?」
「う~ん・・・駐在さんに聞こうかと思ったけど、駐在所すら無さそうだよな・・・」
取りあえず、駅の向かい側にある雑貨屋に入ってみる
「あの~、この住所の場所に行きたいんですけど、どっちに向かって行けば良いんですか?」
人の良さそうなおばちゃんが、丁寧に地図を描いてくれた。
それによると、駅から20分位は歩くみたいです。
「周りが畑の一軒屋だからすぐ分かるよ」って、言っていた・・・
一軒屋って、アパートじゃなかったの?
益々、謎が深まるばかりだった。
「なぁ、ヒグラシ。この状況をどう思う?」
「この状況って?」
「つまりだ・・・藍沢さんは、アパートに住んでるはずだが、実際は一軒屋、俺らには家族が居ると話をしてるし、ここの所電話が掛かって、慌てて帰るし、今日は無断欠席だし・・・、ここに来て藍沢さんに関して分からない事だらけだろ」
「そうね・・・確かに疑問点が多すぎるわよね。
ん~、結局の所、真実はどうなんだろう。実はどこかの国のスパイとか・・・はたまた、どこかの犯罪組織の一員とか。」
「お前、テレビの見過ぎだぞ。もっと現実的に考えろよな。」
「じゃあ、モリヒデはどう言う考えなの?」
「う~ん・・・宇宙人とか。」
「同じレベルじゃん、それじゃあ・・・あっ、あの畑の中の家じゃない?」
「えっ?、あれはどう見ても廃屋じゃないか?」
「そうよね・・・あっ、でも電気点いてるよ。」
「ほんとだ、オバちゃんの地図だと、あの家だ。マジかよ。」
その家の玄関に立ってみる。いや、やっぱり人が住んでいる様には見えないなぁ・・・
中から人の声が聞こえている・・・耳を澄ますと、その声は確かに藍沢さんの声だった。
「藍沢さ~ん」「せれなちゃ~ん」俺達は声を張り上げた。
しばらくして、Tシャツ姿の藍沢さんが、玄関の扉を開けた。
「やっぱり、来られたんですね・・・そんな気はしてました。最後にお二人に会う事が出来て、嬉しいです。」
「どう言う事だよ、最後って?」「どこかに行っちゃうの?せれなちゃん?」
「ここじゃ、なんですから、中に入って下さい。」
中に入ると、外観とは裏腹に、パソコンや訳の分からない装置が沢山並んでいた。
「驚かれたでしょ、ここの設備・・・。今からする話を最後まで馬鹿にせず聞いて下さいね。」
藍沢さんは、台所らしき場所から、紅茶を運びながらそう話始めた。
「先ずは、私の本名・・・藍沢小夜でなくて、森山小夜って言います。歳は24歳、大学院の研究生です。」
「森山って・・・モリヒデの親戚?」ヒグラシが驚いて聞いてきた。
いや、俺の親戚にこんな女性は居ないぞ? ひょっとして腹違いのお姉さん?
藍沢さんは、淡々と話し続ける。
「父親の名前は、英生。母親は佳奈絵と言います。」
「えっ、俺とヒグラシ?」「うそっ」
「そうです、私は、お二人の子供です。」
「ちょっと、せれなちゃん。からかってるの?私達まだ16歳よ、24歳の子供が居る訳ないじゃない」
「当然ですよ、お父さんとお母さんは、24歳で結婚してその年の内に私が生まれてますから。それが今から8年後の話です。」
う~ん、益々訳の分からない話になってきた・・・
「この後ろの機械、これってうちの研究室で開発した時空間転送装置、今の時代ならタイムマシンって言った方が、分かり易いかも知れませんね。」
「嘘だろ、タイムマシンなんて、実際に有る訳ないだろ」
「そうよ、あり得ないわよ、せれなちゃん」
「それは、今現在の話。今から25年後の2031年にサウジアラビアの物理学者が、時空間移動理論を発表します。その理論に基づいて、アメリカとロシアの共同研究チームが2035年に世界初の時空間移動装置の開発と、時空間移動つまりタイムトラベルに成功します。タイムマシンは21世紀最大の発明と呼ばれ、その後研究所レベルですけど、タイムトラベルが盛んに行われる様になります。うちの大学も政府の研究機関との共同研究グループを設けて、試験運用中なんです。それで今回私が、32年前の2006年にタイムトラベルして、色々と時空への影響を調査しているんです。」
