松舞ラブストーリー

山陰の仮想の町松舞町を舞台にした、様々な恋愛を見守ってやって下さいね

2010年07月

「はいはい、積もる話は乾杯の後にしましょうね。」日向さんが皆にビールやジュースを渡す。
さすが日向さんです、モリヒデには有無を言わせずジュースを渡してます(笑)
「それじゃあ、みんな。今日は飲んで食べて楽しみましょう、かんぱ~い」
日向さんの挨拶で、みんなが乾杯をする。
たまには、こんな休日も良いですよね♪
しかし、世間は狭いって言うか、松舞が狭いのかな? 日向さんの彼氏さんと、小村さんがバスケの知り合いだなんて。
二人ともバスケ選手ってだけ有って、背が高くてカッコイイんですよね。
それに比べて‥‥‥写真部OBのあいつときたら(^_^;)
最近、ウエストが太くなって来ているらしい。
このところ、不摂生ばかりしているしね


みんなで、ワイワイと楽しく飲み食いをしていたら、みゆちゃんパパが「出来た~」っと声を挙げた。
みんなでワァ~っと集まる。
これが、噂のダッヂオーブンって奴ですね。
「すごいよなぁ、美結ちゃんパパって。一人で鶏の丸焼きなんか作っちゃうんだもんなぁ、なあ楓」健吾が話し掛けてきた。
「そうよね~。健吾あんたも、草食系男子を気取ってないで、もっとワイルドになってみたら?」
「大きなお世話だ、楓」

木下さんが重そうな黒い蓋をあけると、美味しそうな湯気が辺り一面に広がった。
「お~イイ香りだな、ヒグラシ」
「そうね、ローズマリー達のハーブの良い香りもするわね」
「そうよ金田さん、今日のチキンは自家製ハーブを使った木下家特製チキンなのよ」
「すごい、ハーブも自家製ですか」
「うん、未だ育て始めたばっかりだから、そんなに量は無いけどね」
なんか、木下さん夫婦を見ていると、私の目指している結婚生活のお手本の様な気がします。
木下さん達みたいな温かい家庭を築きたいものです。

大きなお皿の上には、こんがりと焼き上がったチキンが鎮座しています
「さあ、みんな好きに切り分けて食べてよね」
ナイフとフォークで、腿の部分を少し切り取り、付け合わせの野菜もお皿に取る。
う~ん、さすが美結ちゃんパパが、他人に振る舞いたくなるだけの事は有って、程よい塩気に、爽やかなハーブの香り、ピリッとスパイスも効いていて、凄く美味しいです。
「美味しいですね、比呂十さん。」
「そうですね、こんなレストランでしか食べれない料理を、松舞川の河川敷で食べれるとは思いませんでしたよ。エンジェルスの女の子達に言ったら、うらやましがるでしょうね、きっと」
「ですよね、『コーチ達ばっかりズルイ~』とか、絶対言われそうですよ(笑)」

「それで、小村さんのミニバスチームは強いんですか?」
少し酔っぱらった洋ちゃんが、小村さんに話し掛けています。
「今年は、一応夏季県大会に出場出来たんですよ。でも、うちのチームは背が高い訳でも、個人スキルが高い訳じゃないですからね。ただ美咲さんのトレーニングのお陰で、体力が付いて来ましたから、オールコートのマンツーで、ゲームが出来るんですよ。」
「そりゃ、子供達も大変ですね~(笑)。」
「ははっ、確かに。子供達には鬼コーチって呼ばれている事でしょう。 ところで、今、村田さんはどちらにお勤めです?」
「俺っすか? 営業会社で、松舞を皮切りに大阪、東京と転勤続きなんですよ。」
「そうなんだ、じゃあ今日会えたのは、本当に偶然だね」
「そうですよね、これからも日向の事を、よろしくお願い致しますね小村さん」
「イエイエこちらこ。って言うか、お願いするなら錦織先生の方じゃないかい?」
もう、洋ちゃんったら、余計な事を(笑)
「そう言えば、二人の馴れ染めを未だ聞いてなかったわね、日向先生~」
うっ、錦織先生‥‥酔っぱらってませんか?
「はいは~い、俺達知ってま~す」
モリヒデ君も酔っぱらってますね‥‥
「こら、未青年は黙っておきなさい。それより、ケーキ種を作るの手伝ってよねモリヒデ」佳奈絵ちゃんが、止めに入ってくれた。


なんでも、金田さんと森山さんが美結達の為に、ケーキを焼いてくれるそうで、ダッヂオーブンの使い方を教わりに来た。
火加減とかが難しいから、焼き担当は俺と真子がやる事にした。
美結も、何かと彼女達の手伝い‥‥って言うより邪魔をしている
普段、他の大人達と接する機会が少ないから、いいチャンスだと思う

「かなえおねえちゃん、ちいさくした、にんじんさんは、どうするの?」
「えっとね、美結ちゃん。このボールの中に入れてくれるかな」
朝ちゃんに急遽、メールでレシピを教えてもらっておいて良かったです。
ほんとう、頼りになる友人です、朝ちゃんは。
そう言えば、今年も朝ちゃんと颯太は、松舞の花火大会に合わせて帰って来るそうです。
朝ちゃんに、沢山話したい事が有るから今から楽しみです♪

幸ちゃんが、こんなに皆に頼りにされるなんて、思ってもいませんでした。
ダッヂオーブンに炭を乗せたり、下に炭を加えたりしながら、ケーキを焼いている幸ちゃんの横に座り、「お疲れさま」って缶ビールを差し出す。
「おっ、サンキュー真子」喉をグビグビ鳴らしながらビールを飲む幸一。
「丸焼きも随分はけたわよ。」
「そうみたいだな、後に残った骨は持って帰ろう。いいスープが取れるからな」
「うん、了解」食材を最後の最後まで使い切る、その姿勢も大好きなんですよね。少し暮らしが楽になったからと言って、決して贅沢はしない姿勢が。


「ちょっと、健吾。あんた未だ食べるの?」
「おう、だって旨いんだよ、このチキン。えっ?何すかヒデ兄? カルビが焼けたんですか? それも頂きます♪」
う~ん、信じられません、この食欲!
「楓、しっかし、バーベキューって楽しいもんだな。今度、家でもやろうな。」
「そりゃ、あんたは食べるだけだろうから、楽しいだろうね」
「ちゃんと、材料切る所から手伝うって。いつかキャンプにも行きたいな。」
「う‥‥うん」いくら草食系の健吾とは言え、二人でキャンプは‥‥‥でも楽しいでしょうね、満天の星空を眺めながら、二人でするキャンプって。


「じろうくん、もうすぐケーキがやけるね。」
「うん、たのしみだね、みゆちゃん」
「でも、ニンジンケーキって、ニンジンくさくないのかなぁ?」
「ダメだよ、みゆちゃん、ニンジンくさくっても、ちゃんと、たべなきゃあ。ちゃんとたべなきゃ、ぼくのおよめさんにしてあげないぞ」
「じろうくんの、いじわるぅ。みゆ、がんばって、たべるからぁ」

