松舞ラブストーリー

山陰の仮想の町松舞町を舞台にした、様々な恋愛を見守ってやって下さいね

2009年12月

僕の乗った電車が、ホームに滑り込む。
やはり大晦日ともなると、ホームに人が少ないですね。
窓際に立っていた僕は、ボーっと外を見ていた。
そして、小さな子供の手をつなぎ電車を待つ女性に目がとまった。
あれ?この女性って・・・でもまさかなぁ・・・
向こうも僕の存在に気付き、驚いた顔をしている・・・
やっぱりそうだ。
たった一日ですが、僕の彼女だった、山瀬幸子さん
・・・そう、さっちゃんです。
こんばんは、御主人様28号こと、隆文です。
―――――――――12月31日(木)―――――――――
「山瀬さん・・・?やっぱり山瀬さんだ。 あっ、ゴメン今は名字が違うのか。」
「ううん、山瀬に戻ったの・・・。やっぱり村下君ね、久しぶり約3年ぶりだっけ、元気だった?」
苗字が旧姓に戻ったって事?離婚?
「あぁ元気だって。そうだな、3年ぶりかな。あっ、この子って山瀬さんの子供?」
「うん、優って言うの。もうすぐで2歳になるんだ」
「目が似てるねぇ、美人になるなぁ。」
「ふふ、ありがとう、村下君。でもびっくりした。まさか東京で知り合いに会うなんて、思わなかったから。いつもこの地下鉄使うの?」
「あぁ、そうだよ。山瀬さんこそどうしたの、東京で会えるなんて考えもしなかった。」
「私? 渋谷に買い物に行くところ。今ね、埼玉に住んでるの。さいたま市で叔父さんが会社を経営しているから、そこの事務員として働いてるんだ。ほら・・・大学中退して結婚して、揚げ句の果てに離婚だなんて、松舞帰ると周りの視線がきついでしょ・・・」
「そっか、色々大変だったんだね、山瀬さんも・・・」
やっぱり、離婚したんだ。さっちゃんを捨てるなんて、一体どんな奴なんだ!
「まあね・・・自業自得なんだろうけどね。でも、優が居るからいつまでも落ち込んでいる訳にはいかなかったし・・・。」
「相変わらず、強いんだな、山瀬さんは・・・」
「そんな事無いって。んで、村下君の方はどうなの?彼女出来たの?」
「あぁ、年上なんだけど、すごく甘えん坊の彼女がいるよ。」
「へぇ~。ねぇどんな感じの女性? 同じ人を好きになった物同士、興味が有るなぁ」
「何だよ、別に良いだろ、そんなの。」
「だって、気になるじゃん。その人、背高いの?髪型は?有名人に例えると誰に似てる?」
「ったく。詩音は、背は少し高めかな。髪はロングでストレート。有名人に例えるなら、う~ん・・・思い浮かばないなぁ」
「へぇ、詩音って言うんだ、すてきな名前だね。幸せそうで良かった。」
少し伏目がちになった、さっちゃんが気になり、俺も聴き直した。
「そう言う山瀬さんはどうなん?」
「う~ん、幸せとか幸せじゃないとか、言ってる余裕が無いかな。でもね、優と過ごしている時は、幸せかな。この子を産んで良かったって。あのね親戚の会社に勤めてるもう一つの理由はね、育児にかかる時間を、色々融通利かせてもらってるから、っていうのも、有るんだよね。」
「ふ~ん、子供が生まれると、そんなもんなんだ。『女は弱し、されど母は強し』だな。」
「何それ?初めて聞いたわ。でも確かにそれ当たってるかも」クスクスとさっちゃんが笑う。
その笑顔は、間違いなく18歳の、あのさっちゃんのままだった。
一気に2年前の気持ちが蘇る。
僕は、さっちゃんを見つめる。
もし再会が半年早かったら、僕は思いのままを口にしていた事だろう。
詩音と出会い、心の傷は随分と癒されたが、それまでの自分は表には出さなくても、さっちゃんへの思いを引きずって生きていた。
「突然さっちゃんが、僕のアパートを尋ねて来るかもしれない」、「いや、僕が大阪中を探せば会えるかもしれない」、そんな事ばかり考えていた、弱い自分が居た。

