松舞ラブストーリー

山陰の仮想の町松舞町を舞台にした、様々な恋愛を見守ってやって下さいね

2009年08月

「うん、じゃあまた明日ね。おやすみ~詩音」
携帯の通話終了ボタンを押す。
タバコに火を点け、深く煙を吸い込む。
何気なく、時計の針が目に入った。
うわ~、もう十二時前かぁ
話し始めたのは、バイトを終えてアパートに帰って直ぐだから、5時間以上も詩音と話をしてました(^^ゞ
こんばんわ、御主人28号様こと、隆文です。
―――――――――8月26日(水)―――――――――
詩音と仲直りしましたよ
♪♪♪
おっと、今切ったばかりなのに、また詩音から電話です。
何なんでしょう?
「もしもし~、どうしたん?詩音。」
「ご主人28号様、何回も申し訳ございません。大事な事を言い忘れてました。詩音はこれからもず~っとず~っと、御主人28号様の事が大好きです。それではおやすみなさい」
「あっああ。俺もだよ詩音。おやすみ。」
う~ん、こんな時はちゃんと下の名前で呼んでもらいたいんだが、まぁイイですよね(^^ゞ
♪♪♪
おっと、今度は詩音からメールです。
「そう言えばこの前、渋谷のセンター街で美味しいケーキ屋を見つけました♪今度一緒に行きましょうね」
う~ん、詩音も普通の女の子みたいにセンター街とかに行くんだ。以外以外(おっと失礼)
「OK 早速今度の土曜日行こうか。」って返信を打つ。
やはり、センター街を歩く時も、メイド服なんだろうか? 少し気になります。


♪♪♪
おっ、返信メールです。
「はいなのですぅ~ 楽しみですぅ~ ところで、御主人28号様は、『けいおん!』ってアニメ御存知ですか? うちのサークルのおケイちゃんが、この前DVDを貸してくれました。今度一緒に見ましょうね」
はいはい、もちろん知ってますよ。
「俺は、4人の中では澪ちゃんが好きだな。詩音は?」
ポチポチ   送信っと。

♪♪♪
「詩音は、ムギちゃんですぅ。御主人28号様は、詩音より澪ちゃんの方が好きなんですか? なんだか、焼いちゃいますぅ」
いや、そこで張り合うかぁ?
「もちろん、一番大好きなのは詩音だよ」っと

♪♪♪
「はいなのですぅ ぎざしあわすぅ」

ふ~
仲直りして以降、詩音からの電話とメール攻撃が、後を絶ちません。
それはまるで、喧嘩している間の時間を取り戻し、空白の時間を埋めようとしているかの様です。
そんな、詩音がすごくいじらしいです。
おっと、そんな事をしているうちに、もう1時じゃないですか。
明日も、1時限目から、授業なんです。
そろそろ寝なくては、寝坊しそうです。
それでは、皆さんおやすみなさ~い


・・・・・・・・



Zzzzzz




♪♪♪
「御主人28号様、もう寝ましたかぁ? 詩音、独りぼっちで寂しくて眠れそうもありません。もう一回電話してもイイですか?」
「だぁ~、詩音眠らせてくれよ」僕は、そう言いながらアドレスを開いた。
実は、詩音とおしゃべりするの、苦痛じゃないんですよね。
きっと、詩音と一緒で、僕も空白の時間を取り戻したい気持ちで一杯なんですよ。
そして、僕は少しニンマリしながら、通話ボタンを押した。






blogram投票ボタン

今年もお盆がやって来ましたね。
松舞のお盆と言えば、花火大会に、夏祭り、精霊流しと、イベントが盛り沢山です。
先日、同じ職場の日向ちゃんと、一緒に花火大会を堪能しました。
初めまして、松舞保育園で、保母をしている錦織(にしこおり)美咲です。
―――――――――8月16日(日)―――――――――
花火の日、日向ちゃんは、園児の美結ちゃんに、寂しい女と思われたみたいです(笑)
私ですか?私だって恋愛経験位は有りますよ。今はフリーなんですけどね。
ちょっと、彼と喧嘩しちゃいまして・・・
初めは、少し考えないと思えだせない位、些細な事だったんです。
確か、私のアパートで彼の為に、料理を作っていた時だったと思います。