・・・・・・あらら、次郎君ったら、さり気無く美結ちゃんに、プロポーズなんかしてますね。
しかし、予想以上にバーベキュー大会は盛り上がってます。
企画した私としては、嬉しい限りです。
えっ?何?モリヒデ君?「また、企画して下さい」って?
「うん、良いけど、今度はフリーのイケメン男子を連れて来てよね、モリヒデ君」
・・・しまった洋介が睨んでいます・・・私まで酔っぱらってしまったのかしら?
「うそうそ、嘘だって、洋ちゃん。私は、洋ちゃんオンリーだって♪」

一瞬、みんながこっちを振り返った・・・
「日向さん、ラブラブだね。」「日向先生~、妬けちゃうわぁ」「ひなちゃん、ごちそうさま~」
みんなが口々に言いたい事を言ってくれます。
洋ちゃんは、小さく「馬鹿」って言いながら、飲みかけの缶ビールを高く上げた。


「さぁ、ケーキも焼けたぞ~」
木下君の掛け声に、またみんなが、ワァっと集まって来た・・・
「美味しそう~」「きれいな色だね」「良かった、ちゃんと出来た」
みんなでワイワイおしゃべりをしながら過ごす休日、今日は最高の一日です。




松舞ラブストーリーアーカイブ
 
ショート・ショート編
モリヒデ・ヒグラシ編
颯太・朝葉編
洋介・日向編
幸一・真子・美結編
御主人様28号・詩音編
比呂十・美咲編
優ママ編
本田・楓編
ある高校生の夏休み編【完結】
(小夜曲)sérénade編【完結】
楓・青木先輩編【完結】
本田・沢田編【完結】
2009年収穫祭編【完結】


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「お~い、モリヒデ、健吾、起きなさ~い」
玄関越しに、ヒグラシと楓の叫ぶ声が聞こえる。
う~ん、昨日は調子にのってビール飲み過ぎたかな。
頭が少しボ~ッとしてます。
「ヒデ兄、おはようございます‥‥今、何時っすかぁ」
タオルケットに包まって雑魚寝していた健吾が、ノソノソと起き上がる
「ん? 9時だな‥‥あ~あいつらの声が頭に響くわぁ」
「ですよね~(笑)」そう言いながら健吾が玄関のカギを開ける。
―――――――――7月25日(日)―――――――――
「ったく、二人ともいつまで寝てるのよ~」
楓が、ドカドカと上がり込んできた。
「ぎゃぁっ、健吾何でパンツ一丁なのよ。汚いトランクス見せないでよ」
「だって部屋が蒸し暑いんだぞ」そう言いながら、健吾はゴソゴソと服を着ている。
「モリヒデもいつまで寝てるのよ。朝ご飯出来てるわよ。今日は朝から忙しいんだからね。」
「ほいほい、今行くって。」俺も、ゴソゴソと着替え始める。
今日は、日向さんや小村先輩、去年の収穫際で顔見知りになった園児の家族と松舞川の河原でバーベキューするんです。


「キャベツにナスビにジャガイモ、しいたけ‥‥そうそうニンジンも持って行って美結ちゃんに食べさせなくっちゃあね。」
「日向、今朝取れたてのトウモロコシも有るわよ。何本か持って行くかい」
「あっ、ありがとうお母さん。じゃあお父さん、これだけ野菜持って行くね。」
「おう日向、気を付けて行けよ。」
店先に車を止め、段ボール一杯の野菜を、トランクに詰め込む。
実家が八百屋だからバーベキューする時は、必ず野菜調達係なんですよね(笑)


「比呂十さん、おはようございます。お待たせしてすいません。」
美咲さんが、俺の車に乗り込んでくる。
「おはようございます、美咲さん。いい天気になりましたね。」
「ええ、思わずUVローションたっぷり塗っちゃいましたよ。」
「あっ俺、なにもローション持って来てないや。」
「だろうと思って、ちゃんと持って来ましたよ、ほら。」
「おお、さすがっすね。」
「なんて、実はいつでもバックに入れてるんです。園児達は、紫外線なんか関係ないですからね。それに、エンジェルスの練習の時も、外にランニングに出掛ける事有りますからね」
「お陰で、エンジェルスメンバーも結構体力つきましたよ。松舞地区代表として県大会出れるなんて、去年の秋の時点では考えもしませんでしたからね。」そう言いながら、俺はアクセルをゆっくり踏み込んだ。


「炭OK。バーベキューコンロOK。」
「ねぇ、幸一。タープもちゃんと積んだ?」
「OK、OK。じゃあ忘れ物は無いかな?」
「とうしゃん、はやくしないと、じろうくんが、まちくたびれちゃうよ。」
「おう、そうだな。じゃあ、次郎君ちに向かおうか」
「待って待って、冷蔵庫の中の食材積み込まなきゃ。美結ちゃんも、ちゃんと運ぶの手伝ってよね」
「うん」
真子と美結は、パタパタと台所に駆けって行った。
いや、しかしアウトドアシーズンに入りましたね。
やっぱり夏は屋外バーベキューで決まりですね。


集合場所は、今回のバーベキュー会場でも有る、松舞川河川敷公園の駐車場でした。
「あっ、キュアピーチのおネエちゃんだぁ」
そう言われて振り返ると、そこに女の子と男の子が2人仲良く手を繋いで立っていた。
「美結ちゃんと、次郎君ね、おはよう~。今日も暑いわね」
「みゆね、ちゃんとユーブイローションぬってきたよ。おはだが、しみだらけに、なったら、いやだもんね」
うっ、私は、通学や野球の応援で真っ黒に日焼けしてると言うのに‥‥‥今の園児ときたら(・_・;)


「じゃあ、男性陣は、バーベキューやテーブルの準備お願いね。私達はお肉や飲み物買ってくるから」
今回の幹事、日向さんが皆に声をかける。

「あっ日向、じゃあうちの車で行こうか。うちの車なら8人乗れるし、荷物も詰めるから」
「そうね真子、運転お願いして良いかな?」
「OK。じゃあ幸一、取り急ぎ必要な荷物下してくれる?」

「おう、了解。」
その会話を聞いていた小村さんが、ヒデ兄に声をかける
「あっ、手伝いますよ、俺達も。ほら、森山お前も手伝えよな」


僕達は、河原へと荷物を運び込んだ。
「あち~。おい森山~クーラーボックスの中のビール取ってくれよ。木下さんも飲まれませんか?」
「そうですね、こう暑くちゃビールでも飲みながらでないと、やっておれませんよね。森山君も飲むだろ?」
「ダメっすよ、木下さん。森山は未だ20歳になってないんっすから」
「後、2カ月じゃないっすか、小村先輩~」
「知らねえぞ、佳奈絵ちゃんに文句言われても。」
「なんだ、森山君はもう彼女の尻に敷かれてるのか(笑)」
「うっす。じゃあいただきま~す。敬吾、お前はコーラか」
「うぃっす、頂きます。」
男4人、河原に座り込んで、喉を潤した。