「村下君・・・?」
山瀬さんに話しかけられ我に帰る。
「ごめんごめん。」でもその先の言葉が見つからない。
電車が池尻大橋の駅に着いた。
次の渋谷に着いたら、またさっちゃんとお別れだ。
ひょっとしたら、これがさっちゃんに会える、本当に最後のチャンスかもしれない。
そう思うと、このまま何も言わずに、別れるべきかどうか悩んだ。
お互い無言のまま、電車は走り続ける。
今、心の奥底に仕舞い込んだ思いを、彼女に伝えたら僕はきっと楽になれる。
でも、その言葉によって彼女は又苦しむかもしれない。
そして、彼女に抱いていた淡い思いが、今、また僕を苦しめる。
あの日、さっちゃんが僕に言った言葉が蘇る。
「素敵な思い出は、素敵な思い出のまま、心の中にしまっておきたいの。遠距離恋愛になって、辛い別れで汚したくないの。」
遠距離じゃなくなった、会おうと思ったらいつでも会える距離、なにより手を伸ばせば触れ合える距離に、彼女がいる。
でも、やっぱりその手を伸ばす事は出来なかった・・・素敵な思い出のまま、心の中に留めておく方が、きっと幸せなんだと気が付いた。
彼女には優ちゃんと言う娘がいて、僕には詩音がいる。それだけでも十分、あの頃とは違うのだ。
それぞれが、お互い知らない所で幸せに暮らす・・・それが一番なんだ。
この先も僕は、街角でさっちゃんの姿を探すのかもしれない、でも、探している瞬間が切ないけど幸せなんであって、実際会うと少しずつ変わっていくお互いに愕然とする。
あの頃の二人はもう居ないんだ、何も考えずに互いの名前を呼べたあの時、そして心の全てが相手の色に染まっていたあの時の二人は・・・
静かに電車がホームに滑り込む。
もう一度、彼女の顔を見つめる。
彼女の瞳には、涙が溢れていた。ひょっとしたら、彼女も同じ思いなんだろうか?でも、それを確かめる勇気は今の僕にない。

地下鉄のドアが静かに開く。
「それじゃあ、たっくん、いつまでも元気でね。」
「さっちゃんも、幸せにな。」
互いの名前で呼び合う・・・それが僕らに出来た、最後の思い出作りだった。
さっちゃんは優ちゃんを抱きかかえると、年の瀬の忙しない人ごみの中に、吸い込まれる様に消えていった。
別々の道を歩み始めた二人、それぞれの歩みの中で、幸せになろう。この空の下、どこかでさっちゃんと優ちゃんが笑顔で暮らしている。僕では成し得なかった幸せを、二人は掴むことだろう。その笑顔を思いながら、僕は街角で二人の姿を探そう、幸せな笑顔で手をつないで歩く二人の姿を。


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「ふぅ~」
俺は、新幹線の座席に座り、一息ついた。
「何とか座れたな・・・まぁ、喫煙席じゃないのは少し不便だけど。」
帰省ラッシュのこの時期、座れるだけでも、恩の字なんじゃないって思われるかもしれませんが、この席取合戦の為に、1時間位ホームで並んでましたからね。
日向の待つ松舞は、遠く西の彼方です。
こんにちは、洋介です。
―――――――――12月29日(火)―――――――――
先週、日向が東京に遊びに来たばかりなんですが、やっぱり正月休みは特別ですよね。
まぁ、今更お年玉を貰える年齢じゃないですが、(って言うか、あげる方なんですよね)普通の休みと違い、一年の締めくくりを日向と一緒に過ごす事自体が、大切なんですよね。
一緒に炬燵にあたりながら、紅白やレコード大賞を見て、年越し蕎麦を食べる。
そんなドドメチックな行動が、逆に新鮮です。
これが、家族なら当たり前の風景なんでしょうけど、まだ結婚どころか婚約もしていない俺達には、幸せな時間なんですよ。