「あっ、ソースが切れちゃってる。ごめん潤一、このトンカツ、ソースじゃなくておろしポン酢で、和風にしても良い?」
「え~、まぁ仕方ないなぁ。しかし、お前は相変わらず準備が悪いなぁ」
「ゴメン。でも、準備が悪いのは潤一だって一緒じゃん。大体、なんでいきなり出張なのよ。折角今度の旅行楽しみにしてたのに。」
「だから、それは何回も謝っているだろ。仕方ないじゃんか、本社の方のプロジェクトが炎上していて、サポート人員が必要だって。」
「分かってるわよ、でもなんで潤一ばかりが貧乏くじ引くのよ。もうこれで、ドタキャン3回目よ」
「貧乏くじって言うな、プロジェクトの内容を把握していて、対処出来る人間が少ないんだから、どうしようもないんだよ。お前だってこの前のデート、ドタキャンしたじゃんか。」
確かにドタキャンしちゃって、その穴埋めが今日の手料理なんですが・・・
「だって、それはうちのクラスのこうちゃんが、交通事故に有ってお見舞い行かなきゃいけなかったんだもん」
「だったら、俺だって同じだろ」
「同じじゃないもん」
分かってます、わがまま言っているのは、充分分かってます。でも、言い始めたら次々と不満が再噴出しちゃって。
「どこが、違うんよ。同じだろ。園児の見舞いだって、大切な事なんだから。俺がそれで何か文句言ったか?」
「言ってないけど・・・もういい・・・」
私は、プイっとキッチンの方を向いた。
「あ~もう・・・良い・・・好きにすーだわや。」
背後で潤一が、玄関に歩いて行く音がした。
「ちょっと、どこ行くのよ! トンカツどうするのよ」
「イライラするから、タバコ買ってくる。」
そう言って、潤一はバタンと扉を閉めた。
それが、潤一と交わした最後の言葉だった。
うちのアパートは、少し町はずれに有るから、ちょっとした買い物でも、車で出かけます。
一番近い自動販売機にせよ、コンビニにせよ、片道10分位かかります。
でも、潤一は1時間立っても2時間経っても帰ってこらず・・・
テーブルの上のおろしトンカツも、潤一が大好きなオニオングラタンスープも、すっかり冷たくなった頃、二人の橋渡しをしてくれた潤一の会社の先輩から電話が・・・

病室のベッドの上の潤一の身体は、青白く冷たかった。
清らかな顔でベッドに横たわる潤一を、見てただ呆然と立っている事しか出来なかった。
即死だったらしい・・・苦しまずに逝ったのが、せめてもの救いだったと今になって思う。
道路に飛び出した幼児を救おうとして、トラックに轢かれたって、警察の人が話していた。
幸い、飛び出した子供は、潤一が抱き抱えて守ったので、軽傷で済んだそうだ。
潤一は、人一倍子供が大好きだったから、とっさに身体が動いたんだろうね、きっと。
「馬鹿なんだから・・・後先考えずに行動するんだから・・・本当に馬鹿なんだから、私を置いてけぼりにして」
でも、そんな潤一が大好きで誇りに思う。
冷暗所から潤一の自宅に、遺体は移され、私は喪服の準備が有ったので、一度アパートに帰った。
デーブルの上に、置いたままのおろしトンカツを見たら、色々な思いが込み上げて来て、私は初めて声を上げて泣いた。
4年前の秋の話です。

あれから、3回目の夏がやってきた。
私は一人松舞川の精霊流しに出掛けました。
雑踏を避け、少し離れた河原に下りる。
灯篭の中の蝋燭に火を点し、そっと流れに送り出した。
流れの加減か、一度岸から離れた灯篭が、私の手が届くか届かないかの距離まで戻ってきた。
すこし、灯篭が揺れた気がした・・・まるで、お礼をしている様だった。
そして、静かに水面に揺られ灯篭は流されていった・・・
DSC_5690.jpg




