松舞ラブストーリー

山陰の仮想の町松舞町を舞台にした、様々な恋愛を見守ってやって下さいね

2006年09月

ピンポ~ン
家のチャイムが鳴った。
あの二人がやって来たみたいですね。
「は~い」そう言いながら、玄関のロックを解除する。
「う~っす」「こんにちは、お邪魔します」
モリヒデとせれなちゃんです。
まぁ、同じ電車通学組ですから、一緒に来るのは、おかしな話じゃないんですが、ちょっぴり焼いちゃいますね。
こんにちわ、かなかなです。
―――――――――sérénade編 9月25日(月)―――――――――
昨日の日曜日の午後、うちの家で学園祭の時使うBGMの作成を行いました。
「ねぇこの曲どう?」
「あっ、明るくて良い曲ですね♪ この曲調ってナツメロですか金田さん?」
「えっ?藍沢さんこの曲知らないんだ?今年一番ヒットした曲だよ。昔にこんなラップの曲は無いって」
「あぁ、そっ・・・そうですよね。ホント曲を知らなくって。スイマセン森山さん」
「いや、別に謝る必要は無いけどよ。それよりヒグラシ、何か食う物無い?」
モリヒデの奴、完全に自分の家みたいな態度です。
まぁ、変に緊張されるよりかは、良いかも知れませんが。
「あっ、私、忘れてました。今日はクッキー焼いて来たんですよ」
「焼いて来たって、せれなちゃんの手作り?」
「はい。イマイチ自信は無いんですが・・・」
「ありがとう、今、紅茶入れるね。ほらモリヒデは、ちゃんとCD焼く準備しといてよね」
キッチンに行きお茶の準備をする。
「金田さん、私も手伝いますよ」
「じゃあ、せれなちゃんゴメン、そこの棚から紅茶の茶葉を取って。せれなちゃん好みの紅茶が有ると良いけど」
「わぁ~、結構の種類をお持ちですね。」
「うん、私コーヒーも好きだけど、紅茶も大好きなのよ。」
「じゃあ、今日はこのレディグレィにしましょうか、うちの母のお気に入りなんですよ」
「あっ、私と好みが一緒だ。レディグレィだとベルガモットの香りが余計に引き立つのよね」
せれなちゃんと、こうしてキッチンに立つと、どこか懐かしい気がするから不思議ですよね・・・デジャヴゥ? そんなに私疲れてるのかな~(^_^;)
「はい、モリヒデお待たせ。」
「おっ、旨いじゃん藍沢さんの焼いたクッキー。」
「本当、これって何が中に入っているの?」
「アップルティーのお茶っ葉ですよ。うちの母が得意なんです。」
「え~良いなぁ良いな。せれなちゃん、学園祭が終わったら作り方教えてよ~」
「ええ分かりました、凄く簡単なんですよ実は。子供の頃、毎週の様に母と作ってました。」
「いいなぁ、せれなちゃんのお母さん。うちは、殆ど休み無く働いているからね~。」
「そうなんですか、金田さんのお母さん。でもでも、それって金田さん達の為に頑張っておられるんですよね。」
「確かにそれはそうなんだけどね・・・。あっ、コラ~!モリヒデ。そんなにバクバク食べたらスグ無くなっちゃうでしょクッキーが。ちゃんとCD焼いてんの~?」
「いや、マジで旨いんだって、このクッキー。CDなら今焼いてるぞ。お前のパソコンお前と一緒でとろいんだよな」
「私と一緒ってどう言う意味よ、モリヒデ」
「お~スマンスマン、お前よりパソコンの方が、賢いわな普通」
「相変わらず、お二人の掛け合いは面白いですね~」せれなちゃんが、笑っています。
いや、別に笑わせるつもりは無いから・・・
あれ?クッキーを取り出したカバンから写真がこぼれ落ちています。
「せれなちゃん、写真落ちてるよ」そう言いながら拾い上げた写真は、目が覚めるほど鮮やかな青空の下、仲良く微笑むモリヒデとせれなちゃんが写っていた・・・
私は写真を見なかったふりをする事しか出来なかった。


