松舞ラブストーリー

山陰の仮想の町松舞町を舞台にした、様々な恋愛を見守ってやって下さいね

2009年11月

いつもの様に図書館に向かう
図書館に通じる渡り廊下から見る風景、見慣れているはずなのに、新鮮に見えるから不思議です。
こんにちは、本田健吾です
―――――――――12月04日(金)―――――――――
いつもの様に、窓際の席に坐る。
いつもと違うのは、向かい側には沢田先輩が坐っていて、文庫本を開いている事。
「遅いぞ、本田君。女の子を待たせちゃあ駄目でしょう」文庫本を閉じながら、そう微笑む沢田先輩
「すいません、途中で担任に捕まっちゃって」
「それで、早速だけどクリスマスコンサートの、ポスターの原案作って来た?」
「はい、ちゃんと作って来ましたよ」そう言いながら僕は、丸めた模造紙を、沢田先輩の目の前に広げる。
そうなんです、僕と沢田先輩は、クリスマスコンサートの広報担当なんです。
「へぇ~、キレイに仕上がってるね。本田君の意外な才能発見~」無邪気に笑う先輩の顔が、窓から差し込む日差しをバックにキラキラ輝いています。
そう思えるのは、僕の思い過ごしでしょうか?
「意外って、どう言う意味なんですか、先輩~」
「んふふ、ゴメンゴメン」
「沢田先輩こそ、ちゃんとキャッチコピー考えて来ました?」
「ほら、見てよ。沢山考えて来たんだから。」
「うわっ、スゲー。ノートにびっしり書いてある~」
「でしょ♪ このキャッチなんかどう?」
「『ブラスでクリスマス』・・・そのまんまじゃないですかぁ(笑)」
「うるさいわね~(笑)じゃあ、これは?」
「『どうします?クリスマス』・・・おやじギャグっすかぁ? でも、良いかも」
「あっ、いいんだおやじギャグ(笑)」
「じゃあ、そのキャッチに合わせて、ポスターの方もこんな感じで描き替えましょうか?」
僕は、思いついたイメージをラフスケッチする。
「ここにデーンっと、ケーキを置いて、周りにシャンパンや、ツリー、楽器を配置するんです。配色はクリスマスらしく、赤と緑を基本にして、キャッチコピーをこの辺りに書き入れる・・・もし写真とかの方が良かったら、パソコンでポスター作りますし。どうです?」
「うん、良い感じじゃない、スゴイね本田君って、サックスだけじゃなくってデザインも才能有るなんて」
「いや僕なんて下手の横好きってだけですよ。」
「そう言えば、まだスターダスト聴かせてもらってないわよね」
「あっ、覚えてました~」僕は鼻の頭を掻く
「当たり前よ、指切りしたからね。ねぇ、今日の放課後聴かせてよ」
「マジっすか、笑わないで下さいよ」
「笑わない笑わない、多分ね。あっ、チャイムだぁ。やばっ、五時間目は体育だった、急いで着替えなきゃ」
沢田先輩は、バタバタと席を立つ。
楓の事が好きだった中学時代もそうだけど、後で会えると分かっていても、ちょっぴり寂しい気分になるんですよね、この瞬間って。

そして放課後。
「ほ~ん~だ~君♪」沢田先輩が、話し掛けてきた。
「約束のスターダスト、聴かせてもらうわよ」
「えっ、今ですか? みんなの目の前で?」
沢田先輩と二人っきりになって、その時に聴かせたかったんですが、やはり良からぬ考えは実現しない物ですね。
僕は、指切りした翌日から、こっそり鞄に忍ばせていた、自前のマウスピースを取り出した。
軽く音合わせをして、一息付く。
「じゃあ、いきますよ沢田先輩」
深く息を吸い込み、マウスピースを口にした。
目を閉じて僕は吹き始めた。
ソロパートを一気に吹き上げる。
ちらっと、目を開けてみる。
ブラスバンド部員、全員が僕の方に注目していた。
一気に脈拍が早くなる
パーカッション担当の先輩が、スティックでカウントを取った。
それに合わせて、僕は次のフレーズを吹き始める。
それに合わせて、オーボエの音色が聞こえて来た。
もう一度目を開けると、僕の目の前で沢田先輩がオーボエを吹いていた。
続いてトロンボーン、ユーフォニューム、トランペットと聞こえて来た。フルートの音色が・・・楓だった。
即興演奏の割には、結構まとまっていた。
演奏を終えて、みんなでガッツポーズをした。
「すごい素敵だったよ、本田君」真っ先に口を開いたのは沢田先輩だった。
「すげーじゃん本田」「ジャズサックス、初めて生で聴いた~」「良い感じジャン」口々にみんなが喋り始める。
そして青木先輩が提案した。
「なぁ、今度のクリスマスコンサートのアンコール曲に加えようぜ。もちろん、本田のソロ付きでな」
「え~っ、マジっすかっぁあ。無理っすよ俺。」
「大丈夫だって、本田君なら」「やろうぜ、本田」「なんなら私がフルートでソロやろうか?」
みんな、他人事だと思って、気安く考えてますね。
僕にはすごいプレッシャーです。
「ねぇ本田君、ポスターの背景はスターダストを散りばめようよ」沢田先輩が、提案してきた。
「そうだ、本田。ポスター出来たんか?」
「はい、出来ましたよ。僕と沢田先輩で考えました。キャッチコピーは『どうします?クリスマス』です。」僕は誇らしげに答えた。