blogram投票ボタン

「喉、乾いたなぁ」
僕はキッチンに立つ。
流しのコーナーボックスには、三日前の夕ご飯の残飯が・・・
「うへ~、小バエがたかってるよ」
詩音が居たら、ちゃんと台所も片付けてくれるんだろうけどな。
こんばんわ、隆文です。
―――――――――8月15日(土)―――――――――
詩音と喧嘩しちゃって、もう三日も音信不通です。
ほんの些細な喧嘩だったんですけどね。
「素の詩音が知りたい」って言ったら、「今の姿が、素の私です」って、怒っちゃいました。
う~ん、腐女子って扱いが難しい事を改めて思い知らされました。
元々、紫苑は彼女ではなく妹の方であって、この時点で嘘つかれていた訳ですよね。
でも、それでも詩音の事が好きになって、付き合う様になって・・・それはそれで、俺的には全然問題無くて、本当に詩音の事が大好きなんですけどね。
でも時々、今の詩音は素ではなく演じられた詩音である事が、気になる様になって・・・さすがにもし結婚したとして、子供が生まれた後も、御主人様とメイドの関係が続く訳もなく(夜の生活は別かも知れませんが)、素の詩音を知った時、そのギャップの大きさを知るのが怖くて。
そんな、不安が爆発しちゃった訳です。

ヤカンに水を入れ、コンロにかける。
お湯が沸く間に、三角コーナーの残飯を生ゴミのバケツに捨てる。
独特の臭いが上がって来て、思わず蒸せ返る。
詩音のありがたさが、分かります。
笛吹ケトルが、口笛を吹いてお湯が沸いた事を知らせています。
え~っと、詩音がいつも入れてくれる紅茶は、どこにしまってあるのでしょう?
あれ~?
仕方なく、飲み馴れたインスタントコーヒーをいれる。
「あちっつ」
詩音ならきっと、「ふ~ふ~」ってしくれてから、渡してくれる事でしょう。

携帯電話が着信を知らせている。
詩音かと思い慌てて画面を見る。
そこには、先週面接した企業の会社名が・・・
一次試験を通過して、二次試験である面接の日程を伝える内容の電話だった。
一次試験突破って事で、ぱ~っと前祝いをしたい所だけど、祝ってくれる詩音はここには居ない。
ふっと、一次試験の時、試験会場の近くの喫茶店で試験が終わるまで待っていてくれた事を思い出す。
午後1時から5時まで試験だったんだが、詩音は一人でじっと待っていてくれた。
喫茶店を覗いた瞬間、詩音の顔がパァっと明るくなった。
一人、不安な気持ちで待っていたんだろうなと考えたら、凄く愛おしく思えた。
今まで遊んでいた女の子達は、絶対僕を待つ事無く他の奴らと遊んでいるか、家で待っているかのどっちかだろう。
そんな一途な詩音を思い出したら、今まで知り合った女性の中で、一番素敵な事に気がついた。
やっぱり、詩音は最高の腐女子・・・いや女の子なんだ。
詩音に会いたい・・・そんな気持ちがふつふつと湧き上がる・・・
でも、喧嘩している手前、こっちから連絡取るのは、負けを認めた様で癪に障る。
でも、連絡取りたい・・・
そんな、もやもやした気持ちをぬぐい去りたくて、僕はもう一度キッチンで詩音のお気に入りの紅茶を探す。
棚の奥底から、紅茶を見つけ出し、もう一度ヤカンをコンロにかけた。
椅子をコンロの前に引きずって来て、座り込んだ。
ジーっとヤカンを見つめる。
こいつが口笛を吹くまで、詩音の事を思い出し幸せに浸っていよう。
せめてもの償い、詩音思い出し詩音を感じていたい。今の僕にはそれが精いっぱい出来る事だと思う。