おっ、新幹線が動き出しました。
やれやれ、これで取りあえず岡山に着くまでは、ゆっくりして居られます。
品川、新横浜と、駅を過ぎていく。
暇つぶしに文庫本を読んでいましたが、普段の疲れのせいでしょうか、気が付いたら眠り込んでいました。
気が付いたら、新大阪の手前でした。
ipodが止まっていたので、再生ボタンを押す。
一曲目の曲は、日向の好きなアーチスト、槇原敬之の曲。
「♪君に~早く会いたいよ~」
う~ん、なんてタイミングのいい(笑)
曲を聴きながら、日向の事をボンヤリと考えていた。
「結局、今年もプロポーズ出来んかったなぁ・・・」
そうです、先週のクリスマスイブも、タイミングを逃してしまい、結局指輪を渡せずじまいです。
日向自体も気が付いているんでしょうから、もっと告白し易い雰囲気作りに協力してくれても、良いと思うんですが・・・まぁ、どんな雰囲気なのかは、分かりませんが・・・
言問橋から見た夜景は、日向にも好評でした。
まぁ、松舞では絶対有り得ない様な、建物の数ですからね。
「キレイ・・・。洋君が連れて来たかったも分かるわぁ。」
「おっ、おう。だろ~・・・なぁ日向・・・」
「何?洋君?」
俺は深く深呼吸をした。
「なあ日向。ここでも、松舞でも・・・」
改めて日向の眼を見つめると、それ以上何も言えなくなってしまった。
今まで待たせたなって思ったら、様々な思い出が蘇ってきた。
サークルで初めて見掛けた時に一目惚れした事。初デートで映画を見た事。初めてキスした時、歯が当たってしまった事。初めて一緒に迎えた朝の事。転勤が決まって大阪に行く事を伝えた夜。突然、松舞に帰った日の事。一緒に過ごしたバレンタインの事・・・
様々な思い出が一気に、蘇りそれだけで、胸が一杯になった。
「どうした洋君?大丈夫?」
「いや・・・何でもない・・・そろそろ、銀座に向かおうか・・・」
「えっ・・・うん・・・」
そっと日向が、俺の手を握ってきた。
手を引っ張られ、嫌々歩く子供の様だった。
小さく「バカっ」って、日向が言ったのを、俺は聞き逃さなかった。
きっと、日向は俺の言いたかった事、分かってんだろうな。
もう少し、言問橋に留まるべきだったのかな?
まぁ、今更気にしても、後の祭りですよね。

気が付くと、もう少しで岡山駅到着のアナウンスを流していた。
岡山で山陰に向かう特急に乗り換えです。
あと、2時間半もすれば、また日向の笑顔に会えるんです。
今度こそ、ちゃんとプロポーズしなきゃいけませんよね・・・でも出来るかな~(^^ゞ

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一昨年は、独りぼっちのクリスマスイブ
去年は、突然松舞に帰って来ました。
今年のクリスマスイブは・・・
こんばんわ、緑川日向です。
―――――――――12月24日(木)―――――――――
今、山陰へ向かう、サンライズ出雲の車内です。
今年のクリスマスイブは、休みを取って東京に押し掛けちゃいました。
園の方には、「妹に会いに」って事になってますが。
でも、朝葉にも東京に来ている事は、内緒なんですけどね。
洋君も有給を無理やり取って、お互い連休です。

東京には昨日の朝、夜行バスで着きました。
松舞とは比べ物にならない位暖かいです。
さわやかな風が、私の髪を弄びます。
先ずは、洋君の住んでいるアパートで、一休憩です・・・って言うのは口実で、実は部屋の隅々までチェックして、他の女の痕跡が無いかチェックしてたんですけどね。
「なぁ、日向。午後からどうする?折角東京来たんだし、お台場かディズニーランドでも行くか?」
「ん~、人の多い所はパスだなぁ」
「って言ってたら、東京は何処も行けないぞ」
「うん、良いって。洋君の傍に居れるなら」
少し照れ臭そうにバカってつぶやいてます、洋君が。
だって、本当なんですから。洋君が居てくれるならそれだけで十分です。だって、洋君に会うのは夏以来ですからね。
「でも、折角だからお散歩でもしよ。洋君の住んでる街並みを見ておきたいの。電話で話する時も、想像し易いでしょ、その方が。」
「ん~じゃあ、買い物も兼ねてブラブラするか。」
「うん」そう言いながら、洋一の手を握り締めた。
「ここ、和菓子屋なんだけど、ここのオニギリやお稲荷さんが、絶品なんだよな。」「ここのリサイクルショップ、結構良い品が有るんだよな」「ここ、ここ、いっつも通ってる蕎麦屋。東京では結構有名なチェーン店なんだけど、ここの盛り蕎麦と豚しゃぶ丼がうまいんだな。」
楽しそうに語る洋一を見ていると、こっちまで楽しくなっちゃうから不思議ですよね。
駅前の西友で、夕ご飯のおかずを買って帰ったら、もう五時を回ってました。
「急いで夕ご飯作るからね、洋君。」
「手伝うよ、日向。先ずは何すれば良いかな?」
「ん~じゃあ、このじゃがいもの皮を剥いてくれるかな。」
こうやって一緒に食事を作れるなんて、何か夢の様です。
結婚してたら、毎日こうやって、料理出来るんですけどね。
夕ご飯のメニューは、クリスマスらしく鶏モモ肉のローストチキンに、ホットサラダです。
もちろんデザートは、デコレーションケーキ。
さすがに、デコレーションケーキはお腹に来ましたね。
当分、生クリームは食べたくないなぁ
そして一緒にお風呂に入って、洋君の腕の中で子猫の様に丸くなって、ゆっくりと朝を迎えました。