一瞬にして、部室全体が凍り付いた


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「5・・4・・3・・2・・1・・点灯」
アナウンスの声に合わせて、デパートのクリスマスイルミネーションが点灯し、一斉に周りの観客から歓声が上がる。
今年も、赤や緑や青の派手なイルミネーションです。
個人的には白色LEDと青色LEDの物静かでシンプルなクリスマスイルミネーションの方が好みなんですけどね。

私の故郷、松舞ではクリスマスイルミネーションなんて見た事がなく、東京の大学に進学した初めての冬、サークルの先輩に頼んで連れて行ってもらったのが、この渋谷のデパートのクリスマスイルミネーションでした。
こんばんは、そして初めまして、谷村志歩と言います。
―――――――――11月25日(水)―――――――――
大学在学中はもちろん、社会人になってからも、毎年欠かさずこのデパートのクリスマスイルミネーションのオープニングセレモニーを見る様にしています。
なぜかって?
このクリスマスイルミネーションに連れて来てくれた先輩との、沢山の思い出が詰まったイルミネーションなんです、もう随分と昔の話なんですけどね。
その彼と別れてからも、一年に一度、この11月25日だけは、素敵な思い出を思い出し、次の一年間仕事に恋に頑張れる様に、自分を励ます為にここを訪れています。

!!
人ごみの中に見覚えの有るトレンチコートを見付けました。小柄で少し猫背の、あの後ろ姿は・・・
彼です、私の初恋の人、このクリスマスイルミネーションを教えてくれた大切な彼、拓哉です。
彼の姿を見るのは、何年振りだろう・・・。
彼が私と別れて、親が話を持ってきた、一流企業の社長のお嬢様との結婚を選んだ、あの時以来です。
あの頃の思い出が蘇る。
クリスマスイブに、初めて彼の部屋へ行き一緒にケーキを食べた事、朝までファミレスで語り明かした事、ドキドキしながらファッションホテルのドアを開けた事、初めて結ばれた夜、些細な事で大喧嘩した事・・・
少し懐かしい気もするけど、今更何も話す事など何もない・・・このまま、会わずにこの場を立ち去ろうと思う。
その時、背後でけたたましく車のクラクションが鳴った。
振り返ると、クリスマスイルミネーションに見とれていたのか、青信号に変わったのに気付かずにいる車が居た。
視線を戻すと、彼も後ろを振り返っていた。
「あっ・・・」彼も私の存在に気付き、手を挙げている。
一瞬にして、時が逆戻りした・・・あの頃の様に、手を振り返す私がいた。