blogram投票ボタン

久しぶりに、松舞のホームに降り立ちました。
たった4カ月しか経っていないのに、少し懐かしい気分です。
ここだけの話ですが、改札を抜ける時、一瞬Suicaを探しそうになりました(笑)
山陰には、Suicaどころかpasmoもicoccaも無いですからね。
うちの母に話したら、「スイカなら、店に一杯有るわよ」なんて、ボケをかますんでしょうか?
こんばんわ、朝葉です。
―――――――――8月8日(土)―――――――――
颯太君が、週末まで陸上の練習が有った関係で、お盆前の帰省になりました。
毎年恒例の松舞花火大会には、間に合いました。
「じゃあ、また今夜ね」そう言って、颯太くんが手を振ってます。
「うん、また後でね♪」
私も手を振り替えし、それぞれ帰路についた。
♪♪♪
あれ?電話です。
はいはい、誰でしょう?
かなかなからです。
「もしもし~、うん、今着いた。うんうん、じゃあ今夜そっちのアパート集合ね♪」
さぁ、今年も頑張って、ヨーヨーを沢山取るぞ~。
知らない人も居るんでしょうが、私は松舞でも有名な、夜店荒らしなんです(笑)

自宅に帰ってとたん、家の掃除や、店番をさせられてました。
う~ん、長旅の私を少し位いたわってくれても、いいと思うんですが(^^ゞ
夕方、お父さんが配達から帰ってきた時、ドタバタに紛れて家を抜け出す事に成功♪

颯太くんのアパートに向かって、国道を歩いていたら後ろから走ってきた車が私を追い越して、ウインカーを出して止まりました。
「あ~さ~ちゃん」そう言って、助手席の窓から顔を出したのは、モリヒデ君でした。
「あっ、モリヒデ君、久しぶり~。これが買った車なの?」
意外と可愛い車です。
「おぅ♪ 今から、ふうたんち行くんだろ? 乗れよ。今、俺、仕事帰りなんだ」
「そっか、お疲れ様。」そうでした、モリヒデ君は4人の中で唯一社会人でした。
モリヒデ君の車の助手席にチョコンと座る。
「私が乗っちゃって、かなかなが怒らない?」
「関係ないよ、アイツは」
あらら、相変わらずなセリフですね(笑)
後で、かなかなに報告しちゃおうかな♪
う~ん、さすがに車は早いですね。
歩いて30分かかる道を5分で着いちゃいました。
「あれ?モリヒデ、朝ちゃんと一緒だったの?」
モリヒデ君の車に気が付いたかなかなが、玄関から駆け降りて来ました。
「おう、国道をトボトボ歩いてたからな」
どうせ、私は歩みがのろいですよ~
「大丈夫、朝ちゃん?変な事されなかった?」
「あのなぁ~、ヒグラシ」
「うん、少しだけ危なかった」
「んもう、緑川まで~」
私達の話し声に気が付いて、颯太君も降りてきました。
「何?朝ちゃん、モリヒデと一緒だったの?大丈夫だった」
「だぁ~お前らなぁ~」
久しぶりに4人が揃いました。
やっぱり、友達って良いですね♪
「どうする?少し早いけど、出掛ける?」
「あっ、モリヒデ。楓ちゃん達待たなくていいの?」
「んっ?あいつとは会場で合流だから。」
楓ちゃん・・・モリヒデ君の妹さんですね。
そう言えば、かなかなから青木君と付き合っているって、メール着てましたね。


「せんぱ~い、待って下さいよ~」
心の中で叫んでみる・・・
あ~、花火大会ってどうしてこんなに人が多いんでしょう?
人波に飲み込まれて、青木先輩と逸れちゃいそうです。
「ほら、こっちだよ。」グイっと先輩に手を引っ張られた。
「スイマセン、人が多くって」
先輩が離した手を、ぎゅって握ってみる。
「あぁ、多いよな人が」先輩は、少し照れ臭そうに、私の手を握り返す。
こうやって手を繋いで松舞の街を歩けるなんて幸せかも♪
「んで、楓ちゃん、モリヒデ先輩とは何時に待ち合わせ?」
「え~っと、七時に松舞橋の袂です。ちょうどいい時間に着きますね。そうそう、緑川さん達も一緒だそうですよ。」
「へぇ~、緑川先輩、松舞に帰って来てたんだぁ。会うのブラバンの送別会以来だな」
「美人なんでしょ、緑川さんって? 青木先輩も憧れてました?」ちょっと意地悪な質問をぶつけてみる。
「えっ? いや、緑川先輩には陸上部の彼氏が居たからなぁ~」
あぁ、颯太さんですね。
もし、颯太さんが居なかったら、どうしたんでしょうね青木先輩は?
ちょっぴり、焼いちゃうな緑川さんに。
私だって、颯太さんには少し憧れてたんですから~
私の表情の変化に気が付いたのか、「楓ちゃんが一番だから」って、青木先輩が私の手をギュって握ってきた。
「うん、ありがとう、青木先輩。」そう言う代わりに、私もギュって手を握り返した。