「小村さんって、どちらにお勤めなんですか?」
木下さんが、小村先輩に話し掛けています。
「俺っすか、俺は松舞電設って電機工事屋です、森山はそこの後輩なんですよ。」
「松舞電設さんですか、うち雲山設計なんです。いっつも図面の仕事頂いてますよね、俺は一般建築がメインだから直接図面描いた事ないんですけどね。奇遇ですね。」
「あっ、木下さんって雲山設計さんだったんですね。」
つい、俺も口を挟んでしまった。
「お互い、忙しいっすよね、この業界。」
「ですよね、お互いお疲れさまです。」木下さんが缶ビールを前に突き出した。
4人で意味も無く乾杯をする。
「さて、お客さんより怖い、女連中が帰ってくる前に、炭を準備しておきましょうか」木下さんが、ゴソゴソと荷物をほどき始めた。


「ひなたしぇんしぇ、どうしてもにんじん、たべなきゃだめ?」
「そうよ、美結ちゃん。ニンジンは美容にも良いんだから。次郎君はちゃんと食べれるもんね」
「うん、ひなたせんせい。」
「だって、ニンジンって、くさいんだもん。」
「大丈夫だって。先生がちゃんと甘くて美味しいニンジンを選んで来たんだから。先生のおうちで売ってるお野菜は、甘くって美味しいって評判なんだよ。ねえ、錦織先生~」
「そうよ、美結ちゃん。錦織先生も、日向先生のお店のニンジン大好きなんだよ」

「そうだ美結ちゃん、じゃあお姉ちゃんが、今日ニンジンのケーキ作ってあげる。それなら食べれるでしょ。」
「ニンジンケーキ? たべたい。みゆ、たべたい」
「ぼくも、たべたい。いいでしょ、おねえちゃん」
「じゃあ、みんなで沢山作ろうね」
私は心配になりそっと聞いてみた。
「佳奈絵さん、オーブンも無いのに作れるんですか?」
「多分ね、楓ちゃん‥‥‥あの~木下さん、さっき下した荷物の中に、確か大きな鉄の鍋が有りましたよね?」
「えっ、あぁダッヂオーブンね。うん、鳥の丸焼きを皆に振る舞うって言ってたから、間違い無く持って来てるはずよ」
「じゃあ、木下さんの旦那さんに手伝ってもらえば、出来ると思う。実は私もあの鍋には興味が有ったのよ。ねえ楓ちゃん、ちょっとお菓子材料のコーナーに付き合って。日向さん達、先にお肉とか選んでもらってていいですか?」
「じゃあ、私たちは先にお肉やジュース買っておくからね」

「すごいわね彼女、思いつきでニンジンケーキ作るだなんて。」
「そうよね~、佳奈絵ちゃんはいっつも、うちの朝葉とお菓子とか作ってるからね」
日向と錦織先生が、佳奈絵ちゃんに関心しています。
確かに、思いつきで出来る様なケーキじゃないですからね。
「それで真子、お肉どれ位買うの?」
「そうねぇ、若い子も居るからねぇ。多めに買っておこうか。そうそう、精肉コーナーで予約しておいた、丸抜きのチキンも持って帰らなきゃね」

「鳥の丸焼き作るなんて、幸一の奴、本当に料理にはまってるのね。真子からソース入りタヌキうどんの話を聞いた時は、美結ちゃんの健康面心配したけどね。」
「なんですか日向先生、そのソース入りタヌキうどんって?」
「そっか、錦織先生には話してませんでしたよね」そう言いながら、日向がクスクス思い出し笑いをしています。

「お待たせしました。うわっ、沢山お肉買いましたね。」
「でも、うちのお兄ちゃんと健吾なら、食べちゃいそうですよ、この位。」
「おねえちゃん、ケーキのざいりょう、あったぁ?」
「有ったわよ、美結ちゃん。キュアピーチのお姉ちゃんと、佳奈絵お姉ちゃんが、頑張って作るから、ちゃんと手伝ってね。」
「うん、みゆも、おてつだいするね。」
はしゃぐ楓ちゃんや美結ちゃんを見ながら、私は少し焦っていました。
勢いで作るって言ったものの、考えてみたらケーキ作りは朝ちゃんの得意分野です。
たぶん、ニンジンを茹でてから潰せば大丈夫だと思うんですが、いや‥‥‥やっぱり生を擦りおろすんだったかな?
こうなったら、朝ちゃんにこっそりメールで教えてもらおう♪

♪♪♪
日向先生の携帯にメールですね。
携帯を開いて、ニンマリ笑ってます。
ボタンを操作して、携帯を閉じる彼女に話し掛ける。
「日向先生、ニンマリ笑ってたけど、何?噂の彼氏からのメール?」

錦織先生に、そう問われて、表情に現れていた事が恥ずかしくなった。
「う、うん。あのね、一昨日から広島に出張に来てるらしいんだけど、急に明日、雲山で打ち合わせが有るんだって。今、こっちに向かって車を走らせているんだって」
「えっ、日向さんの彼氏さん、こっちに来られるんですか? きゃ~、会ってみたい~」
話を聞いていた佳奈絵ちゃんが、はしゃいでいます。
「うん、一応松舞川の河原に居るって、メール返信したけどね。」
「じゃあ、バーベキュー食べに来るんですね、ラッキー♪」
「ちょっと佳奈絵ちゃん、変に期待しないでよね、そんなに良い男じゃないんだから。」
「日向先生、『そんなに』って事は、少しは良い男って事ですよね。私も楽しみだわぁ、お会いするのが」
「またぁ、日向~。洋介さんって結構イケメンじゃないのぉ」
「美結ちゃんママは、会われた事有るんですか?」
「えぇ、錦織先生。最近は会ってないですけど、以前に何回か。」
う~ん、何か話が大袈裟になってきましたね。


河原に戻ってみると、バーベキュー台からモクモクと白い煙が上がってました。
「幸ちゃん、準備OK?」
「おう。いつでもいけるぞ。」
「じゃあ、みんなで急いで、材料の準備しなきゃね。美結は椅子に座って、次郎君と休憩してなさい」
「うん、わかった。おかあしゃん、ジュースのんでいい?」
「飲みすぎちゃあダメだよ、コップはいつものコンテナの中に入っているからね」

美結ちゃんが、ゴソゴソとコンテナボックスから、コップを2個取り出してきました。すごい、賢い子供ですね、美結ちゃんって。
「それじゃあ、私と楓ちゃんは野菜を切っていきますね、日向さん」
「うん、お願い。私と美咲先生は、お肉の方準備するから」
美結ちゃんパパとママは、手際良くチキンのお腹の中に、色々詰めておられます。
「さぁ、モリヒデ、健吾君、野菜を洗うわよ‥‥‥って、何、19歳の分際でビール飲んでんのよ~」