ここは、あの頃よく通っていたバーのカウンター。
「何年振りかな?志歩に会うのは? マスター、俺、ドライマティーニね・・・志歩は何を飲む?」
彼は昔と変わらず、一杯目はドライマティーニを頼んでいた。
「んっ?じゃあ、ホットウィスキートディ。」
「相変わらず、甘いウィスキー飲むんだな、お前」
そう、ホットウィスキートディは、ホットウィスキーに角砂糖とシナモン、レモン、クローブを加えたカクテル。
もし夏なら、ウィスキーにビターズを染み込ませた角砂糖、オレンジスライス、レモンピール、レッドチェリーを加えたオールドファッションドを頼んでいるだろう。
「拓哉だって、相変わらずドライマティーニ頼んでるじゃないの」
お互いにんまり笑う。
「どうだ、相変わらず会社は忙しいか?」
「ううん、去年あの会社を退職して、今は神保町の小さな雑誌社の経理をやってるの。拓哉はどう?相変わらず出張多い?」
「いや、俺も一昨年、会社を退職して義父が経営する商社で、社長秘書やってる。」
「ふ~ん、社長秘書なんてすごいじゃないの。やっぱり将来は、社長を受け継ぐの?」
「ああ、周りはそれを望んでいる。」運ばれてきたマティーニを一口飲んで、彼は一息ついた。
「相変わらず、マスターが作るドライマティーニは最高だな。」そう言いながら、満面の笑みで昔と同じ様にオリーブを頬張る彼
「んで、志歩の方は、良い旦那さんは見付かったんか?」
デリカシーの欠片も無い質問も、相変わらずだ。
拓哉に左手の甲を見せながら首を横に振る。
「・・・・・そうか、失礼な事を聞いたみたいだな、スマン。 あぁマスター、ネグロニをもらえる?」
右手のマティーニを飲み干しながら、彼はそう呟いた。
「そう言う拓哉の方は、どうなの?お子さん生まれた?」
「いや、うちは・・・妻があまり子供好きじゃなくってな、家庭に納まっているより、外でバリバリ営業している方が、性に合うらしい。」
「そっか、拓哉は子供好きなのにね・・・お互い中々思う様な人生を歩んでないわね」
私は掌でホットグラスの温もりを感じながら、そう呟く
「そうだな・・・そうかもな・・・。なぁ、もしあの頃、別れずに付き合っていたなら、俺達どうなったんだろうかな?」
「ん~。どうなんだろうね? あっマスター、グロッグ作ってもらえます?」
彼の質問の真意を計りかねて、私は話をはぐらかした。
彼はネグロニのグラスを一気に空けると、一息ついてこう呟いた。
「あの時は、親の意見にも逆らえず権力と金に魅力を感じ、妻と・・・小百合との結婚を決意したんだが、今となってはその安易だった決意に後悔し始めているんだ。マスター、スピリタスにレモン絞って、ロックでもらえるかな?」
「ちょっと、拓哉スピリタスなんて飲んじゃって、大丈夫」そう、スピリタスは純度99.7%のウオッカ、お酒と言うよりかは、アルコール消毒液かアルコール燃料に近い。
「あぁ、あの頃より随分酒の味を覚えたんだぜ、カルーアミルクで盛り上がれた学生時代とは雲泥の差だろ」
そう言いながら、彼は笑う・・・
「そんな時も、有ったわよね。ねぇ覚えている?拓哉が4回生の時のクリスマスイルミネーションのオープニングイベント。卒論作るのに没頭しちゃって、待ち合わせの時間を忘れてたの。あの時、一人でセレモニーを見たあと、ここで終電近くまでカルーアミルク飲みながら待っていたの。」
「あぁ、覚えてるぞ。俺がここに辿り着いたのは、終電だったもんな。その後、お前のご機嫌取るのに苦労したの覚えてる。」
「あの時、買ってもらった時計・・・ほらちゃんと今でもしてるのよ。」
「あぁ、さっき左手を見せた時に気が付いてた。」
「きっとね、あのまま付き合っていたら、今日もここで二人、カルーアミルク飲んで、過ごしていたと思うんだ。だって私は今も・・・」その先の言葉に詰まり、私はグロッグのグラスを口にした。
「ねえ、私ももう一杯、もらっていいかな? マスター、身体がだいぶん温まってきたから、今度はマルガリータでも貰おうかしら、えぇスノースタイルでお願いします。」
「お前も、ずいぶん酒に慣れたんだな」
「そうね、色々な体験をしてきたわよ・・・」
「もう、あの頃には戻れないのかな、俺達・・・」
「えっ?」
「いや・・・何でもない・・・聞き流してくれ」
運ばれてきたスノースタイルのマルガリータ。
カクテルグラスの淵に付けられた粗塩が、クリスマスイルミネーションみたいで、結構お気に入りです。
マルガリータを一口飲み、私は少し考え込んだ・・・
沈黙の時間がしばし続く。
最初に口を開いたのは、拓哉の方だった。
「やはり本当に好きでない相手と、暮らすのは疲れるもんだな・・・仕事でも気を使い、家庭でも気を使う・・・俺の安らげる場所がどこにも無いんだよな・・・小さくて古かったあのアパートの方が、数倍安らげたよ。
仕事に疲れて帰って来ても、窓のカーテンの隙間から明かりが漏れていて、玄関のドアを開けるとプ~ンと、夕御飯のかおりがする・・・庶民的なんだけど、幸せなんて所詮そんな物なんだよな。高望みしたって、俺にはそれは居心地のよい幸せじゃなくて、絵に描いたまやかしの幸せでしかないんだ。」
拓哉・・・
「私だって・・・」しゃべりかけて私は口をつむいだ。
今、私の心の奥底の思いを口にすれば、きっとあの頃の二人に戻れそうな気がする。
でも、それをする為には、様々な障害が有るのも事実だ。
また、静かな沈黙が続いた。

「さて、そろそろ出ようか。」
拓哉は、少しフラフラしながら、カウンターを立った。
「そうね。」
私も後を追う様に席を立つ。
支払いは、割り勘
これもあの頃からの習慣。
地上へ通じる階段を上り表に出る。
「あっ、夜風が気持ち良いね」
少し前を歩く拓哉に話し掛ける。
彼は、振り返り「なぁ、良かったらもう一件付き合わないか」って、手を差し出した。
私は、少し考え込んだ。
「ゴメン、拓哉。カルーアミルクで、盛り上がれたあの頃の二人はもう何処にも居ないの。だから、このまま…」
私は又もや言葉に詰まった。
心の奥底に有る思いと違う事を、しゃべっている自分に、これで言いのだって、何度も言い聞かせる。
そんな私の思いを察したのか、彼はトレンチの襟を立て直し、「じゃあ、元気でな。幸せになれよ」そう言って、人込みの中に消えていった。
私は、相変わらず自分にこれで良いんだって、言い聞かせてる。
振り返ると、そこにはクリスマスイルミネーションが優しく灯っていた。
拓哉は帰るべき場所へ帰っていった。
私も帰るべき場所に帰らなきゃね。
拓哉への思いを断ち切る様に、携帯を握りしめる。
慣れた手付きでボタンを操作する、幾度と無く繰り返した操作だ、間違えるはずがない。
「あっ、もしもし達郎?。うん、志歩。ごめんね遅くなっちゃって。えっ?残業じゃなくて、大学時代の先輩に偶然会っちゃって、ちょっとおしゃべりしてたんだ。うん、今からそっちに向かうから。ちゃんとクリスマスツリー飾った? そう、うんじゃあ又後でね。」
大きなクリスマスイルミネーションじゃなくて、小さなおもちゃのツリーでも、私は充分幸せだった。
今は小さな明かりでも、必ず光り輝かせてみせる。
そしてその明かりが拓哉の元に届いた時、きっと彼は気が付くでしょう、私が言い出せなかった言葉の本当の意味を。