パステルカラーのカーテン越しに、朝日が部屋の中まで入っています。今日も朝から良い天気です。
ホワイトクリスマスにはなりそうもないですね。
昨日リサイクルショップで買ったオムニバスのクリスマスソングCDを流しながら、トーストとスクランブルエッグで簡単に朝食を済ませ、ゆったりとコーヒーを飲んでいます。
「なぁ、日向。本当に東京観光行かなくていいの?」
「うん、大丈夫だよ。あっ、でも折角だからクリスマスイルミネーションは見たいかな。東京駅の近くに有る?」
「ん~どうなんだろう?」洋君はネットブックを取り出し、ネットで検索をしてくれた。
「東京駅のすぐ近くって訳じゃないけど、銀座でも行ってみるか?」
「銀座かぁ。ブランドバッグでもサンタクロースにおねだりしちゃおうかな~」
「洋介サンタは、貧乏だからな。ウィンドーショッピングなら、OKだそうだ。」
「困ったサンタさんだね」思わず笑ってしまった。
もう充分過ぎる程の、二人の時間ってプレゼントを貰ったんですけどね。
「そうだ日向!お前に見せたい景色が有るんだ。」
「えっ?何よ突然~」
「いや、営業周りの時に見た、夜景をお前にも見せたいんだ。これぞ都会って夜景だぞ。」
「ふ~ん、都会の夜景かぁ・・・ちょっと興味あるかな。」

そこは、言問橋。
橋の向こうに中州が広がり、沢山のマンションが立ち並ぶ。沢山の窓明かりがクリスマスイルミネーションみたいできれいです。
私を連れて来たかったのが、うまく表現出来ないけど、何となく分かる気がする。
人恋しい東京の中で、ここから見た景色は、家庭の温かみが、伝わって来そうです。
「なあ日向。ここでも、松舞でもいい。俺はお前とああやって部屋の灯りを灯したいんだ。お前と一緒に暮らしたい。俺と結婚してくれ。」そう言いながら、そっと私の手を取り、薬指に指輪をはめてくれた。
「洋介・・・」
私は洋介の眼を見つめる。そして頷いた。


「・・・なた、・・・日向。お~い日向~」
あっ、ごめんごめん、また空想の世界に入ってました。
「どうした、やっぱり夜行バスは疲れたか?」私の荷物を手に取りながら、洋君が聞いてきた。
「ううん・・・大丈夫だよ。でも先ずは洋君のアパートに行ってゆっくりしたいな。」
見上げた空は青く澄み渡り、暖かい風が私の髪を弄んでいった。



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いつもの様に、バイト先に近いお台場海浜公園駅でゆりかもめを降りる。
いつもと違うのは、左肩の向こうに詩音が居る事だ。
こんばんわ、ご主人様28号こと、村下隆文です。
―――――――――12月24日(木)―――――――――
クリスマスイブの今夜、うちのレストランに予約キャンセルが有ったのは、ラッキーでした。
オーナーに頼み込んで、空いた席の予約とその日のバイトのキャンセルをさせて貰ったのが、つい一昨日の話です。
「え~っ、すごくおしゃれなレストランですね、ご主人様ぁ」
「だろ~詩音。一度連れて来たかったんだ、この店に」
今日は店の裏側に回るのではなく、表のドアを開ける。
「いらっしゃいま・・・せ・・・」
ウェイター仲間が目を丸くしている。
「予約しておいた、村下ですが。」軽くウインクする。
「え~っと・・・村下様ですね、お待ちしておりました。おい、どうしたん、美人の彼女連れてぇ」
「いいだろ、たまには。お前の仕事振りをチェックしに来たんだよ」
「あっ、どうも始めまして。いつも、ごしゅ・・・いや、隆文さんがお世話になってます。」
「あっ、イエイエお世話になっているのは、僕の方でして。いっ今、席にご案内致しますね」
詩音がエスコートして貰って、椅子に坐った。
「ありがとうございますぅ」
彼は去り際に僕に「お前の彼女スゲー美人じゃんか」そう耳打ちする。