「おいヒグラシ、何をぼ~っとしてるんだ? 食材の購入予算、こんなもんで良いのか?」
「あぁゴメンゴメン・・・んっと、もう5千円位予算充てても大丈夫だよ、モリヒデ」
「そっか、了解了解。どうしたんだ今日のお前いつも以上にぼ~っとしてるぞ、熱でも有るんか?」
「えっ、大丈夫だって。モリヒデが心配してくれるなんて、明日大雪降るんじゃない? でも、ありがとう」
「なんだよ、けなしたり、感謝したり・・・」
「へへへ・・・」
実は、昨日の写真の事が頭から離れません。
もちろん、ただ単に二人が笑っているだけの写真ですから、気にする事はないんですけどね。
「藍沢さん遅いな~。携帯が鳴って電話しに出て行ってから、30分以上経つぞ・・・」
「そんなに、せれなちゃんの事が、気になるのモリヒデ?」
「何だよヒグラシ・・・焼いてんのか?」
私は意を決して、口を開いた。
「見ちゃったんだ、モリヒデとせれなちゃんのツーショット写真・・・」
「えっ?・・・馬鹿、あの写真はそこに偶々、俺と藍沢さんが居ただけの話だぞ」
「そんなの分かってるわよ。分かってるけど、何故か許せないのよ。彼女と二人っきりのアンタを、モリヒデと二人っきりのせれなちゃんを・・・ただ単に、ヤキモチ焼いてるだけだって言うのも、分かってるわよ、でも何故かモリヒデの笑顔が気になるの、頭の隅から離れないのよ」
「俺の事、そんなに信用出来ないのかよ、お前は。俺と藍沢さんの気持ちなんか分かんないよな、きっと」
「何よそれ、モリヒデとせれなちゃんの気持ちって。何か有ったの?この前の合宿の時。」
「何もないさ。俺はヒグラシの事を裏切れないって言っただけさ。」
「せれなちゃんに好きだって言われたの?」
「それは・・・」
突然、教室のドアが開いた。
「せれなちゃん・・・」「藍沢さん・・・」
「ごめんなさい・・・私、急用が出来たから帰ります・・・」
そう言うと、せれなちゃんは鞄を抱え、走り去って行った。
「せれなちゃん、ちょっと待って・・・ねぇ、モリヒデ、追いかけなくていいの?」
「なんで追いかけなきゃいけないんだよ!」
「だって、せれなちゃんが・・・せれなちゃんが・・・」
この瞬間、私は大切な人を二人失ってしまった・・・取り返しのつかない事をしてしまったと、今更後悔するのだった・・・

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アンコールのバラードが、静かに終わる。
この火照った身体と興奮は、中々冷めそうに有りません。
終演のブザーと共に会場に灯りが灯る・・・
楽しみだったライブも終わりです、こんばんは朝葉です。
―――――――――sérénade編 9月24日(日)―――――――――
ライブ最高でしたよ♪
まぁ、ライブはイマイチでも、颯太君と一緒に居るんだから、どの道最高なんですが♪
「良かったね、アンコールのバラード。あれ聞いた事有る曲だったけど、オリジナルじゃないよね?」
颯太君も楽しんだ様で、興奮気味に私に話しかけてきます。
「あの曲は、グレンミラーの有名なジャズで、ムーンライト・セレナーデって、言う曲よ。今度の文化祭で、うちら演奏するよ」そう言いながら颯太君の手を握る。
「あっ曲名聞いた事あるわぁ」そう言いながら、少し照れ臭そうに、颯太君が私の手に指を絡めてくる。
雲山駅行きのバスの中でも、さっきのライブの話題で、随分盛り上がりました。