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昼休み、クラスメイトといつもの様に図書館に出掛けました。
えっ?勉強熱心だねって?
いや、ただ単に静かに昼寝するか、漫画読んでるかなんですが。
こんにちは、本田健吾です
―――――――――11月13日(金)―――――――――
図書館の一番奥の窓際、そこが僕のお気に入りの席です。
今日は・・・おっ、空いてるじゃないですか。
先ずは、快適な眠りに誘ってくれる難しい本を、本棚からチョイスしてきます。
ふっと横を見ると、そこには口を少し尖らせた沢田先輩が、本棚の上の方を、じ~っと見つめています。
軽く背伸びをして、本棚の上の方の本を取ろうとしていますが、流石の先輩もあと少しの所で手が届かないみたいです。
「沢田先輩、どの本ですか?」先輩の横に立ち、本棚に手を伸ばす。
「あっ本田君、ごめん。もう少し右。そうその民族楽器大全集って本」
「これですね、はいどうぞ。返却する時は、また言って下さいね。」
「ありがとう。あれ?『進化論』なんて、難しい本読むんだ本田君」
「えっ?いや、これ位難しい本なら、ス~ッと眠れちゃいますからね」
沢田先輩が「なるほど」って笑ってます。
美人って、やっぱり笑顔も素敵ですね。
「沢田先輩だって、民族楽器大全集なんて、いくらブラスバンド部員だからって、滅多に読まないっすよ。」
「うん、ちょっと気になる楽器が有ってね。東儀秀樹さんって、知ってる本田君?」
「あっ、確かアルバムも出してる雅楽の人ですよね?」
「そう。東儀さんが吹く篳篥(ひちりき)って楽器が有るんだけど、その音がすごく素敵なのよ。ダブルリードの楽器で、音にビブラートがかかってて、一回聞いただけで気に入っちゃった。高音系の楽器なんだけど、すごく芯の強い音が出せるの。それもチャルメラみたいな下品な音じゃないのよ。」
「へぇ~、それってマックのCMで、伊東たけしと演奏する奴ですか?」
「あっ、そうそう。でもねあれって取り扱いが難しいらしいの。それで、代わりに気軽に吹ける楽器無いかなって、思って。本田君、心当たり無い?」
う~ん、ダブルリードってオーボエかファゴット位しか思い浮かばないなぁ
「すいません、思い当たんないですよ。」
「ううん、良いんだって。」そう言いながら、沢田先輩は席に坐り、ページを捲り始めた。
じゃあ俺は、向こうの席で昼寝でもしようかなって、振り向こうとした。
「あっ、見て見て本田君。ほらこの楽器、リコーダーの原型だって。」そう言いながら、本を隣の空いた席に差し出す。
えっ?それって、横に坐れって事?
沢田先輩に、心臓の音が聞こえやしないか、心配する位、脈拍が上がってます。
僕は本に注意を向ける振りをしながら、さりげなく沢田先輩の隣に坐った。
「ほら見て、リコーダーの原型ってこんな格好してたんだね。あっ、こっちにマリンバが載ってる。」
本を見る振りをしながら、チラチラと沢田先輩の顔を盗み見る。
夢みたいです、部活の時ならともかく、普段の生活中に沢田先輩が居るなんて。
今、憧れの沢田先輩と、時間を共有しているのだと思うと、それだけで幸せです。
「んっ?何?顔に何か付いてる?」
「えっ?いや、すいません」僕は、本の方に集中する。
「ナカナカこれって楽器無いもんですねぇ~」
「そうねぇ。そう言えば本田君はどうしてサックスを選んだの? 男子なら金管を選ぶ子が多いじゃない」
「僕ですかぁ? 父親の影響ですかね。父親も高校時代にジャズが大好きで、サックスを吹いていたらしいんです。だから小さい頃から、サックスに慣れ親しんでるんです。」
「へぇ~、じゃあジャジーなサックス吹けるんだ。」
「ええ、一応。ブラスバンドでは滅多に吹きませんけどね。」
「ねぇ、ジャズってどんな曲吹ける?」
「メジャーな曲だけですよ、茶色の小瓶とか、スターダストとか、あっピンクパンサーのテーマも得意ですよ。(笑)」
「あっ、スターダスト大好き~。ねぇ今度聴かせてよ」
「いや、人に聴かせる程の腕じゃないですから。」
「え~絶対に聴かせてよ。約束だよ」
そう言いながら沢田先輩が、僕の目の前に小指を突き出した。
少し照れ臭いけど、ゆっくりと沢田先輩の小指に僕の小指を絡めた。
「指切りげんまん、嘘付いたら針千本飲~ます。はいこれで、もう逃げられないからね♪」
「マジっすかぁ」沢田先輩に僅かながら触れた事自体がマジっすかぁなんですが。
「あっ、チャイムだ。」
早っ、もう少し沢田先輩と時間を共有したかったのに。
「本田君、じゃあゴメン。この本一度返しておいてくれる?」そう言って、頭を下げてきた。
「はいはい、それ位お安い御用ですよ。」
「それと本田君、良かったら明日もお昼休みに、楽器探すの手伝ってくれると助かるんだけど、駄目?」
駄目じゃないっす、もう一生付いていきますよ。
「いえ、大丈夫ですよ。いっつも昼休みは図書館に来てますから」
「助かるわ~ありがとう。じゃあ又、放課後ね。」
そう言って沢田先輩は、渡り廊下を小走りに去って行った。
そんな、沢田先輩の後ろ姿に手を振る。
突然、後ろからバシッと頭を叩かれた。
振り返るとそこには、クラスメイトの姿が・・・
「なんでお前が、学校のアイドル沢田さんと親しく喋ってんだよ~。」
あっ・・・僕はひょっとして、学校中の男子を敵に回しちゃったんでしょうか・・・