「ご主人様ぁ、よろしかったんですか?バイト先に私なんか連れて来ちゃって」
うん、正直、いつも通りメイド服でお台場に来るとは思わなかったから、少し後悔しているんだけど・・・まぁモノトーンのメイド服だから、ゴスロリって事にしておこう。

「いらっしゃいませ。ワインをお接ぎ致します。」
ソムリエの前崎さんが、ワインを注ぎにやってきた。
詩音はそっとワイングラスを口にする。
「結構なお味です。美味しいです。」そう言って微笑む。
前崎さんも微笑み返し「ありがとうございます」と、お辞儀をする。
僕のグラスにワインを注ぎながら小声で、「素敵な彼女だな」そう呟いた。
「それでは、ごゆっくり。」

「じゃあ、詩音。メリークリスマス~」
「メリークリスマス~。あの~ご主人様も、ああやって、ワイン注いでいるんですかぁ?」
「いや、あれはソムリエの前崎さんの仕事だから。俺は主に厨房で皿洗いか、たまに接客する位だよ」
「う~ん、一度ご主人様に、ああ言う風にエスコートして貰いたいですぅ」
「じゃあ今度、俺が執事しようか?」
詩音は少し考えてから、「ハイなのですぅ」と微笑んだ。

オードブルが運ばれてきた。
「本日のオードブルは、真鯛のカルパッチョ イクラ寄せとなっております」
う~ん、フロア長自ら料理を運んでくるとは、スタッフの間では相当話題になっているんだろうな
「真鯛の白、イクラのオレンジ、芽葱の緑が鮮やかですね」詩音が運ばれてきたオードブルに、感動している。
「ありがとうございます、ではごゆっくり」
フロア長は俺の方を見ると、うんうんと頷いて帰って行った。何に頷いたのか気になる所だ。
メインディッシュの子牛のフィレステーキ クリスマス風ソース添えは、シェフ自ら運んできた。
「クリスマスらしい彩りですね。この緑と赤のソースは何で出来ているんですか?」
「はい、緑はアボカドをベースにしたディップ、赤はイチゴをベースにしたフルーツソースです。ではごゆっくりどうぞ」
シェフは僕の右肩をポンと叩いて去って行った。

「あ~、美味しかったですぅ。詩音の知らない料理ばかりでした。私ももっと勉強しなきゃ駄目ですね」
「えっ、詩音の手料理も十分美味しいって」
「うふっ、ありがとうございます、ご主人様。詩音嬉しいですぅ」その笑顔が最高です。
しかし、シェフまでフロアに来たとなると次は
「本日のスィーツです。パテシィエが特別に作ったクリスマススペシャルです」
やはり、オーナーまでもが、やって来たか(-_-;)
「わぁ~、ありがとうございますぅ。美味しそうですぅ」
「折角のクリスマスですからね。ではごゆっくりどうぞ」
「村下君、今夜、閉店後に店のクリスマスパーティーやるから、参加してくれよな。もちろん彼女も一緒にな。あっ、彼女さんもOKでしょうか?」
「えっ?ご主人様・・・いえ・・・隆文さんが宜しかったら・・・」
「オーナー、分かりました。閉店までお台場で時間潰してますよ」
「では、後程・・・」
オーナーは丁寧にお辞儀して、キッチンに下がっていった。
「詩音、門限大丈夫だった? 」
「ハイなのです。そうだご主人様、これ・・・クリスマスプレゼントですぅ。」
そう言いながら詩音がごそごそとバックから、紙袋を取り出した。
「気に入ってもらえると良いんですが・・・」
「えっ?何だろう? 開けて見てもイイ?」
「ハイなのですぅ・・・ドキドキします~」
紙袋を開けてみると、それはニットの手袋だった。
「いっつも、アパートに帰った時、冷たい冷たいって、私のほぺったに掌を当ててくるからぁ」
あぁそう言えば・・・「ひやっ」とか「冷たいですぅ」って言うリアクションが楽しみなんですよね
俺もこの日の為に準備したクリスマスプレゼントを、コートのポケットから取り出す。
「詩音・・・これ・・・」
そう言って、小さな箱を彼女の眼の前に差し出す。
「ありがとうございますぅ・・・リボン解いてみても良いですか?」
えっ?ここで・・・! まぁここまで来たら、もう良いかぁ・・・
「あぁ、開けてごらん。」
リボンを解き、蓋を開けた瞬間、詩音の瞳が大きくなったのが、分かった。
「ご主人様・・・これって? ひょっとして?」
「就職が決まっただけだから、生活力なんて全く無いんだけど。いっつも俺に元気を与えてくれる、そばに居てくれる、そんな詩音と一緒に家庭を持ちたいんだ。」
プレゼントは、安物のシルバーリングだった。
「ご主人様・・・ううん・・・隆文さん、ありがとうございます。こんな私で良いんですかぁ?」
「あぁ、詩音じゃ無いと駄目だ。」
「ハイなのです。ず~っと付いていきますぅ」