寒風が吹きつけるホームに立つ二人。
もちろん、絡めた指はそのままです。
「なんとか、無事に最終列車間に合ったね、颯太くん♪」
「だね、あ~又明日から授業かぁ~」
「でも、取りあえず来週は、部活休みでしょ。良いなぁ~私は、ブラバンとお化け屋敷の準備が有るからなぁ」
「やっぱり、お岩さん役やるんだ(笑)」
「あっ、人事だと思ってるんでしょ~。そう言えば、そっちのクラスは何をするんだっけ?」
「ん?うちのクラスは、焼きそばの屋台出すよ。だから、屋台のデコレーションさえやっちゃえば、比較的暇なんだよね。」
「良いわね~。私なんか衣装合わせから、デコレーションだって有るし大変なのよ。演奏の方だって、実は、さっきのムーンライト・セレナーデがうまく吹けないのよね。」
「へぇ~、朝ちゃんだって苦手な曲が有るんだ。」
「そりゃ有るわよ~ あっ、列車来たよ。」

さすがに終電となると、乗客もまばらですね。
颯太くんと、向かい合わせに座る。
窓から見える雲山の町明かりが、少し幻想的です。
「やっぱ雲山は都会だよね、ねえ颯太くん東京って行った事有る? あっちはもっとキレイなんでしょうね、夜景が。」
「俺も行った事ないなぁ・・・いつか行ってみたいよね、東京」
「そうね、行きたいね~。でも、お金掛かるよね絶対」
「うん・・・」
お互い急に無口になる。
「ねぇ、朝ちゃん・・・」
「何?颯太くん」
「なんか、今、家出する気分だよ」
「えっ?何それ?」
「このまま何処か、知らない町に二人で行きたい。そこで誰にも干渉されず二人で暮らしたい・・・」
う~ん、気持ちは凄くうれしい。
でも、まだ先の話で良いと思う。だって私達未だ高校一年だし。
「いつかは、二人で暮らしたいね。その為に今はがんばろ。私は颯太くんに、いつまでもついて行くからね」
「朝ちゃん・・・」
彼の手をそっと握る。
・・・私、なんか大胆発言しちゃいましたね。
自分のセリフを、思い返して一人赤面しちゃいました。
そんな私を悟られていないか、颯太くんに目を向けると・・・
私をじっと見つめてます・・・
私は、意を決しゆっくり目をつむる。
颯太くんの息使いがどんどん近づいて来ます・・・
私の唇に、温かくて柔らかい颯太くんの唇が触れるのを感じる・・・そして優しく抱きしめられる、その心地好い感触を、いつまでも感じていた。


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「あ~疲れた~。今日の部活はきつかったわ・・・」
「そっか、陸上部は来週は休みなんだよね。」
そうなんです、来週は文化祭の準備が有るから、大切な大会を控えた部活以外は、部活動を休みにして、文化祭の準備に入ります。
「ブラスバンドは、ギリギリまで練習するんだろ?」
「うん、中々演奏が纏まんないのよね・・・」
朝ちゃんと、川土手をゆっくり歩く・・・朝晩は結構涼しいですけど、日中はまだまだ夏ですね・・・こんにちは、颯太です。
―――――――――sérénade編 9月23日(土)―――――――――
「ねぇ、また最近、せれなちゃんと森山君が、おかしな感じって聞いたけど、颯太君何か知ってる?」
「えっ?知らないよ・・・またモリヒデの奴、ちょっかい出したんか、藍沢さんに。」
「う~ん、そこん所が良く分かんないのよね・・・ヒグラシ自体が、イマイチ理解してないって言うか、ピンと来てないって言うか・・・」
「何だそりゃ・・・金田の思い過ごしじゃないの、それって」
「そうなのかな~?」
「まぁモリヒデに、また聞いておくよ、その一件は。」
「うん、お願いね。じゃあ明日、2時に松舞駅集合ね。遅刻しない様にね」
「うん、分かってるって。チケット忘れないでね、朝ちゃん」
「うん、じゃあね~」
朝ちゃんと、駅通りの終わりで別れた。
♪♪♪
ん?そう言ってたら、モリヒデからのメールです。
「え~っと、何々・・・。今、サンモールに居るけど、昼飯一緒に食わないか?」
・・・まぁ、どうせ帰りにコンビニで弁当買おうと思っていたから、付き合ってやるか。
さっきの一件も有るしな・・・