「楓ちゃ~ん」橋の欄干の所で、カナエさんが手を振ってます。
隣に居る小柄な女の人が、緑川さんですね! 
う~ん、確かに美人です。
颯太さんが、メロメロになるのも分かりますわぁ。
「こんばんわ、佳奈絵さん。あっ、緑川さんですね、初めましてモリヒデの妹の、森山楓です。いっつも、うちの兄がお世話になってます。」
うっ、つい畏まって言ってしまった。
緑川さんも軽くお辞儀をされて、「初めまして、緑川朝葉です。お世話だなんて、私の方がお世話になってばっかりで」
「はいはい、固い挨拶はそこまでにして、さぁ楓ちゃん、青木君、向かうわよ。」
「はい、分かりました。あれっ?うちのお兄ちゃんは?」
「んっ? あいつは先に颯太君と場所取りしてるから。」
橋の反対側の河原に、場所が取って有るそうで、そっちに向かって歩き出しました。
私の前を、青木先輩と緑川さんが、楽しそうに近況報告をし合いながら歩いてます。
分かっているけど、仲良く話しているのを見ると、焼いちゃいますね。
緑川さんが少し歩幅を狭め、私と青木先輩、緑川さんが三人横に並びました。
そして、「ねぇ楓ちゃんも、フルートなんだよね。」って話し掛けてきました。
「はい」って答えると、「じゃあ、きっと私が使っていたフルート使ってるね、少しキーが固くなっている所も有るけど、可愛がって使ってね。」って、話してこられた。
う~ん、美人なだけじゃなくて、優しい人なんだ。
そして、すっと歩みを早め、佳奈絵さんとお喋りを始めた。
ひょっとして、私の事気遣って、青木先輩とさりげなく離れたのかな?
う~ん、すごく気の付く大人な女性なんですね。
颯太さんがぞっこんなのも分かるわぁ
私もあんな素敵な女性になりたいな

河原に大きくシートが広げてあり、男の子が二人座ってビールを飲んでました。
「あ~、颯太君またビール飲んでる~」
女の子が、怒った様に駆け寄って行ってます。
あの声は、朝葉?
よ~く目を凝らして見ると、やっぱり、朝葉や颯太君、森山君達でした。
そ~っと、颯太君の後ろに周り込み、「こら~」って、叱って見る
ビクッって、振り返る颯太君の表情がおかしい。
「日向さん」「おネエちゃん」
皆が、顔をそろえてこっちを見上げる。
「ダメよ、颯太君、未青年がそんなに飲んじゃあ(本当は、1滴でも駄目なんですけどね)」
私はそう言うと、土手を駆け上がり、保母仲間のみさちゃん先生と合流した。
「日向先生、知り合い?」
「うん、うちの妹とその彼氏達なんよ」
「いいわね~、若い子達は」
ちょちょっと、みさちゃん、私達だって十分若いんだから~
今から、そんなオバさん臭い事言わないでよ~
でも、確かにうらやましいかも。
朝葉達は、カップルで楽しんでいるのに、洋介は今夜も残業らしい。
みさちゃんは、一番仲の良い先生だけど、やっぱり女同士じゃなくて、彼と花火見たいわよね
「あ~、ひなたしぇんしぇ~だ~」
あらら、うちの園児の美結ちゃんが親子3人で立ってましたです。
「美結ちゃん、こんばんわ」
「こんばんわ、日向先生」
お母さんの真子ちゃんが、ぺコンと頭を下げる。
「ほら、美結ちゃん挨拶は?」
「ひなたしぇんしぇ~、こんばんわ。しぇんしぇいは、かれしと、はなびみないの?ひょっとして、ぼしゅーちゅー?、あっごめん、ふられたのかな?」
一瞬、周りの空気が凍り付いた。
お父さんの幸一君がフォローを入れてくれた
「こら、美結。日向先生にだって、大人の事情ってもんが有るんだから、そんな事言わないの」
うぅ、フォローになってない様な・・・
「そうよ、美結ちゃん。日向先生だって、好きで一人な訳じゃないんだから・・・あっゴメン日向・・・」
ううう、木下君に、真子まで・・・。
「あのね美結ちゃん、先生の大好きな人は、今日、まだお仕事なのよ。だから、先生今夜はみさちゃん先生と花火見るのよ。」
「ふ~ん」美結ちゃんの興味は、縁日の綿菓子に移ったようだ。
「んじゃあね、日向ちゃん。あっ、お盆の同窓会来るんでしょ?」
「うん、行く行く。じゃあね、木下君真子ちゃん♪」
木下夫妻は、美結ちゃんの後を追って、縁日の方に歩いて行った。
「災難でしたね、日向先生。子供達って、遠慮なく、大人じゃ聞けない事聞いてきますよね。」
・・・みさちゃん、あんたも興味有るんだ(^^ゞ
「んもう、みさちゃんまで~。本当に彼は残業なんだから」
「え~、日向先生、彼氏居たんですか?ずるいずるい、私にも紹介して下さいよ~」
「はいはい、そのうちね・・・ほら、みさちゃん。早くしないと花火始まっちゃうよ。」