「せれなちゃんの事、馬鹿にする訳じゃないけど、絶対に信じられないよ、そんな事。ねえモリヒデ」
「いや、今から32年後の話だろ、あながち嘘じゃないかも知れない。でも、タイムトラベルの証拠が無いと、納得は出来ないな。」
「もしも、素性がばれた時の為にと、母が二人だけしか知らない話を教えてくれました。先月の精霊流しの夜、森山さん・・・お父さんとお母さんは、お母さんの家の隣の201号室で、ファーストキスをしたんですよね。それとこれ・・・お母さんが渡してくれました、お母さん・・・いえ16歳の佳奈絵さんに宛てた手紙です。」
そう言って手渡された手紙を、ヒグラシはそっと開け、俺の目の前に広げた。
・・・16歳の私へ。
この手紙を読んでいるって事は、小夜の正体がばれた時だと思います。
そしてそれは、小夜が無事にお父さん、つまり英生や私とちゃんと巡り会えたって事ですよね。
今、二人とも頭の中が混乱していると思います。
だから、二人しか知りえない秘密を、ここに書き記します。
先ずは、お父さんへ。
私が、貴方から良く聞かされている秘密の話は、小夜の前では恥ずかしい話ですが、成人向け雑誌の隠し場所でしょうかね、やはり・・・押入れの奥に小さな本棚を入れて、手前をコミックスで塞いで見えなくしていますよね。
そんな話題しか書けない位、今の貴方は良く言えば純粋でピュア、悪く言えば子供っぽいままなんですよ。
でも、そんな貴方を私は今でも愛していますよ。
続いて私ですが、あなたは右の乳首の下に三角形に並んだほくろが有りますよね。それを凄く気にしているけど、
敏感な部分だから、余り触れずに居ますよね。
どうです、これで二人とも少しは信用して貰えましたか。
未来の事をあれこれ書くのは、歴史を変えてしまう恐れが有るらしくて書けませんが、私は英生と幸せに暮らしています。
相変わらず、ドタバタした毎日ですが、互いを意識し始めた時の気持ちは、今もお互いに薄れていません。
だから、思うがままに毎日を暮らして下さい。
最後になりますが、小夜が色々お世話になった事と思います。
自分にお礼を言うのは変かもしれませんが、娘が大変お世話になりました。
帰る時まで、優しく接してやって下さいね。
2038年8月31日  森山佳奈絵

手紙を読み終えて、改めて藍沢さん・・・いや、我が娘、小夜の顔を見る。
初めて出会った時から感じていた、ヒグラシと同じ香りがするって言うのは、間違ってなかったんだ、そう言う理由だったんだ。
ヒグラシの奴も、少しは事情が飲み込めた様で、小夜の顔をじっと見つめている。
「俺達の娘なんだ・・・」「そうなんだね、せれなちゃん」
「はい、お父さんお母さん。今まで騙していてゴメンなさい。でも事実を知っていたら、逆にギクシャクしたでしょう?」
あぁ、確かにそうだ。今だって、正直色々な事が信じられない。
♪♪♪
また、小夜の携帯が鳴った。
「もしもし、森山です。はい、はい・・・やっぱりダメですか。仕方有りません諦めます、これ以上時間を伸ばしてこっちの時空間から抜け出せなくなったら、それこそ問題ですからね。分かりました、設定や準備が必要ですから、10分後の2006年9月29日15時20分に、チューニングして下さい。では後程」
そう言うと小夜は携帯を切った。
「どうしたの?せれなちゃん。誰からの電話?」
「今のは、大学院の教授です。時空間移動理論を応用した4D電話つまりタイムトラベル電話で、過去や未来へ電話出来るんです。」
「すげえなぁ、そんな物まで有るんだ」
「折角こうして親子として巡り会えたんですが、時空間転送装置にバグが発見されました。本当は、3カ月間この時代に滞在する予定だったんですが、あと10分しか居られなくなりました。」
「そんな、マジなのか?」
「はい、残念ですが、仕方有りません。」
「また、来てくれるよね、せれなちゃん。」