「お~い、颯太ここ、ここ~」
そんなに大きな声で呼ばなくても・・・子供じゃないんだから(^_^;)
「待たせたな、モリヒデ。もう何か頼んだ?」
「いんや、お前来るの待ってた・・・さて、今日は何食おうかな」
「俺、サービス定食にしようかな・・・んで、今日はお前何か、松舞に用が有ったの?」
「おばちゃん俺、炒飯餃子セットに冷やし中華ね。・・・今日? 大森に居てもする事無いからな・・・お前、午後は何か用事ある?」
「俺?ん~特に無いもないけど・・・うちでPSⅢでもする?」
「いや・・・お前の家に行くと、ヒグラシに会いそうだしなぁ・・・」
「お前、金田と喧嘩でもしたの?」
「別に、喧嘩とかしてないぞ・・・ただ・・・」
「ただ、何だよ・・・気になるなぁ、その言い方・・・お前らしくない」
「いや、藍沢さんの事が気になってしょうがないんだ・・・って言っても、好きになったとかじゃないぞ。
実は、この前の撮影会の時、彼女に告白されたんだ。」
「マジ~。有り得ねぇ~」
「って、そこまで全否定する事はないだろ~、颯太・・・。もちろん俺はヒグラシを裏切れないって断ったさ。」
「う~ん、少し勿体ない・・・いや凄く勿体ない気もするが、もし俺がモリヒデの立場だったら、やっぱり朝ちゃんを選ぶんだろうな・・・たぶん・・・だけど。」
「でもな、そうとは言え、何か気になるんだよ彼女の事が。長田部長には『お前、彼女の父親か』って、笑われたんだけど、ほんとそんな感じなんだよな・・・」
「何だよ、それ?  あっ、お前の冷やし中華出来たみたいだぞ。」
「おう・・・」
そんな悩みをモリヒデが抱えてたなんて、全然知らなかった。
いい加減そうに見えるけど、あいつって結構真面目で繊細なんだよな。
「お~旨そう、今年の喰い収めだな、冷やし中華・・・颯太のサービス定食も出来てたぞ」

・・・・・「う~ん、やっぱサンモールのハンバーグは最高だよな。ところでモリヒデ、さっきの話の続きだけど、藍沢さんに対する気持ちと、ヒグラシに会う事は関係ないんじゃないか・・・」
「まぁ、確かにそうなんだけど。自分の気持ちが、イマイチはっきりしない今、ヒグラシの目をちゃんと見れる自信がないんだよな・・・俺の気持ちは固まっているんだけど、後ろめたさを拭い切れないんだ。」
う~ん、何かややこしい話ですね・・・
「お前の気持ちは、金田で固まってんだろ。だったら自信を持って、会ってくれば良いじゃんか。」
「いや・・・こんな写真貰ったんだ。俺、ヒグラシと会っている時、こんな笑顔してるかな?」
う・・・藍沢さんとのツーショット写真。しかも、二人とも幸せそうな顔しちゃって・・・
「お前、この写真持ち歩いてるんか? お前の気持ちは、金田オンリーとは言え、さすがに金田に見付かったら、騒ぎ出すんじゃないか?」
「そうなんだよなぁ・・・、今日カバンに入れたままだったのを忘れて持って来ちまったんだ。
やっぱり、ヒグラシの前で俺って笑ってないんか?」
「いや、それは無いけどよ・・・この写真はまずいよな・・・」
なんとなく、俺まで憂鬱になりそうです・・・
モリヒデはもちろん、金田だって藍沢さんにだって幸せになってもらいたいんだけど、一体どうすればしっくり行くんでしょうか、こんな場合・・・