あらら、確かにお兄ちゃんはビール飲んで、出来上がり始めてます(・_・;)
「良いだろ、あと2カ月で成人なんだから」ブツブツ言いながら、お兄ちゃんと健吾が、野菜を袋から取り出し、水飲み場に運んで行きました。
「じゃあ佳奈絵さん、私も洗うの手伝ってきますね。」そう言い、私は二人の後を追いかけた。

「おし、準備OK。真子、ダッチオーブンにオリーブオイル引いてくれるか?」
「うん、ニンニクも入れちゃうわよ」
「おう頼むわ。」
いや、真子が居てくれて本当に助かります。さすが、俺が認めた伴侶です(笑)
しかしこんなに早く他人にダッヂ料理を振る舞う事になるとは、思ってもいませんでした。って言うか、料理を他人に振る舞う事自体、結婚前には考えられなかった事です。
美結や真子が「美味しい」って言ってくれるから(お世辞かも知れませんが)、ついつい又作りたくなっちゃうんですよね。

「大体お肉は準備し終わったわね、日向先生。」
そう言いながら美咲さんが、日向さんに缶ビールを手渡す。
「あっ、ありがとう~錦織先生~、ちょうど喉が乾いてたんだ」
「比呂十さんも、もう一本飲まれますか?」
「あっ、はい、頂きます。」
僕らの会話を聞きながら、日向さんがクスクス笑ってます。
「あれ?俺、何か変な事言いました?」
「あは、ごめんなさい小村さん、錦織先生。もう、付き合い始めて、1年近く経つのに、相変わらず礼儀正しいと言うか、他人行儀というか(笑)」
「そうですか? エンジェルスの練習の時とか、馴れ馴れしく呼び合う訳にいかないからですかな?」
「そう言えば、松舞エンジェルス夏季県大会出場ですってね、おめでとうございます。」
「ありがとうございます、日向さん。まぁ、県大会でどこまで頑張れるか、微妙ですけどね。」
そうなんです、県大会ともなれば、県内の強豪が集まりますからね。
正直エンジェルスの今のレベルでは、1勝も出来ない可能性が高いです。

「それでね、じろうくん、あきこちゃんたら、ひどいんだよ。ゆうこちゃんのかいた、えに、ぐしゃぐしゃに、らくがきするんだよ。‥‥ねえ、みゆの、はなしきいてる?」
じろうくんったら、おとうしゃんがつくってる、チキンのまるやきが、きになるみたいです。
「ねぇ、みゆちゃんのおとうさん、なにつくってるの? みにいって、みようよ」
「うん、いってみようか。おとうしゃ~ん」

僕の前を、美結ちゃんと次郎君がトコトコ手を繋いで歩いていく。
いいなぁ、あの頃の年代なら恥ずかしげも無く手が繋げて。
「ちょっと健吾、何、美結ちゃんに見取れてるのよ。あんたひょっとしてロリコン?」
「馬鹿、んな訳ないだろ。んな事より楓、お前転ぶなよ。」
「大丈夫だって。ねぇ、私達も幼稚園の頃、ああやって手を繋いで、通園してたんだっけ」
「そう言えばそうだったかもな。お前が歩くの遅いから、引っ張って行くの、大変だったんだぞ」
「そんな事今更言われても‥‥ねぇ。 佳奈絵さん、そう思いません?」
「そうよねぇ。そう言えば私も幼稚園の時、近所の男の子と手を繋いで歩いてたわぁ。」
「へぇ~、そんな物好きが居たんだ、ヒグラシ。」
「そうよ、これでも、幼稚園の頃は男の子に人気有ったんだから」野菜を切る手を止めて、佳奈絵さんが反論しています。
「ヒデ兄~、実は内心穏やかじゃないんでしょう(笑)」
「馬鹿、健吾。俺は別に」「はいはい、お兄ちゃんの言いたい事は、分かってますよ。あっ、緑川さん、こっちも切り終わりましたぁ‥‥‥て、あれ?緑川さんが居ない」
4人で辺りをキョロキョロと見渡す。
少し離れた駐車場に、日向さんと男の人が立っているのを、僕は見つけた。
「日向さん、あそこで誰かと話していますよ。」
「あっ、あの人が、日向さんの彼氏さんかな?」
「えっ?マジ? 俺初めて見るわ、日向さんの彼氏」
「私だって、初めて見るわよモリヒデ。」
「あの人だろ、ヒグラシ。ほら、俺らが高一の時、日向さんを映画に誘った人って」
「そうそう、そうだったわね、モリヒデ」

いや~、何とか54号線を飛ばして間に合いました。
しかし、こんな展開になるとは‥‥ほとんどの人と初対面だから、妙に緊張します。
「ねえ洋ちゃん、みんなお待ちかねよ。なんか噂が先走りしてるけどね」
「どんな噂なんだよ日向~」なんか、益々緊張して来ました。
差し入れのビールとウーロン茶を、助手席から取り出し、歩き始める。
「すいません、急にお邪魔しちゃって」そう言いながら、俺は皆に挨拶をする。

お~、この人が日向の彼氏かぁ。
優しそうな感じの人じゃないか、日向にはお似合いかもな。
俺は、クーラーボックスから、缶ビールを取り出し、彼に差し出しながら挨拶をする。
「初めまして、日向の‥‥日向さんの高校の時の同級生で、木下って言います、こっちが妻の真子、それとあっちに娘の美結が居ます」
「村田さん、お久しぶりです。これが、うちの旦那です」
「あれ?真子は、会った事有ったんだ。」
「うん、何度かね」

あの人が、日向さんの彼氏さんですか‥‥きゃ~、結構イケメンじゃないですか、凄く優しそうな感じだし
「佳奈絵さん、結構イケメンですね、日向さんの彼氏って」
どうやら、楓ちゃんも同じ感想みたいですね♪
「そうね、優しそうな感じだし、日向さん幸せそうだね」

「初めまして、日向さんの妹の朝葉ちゃん同級の森山です。こっちが妹の楓、彼氏の健吾。そしてこいつが‥‥‥朝葉ちゃんの友達の金田です」
「こりゃ、ご丁寧にありがとうございます。村田です、いっつも日向が無理言ってすいません。」

「もう、みんな、固苦しいんだからぁ。洋ちゃん、彼女が同じ松舞保育園の保育士の錦織先生、それからふフィアンセの小村さん。」

小村‥‥小村   どこかで見た事在る様な‥‥
それは、向こうも同じみたいで、こっちを見つめている
‥‥‥! 「松舞高校の小村さん?」


やっぱりそうだ。1年下だけど、島根でも有名なポイントゲッターだった、村田君だ。
「雲山高校のバスケ部のポイントゲッター、村田君だよね。お久し振りです。」
「そうです、お久しぶりです。お元気でいらっしゃいましたか。」

‥‥そっか、洋君もバスケやってたから、顔見知りでもおかしくないわよね。
「小村さん、洋君ってそんなに有名だったんですか」
「そうっすよ、日向先生。雲山の村田って言ったら、県内でも有名なポイントゲッターだったんですから。」
「そんな、ヨイショし過ぎですよ、小村さん。俺達は、そう言う小村さん率いる松舞高校バスケ部に負けたんですからね、どうです今でもバスケされてますか?」
「現役は高校時代までですね、松舞に社会人チームなんて有りませんから。今は、ミニバス女子チームのコーチを、錦織先生としているんですよ。」