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通学列車から見る、松舞の山並みも随分と紅葉が進んで来ました。
赤と黄色と緑のグラデーションが綺麗ですよ。
話は変わりますが、松舞保育園の収穫祭以降、すれ違う園児達に、キュアピーチのお姉ちゃんと呼ばれる様になりました(笑)
こんばんわ、楓です。
―――――――――11月10日(火)―――――――――
松舞保育園の父兄の方から、収穫祭の時の写真を頂きました。
キュアピーチのコスプレをしてフルートを吹く私の写真に、部員一同大爆笑でした。
青木先輩との餅突きしている写真も有りました。
ツーショットの写真って、実は未だ撮った事無いので、宝物にしたいと思います♪
一年生のリーダーの本田が、一枚の写真を見ながら、ニヤニヤしています。
「ちょっと本田、何、写真見てニヤ付いてんのよ」そう言いながら、本田の手から写真を奪い取る。
そこに写っていたのは、沢田副部長と本田が餅突きをしている写真でした。
「こら、森山。勝手に見るなよ」顔を真っ赤にさせながら、私から本田は写真を奪い取る。
私は、彼の耳元でこっそり耳打ちする「ゴメン、みんなには内緒にしておくから」
「ばか、そんなんじゃ無いって」そう言いながら彼はそっぽを向く。
シラを切ったってバレバレですよ。
何たって、私と本田は幼馴染みなんですから。
そして、生まれて初めて好きになった人ですから。

部活が終わり、クラスメイトの春ちゃんの家に寄って、最近お気に入りの少女漫画の1巻から5巻を借りて帰りました。
少し話し込んでいたら、もう7時です。
慌てて春ちゃんの家を飛び出し、駅へと向かう。
駅に着くと、電車は出た後でした。
「あちゃ~次の電車まで、30分も待たなきゃ。」
お兄ちゃんに送ってもらおうかなって考えていたら、駅に見覚えのあるディパックを背負った男子が。
「あっ、本田」
私の姿に気付き、本田が話し掛けてきた。
「森山、お前随分前に学校出なかったっけ? やっぱとろい奴は、歩くのも、とろいんだな」
「誰がとろい奴よ。あんた、またゲーセン行ってたの?」
「おうよ、ばっちりハイスコア出して来たぜ」
あ~、お兄ちゃんと言い、本田と言い、男子ってどうしてゲームが大好きなんでしょうね。
「森山、お前今日は青木部長と一緒じゃないんだ?」
「ん? 今日は私が友達の家に寄ったから、別々に帰ったんよ」
「そっか、お前がとろいから、他の女の子に盗られたかと思ったぜ。そうだよな、お前らいっつもラブラブだもんな。」
「だから誰がとろいんよ。あんたこそ、沢田先輩にちゃんと告ったの?」
「馬鹿、俺が何で沢田先輩に告白しなきゃいけないんだよ。」
「良く言うわよ。幼馴染みの私が見たら、あんたの行動なんか一目瞭全だもんね。どう図星でしょう?」
「ちっ、好きにしろ」
鼻の頭を掻きながら、プイッと本田が横を向く。
そうそう、あんたは都合が悪くなると、鼻の頭を掻く癖が有るんだよね。
「俺には、沢田先輩なんて高嶺の花なんだよなぁ。」
ボソッと本田が呟いた。
「えっ?そんな事無いって、お似合いだと思うけどな」
「だって沢田先輩って言ったら、学年1位2位を争う美人だぜ。スリムでスタイルも良いし、頭も良いんだろ」
う~ん、確かに沢田先輩は漆黒のロングヘアが似合う美人です。
同性の目から見ても、見取れてしまう程の女性です。
片や本田と言えば、背はそこそこ高いんだけど、イマイチ、パッとしない顔立ち、はっきりとしない性格。
褒める所を探すのが大変な奴なんですよね。
さっきお似合いって言ったけど、背の高さが釣り合ってお似合いってだけだって事に今改めて気が付きました。
「まぁ本田、当たって砕けろって言うだろ。駄目元で告白してみたら?」
「お前、今のセリフ励ましている様には、聞こえないんだけど。でもありがとうよ。」