「いえ、それが未だ研究段階だから何とも言えないんです。特にこの時代から、私が存在した証拠を全て削除しなければなりません、その上で私が存在しなかった場合の出来事を記憶や媒体、すべての現実にインプットします。それを何回も繰り返す事による人体や時空間への影響が未だ未知数なんです。難しい話ですが、何回も同じ時空間を書き換える事自体、危険をはらんでいるんです。だから、お二人に会えるのは、次は私が生まれて来た時になるでしょう。そしてそれが初めて出会った瞬間になるんです。」
「わかんないよ、せれなちゃん。そんな難しい話。」
「スイマセン、ゆっくり説明している時間が、もう無いんです。後、5分したら私は、2038年に帰ります。それとほぼ同時にこの時代から私の存在履歴自体が削除され、歴史的に抹殺されます。」
「じゃあもう会えないのか?」
「はい、次会う時は私は、二人の間の子供としてお二人の前に現れます。」
「やだよ、折角知り会ったばかりなのに、明日の学園祭だって、一緒に御茶立てる約束だったでしょ、それに学園祭が終わったらクッキーやオムライスを教わる約束だったでしょ。」
「ごめんなさい、約束を守れなくって。でも、どれもお母さんつまり佳奈絵さんから教わった事なんですよ。」
「そんな・・・難しすぎて私には分かんないよ。せれなちゃん。」
「もう時間が有りません・・・最後に娘として一つわがままを聞いて貰えますか?」
「なんだい、小夜。」俺は自分でもびっくりする位冷静だった。
「お父さんとお母さんの娘として、私を抱きしめてもらえますか?私はその記憶を励みに今後も頑張って生きて行きますから」
その言葉に何故か、涙が溢れて来た。
「おい、ヒグラシ。小夜を娘を抱きしめてやろうぜ。」
俺とヒグラシは小夜を包み込む様に優しく抱きしめる。
「お父さん、お母さん。私は幸せですよ。二人の間に生を授かって感謝しています。未来じゃ分からないお二人の事をリアルに実感出来て良かったです。」
「あっちの時代でも元気でな、小夜」「幸せに暮らしてねせれなちゃん」
「ありがとう、お父さんお母さん・・・。私が10歳の時、ドーナッツを揚げようとして、コンロで油を熱していて、そのまま忘れてしまい、家が火事になりかけるけど、余り酷く叱らないでね。」
「あぁ、分かった約束するよ小夜」「わかったから、せれなちゃん。私がちゃんと見ててあげるから、安心してて。」
背後のパソコンが、カウントダウンを始めた。
「じゃあそろそろ、行かなきゃ。」
そう言うと小夜は、ガラス扉の中に入っていった。
「私が消えた瞬間に、お父さんお母さんは松舞高校で、学園祭の仕上げに夢中になっている様にリセットされるから、安心してね。じゃあ、二人は結ばれる運命だけど、余り喧嘩はしないでよね」
「あぁ、分かったさ」俺はヒグラシの手を握り、小夜に見える様に高々と挙げた
それを確認した小夜が大きく頷き、手を振る。
俺達も手を振り返す。
「16歳のお父さんは、素敵で魅力的だったよ。本当に好きになったんだからね。ごめんねお母さん、大切なお父さんを奪ちゃって・・・」
小夜が光始めた。
霧が晴れて行く様に、小夜の身体が薄くなっていく。
「小夜~!」僕らは力の限り、叫び続けた。

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学園祭まで、後2日になりました。
そろそろ、モリヒデと仲直りしなければいけませんよね。
そうとは思いつつも、なかなか切り出す事が出来ません。
こんばんわ、かなかなです。
―――――――――sérénade編 9月28日(木)―――――――――
学園祭の準備も最終段階です。
今日、飾り付けの仮組を行い、明日最終的な飾り付けを朝から行って、午後は紙コップなどの買い出しです。
「う~っし、じゃあ男子は、飾り付けを教室に運び込んでくれ。女子は、仮組をやっちゃってくれよな」
相変わらず、モリヒデはうまくクラスの人間をまとめています。
私の事は、うまくまとめてくれないんでしょうか?