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ショート・ショート編
モリヒデ・ヒグラシ編
颯太・朝葉編
洋介・日向編
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御主人様28号・詩音編
比呂十・美咲編
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本田・楓編
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楓・青木先輩編【完結】
本田・沢田編【完結】
2009年収穫祭編【完結】


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いつもの朝と同じ様に、家の前の垣根で、楓が出て来るのを待つ。
「ねえねえ健吾、浴衣の裾を直してもらったんだ。」
いつも以上に、明るい笑顔で楓が垣根の向こうから現れた。
おい!朝は「おはよう」だろ~が!
こんばんわ、健吾です。
―――――――――7月22日(火)―――――――――
「ねぇ、今晩花火やろうよ、健吾。」
「お前と二人でかぁ?」
「いやなの?」
うっ、そんな潤んだ目で、俺を見るなよな、嫌なんて言えなくなっちゃうじゃないかよ。
「あ~もう、しゃあねえなぁ」頭を掻きながら僕は答える。
「やったぁ。ねぇ、部活帰りにサンモール寄ろうね。花火買って帰んなきゃ。スイカは今朝、井戸に沈めておいたから、帰ったら冷えてるわよ」
井戸にスイカって、‥‥‥俺の返事に関係無く、やる気満々だったんだ(・_・;)


「ねぇ、打ち上げ花火も買おうよ。噴き出し花火も何本も欲しいな。」
部活帰り、二人でサンモールのおもちゃコーナーに寄った。
今日の楓は一日テンションが高かった(笑)
「俺そんなに金持ってないぞ、楓」
「大丈夫、大丈夫。お兄ちゃんにボーナスのお裾分け貰ったから。」
「あっ、良いなぁ~。じゃあ楓、アイス位おごれよな。」
「やだよ、アイス位自分で買いなさいよ。さぁ、花火はこれ位でいいかな? あっ、そうそう手牡丹花火買っておかなきゃね、佳奈絵さんのお勧めだし」
「何だそりゃ?佳奈絵さんのお勧めって?」
「ふふ~ん、内緒内緒♪」
ったく、今日の楓は、本当おかしいです。


「じゃあ8時に、そっち行くぞ。」「うん、待ってるからね」
垣根の前で、そんな会話を交わして別れる。少し歩いてから、何気なく振り返ると、楓が僕に向かって大きく手を振っていた。
いつもなら、すぐ家の中に消えてしまう癖に、今日の楓は本当におかしいぞ。
「ったく、いつまで経ってもガキなんだから楓の奴(笑)」
少し周りを気にしながら、僕は軽く手を振り返し、歩き始めた。
考えてみたら、周りに同級生が住んでる訳じゃないんだから、周りを気にする必要なんてない訳で、そう考えたら少し笑ってしまった。


「こんばんわぁ。お~い、楓~。」
「はいはい、は~い。」
相変わらずテンションの高い楓が、2階から降りてくる音が聞こえる。
玄関に現れた浴衣姿の楓に、僕は不覚にも見とれてしまった。
「どう? この浴衣似合う?」
「まっまあな」
「何か感動が薄いわねぇ」
「馬鹿、お前みたいなガキの浴衣姿見て、何を感動すればいいんだよ。」
とは言ってるけど正直な話、大人っぽくなり少し色気を感じる幼馴染みに、ドキドキしています。
「ガキですよ、どうせ私わ~」プクッとほっぺたを膨らませた楓が、妙に可愛く思えます。
膨らんだほっぺを指で押してみる。
「さあ楓、花火始めるぞ。バケツと蚊取り線香準備したか?」
「もちろん、OKだよ。ホラっ」
「じゃあ、最初は何から始めるかな。」
「私、この手持ち花火~」「じゃあ、俺も」
仲良くしゃがんで、蚊取り線香に花火を近づける。
「うわ~、きれい~」
花火にはしゃぐ楓の横顔が、最高に可愛いです。
制服や私服とは、また違った浴衣姿だからなんでしょうけどね。


吹き上げ花火を3発楽しんだところで、おばさんがスイカを持って来てくれた。
「はい、健吾ちゃんスイカ切ったわよ。ちゃんと種は出すんだよ。あんたは、小さい頃から何度言っても、種まで食べちゃう癖が有るんだから。」
「やだなあ、おばさん。俺だってもう高校生だよ。」
「私らから見たら、いつまで経ってもあんた達は子供なんだよ。」
「そう言えば健吾は、スイカにカブリ付けなかったんじゃなかったっけ?いっつも、スプーンでチマチマ掬って食べてたわよね。」
「馬鹿、楓いつの話をしてんだよ。俺だってスイカ位カブリ付けるって。楓、お前こそ、いい加減蒙古斑取れたか?」
「もっ蒙古斑‥‥‥馬鹿、有る訳無いでしょ。って言うかそんな所見てたんだ、この変態」
ったく、幼馴染みって言うのは、小さい頃の事を知っているから、質が悪いですよね。
縁側に並んで座り、スイカを頬張る。
「うん甘いなぁ、このスイカ」
「でしょ、今年は天気に恵まれたって、父さん言ってたよ」
「お前と、こうやって縁側でスイカ食うのって、小学校以来だよな」
「そうだっけ? 確かに中学入ったら、お互いの家に行く事無くなったもんね。」
「昔は、ひな祭りだ、端午の節句だ、七夕だ、ビニールプール出したって、何か有る度にお互いの家に厄介になってたのにな。」
「そうだったよね。そう言えばあんた、甘酒で酔っぱらって雛段を壊した事有ったわよね。」
「ありゃ、お前とヒデ兄が、俺に甘酒を飲ませ過ぎるからだろ。そういう楓だって、買ったばかりのビニールプールに穴開けたろう」
「あれは、お兄ちゃんが犯人だって」
「‥‥‥って事は、結局一番悪いのは‥‥‥」
「お兄ちゃん!」「ヒデ兄!」
二人で大笑いしてしまった。