「ンックション・・・」
う~、誰だよ・・・クーラーの温度設定をかまったのは・・・クーラー効き過ぎだよ
「村田さん、お先に失礼しま~す」
後ろで、後輩が話しかけて来た。
「おう、お疲れ~」
喫煙室にたばこを吸いに行った。
たばこに火を点け深く吸い込む。
窓の外から、花火の音が聞こえてきた。東京じゃあこの時期毎週花火大会が有るからなぁ
そう言えば、今日は松舞も花火大会だよな。
日向の奴、どうしてるかな?・・・
くっそ~、来年こそは、花火大会を日向と一緒に見るぞ~


blogram投票ボタン

「仕事終わった。今から帰ります
洋介から、いつものカエルメールが届きました。
こんばんわ、日向です。
―――――――――8月5日(水)―――――――――
「残業お疲れ様
ビール冷えてるよ、早く帰ってきてね。
夕ご飯は、洋介の大好きな、冷しゃぶと冷や奴だけだけど、良いかな?
足りなかったら、コンビニで何か買って帰って
そうそう、三角コーナーの水切り袋と、バターもお願いしてもいい?」
送信ボタンをポチっと押す。

♪♪♪洋介から、返信です。
「おかずは足りるけど、水切り袋とバターは買って帰るよ。あ~お腹減った~
メールを読み終えて、「お願いね」って短く返信してから、キッチン立つ。

♪♪♪ あれっ? また洋介からメールです。
え~っと、何々
「10時からのドラマ、ビデオ撮っといて」かぁ
「ちゃんと、セットしてあるよ。は~と」っと。

玄関のチャイムが鳴る。
ドアスコープ越しに、ビジネスバッグとコンビニ袋を下げた洋介が見える
「お帰り~♪」
ロックを解除して、ドアを開ける。
汗まみれの洋介が、転がる様に入ってくる。
「あ~疲れた~」
「お疲れ様。お風呂沸いてるよ、先にお風呂入る?」
「いや、先ずは・・・」
不意に後ろから抱きしめられる。
「ただいま、日向」そう言いながら、私の頬にキスをする洋介。
私は体ごと振り返り洋介に抱きついた・・・

・・・・・・・・・・・
はっ、いかんいかん妄想が危ない方向に暴走するとこだった。
もう一度携帯の画面を見つめる。
そこには、洋介からの「仕事終わった。今からアパートに帰ります」
現実なんてこんな物よね。
一体いつになったら、私と洋介は一緒になれるんだろうな? 早くしないと私、オバさんになっちゃうよ。
そう考えながら、携帯のボタンを押す。
「残業お疲れ様。気をつけて帰ってね」って。
そっと送信ボタンを押す。
私の思いも届いたかな? 洋介に?


blogram投票ボタン

↑このページのトップヘ