松舞ラブストーリー

山陰の仮想の町松舞町を舞台にした、様々な恋愛を見守ってやって下さいね

2010年04月

「すんません、ヒデ兄。便乗させてもらっちゃって。」
「良いって良いって」
「って、お前が言うな!楓~」モリヒデと健吾君が同時に突っ込みを入れた。
モリヒデの小さな車の中は、賑やかです♪
こんばんわ、カナカナです。
―――――――――4月19日(月)―――――――――
松舞は夕方から、土砂降りの雨でした。
列車に乗り遅れた楓ちゃんが、うちのアパートに雨宿りがてら遊びに来ました。
正確に言うと、モリヒデを足として使うつもりで、来たらしいんですが(^^;)ゞ。
もちろん、健吾君も一緒です。

「大した物出来ないけど、2人とも夕ご飯食べて帰ってね。」
「いいですよ、佳奈絵さん。お兄ちゃんが帰って来たらスグに送ってもらいますから。」
「ん~楓ちゃん、遠慮しなくて良いのよ。4人前作るのも6人前作るのも、手間は一緒なんだから。それに、最近モリヒデ少し残業して帰るから、まだまだ帰らないわよ。だから、二人で宿題でもしてなさいよ。」
「でも佳奈絵さん、悪いっすよ。」
「だから、健吾君も気にしない気にしない。本当に大した夕ご飯じゃないからね。」
私は台所に立ち、モリヒデや弟の健太、帰りが遅い母親の分も含め、6人分の夕ご飯の準備に取り掛かった。
「佳奈絵さん、手伝いますよ。」楓ちゃんも台所に立った。
「でも佳奈絵ちゃん、宿題は?」
「私は、明日提出のレポート、昨日の夜に仕上げたから、特に無いんです。健吾の方は、まだひとっつも書いて無いみたいで、必至に今書いてますけどね(笑)」
「へぇ~、楓ちゃんは優秀じゃん。同じ血筋でどうして、ああも違うのかしらね?」
「やっぱり、お兄ちゃんって宿題してませんでした?」
「うん、今だから言えるけど、よく高校卒業出来たなって感じよ」
「家に帰っても、パソコンかゲームばっかりで、教科書開いた所、見た事ないですからねぇ」
「でしょう、あいつの性格から言って・・・健吾君を今から、ちゃんと教育しておかないと、3年生になってから大変よ~(笑)。
2人とも、普通科だから進学よね?」
「う~ん、正直私は悩んでるんですよね、高校卒業したら大学進むか、松舞か雲山で就職しようか、悩んでいるんです。」
「そうかぁ、進学って言っても大学だけじゃないからね、短大だって有るし、私みたいに専門学校だって有るし。」
「そうなんですけどね・・・まぁ、夏休み位までには、方向性を決めようと思っているんですよ。」
「そうね、もう少し時間が有るから、じっくり考えた方が良いわね。モリヒデは就職だし、私は専門学校だし、カップルで東京の大学に行った友達居るから、各方面の話が聞けるわよ、いつでも相談に乗るからね。」
「ありがとうございます、佳奈絵さん。」
「どういたしまして♪ さぁ、じゃあ夕ご飯作るわよ。
ご飯は多めに炊いて有るから、後はおかずよね。
そう言えば、楓ちゃんや健吾君って、苦手な食べ物有るの?」
「えっ?2人とも特に無いですねぇ・・・」
「今日買って帰ったおかずは、刺し身だから・・・海鮮ちらしにしようか♪ それなら、すぐ出来るし。
あと、サラダかな。」
「あっ、じゃあ私、野菜切りますね。」
「じゃあ、楓ちゃんお願いね。」
もし、私とモリヒデが結婚したら、こんな感じで楓ちゃんと会話するんだろうなぁって、考えたら少しくすぐったい気分になった。
モリヒデのお母さんも優しくて良い人だし、姑、小姑の心配はしなくて良いみたいです。
・・・って、私ったら、何を考えてるんでしょうね(^^;)