スイカを腹一杯食べた後、残りの花火を楽しんだ。
やっぱり最後まで残ったのは、手牡丹花火だった。
「手牡丹って、いっつも最後に残るよな、花火的にもショボイしさ。」
「確かに残るわよね~。でも、やっぱり手牡丹花火が無いと、終わった気がしない事ない?」
「そうかぁ、そんなもんかね~。そう言えば、佳奈絵さんお勧めの手牡丹花火ってどう言う意味だったんだ?」
「んっ?知りたい?」
「あぁ気になるやんか」
「どうしても?」
「あぁ、どうしてもな。」
「じゃあ、目つむって。」
楓が僕の手を握る感触が有った。
ドキッとして一瞬手を払い退けようとしたが、思い直して楓のするがままにさせておいた。
楓は僕に何かを摘まませた。そしてその手をそっと楓の手が包み込む。
「勝手に動いちゃあダメだかんね」そう言いながら楓は僕の手を導く。
「いいよ、目を開けても」
‥‥‥思っていた通り、僕は手牡丹花火を摘まんでいた。
静かに火花を放つ手牡丹を見つめる。
激しく火花を散らし始めた。
「改めて見つめてみると、手牡丹って綺麗だよね。」
そう呟く楓の横顔を見つめる。
「楓‥‥‥今夜のお前も素敵だぞ」小声で呟いていた。
うぉ~柄にも無いセリフを口走ってしまった。
でも、言わずには居られなかった。それ位、本当に今夜の楓は素敵だった。
聞こえてないのか、楓は相変わらず玉になった手牡丹を見つめている。ただ、その口元は少し笑っている様に見えた。
「‥‥‥‥‥ねっ、分かった?佳奈絵さんがお勧めって言う理由が。うちのお兄ちゃんと始めて手牡丹花火をやった時、うちのお兄ちゃんが、来年も一緒に線香花火やろうなって、告白めいた事言ったんだって、んでその日の夜、今の兄貴の部屋で‥‥‥」
んっ?楓の奴、何赤くなってんだ?
「へぇ、そんなノロケ話がまだ有ったんだ。んで、楓は何を望んでんだ?」
「馬鹿、別に何もあんたなんかに期待なんかしてないわよ。」
「そうかよ。分かった分かった。じゃあ今度は俺が手牡丹をする番だな。」
俺は、手牡丹を一つ手に取った。
「じゃあ今度は楓が目をつむれよな。」
「何でよ~」
「いいから、つむれって」
楓がブツブツ文句を言いながら目をつむった。
それを確認してから、縁側の向こうを一回覗く。
そっと楓の手を握り、手牡丹花火を摘まませる。
そして、少し尖った楓の唇に、顔を近づけた。
「?!」
突然のキスにビックリした楓が、唇を離す
「健吾‥‥‥」
「その浴衣、すごく似合ってるぞ楓。来年もその浴衣姿、見せてくれよナ」
「うん」そう言いながら、僕の肩に手を回す楓
もう一度、ゆっくり唇を重ねる
楓の唇から、ほんのりスイカの香りがした。


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学生に与えられた数少ない特権の一つ、夏休みに突入しましたヽ(^o^)丿
ヒデ兄には、申し訳ないですが、これからの40日間は、遊びまくります(笑)
社会人の皆様ごめんなさい、学生で良かったと思っている、本田健吾です。
―――――――――7月17日(土)―――――――――
・・・・・しかし折角夏休みに突入したと言うのに、今日も登校です。
8月上旬に有る、吹奏楽コンクールに向けての練習、そして松舞高校野球部が試合の時は、応援団に駆り出されます。
まあ、松舞高校は毎年1回戦敗退ですから、応援は1日で終わる予定なんですが・・・ここだけの話、県大会2回戦の最中に、ブラスバンド部は合宿に出掛けるんです。野球部が知ったら、怒るんでしょうね(^^ゞ

「よ~し、じゃあ30分程休憩してから、もう一度通しで演奏するぞ」青木先輩が、指揮棒を譜面スタンドに乗せながら、全員に声をかける。
「しかし、今日も暑いなぁ~。おい本田、部費から出していいから、アイス買って来てくれよ~。」
「ちょっと青木、勝手に部費を使わないでよね。」
沢田先輩が、青木先輩を注意する。
実は、青木先輩と沢田先輩が、最近急接近しているんですよ。
俺と楓的には、応援しているんですが、ちょっぴり複雑な感じですよね。
「はい、本田君。このお金でアイス買って来てね。このお金は、遠藤顧問から特別に差し入れてもらったお金だから、使っても大丈夫だよ・・・ちゃんとレシート貰って来てね。」
「はい分かりました、副部長。お~い、飯塚に小村~コンビニ付き合ってくれや。」
僕は、1年の男子を2名連れてコンビニに向かった。

コンビニに入ろうとした時に、佳奈絵さんとバッタリ出会った。
「あっ、健吾君。今日も暑いわね~」
「佳奈絵さん、ち~っす。どうしたんっすか? ビシッとした格好して?」
「どう?似合ってる? 今日はこれから、雲山で面接なのよ。」
「そっか、佳奈絵さんは学生とは言え、就活しなきゃいけない年なんですね、お疲れ様です。なかなかスーツ姿の佳奈絵さんも素敵ですよ。」
「ふふっ、お世辞が上手くなったわね、健吾君。じゃあ部活頑張ってね」
そう言うと、佳奈絵さんは炎天下の屋外へ出て行った。
「知り合いっすか、本田先輩?」横に立っていた、飯塚が小声で話し掛けてくる。
「おう、かえ・・・森山の兄貴の彼女さんだ。」
「へぇ~、俺、タイプかも・・・妹とか居ないっすかねぇ?」
「残念ながら、弟だ(笑)。ほら、カゴお前らが持てよな。」
・・・確かに今日の佳奈絵さんは、見違える程だった。楓なんかとは比べ物にならない位・・・(^^ゞ

お昼を食べて、午後はパートごとに分かれての練習でした。
俺達木管パートは、沢田先輩を取り囲む様に、グルっと座った。
「じゃあ、ダルセーニョから、始めるわよ・・・1・・2・・」
・・・沢田先輩と一緒に演奏出来る時間も、あと20日位となりました。まぁ、コンクールで上位に入れば、中国大会、全国大会と、一緒に演奏する機会も増えるんですけどね。
沢田先輩と付き合う事は無かったんですが、やっぱり僕にとっては特別な存在なんですよね。
相変わらず、昼休みはお互い図書館で過ごしてますよ。まぁ楓を含めた女子がオマケで付く様になったんですけどね(――゛)
「ねえ本田君、5小節目の出だしが、気持ち早いんじゃない? だから、みんなの演奏が崩れ始めるのよ。それから、フルートパートはちゃんと譜面を見てね。ピアニッシモもフォルテッシモも同じ音になってるわよ。他のサックスメンバー、それにオーボエとクラリネットは、運指に手間取ってる人が居るから、もっと個人練習をする様に。」
演奏の事になると、沢田先輩はいつもの優しい表情が、一変し厳しい先輩と変わっちゃうんですよね。
パート練習の後、もう一度全体練習を行って、今日の練習は終了です。
その後、遠藤先生を交えて、野球部の応援の打ち合わせと、沢井市での合宿の説明が有りました。
沢井市での合宿と言えば、ヒデ兄と佳奈絵さんの高校1年の時のエピソードを思い出しますね。
エピソード言うよりは、ただ単に惚気話なんですけどね。
やっぱり、僕も楓と色々有るんでしょうか?
一応、コンドームとか準備しておいた方が良いのかな?備え有れば憂い無しって言うし・・・
でも、どうやって買えば良いんだよ・・・さすがにヒデ兄に相談する訳にはいかない話だしなぁ・・・
「こら、本田ちゃんと聞いてるか!」
すわっ、邪な考えをしていたら、遠藤に叱られちゃいました。
「すんません、コン‥‥‥根性で頑張ります。」
ドッと、笑い声が広がった。
「‥‥‥そっか、先ず今日は根性入れて、話を聞いてくれよナ」
少し呆れた顔で、遠藤先生が呟いた。
「うっす」‥‥‥いや~やばかった。つい本心をポロッと喋りそうになりました。