おっと、そんな他人任せじゃいけませんよね。
自分から解決しなきゃ、一生このままの様な気もします。
6時前にあらかた仮組も終わり、クラスメイトも帰り始めました。
「みんな、お疲れ~。明日もヨロシク頼むな~。」
クラスメイト一人一人にモリヒデが声を掛けてます。
「ヒグラシと藍沢さんは、もう少し残って貰えるかなな? 明日の打ち合わせしておきたいし・・・」
「分かったわ。」ついつい不愛想に返事をしてしまった。
「はい、構いませんよ」とせれなちゃんは、相変わらず優等生な返事です。

「じゃあ、明日、コップや紙皿は、1班の連中に任せよう。」
「じゃあ、コーヒーや紅茶は、2班の人達に、サンモールまで取りに行ってもらうんですね。」
「そうだな、3班4班は最後の飾り付けの仕上げやって貰うんだからな。それとヒグラシ、お前の店の田舎まんじゅうは、土曜日の朝届くんだよな。」
「そうよ、朝、おじさんが届けてくれる様になってる。」
♪♪♪
せれなちゃんの携帯が鳴る。
「あっ、スイマセン。ちょっと電話に出てきます。」
ここの所、せれなちゃん電話が掛かる事多いですね。
「そう言えば、抹茶や道具の準備も大丈夫か?」
「えっ、茶道部の木元先生にお願いするの、モリヒデじゃん!」
「何でだよ~お前、木元先生に用事が有るから、ついでにお願いしておくって、言ってたじゃんか」
あっ・・・そうでした、あの日木元先生に家庭科のプリントを取り行ったついでに、お願いするつもりでした。
「ゴメン、忘れてた。」
「お前なぁ・・・明日木元先生の所行ってお願いして来いよ。」
「うん、分かった。」
とんだ大失敗です、大いに反省してます。
「ったくぅ、しっかりしてくれよな、ヒグラシ」
「だから、分かってるって」
「何だよ、それが人に謝る時のセリフか?」
なっ、何よ人の上げ足を取って。
「あんただって、いっつもそうじゃない! 撮影会の事だって、未だに謝ってもらってないのよ」
「また、その話かよ。だから、俺と藍沢さんは何もしなかったんだって。」
「何もしなかったって、じゃあ何をしたのよ?」
「何も無かったんだから、謝り様がないだろ。
藍沢さんに、後ろから抱き付かれ告白された、でも俺は『ヒグラシを裏切れない』って断った、それだけの事さ。」
「何も無かったら、それで済まされる問題なの?
私とモリヒデって、そんな薄い関係だったの?
そんな人なら好きにならなきゃ良かった、何でモリヒデの事好きになったんだろ」
違う、私が言いたいのは、そんな事じゃないのに。
思いと裏腹に、感情に任せた言葉ばかり出てしまう。
「なんだよ、ヒグラシ。俺はお前に好きになってくれなんて、頼んだ覚えは無いぞ。お前が勝手に俺の事を好きになっただけだろ。」
「モリヒデ、ひどいよ、そんなセリフ」
悔しい気持ちと、モリヒデを失いたくない気持ち、思いと裏腹のセリフしか言わない自分、そんな複雑な思いが絡み合って、ポロポロと涙がこぼれて来た。
「ひどいよ・・・ひどいよ、モリヒデ。私の気持ちも知らないで・・・」
「お前だって、俺の気持ち、藍沢さんの決心を知らないだろ、勝手な事ばっかり言うなよな。」
分かっているわよ、モリヒデが私を大切に思っている気持ち。
私だって、同じなのよ。モリヒデが一番大切な人なんだからね。
涙がどんどん溢れてくる。

「森山さん、金田さん! 止めて下さい。」
突然、せれなちゃんが私達の目の前に現れた。
「金田さん、ゴメンなさい。私が全部悪いんです、私が森山さんにご迷惑をお掛けしたんです。
だから、森山さんは何も悪くないんです。
もう、お二人の邪魔は致しません。だから、お二人はいつまでも仲良く幸せで居て下さい。
それが、私の為なんですから・・・スイマセン、私急用で帰ります。森山さん、ちゃんと金田さんを慰めてあげて、家まで送り届けてあげて下さいね。
お二人とも、いつまでもお幸せに・・・」
そう言うと、せれなちゃんも泣きながら教室を出て行った。
「せれなちゃん!」「藍沢さん!」
後を追いかけて、廊下に出たが、そこにせれなちゃんの姿は無かった。
振り返ると、そこにはモリヒデが立っている。
思わずモリヒデにすがり付いた。
モリヒデが私の頭を優しく撫でる。
「今まで、黙っていてゴメンな、ヒグラシ。
明日、一緒に藍沢さんに謝ろう。」
その言葉に、私の毒気はすっかり洗い流される。
「私こそ、ゴメンねモリヒデ。あんたの事信用してるから、せれなちゃんじゃなくて、私の事を選んでくれた事、凄く嬉しいよ。私を選んだ事、絶対に後悔させないからね。」