背後に気配を感じ振り返ると、スタッフ全員が小さくガッツポーズをしていた(^_^;)


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「小村先輩~、今夜どこか飯食いに行きましょうよ~」
「ん、今夜は錦織さんと雲山に出て、イタ飯食う約束なんだ。お前も来るか?」
う~ん、他人がいちゃ付くのを見ても、楽しく有りませんからね。
「いや、お邪魔しちゃあ悪いですから。」
「って、言うかお前彼女とイブの夜を過ごさないのか?」
そうなんですよね、そこなんですよ。
こんばんわ、モリヒデです。
―――――――――12月24日(木)―――――――――
昨夜は、色々な意味でヒグラシと盛り上がりました(^^;)
でもイブ本番の今夜、ヒグラシは家族皆でクリスマスパーティーって言っていたから、俺が隣に居たら気を使うだろうと思い、夜遅くに家に帰るつもりです。
って言うか、隣で楽しくされるのは、少し辛いって言うのも有りますが。
小村先輩がデートとなると、誰か友人とカラオケでもするか、サンモールのゲーセンで時間を潰した後、適当にドライブでもして時間を潰すしかないですよね。
今さら大森の実家に夕ご飯食べに帰る気もしませんし。

考えてみたら、高校三年間はイブは、いっつもヒグラシと過ごしてましたね、もちろん颯太や緑川も一緒でしたが。
いつの間にか、ヒグラシ抜きの生活って考えられなくなってますね。
こんなに大切な存在になるなんて、付き合い始めの頃は考えもしなかったです。
そんな事考えていたら、無性に寂しくなり、らしくない事にブルーな気持ちになってきた。
昨日はあれだけ楽しかったのに、それが一日持続しいないって、不思議ですね。
きっと一日24時間一緒に居たとしても、時間が足りない気がする。
四六時中一緒に居たいって思う、自分にそんな女々しい一面が有るなんて、今まで気が付きませんでした。
これが恋って物なんですかねぇ?
会いたい気持ちが、どんどん自分の中に広がって行くのが分かります。
これが愛する気持ちなら、こんなに辛い物ってないですよね。

♪♪♪
ん?ヒグラシから電話です。
急に嬉しくなり、慌てて電話を取る。
「もしもし、おう俺だどうした?」気持ちとは裏腹に、いつもと同じ口調でしゃべり始める。
「ねぇ、モリヒデ。まだまだ残業? みんなあんたの帰りを待ってんだけど」
えっ?俺の帰り?
「いや、だってお前、今夜は家族でクリスマスパーティーなんだろ。」
「バカ、あんたもだって。あっ、うちのお母さんに代わるね」
「もしもし、森山君?お仕事お疲れ様。佳奈絵があんな事言ってるけど、大丈夫だからね。ちゃんと待ってるから、仕事終わらせてから帰ってくるのよ。気をつけてね。じゃあ佳奈絵に代わるね。」
「もしもし、ちょっと待って」受話器の向こうで、玄関を開け階段を降りて行く音が聞こえる。
「もしもし、お待たせ。ねぇモリヒデェ、あんたは私にとっても、うちの家族にとっても、大切な家族の一員なんだって。だって、モリヒデは私の将来の・・・将来の・・・」
「分かってる。」
その先のセリフを聴くのが照れ臭くて、そして聴いてしまうと泣いてしまいそうで、ヒグラシの話を遮った。
「もう少ししたら、会社を出るから。何か買って帰るもの有るか? ん?大丈夫? OKじゃあ急いで帰るから。そうだヒグラシ。愛してる。」
「バカ、何よ唐突に。でもありがとう。私も愛してる。」

相手の一言一句で、一喜一憂する。
それが、恋の良い所で有り、難しい所なんですね。
でも、悪くないもんですね、愛する人が居るって言うのも。

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