入ってきた下り列車に一緒に乗り込む。
「んで、森山。お前の方は、青木先輩とは順調に進んでいるのか?」
「えっ? う、うん。」
「キスとかしたん?」
「ちょっと本田、それセクハラ! もしキスしてたとしても、絶対にあんたには教えないんだから。」
「お~相変わらず気が強いな~。もっと女らしくしてないと、青木先輩に嫌われるぞ。」
「あ~またセクハラ発言した~。大きなお世話だって」
「はは、スマンスマン。ところで、今日の写真の件は絶対に内緒だぞ。」
「分かってるって。でも部屋に篭って写真見ながら、ニヤニヤするのは、止めろよな。なんか変態っぽいよ。」
「誰がするか! お前じゃあるまいし」
「ちょっと、私がいつ、写真を見てニヤニヤしてたのよ」
「だってお前、今日写真もらった時、すっごく嬉しそうにニヤニヤしてたぞ」
あちゃ、見られてたか~
「ほっといてよ、お互い様でしょ」
「それもそうだ。お互い今日の写真が宝物だな。あっ、お前はこの先も一杯写真撮れるか」
「なんで?あんただって沢田先輩と一緒に写真位撮れば良いじゃんか」
「いや、俺はこの一枚で充分さ。どうせ実らない恋なんだから。」
あ~、もう~、こいつはどうして、いっつもこんなにマイナス思考なんでしょう。
あの頃と全然変わってないんだから。

駅を降りて、本田の後ろを歩く。
「ねえ本田。この間の餅突きを見てる感じじゃあ、沢田先輩もまんざらあんたの事、嫌いじゃないと思うんだけどなぁ。勇気を出して告白してみたら?」
「いや、告白して変に意識される位なら、今のまま普通に馬鹿話に付き合ってもらっている方が幸せだよ」
「あんたねぇ~。それじゃあ一生彼女出来ないわよ。そんなウジウジしたマイナス思考の本田を、好きだった奴だって居るんだから。」
「そうだったよな、そんな奴が居たな。未だにおせっかい焼いて来るんだよな。でもそんな奴のおかげで、どれだけ自分に自信が付いた事か。それには今でも感謝してるぞ。」
「あんたには小さい時から、心配掛けさせられてばっかりだよ。もっと前向きに考えてみたら。このピュアピーチ楓様が、保証してるんだから。」
「ピュアピーチかぁ。イメージが崩れるよな。でもサンキュー、今、直じゃなくてもいつかは告白すっかな。んじゃぁな。」
「うん、頑張れよ。じゃあ又明日ね。バイバイ」
そう言って、私の家の前で手を降る。
好きだったあの頃も、こうやってここで別れてたんだよな。
でも、あの頃とは違う想いで後姿を見送る私が居る。
淡い初恋で、もう少し話をしていたかった、でもそれを言い出せずに、さみしく手を降っていた私とは。
結局私も、マイナー思考だったんだよね。
でも、そんな私を変えてくれた大切なボーイフレンドなんだよ、あんたは。


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一昨日の私は、どうにかしてたんでしょうね。
でも、もう大丈夫です、潤一への思いを断ち切る事が出来ました。
色々、ご心配をお掛けしました。
こんにちわ、美咲です。
―――――――――11月03日(火)―――――――――
今日は、比呂十さんと雲山のスポーツショップに、バスケットシューズを買いに出掛けてます。
そうです、松舞エンジェルスのサブコーチとして、13年振りにミニバスケットボールに係わる事になりました。
選手経験の少ない私は、テクニカルサポートよりも、メンタルサポートの方が、メインになりますが、精一杯子供達と頑張って行こうと思います。