モリヒデが私の顔を引き寄せる・・・
私は、モリヒデに全てを委ね、静かにキスをした。

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やれやれ、又かなかなと森山君は喧嘩してるみたいですね。
人の恋愛には、あれこれと口を出すくせに、自分の恋愛は不器用なんだから。
まぁ、そんなかなかなも大好きなんですけどね。
こんばんわ、朝葉です。
―――――――――sérénade編 9月27日(水)―――――――――
学園祭の準備は順調に進んでます。
今は、クラスの女の子2人と、協力してお岩さんの衣装作りを頑張ってます。
さすがにここまで来ると、諦めが付きました。
こうなったら、お客さんを思いっきり驚かせる事だけを、考えて演じて行きますよ。
例え颯太君が来ても、全力で驚かせちゃいます。

下校する時、校門をトボトボと歩く森山君を、見掛けました。
やっぱり未だ仲直りしていないみたいですね。
颯太君とも、相談しているんですが、結局は本人達が解決する問題なんだし、そっと見守るのが一番って結論に達しました。
森山君に気付かれない様に、少し距離を空けて歩いていたんですが、突然森山君が振り返っちゃうから、目が合ってしまいました。
「よう。緑川さんも今帰り?」
「あっ・・・やっぱり森山君だったんだ。後ろ姿が似てるなぁって、思ってたんだけど・・・」
予想外の展開に言い訳もしどろもどろに、なっちゃいます。
「どうだ、お岩さん役マスターした?」
「それは言わないでよ。トラウマになりそうなんだからね、こっちは。」
「わりいわりい。」
「そっちは、どうなの?ちゃんと喫茶店の飾り付け進んでる?」
「おう、ヒグラシや藍沢さんが、先頭に立ってやってるからな。俺なんか、荷物運び専門だよ」
「颯太くんも、パシリ専門だって言ってた。」
「走るのはあいつの得意分野だからな・・・いいなぁ、緑川さん達は、幸せそうで・・・。」
うっ、その話題は・・・でも、今更無視する訳にもいかないし・・・
「ヒグラシから、色々聞いてんだろ、きっと?」
「う、うん、まぁ・・・」
「俺って、あいつに心配掛けてばっかりだよな。別にわざとそうしている訳じゃないんだけどな。いっつも裏目裏目に出ちゃうんだよな。」
「かなかなも、その辺は分かっていると思うよ。森山君の事信用してるって、言ってるし。」
「そうか・・・マジで撮影会の晩、何もしなかったんだぞ」
「しなかった・・・って?」
「いけね、口が滑った・・・しゃあないな、緑川さん絶対誰にも言わないでよ。颯太にも、あんまり喋ってない事なんだからね。ヒグラシだけじゃなくて、藍沢さんも傷つくネタだから。」
「うん、分かった」何だか、ドキドキしちゃいますね。
「実は、あの日の晩、緑川さんに背中から抱き付かれて、告白されたんだ、『今だけは私のモリヒデさんで居て下さい。明日は普通のクラスメイトに戻ってますから』って。」
うっ結構、藍沢さんって大胆なんですね。
「俺だって、ちゃんと説明したんだぞ、『ヒグラシを裏切る事は出来ない』って。ただ、その1時間位かな、そのままの状態で居たんだ、その間だけは、ヒグラシの事を忘れて、藍沢さんを背中に感じてた。」
う~ん、流石にそこまでは、颯太君も聞いてないんだろうなぁ・・・
「それが、全部さ。それ以上は何も無かったよ。」
「かなり、境界線ギリギリの話だね・・・。
でも、森山君の意思がそこまで固いんなら、かなかなだって分かってくれるんじゃない?」
「そうか? もしこれが颯太だったとして、緑川さんは颯太の事を許せるの?」
突然そんな質問をされても・・・
「時間が掛かるかも知れないけど、きっと許すと思うよ。」
「そうか、それを聞いて少し安心したよ。今の話は、忘れてくれよな、緑川さん」
いや・・・忘れろって言うのは、無理だって。
「うん、分かった。絶対に口外したりしないから」
・・・なんか、とんでもない真実を共有しちゃいました。
森山君が言う様に、忘れられたらどんなに気が楽なんでしょうね。


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「ん~、結構形になって来たな。なっヒグラ・・・」
私がそっぽを向いたもんだから、モリヒデの奴、言葉に詰まってます。
モリヒデの事、信じているんですけど、素直になれません。
こんな時、他の子はどうしているんでしょうか?