部活も終わり、帰りにみんなでサンモールに遊びに行く事になった。
「健吾、あんた遠藤先生の話の時、何寝ぼけてたのよ(笑)」
「うっせぇなぁ。楓には関係無いだろ」‥‥‥実は、大有りなんですけどね(汗)
「たまに、寝ぼけた事言うわよね、本田君って」
「あっ、沢田先輩まで。ひどいなぁ」
「だって、本当の事だろ本田。」
「青木先輩‥‥‥青木先輩なら、きっと僕の気持ち分かってくれますって」
「なんだそりゃ?」またまた、みんなで大笑いになった 
「しかし、コンクールが終わったら、俺達はブラスバンド部も卒業だな・・・」
「そうね・・・ついに受験勉強突入ね。」
「本田先輩も沢田先輩も進学組でしたよね。やっぱ、大阪か東京行っちゃうんですか?」
「俺は、一応神戸大が第一志望だ。沢田は?」
「私?私は、東京にしようか大阪にしようか、未だ決めかねてるのよね。」
「どっちにしても、松舞を離れちゃうんですね。寂しくなりますね。」
「森山さん、ちゃんと夏休みには差し入れ持って遊びに来るからね。ねぇ、青木。」
「えっ・・・あぁ、そうだな。本田、期待しておけよ」
・・・やっぱり、ちょっと楓と青木先輩はしっくり来ていない感じですね。
僕と沢田先輩と違って、二人は曲がりなりにも付き合ってた仲なんですからね。
もちろん、僕としても少し複雑な心境なんですが‥‥僕の知らない楓を青木先輩は知っている、そんな気がしてならないんです。
でも、それは割りきらなきゃいけない事なんですよね。

「あれ?本田先輩、あの人は。」
小村が話し掛けてきた。
奴に言われて前を見ると、またもや佳奈絵さんの姿が。
「あら健吾君、今日はよく遭うわね(笑)。楓ちゃんに、青木君まで。って事は部活帰り?」
「あっ、金田先輩お久しぶりです。そうっす、今帰りです。」
「佳奈絵さん、今日はどうしたんです?スーツなんか着ちゃって」
「今日は、雲山で面接だったのよ」
「んで、どうだったんです面接の結果は?」
「健吾君、そんな即には回答来ないって。感触は良かったんだけどね。」
「そっか、そうっすよね。でも、合格だといいっすね。」
「うん、ありがとう。ほら、他の人達が待ってるわよ、待たせちゃ悪いって。」
「あっ、はい。じゃあ金田先輩失礼しま~す」
青木先輩は、沢田先輩の方に向かって歩き出した。
「じゃあ、佳奈絵さん俺達も、行きますわ。」
「うん。‥‥そうだ、二人とも来週の日曜日は何か用事有る?」
「えっと、来週の日曜日は部活も無いし野球の応援も終わってる予定ですから、特に用事は無いですよ」
「俺も、特に用事は無いですよ。なんっすか?海ですか、花火ですか?」
「ブッブ~。海でも花火でも無く、松舞川の河原でバーベキュー大会やるの。松舞保育園の園児や先生達と一緒にね。さっき朝ちゃんのお姉さんから、キュアピーチの女の子にも声かけておいてって、メールが有ったの」
「バーベキューっすか、行きます行きます♪」
「あっ、私もバーベキュー大好き~」
「じゃあ、決まりね。なんなら、土曜日の夜はうちのアパート泊ってく?」
「助かります。」
「了解、了解。じゃあ来週の土曜日夕方ね。」
「うっす、お願いします。」「じゃあ、佳奈絵さん失礼しま~す」
僕達は、佳奈絵さんと別れた。
「やったな、楓~。バーベキューだって、肉食い放題だぞ。」
「あんたは、食べる話になったら、元気になるわね(笑)。ほら、急がないとみんな店内に入っちゃったわよ。」
「おう、行くぞ楓。」気が付いたら、楓の手を握りしめて僕は歩き始めていた。
その後、1年の小村や飯塚に手を繋いでいるのを見つかり、冷やかされる事になるとは、思いもよりませんでしたが(・_・;)





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いや~今日も凄い雨でしたね。
少々の雨なら、店頭にハーブポッドの陳列台を出すんですが、さすがに今日みたいな雨だと、ハーブ達が痛みますからね。
それに、こんな悪天候の平日にお客様なんて来られませんし。
だから、今日は溜まっていた事務処理を、後輩スタッフの神田さんと手分けして行ってました。
こんにちは、ハーブショップ みんとぱ~てぃ~の店長代理 嘉本圭之介と言います。
―――――――――7月16日(金)―――――――――
「あれ? 納品書に数字じゃなくて、変な英語が表示されてる? ねぇ、神田さん これってどうすれば良いの?」
「えっ、何て表示されてます?」
「バリューって読むのかな? V A L U E‥‥‥」
「それだったら、その関数の参照先セルのどこかに、文字列が入ってませんか? その前の操作で、セルを追加したり削除したりしてません?」
「あぁ、確かどこかで、セルを1個追加したなぁ。ここだここ・・・・・それで・・・・・参照先セル・・・・・?」
「はいはいチーフ、ちょっとそのファイル保存して閉じてもらえます。そうしないと私がそのファイルに入れませんから。」
「お・・・おぅ。ちょっと待てよ・・・・・・OK閉じた。」
彼女は、モニター画面を見つめたまま、黙々とキーボードを打ちこんでいる。
いや、実は俺、パソコンって苦手なんですよね。
どれ、ここは彼女のご機嫌を取る為にも、アイスミントティーでも入れて来ようかね。
冷蔵庫で冷やしておいた、アイスミントティーをグラスに注ぎ、事務室に戻る頃には、彼女はもう伝票をペラペラと捲り他の作業をしていた。
「チーフ、エクセルの関数直しておきましたからね。」
「あぁ、ありがとう・・・一息入れようぜ。ほい、ミントティー」
「あっ、ありがとうございます。ちょうど喉が渇いていたんですよね」
「しかし、神田さんはパソコン詳しいね。」
「まぁ一応、情報処理専門学校を卒業しましたからね。」
「そうか、そうだったな。じゃあうちみたいな小さな店じゃなくて、一流企業の経理とか行けたんじゃないの?」
「う~ん、求人は確かに有りましたけどね。元々親の勧めで通った専門学校でしたし、やっぱり植物に興味が有りましたからね。だから、この店の求人がうちの専門学校に来た時は、即応募しましたよ。」
「夢の職業って訳か。でも勤めてきたら、現実は全然違っていたろ」
「まぁ、確かに・・・接客業がこんなに大変な物とは思っていませんでした。でも、ハーブに囲まれて、毎日楽しいですよ。」
「そう言ってもらえると、店長代理としては助かるなぁ」
「そう言えば、チーフはどうしてこの店に勤める様になったんですか?」
「俺か?俺は、やっぱり小さい頃から、花に囲まれた生活してたからなぁ。うちの実家が切花農家だからなぁ。今でも松舞の畑で、菊とかを育ててるぞ」
「じゃあ、将来は実家を継ぐんですか?」
「いや、兄貴夫婦が居るから。まぁ、兄貴達は切花じゃなくて、野菜やハーブがメインなんだけどな。だから俺が後を継ぐ必要は無いんだな。・・・・・さぁ、さっさと事務仕事終わらせて、今日は定時退社しようぜ」
「そうですね、折角のチャンスですからね。定時で終われる様に頑張りますよ。」
そう言うと、彼女はまたパラパラと伝票を捲り始めた。