「う~ん、品揃えが多過ぎて、迷ってしまいますね。小村さん、お勧めのシューズってございますか?」
「えっ、そうですね~。オーソドックスなデザインのアシックスのこの辺りか、デザイン重視ならナイキのこいつとかどうでしょう」
「う~ん、デザインならこっちの方が好みですので、やっぱりこっちのオーソドックスな方に致します。」
会計を済ませ、出口の方に歩いていくと、店内に5人くらい女の子が入ってきました。
「やばっ」比呂十さんが呟きました。
「あ~、小村コーチだ。」あっ、どうやら松舞エンジェルスのメンバーみたいです。
「あっ、本当だ~。こんにちは、コーチ」
「コーチだ」「こんにちは~」女の子達がかわるがわる挨拶をしています。
そして、比呂十さんの隣に立っている私を見付け、「あっ、小村コーチひょっとして、デートの真っ最中?」「え~っデート!」「ひゅ~っひゅ~」「あっ、この前の日曜日に電話してた人? コーチ~」って、茶化します。
「ば、馬鹿、デートじゃないって。」
「コーチ、デートじゃないなんて言い切っちゃって良いんですか~? 彼女さん睨んでますよ~」
「えっ? ウソ、マジか、ゆ~な?」
慌てて比呂十さんが私の方に振り返る。
もちろん、私が睨んでいる訳も無く、にっこりと微笑み返してあげました。
う~ん比呂十さんって、完全に彼女達のおもちゃなんですね(笑)
「おっお前ら、何か買いに来たんだろ、さっさと買い物しに行けよ~」比呂十さんがほっぺたを少し膨らませながら、彼女達を追いやった。
「さとなつ、ゆ~な、邪魔しちゃ悪いから、行こう」
「じゃあね~コーチーお幸せに~。」「さようなら~」
口々に挨拶をして、彼女達は売り場へと消えて行った。
「ったく、うちのメンバー達は~」
「でも、皆さん、小村さんの事大好きみたいですね。私の強力なライバルが一杯いますね、松舞エンジェルスには。」
「いや、錦織さん、あんなガキ達に興味無いですって。それよりお腹空きませんか?」
「そうですね、そろそろお昼にしましょうか。今日こそは、私がお支払い致しますからね。」
「はい分かりました、それじゃあお言葉に甘えさせて頂きます。それで、何を食べます?」
「そうですねぇ・・・あっ折角、雲山に来たんですから、ハンバーガー食べませんか?マックかモスあたり・・・ダメでしょうか?」
もっとお洒落なお店とか行ってみたいんですが、背伸びしたって疲れるだけですから、ここは等身大の私のままで、行こうと思います。
「あっ、マック良いですね~。俺、ビックマックをオカズに、クォーターパウンダーを食べちゃう位好きなんですよ。近くに有りますし、そこにしましょうか。」
・・・ビックマックにクォーターパウンダーですか。聞いただけで私、お腹一杯になりそうです。
でも、気取らない比呂十さんに、好感が持てます。

「うまっ・・・クォーターパウンダー。肉の味が活きてますよね~。ビックマックもこのオリジナルソースが美味しいんですよね。」
う~ん、比喩ではなく、本当にビックマックをオカズに、クォーターパウンダーを食べちゃうんですね、比呂十さんって・・・
コーラーを飲みながらふっと窓の外を見ると、さっきの女の子達がこの店に入ってくるのが見えました。
「あっ、またエンジェルスのメンバー達ですよ、ほら。」
比呂十さんに、窓の方を指さしました。
「あ~、もうあいつら、どこまで着いて来るんだよ~。頼むから一階席でおとなしくしてろよ~」


「へぇ~、錦織さんって松舞保育園の先生なんだ~」
「ありなつ、それを言うなら保母さんでしょ」
「ゆ~な、それも違うよ。今は保育士さんって、言うんだよ」
「しょうこ、そのナゲット一個ちょうだい」
「んで、コーチとはどうやって知り合ったんですか?錦織さん?」
う~ん、一気に賑やかになりましたね。
エンジェルスメンバー達、やっぱり二階席に上がって来ちゃって、しっかり見付かってしまいました。
「えっ? 知り合ったきっかけ? それは~」
「こらっお前ら、そんなに色々質問したから、錦織さんが困っているだろうが」
「あっ、いえ別に私困ってませんから。」
「コーチ、どうして錦織さんの事、下の名前で呼ばないんですか? なんか、よそよそしいですよ。」
「馬鹿、さとなつ、大人には大人の事情って物が」
「大人の事情って、まさかして不倫?」
「あのなぁ~、さお。お前らいい加減さっさとハンバーガー食って立ち去れよ」
「さお、怒られてやんの~。さ~て、コーチを苛めるのも飽きたし、そろそろ3on3コートに行く?」
「なんだ?お前ら、市立体育館の3on3コート行くんか?」
「そうですよコーチ。 あっ、錦織さんも来られませんか?」
「えっ?私? そ、そうね~?」
チラッと比呂十さんを見る。
比呂十さんもこっちを見つめており、目が合いました。
比呂十さんが、少し肩をすくめて、やれやれって感じで、頷かれました。
「それじゃあ、みんなと、少し練習しようかな。言うのが遅くなったけど、私、来週から松舞エンジェルスの練習のお手伝いする事に、なってるからね。」
「え~、ほんと~」「楽しみ~」「やった~、女のコーチだ~」「そうだね、小村コーチ汗臭いもん」「錦織コーチ、ヨロシクお願いしま~す」
汗臭いって・・・そうなの???
「そ、そんな期待しないでよみんな。私は、ストレッチとか、マネージャーの仕事するだけだから。」