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「ヒグラシ、悪りぃ。今日は写真部に行かなきゃいけないくなった。何でも現像が追いつかないみたいでさ。
藍沢さんは、クラスの方手伝ってもらうから、頼んだわ」
「ん~良いよ、今日はデコレーション作りだから、クラスの女子が手伝ってくれるし、あんたが居ない方が仕事捗るから」
相変わらず、一言多い奴ですヒグラシは・・・
こんにちは、モリヒデです
―――――――――sérénade編 9月22日(金)―――――――――
「森山~、次、これ現像頼むわ~」
「分かりました、長田先輩」
う~ん、結構量が有りますね・・・
フィルムを現像しながら、昨日の放課後の事を思い出していた。
「お二人には仲良くしていて貰わないと、困るんです私」って、一体どう言う意味なんだ?
やっぱり、俺への気持ちが有るって事なのかな?
う~ん、俺って罪な奴?女泣かせ?
いや、冗談はさて置き、俺はどうすれば良いんだ?
もちろん、ヒグラシから藍沢さんに浮気をするつもりはない・・・確かに藍沢さんの方が、美人だしスタイルもいい、性格だってお淑やかだし、少し人見知りっぽい感じもするが、案外明るい性格だ。
彼女にするには申し分無いんだけどなぁ・・・どこかこの子と付き合ってはいけないって、気がするんだよな。体質的とか、フィーリング的な物とは違う、何とも言えない「何か」が有るんだよな・・・
「お~い、森山~入るぞ」
「あっ、はいOKですよ」
「どうだ?進んでる? これが最後のネガだからな。」
長田先輩が、フィルムケースからネガフィルムを取り出しながら、聞いてきた。
「お前、この前の撮影会の時、藍沢さんと夜一緒だったんだって」
「えっ、ええ・・・でも、現像手伝ってもらっただけですよ。別に何もしてませんから・・・」
「当たり前だろ、お前に藍沢さんが惚れる訳ないだろ」
・・・いやそれは・・・って言うか、勝手に決め付けなくても(-_-;)
「お前、あの美術部の子と付き合ってんだろ、変な噂立てられない様にした方が良いぞ。沢田が言ってたけど、彼女の方は真剣みたいだぞ」
「俺だって、ヒグラシの事真剣に考えてますよ。確かに藍沢さんの事、全く気にならないって言ったら、嘘になりますけど、それは好きとか嫌いとかじゃなくて、もっと別の思いなんですよね。」
「それって、お前が気が付いていないだけで、実は恋心なんじゃないんか?」
「う~ん、ヒグラシに対する思いとは、なんか全然違うんですよ、それが・・・。
ヒグラシの事は、一緒に居て楽しい存在、落ち着く存在なんですけどね。
藍沢さんの場合、楽しくないって訳じゃないんですが、恋愛対象って言うより、見守っておきたい感じなんですよね。
もちろん、藍沢さんの方が数倍しっかりしているんですけど・・・そうだな~、近所の子供を遊びに連れて行った時、自由に遊ばせていながらも、目の端っこでちゃんと追いかけているみたいな・・・」
「なんだそりゃ?お前は、藍沢さんの父親か! ほら、ケースから出したから、このネガの現像頼んだぞ」
そう言うと、長田先輩は暗室を後にした。
父親かぁ・・・そう言われると、子供が出来るとそんな感じなのかな~

「うーっし、現像終わりましたぁ」
「お~、森山サンキュウな。」「モリヒデ、お疲れ~」
一年生の女子が、写真を持って近寄って来た。
「はいこれ、あんたとせれなちゃんにあげるね。金田さんには黙っといてあげるから。見付からない様にね」
「何これ?露出オーバーじゃん、現像現像補正かけてこれなん?」
そう言いながら、写真をもう一度ゆっくり見つめる
「えっ、この写真・・・。」
誰が撮ったのか、そこには青空をバックに、楽しそうに笑う僕と藍沢さんが写っていた。