モリヒデが帰ってきたのは、20時を回ってからでした。
「おう、楓に健吾遊びに来てたんか!」
「お帰り~。お兄ちゃん、大森まで送ってね。」
「それが目的か・・・まぁ、夕方土砂降りだったもんな。」
ふ~ん、何だかんだ言ってても、モリヒデって楓ちゃんには、甘いんですね(笑)
「あっ、モリヒデとりあえず夕ご飯食べてね。今夜は海鮮ちらし寿司と、楓ちゃんが作ったサラダよ。」
楓ちゃんと健吾君が、クスクス笑ってます。
「何々?私、何か変な事言った?」
「いや、今の佳奈絵さんのセリフって、思いっきり奥さんが言うセリフだなって話してたんですよ。」
「ちょっちょっと、変な事言わないでよ~。モリヒデの奥さんなんて、考えた事もないわよ~。」
「おう、俺だってもっと美人で優しい奥さんが、欲しいわい。」
「ひど~い、どうせ私は気が強くて、可愛くないわよ」
「はいはい、お二人さん、夫婦喧嘩は犬も食わないって言うから、それ位にしておきましょうね」
「おい楓!誰が夫婦なんだ?」
「まぁまぁヒデ兄、折角佳奈絵さんが温め直したお吸い物が冷めちゃいますから。佳奈絵さんの料理、最高っすね。」
「だろ~。ヒグラシの料理、結構いけるんだよな。たまに、何これって料理も有るけどな(笑)」
・・・まぁ、いっかぁ~。
褒められたのは私なのに、妙にモリヒデが嬉しそうに笑ってます。
きっと、今のモリヒデの笑顔が、本音なんでしょうからね♪
モリヒデの夕ご飯が終わったら、デザートタイムです。
颯太君お勧めの、雲山に有る青山コーヒーのマンデリン深入りを、学校帰りに買っておいて良かったです。
コーヒーを飲みながら、うちの店のロールケーキを皆で食べていたら、私達の高校時代の話になった。
モリヒデがアルバムを引っ張り出して、高校一年の夏休みの写真を、懐かしそうに見ていた。
「あれ?この人が佳奈絵さんですか?メガネ掛けていたんですね。」健吾君が一枚の写真を指さした。
「うん、高校2年からはコンタクトだけどね。ちょっと、そんなに昔の写真をジロジロ見ないでよ、恥ずかしいでしょ。」
健吾君が指さしたのは、モリヒデと私が笑顔で写っている写真。
確か、颯太君が買ったばかりのデジカメで、自慢げに撮った一枚だったと思う。
考えてみたら、この頃からず~っと私はモリヒデを好きだった気がする。
もちろん、気持ちを口に出した事は無いけど、そうあの頃からモリヒデだけを見ていた。
時が過ぎて、こんな形でモリヒデと日々を過ごすだなんて、あの頃は考えもしなかった。
何だかんだ言っても、やっぱり私はモリヒデの事を・・・


