小村さん・・・小村さん・・・
寒いよ・・・
潤一が、亡くなった時は夏だったから、喪服の中がジワッと汗ばんでいたのを思い出した。
きっと、これが最後ですよね・・・美咲です。
―――――――――11月1日(日)―――――――――
潤一が亡くなった自動販売機の前に、今居ます。
夜は車も少なく、本当にさみしい場所です。
この場所で死んだなら、きっと潤一の所へ、間違えずに行けるでしょうね。
これが本当に最後です。これで、何も苦しまずに済むんです。
もし、潤一に会えたなら、思いきり抱きついて、甘えてやろうと思います。
「お待たせ・・・」って、ちゃんと笑顔で言えるかな?
ひなちゃんの顔が脳裏を横切った。
仕事帰りに、喫茶店でお茶して恋愛話に盛り上がった事も有りました。
彼女の彼氏、洋介さんとケンカした時も、必死に説得したよなぁ
ゴメンね、ひなちゃん・・・貴方の結婚式に参列できなくって。
私の分まで、こっちで幸せになってね。
松舞保育園の園児達の顔を一人一人思い出してみる。
健介君、もうオネショしない様に、ちゃんと寝る前にはトイレ行くのよ。隆俊君は、ちゃんと歯磨きをする様に。一郎君は、美奈子ちゃんに優しくしてあげる様に。優ちゃんは、早くお着替えが出来る様に頑張ろうね。沙希ちゃんは、大好きなお絵描きがもっとうまくなるといいね。・・・みんなイイ子で元気に過ごすのよ。
園長先生・・・わがままを言って申し訳ございません。
短い間でしたが、大変お世話になりました。
お父さんお母さん・・・親不孝な娘でごめんなさい。
もうすぐで、広島にも雪が降ります。お身体には気をつけて。いつまでもお元気にお過ごし下さい。
お兄ちゃん・・・ゴメンね。義姉さんといつまでもお幸せに。
最後に小村さんの事を、考えてみる・・・
潤一と同じ様に子供好きで、笑顔が素敵な人でした。
もし、普通に恋愛を出来たなら、きっと私は松舞エンジェルスのコーチとして、小村さんとがんばってチームを盛り上げていったと思います。
「ごめんなさい・・・今日は練習試合の応援に行けなくって・・・」
もし、お互い生まれ変わってもう一度出会う事が有ったら、その時は・・・その時は・・・貴方の恋人で居させて下さい。
今日何度目かの涙が頬を伝う・・・
小村さん・・・もっと早く知り合っていたら、私の心を温めてくれていたのかな?
私の事は早く忘れて、素敵な彼女を見付けて、幸せに暮らして下さい・・・
セカンドバッグから、潤一の写真を取り出す。
「潤一・・・今からそっちに行くからね・・・ちゃんと迎えに来てよ。ほら、私って方向音痴でしょ。絶対に道を間違えちゃうから、必ず迎えに来てね。ちゃんと、アップルティー準備してある?また、一緒に温かいチャイを飲みながら、一杯お話ししようね。」
相変わらず、写真の潤一は笑ってます。
「うん、分かった。じゃあ少し待ってってね」
写真をガードレールの根元に起き、もう一度セカンドバッグを手に取り、家から持って来た剃刀を取り出した。
「いよいよ、本当に最後ね。」
剃刀のキャップを外し、左の手首に宛がう。
ふっと、目の前を光の筋が横切った。
どこからか、蛍が飛んで来て、潤一の写真の上に止まった。
「蛍?この時期に?」
そして蛍は、一際明るく光ったかと思ったら、写真の中に吸い込まれる様に消えていった。
「美咲~美咲~」
小村さんの声が聞こえてきた・・・
「えっ?小村さん?どうして此処に???」
息を切らせながら、小村さんが走り寄って来た。
「はぁはぁ・・・美咲ちゃん・・・早まっちゃあダメだ。君は俺が幸せにする。潤一が出来なかった分まで、幸せにするから・・・ゼエゼエ・・・」
えっ? どうして潤一の事知ってるの?
「小村さん、どうして此処が分かったの?」
「ハァハァ・・・それは・・・光が・・・潤一が導いてくれたから・・・。潤一は、君が死ぬ事を望んでなんかいないんだ。そんな事したって奴は救われないよ。幸せに暮らす事・・・それがあいつへの償いなんだ。奴が潤一がそう言ってた。」
潤一が・・・?
「うそ・・・だって潤一はもう死んでるのよ。小村さんが潤一と話する事なんて出来ないじゃないですか。」
「じゃあ、なんで俺は此処に来れたんだ? さっきの蛍が俺をここに導いたんだ。 君は、勘違いしている。潤一が望んでいるのは君の幸せなんだ、だから俺が選ばれ、此処に導かれたんだ。俺が君を幸せにする、必ず幸せにするから・・・だから、だから・・・・・俺と結婚してくれ・・・」
えっ・・・今何て?・・・結婚?
気が付いたら、私は頷いていた・・・
「小村さん・・・貴方と一緒に生きていきます・・・」
ガードレールの根元に置いた写真が風で舞い上がった。それは、高く高く舞い上がり、一瞬だけ光ったと思ったら消えてしまった・・・
それを、二人で見上げながら手を振った。
「さぁ、帰ろうか・・・緑川さんも森山も、あいつの彼女も心配してるぞ、きっと。しかし、ここは寒いなぁ・・・。おっ、この自販機、ホットのアップルティー有るじゃんか。俺、アップルティー大好きなんだよね。」
思わず私はほほ笑んだ。
私の最期の時はこうして終わった・・・そして新しい私の最初が同時に始まった。
寒いよ・・・
潤一が、亡くなった時は夏だったから、喪服の中がジワッと汗ばんでいたのを思い出した。
きっと、これが最後ですよね・・・美咲です。
―――――――――11月1日(日)―――――――――
潤一が亡くなった自動販売機の前に、今居ます。
夜は車も少なく、本当にさみしい場所です。
この場所で死んだなら、きっと潤一の所へ、間違えずに行けるでしょうね。
これが本当に最後です。これで、何も苦しまずに済むんです。
もし、潤一に会えたなら、思いきり抱きついて、甘えてやろうと思います。
「お待たせ・・・」って、ちゃんと笑顔で言えるかな?