こんばんわ、かなかなです。
―――――――――sérénade編 9月26日(火)―――――――――
「んじゃあ、みんなお疲れ様~」
今週に入って、運動部のメンバーを中心に、学園祭の手伝いをしてくれる様になり、作業が随分とはかどる様になりました。
せれなちゃんが、腕時計を見つめ難しい顔をしています。
「どうしたの?せれなちゃん?」
「いえ、今から急いで駅に行っても列車に間に合いそうもないですし、次の列車まで1時間半も待たなきゃいけないんですよ」
「1時間半は、退屈だよね。そうだ、良かったらサンモール行かない? 秋限定のマロンケーキが出たらしいのよ」
「マロンケーキですか♪ 私、大好きなんですよ。御一緒させてもらってよろしいですか?」
う~ん、相変わらずの丁寧なお嬢様口調ですね・・・同級生なんだから、タメで口調で全然良いのに。
「うん、もちろん。行こう行こう。」
私はモリヒデと目を合わさない様に、そそくさと教室を出た。

「うん、朝ちゃんがお薦めって言うだけ有って、確かに美味しいわぁ、このマロンケーキ。」
「はい、確かに美味しいです。しかも、生地がスポンジじゃなくて、シフォンケーキだから重たい感じがしなくて、幾らでも食べれそうですね。」
「へぇ~せれなちゃんって、結構料理詳しいんだね。」
「母の友達が料理好きで、小さい頃から母と3人で料理作って楽しんでましたから。」
「ねぇ、せれなちゃんの得意料理って何?」
「得意料理ですか? 一つに絞るならオムライスでしょうか。」
「オムライスって、オムレツの部分をふわっと半熟に仕上げるのが、難しいわよね。私も良く挑戦するけど、未だに上手くいかないんだよね~。コツって何なのかしら?」
「う~ん、私は、白身だけを取り分けて生クリームを少し加えて軽くホイップさせてから、黄身を加えて混ぜ上げてますよ。焼く時は強火で一気に表面を焼き上げて、後は余熱で半熟にしています」
「うわ~、それ美味しそう~。今度クッキーと一緒に教えてよ。」
「はい、分かりました。私、腕に撚りをかけて作りますから」
朝ちゃんとも料理の話で盛り上がるけど、せれなちゃんとも料理の話で盛り上がりました。
ただ、朝ちゃんと料理の話をしている時とは、どこか違う感覚でした。
具体的に、どうとは言えないけど、友達と喋っていると言うよりは母と料理の話をしている様な感覚です。
まぁ、多分気のせいでしょう・・・そうだ、今度は朝ちゃんも誘って、3人でオシャベリしようかな。朝ちゃんとせれなちゃんって、案外話が合うかも知れませんね。
なんて考えながら、ニヤニヤしていたらしい。
せれなちゃんが、私の顔を覗き込んで「あっ、今、森山さんの事考えてませんでした?」って、笑いながら聞いて来た。
「えっ?違う違う。モリヒデの事なんて考えてたら、険しい表情してるわよ、きっと」
せれなちゃんの表情が、曇ったのが分かる。
「やっぱり、私の存在がいけないんですよね・・・」
「違う違うって。せれなちゃんとモリヒデの間に、何も無かったのは信じてるよ。ただ、あいつに何て切り出したら良いのか分からなくて・・・お互い意地を張っているだけなのは、分かっているんだけどね。」
「意地を張らずに、自分の気持ちに素直になって下さい、金田さん。」
「そう簡単に言われても・・・。例えば、せれなちゃんなら、こんな場合はどうするの?」
「私ですか? スイマセン、実は未だ本当の恋愛ってした事無いんです。」
「ウソ~、せれなちゃん位美人で性格が良ければ、絶対男子がほっとかないわよ~。」
「周りの人にそう言われるんですけど、本当に経験無いんです。例え付き合ったとしても長続きしないんですよ・・・だから、的確なアドバイスが出来なくてゴメンなさい。」
「ううん、謝る必要なんて無いって。私がしっかりしなきゃいけないのよね・・・あっ、そんな事より、せれなちゃん列車の時間大丈夫?」
「えっ? あぁ、もうこんな時間?そろそろ行かなくっちゃ」
「じゃあ駅まで送るよ、どうせ帰り道だし。」
「ありがとうございます。本当に美味しかったですね、マロンケーキ。」
「ねぇ今度は朝ちゃんと3人で、料理の話とかしながら食べようね。」
「はい、是非ともお願い致しますね。」
嬉しそうに話すせれなちゃん。
でも表情は、どこか寂しそうだった。

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