「じゃあね~ぇ、お兄ちゃん」
「ヒデ兄~、サンキュウっしたぁ」
二人が大きく手を降って、私達を見送ってくれました。
楓ちゃんと健吾君を送った帰り道、モリヒデと高校時代の話で盛り上がりました。
あの夏が、大雨続きじゃなかったら、私は今こうしてモリヒデの運転する車の助手席に、乗ってなかった気がする。
あの夏は、2人にとって大切な思い出の日々なんですよね。
「なぁ、ヒグラシ・・・。ちょっと寄り道していいか?」
「ちょっとぉ、変な所連れて行かないでよね、モリヒデ」
「馬鹿、誰がお前と・・・おっと、また楓に夫婦喧嘩は犬も食わないって笑われる所だった。」
「ふふ、そうね。でも私達って、夫婦に近い関係になってない?・・・あっ、変な意味じゃないわよ。
ほら、アンタの食事の世話や、洗濯物だって結構してあげてるし、夜一緒にテレビ見て過ごす事多いしさぁ。」
「う~ん、そう言えばそうかもなぁ・・・俺は全然ヒグラシと暮らしていても、苦じゃなけどな。」
「・・・・・・そりゃそうでしょ。身の回りの世話を、全部やってあげてるんだからね」
私だって、モリヒデと一緒に居て、全然苦じゃないですよ・・・むしろ心地よいです。
モリヒデのセリフの、裏の意味に気が付いてはいましたが、何て返せば良いのか分からなくて、つい、いつもの調子でツッコミを入れてしまいました。
ただ、シフト操作をしようとして、差し出したモリヒデの左手に、そっと自分の右手を重ねてみた。
「ヒグラシ・・・」
「モリヒデ・・・」
「・・・・・・いや、あのな。この車、オートマだけど、さすがにバックする時は、シフトを動かさなきゃいけないんだよな。」
「あっ、ゴメン(^_^;)」私はとっさに手を離した。
「さぁ、着いたぞヒグラシ」
「着いたぞって・・・ここ松舞高校じゃん。駄目だって、今入ったら不法侵入で、捕まっちゃうよ。」
「学校の中に入ったら・・・だろ。車止めるだけだ、ほら川土手を歩くぞ」
「川土手?」
そう、二人にとってこの校門から延びる川土手は、思い出の場所。
「足元暗いから、気をつけろよ」そう言いながら、私の手をモリヒデが握り締める。
「うん・・・あっ、この辺りだよね、カワラナデシコが咲いてたのって。」
「う~ん・・・、おう確かにこの辺だな。」
「あっ、あの茂みだっけ、こっそり隠れて朝ちゃんと颯太君を見守ってったのって?」
「いや、もう少し手前だったろう・・・ほら、あの茂みだ。
結局あの時、颯太は何も言えなかったんだよな。
ったく、本当世話のかかる奴なんだからなぁ」
「ふふふ、確かにそうだよね。今じゃ想像も付かないけどね(笑)」
「確かにな」クスクスとモリヒデが笑う。
その声に釣られて私もクスクスと笑う。
「あれから、3年以上経つんだね」
「そうだな・・・今までありがとうな、ヒグラシ・・・これからも宜しくな」
「モリヒデ・・・」
「馬鹿、食事と洗濯の話だぞ」
「そっちかよ~」
川面に映る月明かりの中、そっとモリヒデの唇に自分の唇を寄せる私が居た。


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ある高校生の夏休み編【完結】
(小夜曲)sérénade編【完結】
楓・青木先輩編【完結】
本田・沢田編【完結】
2009年収穫祭編【完結】


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4月中旬も、もう少しで終わりだと言うのに、昨日は東京に雪が降りました。
桜も散った、この時期に雪が降るなんて、やっぱり異常気象なんでしょうね。
そんな事を思いながら、駅からアパートに向かって歩いていたら、ついついイルカの「なごり雪」を口ずさんでいました。
「日向・・・」
不覚?にも、そんな言葉が僕の口から、こぼれる。
こんばんわ、洋介です。
―――――――――4月17日(土)―――――――――
東京に来て9カ月、松舞を離れてから、2年半が経ちました。
日向との結婚を、夢見ながら入社した会社なんですが、結婚どころか、どんどん日向との距離は離れて行くばかり。
せめてもの救いは、距離が離れれば離れる程、相手を思う気持ちが強くなっている点です・・・たぶん、日向もそうだと思う・・・思いたいです。
入社して松舞で2~3年働いて、収入が安定してきたら、日向に結婚を申し込むつもりでした。
大阪転勤が決まった段階で、退職していれば良かったのかも知れませんが、今の会社に勤める前に1年以上プータローしてましたから、離職する勇気が出ませんでした。
ここで数年働いたら、日向を大阪に呼んで暮らそうと考え始めた矢先に、今度は東京転勤です。
さすがに、この先どうなるか不透明過ぎて、日向を東京に呼ぶ勇気は湧いては来ませんね。