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「ちょっと、モリヒデ~。少しは運ぶの手伝ってよ」
う~、何故私が、こんなに沢山の書類を、運ばなきゃいけないのよ。
「あっ、ごめんなさい金田さん、私も少し持ちますね」
「いいよいいよ、せれなちゃんだって、もう沢山抱えてるじゃないの。ったく、モリヒデは何も持ってないのよ。」
「はいはい・・・ドジなお前の事だから、転ばれて廊下にひびが入っても困るしな。ほら、貸せよ」
「何で廊下にひびが入るのよ!私そんなに重くないからね」
せれなちゃんが、クスクス笑ってます・・・こんにちは、かなかなです。
―――――――――sérénade編 9月21日(木)―――――――――
今日から、放課後は文化祭の準備です。
取りあえず3人とも、文化祭に出品する作品は、出来上がりましたので、文化祭に没頭出来るんです。
渡り廊下を渡っている時、4階からブラスバンドの演奏が聞こえてきた。
「朝ちゃん、頑張ってるね~」
「そうだな・・・あれ?この曲聞いた事有る・・・何て曲だっけ?」モリヒデが上を見ながら聞いてきた。
「あ~確かに聞いた事有る・・・ジャズだよね、これ?」
「グレン・ミラーの、ムーンライト・セレナーデですよ。」せれなちゃんが、少し恥ずかしそうに呟いた。
「そう、ムーンライト・セレナーデ! さすが、藍沢さん! この曲、いい曲だよね」
「うん、私も好き。あっ、せれなちゃんのせれなって、セレナーデから来てるの?」
「はい、そうみたいです・・・セレナーデって漢字で書くと、小夜曲って書くんです。その小夜を取ってせれなです。でも、特に意味はないみたいですよ、ただ単に響きが可愛かったからだそうです。」
「でも、素敵な名前よね・・・」
「そうそう、蝉の名前とは大違い・・・」
「ちょっと、蝉の名前にしちゃったのは、あんたでしょ。」
逃げ出すモリヒデを私は追いかける。
「あっ、金田さん、モリヒデさん待って下さいよ~」せれなちゃんも、後を追いかける。

「じゃあ、買わなきゃいけない物はこれ位かな?」
「そうですね、これだけ有ればどうにかなりますよね」
「お店で流すBGMはどうする?クラスのアンケート募ってたら、きっと纏まらないぞ。
俺らで、取りあえず決めてしまわないか?」
「そうね、初日は取りあえずそれで行こうか。せれなちゃんどんなCD聴くの?」
「えっ私ですか? う~ん音楽はあんまり聴かないんですよね。モリヒデさんと金田さんにお任せ致します。」
「モリヒデに任せると、アニソンばっかり選びそうだから、私が適当に選んでくるわ。ねえモリヒデ、CD焼くのは任せていいよね。」
「マジかよ・・・面倒臭いなぁ~。CD持って帰るの面倒だしな~」
「じゃあ今度の日曜日、うちで編集する? 皆でCD持ち寄ってさ。」
「でも、皆で押し掛けたらお邪魔じゃないですか?」
「うちなら、大丈夫よ。モリヒデさえ邪魔しなきゃあね」
「何だよ・・・それが人に物を頼む態度かよ~」
「はいはい、分かりました・・・」
「まぁまぁ、お二人とも喧嘩なさらずに・・・『何とかは犬も食わない』って、言いますよ」
「夫婦じゃないって~勘弁してよせれなちゃん~」
「おう・・・俺だって勘弁だぜ、こんな蝉女」
「あっ酷~い、ウルトラマンの怪獣じゃないんだからね、私は」
「だから~お二人とも止めて下さいって! お二人には仲良くしていて貰わないと、困るんです私」
「えっ~どうして?せれなちゃんに何か迷惑かかっちゃうの?」
「あっ・・・いえ・・・それは・・・」
「そうだよな、折角の文化祭実行メンバーだもんな。一時休戦だなヒグラシ。」
「あんたがそう言うんなら、そうするけど・・・」
なんか旨くモリヒデに誤魔化された気もしますが、確かにせれなちゃんの前でモリヒデと喧嘩しても、せれなちゃん困るだけでしょうしね。
でも何か、この前から二人の様子がどこか変なんですよね。
先週の撮影会で何か有ったんでしょうか?
ううん、疑っちゃいけませんよね・・・せれなちゃんがモリヒデなんかに惹かれる訳有りませんし、何よりモリヒデの事を私が信用しなきゃ、いけませんよね。

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