みんなで、ワイワイおお喋りしながら、公園に移動します。
「すいません、錦織さん。とんだ事に付き合わせてしまって・・・」
こっそり、比呂十さんが謝ってきた。
「全然平気ですよ、一週間ほど予定が早まっただけですから。それに、私も、勘を取り戻しておかないと、いけませんしね。」
「そう言って頂けると、こっちも少しは救われます。」
う~ん、正直言って、本当に高校卒業して以来、バスケットボールを手にした事すらないから、ちょっぴり不安なんですよね。
「さぁ、じゃあ、ウォーミングアップするわよ。」
とは、言った物の、園児相手に走り回る位しか運動してませんから、ウォーミングアップするだけで、息が上がっちゃいそうです。
比呂十さんは、流石現役コーチですね、少しも息が上がってません。
「じゃ・・じゃあ、次はストレッチね~」
う~ん、普段使っていない筋肉が、ゆっくりと解れていくのが分かります。
今回、比呂十さんに私、エンジェルスメンバーが、佐藤さん(通称さとなつ)有田さん(通称ありなつ)
小西さん(通称しょうこ)小松原さん(通称さお)村上さん(通称ゆ~な)の合計7名。
比呂十チームに比呂十さん、ありなつ、さお、私のチームは、ハンデで4名。私、さとなつ、しょうこ、ゆ~なと言う組み合わせに決まりました。
最初は私達がオフェンスです。
さとなつから、私、私からしょうこ、しょうこがスリーポイントを打ったけど、リングに弾かれ、リバウンドを素早くゆ~なが処理して、さとなつにパス。さとなつがドリブルで切り込んで、レイアップシュートを決めました。
次は、比呂十さんチームがオフェンス。
さおから、比呂十さん、ありなつへとパスを繋ぐ。ありなつが素早くドリブルで切り込み、そのままレイアップシュート。
へぇ~、結構みんなうまいんじゃないですか。
今度は私たちの攻撃です。
さとなつが切り込んで、横にいたしょうこにパス。しょうこから私へパスが来た。
私の目の前には、比呂十さんが手を広げて立ちはだかってます。
ドリブルで間合いを図りつつ、右へ切り込む。
モーションプレーに釣られて体を左へ傾けた比呂十さんの右脇を一気にすり抜け、そのままジャンプシュート。
決まりました・・・まだ、高校の頃の勘は鈍っていないみたいです。
「すご~い」「はやっ」口々に子供達が歓声を上げます。
次のディフェンスはゆ~なが、ボールスティルを決めて、しょうこにパス。そのまましょうこがスリーポイントを決める。
次のオフェンスは、私がドリブルで切り込んで、ゆ~なにバックパス。少しゆ~なは慌ててましたが、そのボールを落ち着いて、さとなつにパスして、さとなつがジャンプシュートで決めてくれました。

「あ~面白かった~。しかし、錦織さんってバスケ本当にうまいんですね。」スポーツタオルで汗を拭いながら、さとなつが話し掛けて来た。
「えっ?そんな事無いって。私高校時代は補欠だったんだから。」
「高校って、松舞高校ですか?」しょうかが聞いて来た。
「ううん、私、広島出身だから。広島の白百合女子って高校よ」
「え~、白百合だったんですか、錦織さん!」比呂十さんが、驚いた顔して話に割り込んで来た。
「コーチ、有名なんですか?白百合女子って?」
「おう、何回も全国大会優勝している中国地方1番の女子チームだぞ。そこで補欠なら、こっちじゃあ確実にポイントゲッターだな。」
「え~すっご~い。」「色んなテクニック教えて下さいね、錦織さん」
比呂十さんの一言で、彼女達の私を見る目が変わった様な気がします。
いや、チームは確かに全国大会で優勝したけど、その時はまだベンチにも入れなかったし、3年間補欠だったんですから私。

結局、夕方まで3on3を楽しんだ後、彼女達を車に乗せて挨拶も兼ねて自宅まで送り届けました。
そして、私もアパートの前まで送ってもらった。
「邪魔が入ってゆっくり出来ませんでしたね、錦織さん。あいつらには、良く言い聞かせておきますから。」
「いえ、そんな事ないですよ。すごく楽しかったですよ。久しぶりにいい汗をかきました。」
「じゃあ、また」そう言って比呂十さんは車に乗り込んだ。
「あっ・・・小村さん。良かったらお茶でも飲んでいきませんか?」
「でも、いきなり独身女性のアパートに上がるのは・・・」
ふふ、結構生真面目なんですね、比呂十さんって。
「いえ、大丈夫ですよ。それに、もっと松舞エンジェルスの事、教えておいてもらいたいですし。」
「エンジェルスの事ですか?」
「もちろん、小村さん・・・比呂十さんの事も教えてもらいたいです。」
あっ、ちょっぴり大胆発言でしたかね・・・でも、今は、本当に比呂十さんの事を知りたいんです。
比呂十さんとなら、楽しく毎日が過ごせる気がするから・・・



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