今日も明日も、取引先の会社の社外イベントの手伝いで、出勤です。
ガーデニング関係の会社のイベントでしたから、夫婦や親子連れも結構来てました。
そんな他人の幸せな風景を見ていたら、少し自分の境遇が嫌になってきた。
俺だって、ポカポカ陽気の休日、日向と手を繋いで、庭に植える植物を「あ~でもない、こ~でもない」って感じで、おしゃべりしながら買い物したいのに。
他人と自分の、幸せの尺度はもちろん違うと思うけど、そんなに極端には違わないと思う。
もちろんこのままズルズルと過ごす訳にはいかないと思ってますよ。
今の会社に勤めたまま、日向と一緒にはなれないのを、悟りました。
会社を取るか日向を取るかの、選択に迫られたら間違いなく日向を取ります。
そして、「ずいぶんと、寄り道してゴメン。これから先、一緒に暮らそう」って、手を差し出すつもりです。

アパートの手前に有る保育園の通用門から、保母さんらしき女性が、数名出てきました。
保母さんも、残業だったんでしょうか?
日向も頑張ってんだろうなぁ。
今もまだ、机に向かって書類を仕上げているのかも知れませんね。
あいつはあいつなりに、頑張っているんだから、俺だって頑張らなくっちゃいけませんよね。
向かっているゴールは、きっと一緒なんだろうから・・・。
そう思ったら、自分一人が辛いんじゃないって、気が付きました。
待たせるのも辛いけど、待つ方だって同じだけ辛いですよね。
とにかく、ゴール目指して頑張るしかないですよね、幸せと言うゴール目指して。

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バイトの帰り道、下北沢の駅前通りを抜け、小さな公園の中を歩く。
ふと、見上げた空には、満開の桜。
早いもので、上京してもう1年が経つんですね。
こんにちは、颯太です。
―――――――――4月4日(日)―――――――――
♪♪♪
ん?朝ちゃんからメールです。
「颯太君、もう下北の駅に着いた? 今、夕ご飯の準備してるけど、ワインが無くなってました。銘柄はお任せするので、一本買って帰って下さい。因みに今夜のメニューは、チキンのオレンジ煮です。」
春休みに入ったんですが、僕らは松舞に帰らず、下北沢で一緒に過ごしてます。
「オレンジ煮かぁ・・・なら、フルーティーなスパークリングワインだよな。」
チキンのオレンジ煮は、鶏肉をオレンジジュースで煮込んだ、朝ちゃんのオリジナル料理です。
濃厚なオレンジソースの、香りの奥に広がる酸味と甘み、そして苦みのバランスが絶妙なんです。
朝ちゃん曰く、「鶏肉のコーラ煮を、アレンジしただけ」って言ってますが、やっぱり彼女は料理の天才です。

アパートの近くの商店街に入る。
松舞商店街より、短く小さな商店街なんですけど、活気に溢れてます。
商店街の入り口に有る100均の店頭に、「新生活スタートセール」のポスターが、貼ってあった。
僕も去年の春、この店で朝ちゃんと色々な生活必需品を買いました。
その先のいつも使っている、個人経営のスーパーに入る。
そう言えば、初めてこの店で買い物した日の帰り道、嬉しくってつい買い物袋を振り回していたら、取っ手の部分が引きちぎれてしまい、生卵が割れちゃって、朝ちゃんに怒られました。
その日の夕ご飯の超特大オムレツは、今でも笑い話になってます。