ひなちゃんの顔が脳裏を横切った。
仕事帰りに、喫茶店でお茶して恋愛話に盛り上がった事も有りました。
彼女の彼氏、洋介さんとケンカした時も、必死に説得したよなぁ
ゴメンね、ひなちゃん・・・貴方の結婚式に参列できなくって。
私の分まで、こっちで幸せになってね。
松舞保育園の園児達の顔を一人一人思い出してみる。
健介君、もうオネショしない様に、ちゃんと寝る前にはトイレ行くのよ。隆俊君は、ちゃんと歯磨きをする様に。一郎君は、美奈子ちゃんに優しくしてあげる様に。優ちゃんは、早くお着替えが出来る様に頑張ろうね。沙希ちゃんは、大好きなお絵描きがもっとうまくなるといいね。・・・みんなイイ子で元気に過ごすのよ。
園長先生・・・わがままを言って申し訳ございません。
短い間でしたが、大変お世話になりました。
お父さんお母さん・・・親不孝な娘でごめんなさい。
もうすぐで、広島にも雪が降ります。お身体には気をつけて。いつまでもお元気にお過ごし下さい。
お兄ちゃん・・・ゴメンね。義姉さんといつまでもお幸せに。
最後に小村さんの事を、考えてみる・・・
潤一と同じ様に子供好きで、笑顔が素敵な人でした。
もし、普通に恋愛を出来たなら、きっと私は松舞エンジェルスのコーチとして、小村さんとがんばってチームを盛り上げていったと思います。
「ごめんなさい・・・今日は練習試合の応援に行けなくって・・・」
もし、お互い生まれ変わってもう一度出会う事が有ったら、その時は・・・その時は・・・貴方の恋人で居させて下さい。
今日何度目かの涙が頬を伝う・・・
小村さん・・・もっと早く知り合っていたら、私の心を温めてくれていたのかな?
私の事は早く忘れて、素敵な彼女を見付けて、幸せに暮らして下さい・・・
セカンドバッグから、潤一の写真を取り出す。
「潤一・・・今からそっちに行くからね・・・ちゃんと迎えに来てよ。ほら、私って方向音痴でしょ。絶対に道を間違えちゃうから、必ず迎えに来てね。ちゃんと、アップルティー準備してある?また、一緒に温かいチャイを飲みながら、一杯お話ししようね。」
相変わらず、写真の潤一は笑ってます。
「うん、分かった。じゃあ少し待ってってね」
写真をガードレールの根元に起き、もう一度セカンドバッグを手に取り、家から持って来た剃刀を取り出した。
「いよいよ、本当に最後ね。」
剃刀のキャップを外し、左の手首に宛がう。
ふっと、目の前を光の筋が横切った。
どこからか、蛍が飛んで来て、潤一の写真の上に止まった。
「蛍?この時期に?」
そして蛍は、一際明るく光ったかと思ったら、写真の中に吸い込まれる様に消えていった。
「美咲~美咲~」
小村さんの声が聞こえてきた・・・
「えっ?小村さん?どうして此処に???」
息を切らせながら、小村さんが走り寄って来た。
「はぁはぁ・・・美咲ちゃん・・・早まっちゃあダメだ。君は俺が幸せにする。潤一が出来なかった分まで、幸せにするから・・・ゼエゼエ・・・」
えっ? どうして潤一の事知ってるの?
「小村さん、どうして此処が分かったの?」
「ハァハァ・・・それは・・・光が・・・潤一が導いてくれたから・・・。潤一は、君が死ぬ事を望んでなんかいないんだ。そんな事したって奴は救われないよ。幸せに暮らす事・・・それがあいつへの償いなんだ。奴が潤一がそう言ってた。」
潤一が・・・?
「うそ・・・だって潤一はもう死んでるのよ。小村さんが潤一と話する事なんて出来ないじゃないですか。」
「じゃあ、なんで俺は此処に来れたんだ? さっきの蛍が俺をここに導いたんだ。 君は、勘違いしている。潤一が望んでいるのは君の幸せなんだ、だから俺が選ばれ、此処に導かれたんだ。俺が君を幸せにする、必ず幸せにするから・・・だから、だから・・・・・俺と結婚してくれ・・・」
えっ・・・今何て?・・・結婚?
気が付いたら、私は頷いていた・・・
「小村さん・・・貴方と一緒に生きていきます・・・」
ガードレールの根元に置いた写真が風で舞い上がった。それは、高く高く舞い上がり、一瞬だけ光ったと思ったら消えてしまった・・・
それを、二人で見上げながら手を振った。
「さぁ、帰ろうか・・・緑川さんも森山も、あいつの彼女も心配してるぞ、きっと。しかし、ここは寒いなぁ・・・。おっ、この自販機、ホットのアップルティー有るじゃんか。俺、アップルティー大好きなんだよね。」
思わず私はほほ笑んだ。
私の最期の時はこうして終わった・・・そして新しい私の最初が同時に始まった。