お目当てのスパークリングワインを探して、リカーコーナーを目指していると、いかにも高校卒業したてって感じの男の子が、キョロキョロしながら、ぎこちなく野菜コーナーを歩いていました。
有りました有りました、僕にもそんな時が。
朝ちゃんと買い物する事が多かったんですが、たまには、僕一人で買い物する事も有りました。
今まで、野菜や肉を買いに、スーパーに行く事なんて無かったですから、新鮮な野菜や肉の選び方、そして値段の高さに、オロオロしてましたよ。
まぁ今じゃ、賞味期限をチェックして出来るだけ、棚の奥の方から商品を取るのにも、抵抗が無い位になってますけどね。

しかし月日が経つのなんて、あっと言う間なんですね。
上京の朝、松舞駅を出発した列車の中で朝ちゃんの手を握りしめていた事。初めて降り立った東京駅、そして電車を乗り間違えた事。初めて結ばれた夜の事。全ての出来事が、つい昨日の様に思い出されます。
ウォークマンでBGM代わりに聴いていたFMラジオのドラマ番組から、渡辺美里の10yearsって曲が流れてきた。
俺が小さい頃、両親が良く聴いていた曲です。
♪この先10年も~・・・
朝ちゃんと一緒に居られたら・・・ふっと、そんな事考えて、一人赤面してしまう。
でも、それって本心なんですから仕方ないですよね。

お目当てのスパークリングワインを抱えて、アパートの階段を駆け上がる。
僕の部屋のドアから、甘酸っぱいオレンジの濃厚な香りが漂っています。
この香りの向こうには、大好きな朝ちゃんがお気に入りの曲を口ずさみながら、キッチンに立っている。
一人、幸せを噛み締めニヤニヤしながら、ドアノブを握る。
「ただいま~」ドアを開けると、狭いキッチンに立つエプロン姿の朝ちゃんが居た。
「おかえり、颯太くん。お疲れさまでした。」
僕は誇らしげに、スパークリングワインを掲げながら、朝ちゃんを抱きしめる。
「ちょっと颯太くん・・・今、コンロに火が入って・・・」
優しくキスをする。
そしてもう一度、「ただいま」って呟く。
「おかえり、颯太くん」朝ちゃんも、もう一度呟く。
ただ、そのセリフを聞きたかった、そして幸せを実感したかった。
「もう少しでご飯出来るから、テーブルの上を片付けておいて。」
そう言うと朝ちゃんは、僕の腕からすり抜けていった。

居間兼寝室の洋室に入り、ステレオのスイッチを入れ、さっきのラジオドラマの続きを聴きながら、テーブルの上教科書やノートを片付ける。
どうやら朝ちゃんは、僕を待つ間、勉強をしていたみたいですね。
そんな真面目な所も大好きです。
あらかた片付け終わった頃、携帯にメールが届いた。
チェックしてみるとモリヒデからのメールだった。
なんだ?また金田と喧嘩でもしたんか?
そんな事を思いながら、メールをチェックする。
「颯太、元気かぁ?なんかメールするの久しぶりって気がする。
緑川も松舞に帰ってないって聞いたけど、って事は二人で過ごしてんのかな? まぁ、失敗しない様に」
って、何を失敗するんだぁ(^^;)ゞ
「今、ヒグラシに付き合って、雲山のサティーに来てんだけど、何で女ってウインドウショッピングが好きなんかねぇ。
俺は飽きてしまったから、エスカレーター脇のベンチに坐って、コーラ飲みながらこうしてメール打ってる。
やっぱ緑川もそうなんか?」
う~ん、そう言えば確かにそうかも知れない。まぁ俺は出来るだけ、付き合う様にはしてるけどね。
「こっちの近況を話すと、うちの会社にも新入社員が入って、俺もついに先輩になったぞ。
ただ、学生と違って春休みなんて無いから、毎日忙しいんだけどな。
ヒグラシは無事2年生に進級出来た。
新学期早々、就活を始めなきゃいけないらしく、忙しくなるらしい。
一応松舞か雲山での就職考えてるそうだ。」
そりゃ、金田だってお前の傍に居たいだろうな。
モリヒデは社会人だし、金田は就活って聞くと、自分だけ周りの環境に取り残された様な気になります。
でも焦った所で、こっちは後3年間は大学生活しなきゃいけないんですけどね。
人は人、自分は自分ですよね。
「相変わらず、よく喧嘩するけど仲良くやってるぞ。
そっちは、相変わらずイチャついてんだろうな(笑)」
大きなお世話だ!
「ここだけの話だが、最近ヒグラシとの結婚をマジで考えるようになった。」
嘘だろ~マジかよ~
「どうしたの?颯太くん?」つい、声を挙げた物だから、台所から朝ちゃんが尋ねてきた。
「朝ちゃん、ゴメンゴメン。何でも無いって」
結婚の二文字には、びっくりしました。
「ヒグラシは学生だし、まだまだ先の話にはなると思うけど、あいつしか居ないって思っている。
まぁ、食事はヒグラシに作ってもらってるし、平日の夜も結構二人で過ごしているから、今時点でも半同棲生活みたいなもんだけどな。
まだ、正式に挨拶はしてないけど、ヒグラシのお母さんや、大家さん一家には、家族同然に可愛がってもらってる。
この前なんか、皆で大家さんの家で呑んでたら、大家さんが酔っぱらって、『森山君、孫の事・・・佳奈絵の事をよろしく頼むよ』って、泣き付かれて大騒ぎだったぞ。
颯太は、授業が忙しいだろうし、まだ大学生活が3年も残ってるから、ピンと来ないかも知れないけど、俺はマジでヒグラシと一緒になるつもりだ。
おっと・・・ヒグラシが少し怒った顔で、こっちを見てるわ(^^;)じゃあ、またメールするわ。」
メールを読み終えて携帯を閉じる。
・・・結婚かぁ。
全く考えた事無い訳じゃないけど、まだまだ先の話だと思ってる。
でも、同い年の奴しかも一番仲の良いモリヒデが、そんな事考えていると思うと、益々取り残された気分になる。
うつむく僕を、朝ちゃんが心配そうに覗き込んできた。
「どうしたの颯太君?大丈夫、何か有った?」
「あっ、ゴメンゴメン何でも無いって。モリヒデから久しぶりにメールが来たんだ。」
「どうしたの?また、カナカナと喧嘩でもしたの?」
「あはっ、やっぱり朝ちゃんもそう思った(笑)
そうじゃなくて、モリヒデの奴、金田とけっ・・・」
僕は言葉に詰まった。
「結構、上手くやってるみたいだよ。今も、雲山のサティでウィンドウショッピング中だってさ」
「そうなんだ・・・そうよね、私達がずいぶん助け船出してあげたんだから、上手く行ってもらわなきゃあね。
ご飯の準備出来たよ、運ぶの手伝ってね♪」
「あぁ、今行くよ」
朝ちゃんが、結婚って事を意識するのが、怖くって恥ずかしくって、つい結婚って二文字を言葉に出来なかった。
別に逃げた訳じゃない、俺だって朝ちゃんとの将来を夢見る事も有る。
ただ、学生の僕達には、それは余りにも現実離れした話であって、漠然とし過ぎているだけだった。

テーブルの上に整然と並べられていく料理を見ていたら、少し気分も晴れてきた。2848b7b2.jpg


モリヒデにはモリヒデの、俺には俺の幸せが有るって。
今の俺には出来ない事を、モリヒデがしている様に、モリヒデ達には出来ない事を、俺たちはやっているんだ。
朝ちゃんのワイングラスに、黄金色のスパークリングワインを注ぐ。
グラスから湧き出る小さな泡を、朝ちゃんがうっとりと眺めている。
そんな朝ちゃんを、愛しく思えた。
今は、それだけで十分だ。ただ傍に居てくれるだけで、それだけで十分だと思う。
俺は、朝ちゃんにワイングラスを差し出し、静かにグラスを鳴らした。


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