あんなに土砂降りだった雨も、閉店の頃にはすっかり上がってました。
店のシャッターを勢いよく下ろす。
そのガラガラと言う音を聞くと、今日も1日終わったなって、気分になります。
「19:00に仕事終われるんなんて、研修期間が終わってから初めてですよ~」
「そっかぁ? いつも、残業させてすまんなぁ」
「いえ別にそう言う意味じゃないですから・・・すいません」
「いや、良いんだって。本当の事なんだしさ。それより良かったら、どこか夕飯食いに行かないか?」
「あっ、すいません。今夜は先約入れちゃったんです。次は絶対付き合いますから、ごめんなさい。」
「あっ、別に気を遣わなくても良いんだぞ。じゃあ、次、定時退社した時には、どこか食いに行こうな。今日は助かったよ、ありがとう。お疲れ様。」
「あっ、はい。お疲れさまでした。」
駐車場の前で、神田さんと別れた・・・下心は無いけど、勇気を振り絞って誘っただけに、少し落ち込みますね。
さてっと、普段が普段だから、逆に時間が有ると、何をしたら良いか悩みますね。
久しぶりに、あのレストランに顔出そうかな‥‥でも、さすがにあの店に一人じゃ寂し過ぎるからなぁ。
そう言えば友人の竹下が経営するバーに数カ月顔出して無いな。
適当に夕ご飯食べて、あいつの店にでも顔を出すかなぁ。

俺は、一旦アパートに帰り、コンビニ弁当で夕ご飯を済ませ、シャワーを浴びて、夜の街に繰り出した。
飲み屋街のちょうど真ん中に有る、飲み屋が集まったビルの2階に、奴は店を出している。
木製だけれど重厚な扉を開けると、少し照明を落とした店内に静かにジャズが流れている。
この、落ち着いた雰囲気が結構好きなんですよね。
「いらっしゃいませ・・・お~っ、圭之介~!久しぶり、元気だったかぁ?」
カウンターの奥で、シェーカーを振っていた竹下が、俺に気付き声をかけた。
「よう竹、元気だったぞ。相変わらず、この店は繁盛してるな。」
美味いカクテルが評判のこの店は、結構若い女性に人気がある。
今日だって、店内の3分の2は、女性客で埋まっている。
俺は、壁際のカウンター席に座る。
「はいよ、おしぼり。ちょっと待ってろよ」
そう言うと、奴は、テーブル席の方に、カクテルを運んで行った。
この繁盛店を一人で切り盛りしてんだから、奴には頭の下がる思いがする。
「待たせたな、何作ろうか?」
「そうだな~。やはり一杯目はマティーニかな。」
「おいおい、一杯目にマティーニを頼むなんて、挑戦的だな。」
そう彼は、笑いながら、ジンのボトルを手に取る。
「いや、久しぶりだから、お前の腕が落ちてないか、心配なんだよ。」
「御心配無く、腕は落ちてないって。しかし、本当久しぶりだな圭之介、相変わらず忙しいんか?」
「あぁ、こっちもお陰様でな。忙しすぎるから、雲山にアパートを借りたんだ。」
「お~じゃあ、終電や代行代を気にする事無く、飲めるな。」
「まぁ、確かにそりゃそうかもな。ここからなら、その気になればアパートまで歩いて帰れそうだしな。」
そう言いながら奴は、軽やかにシェーカーを振る。
そう竹下の作るマティーニは、ジンとベルモットをステアするのではなく、シェイクするのだった。
「その方が、味が均一で美味い」それが、彼の持論だった。
シェイクされたマティーニを、マティーニグラスに注ぎ、オリーブを静かに落とし込む。
「お待たせしました」そう静かに囁き、目の前のカウンターに、マティーニグラスを置く彼は、間違いなく一流のバーテンダーだった。
カクテルピンに刺さったオリーブをグラスの淵に固定して、静かに渇いた喉にマティーニを流し込む。
こんな日は、ベルモットをドライベルモットに替えたドライマティーニが、美味しい事を奴はちゃんと心得ていた。
「うん、相変わらず美味いマティーニだな。」
「ありがとうございます。」
「そう言えばさぁ、この前来た時に、日本酒とジンで作る酒ティー二の話したよな。あれから作ってみた?」
「酒ティー二かぁ・・・、一時期メニューに載せてたんだけどな。やっぱり飽きられるのも早かったぞ。ドライマティーニにオリーブの代わりにパールオニオンを沈めたギブソンってカクテルが有るんだけど、酒ティー二には、パールオニオンならぬらっきょを使ったのが、面白かったんだけどな。」
「らっきょかよ~。相変わらず、創作カクテル作ってるんか?」
「おう、作ってるぞ。そうだ圭之介、自信作を一杯御馳走してやろうか?」
「それって・・・実験台って訳じゃないだろうな?」
「ふふふ・・・」
「いや、その笑いは何だよ・・・」
そんな馬鹿話をしている時だった。
店の扉が静かに開いた。

竹下は、さっと入り口の方を向き「いらっしゃいませ。」と、声をかけた。
「あの~すいません、一人なんですけど、良いですか?」
「はい、カウンターで宜しければ・・・」
どうやら、女性の一人客みたいだ。
こんな店に一人で来るんだから、何か訳有りの感じですよね。
って言うか、この声・・・聞き覚えが・・・
俺はポケットの携帯を探すふりをして、さり気無く振り返った。
そこに立っていた女性と眼が合う。
「あっ、チーフ・・・嘉本チーフ・・・」
「神田さん? こんなとこで会うなんて、びっくりだな。」
「あれ、お二人はお知り合いなんですか?」
「おう、うちのショップのスタッフなんだ。神田さん、良かった一杯御馳走させてもらえるかな?」
「・・・はい、ありがとうございます。結局、今夜一緒になっちゃいましたね。」そう言いながら彼女が静かに笑う。
俺の横のカウンターチェアに腰かけ、彼女はポーチから細めの煙草を取り出した。
「あれ?神田さんって煙草吸ったっけ?」
ちょっぴり戸惑いながら「はい、お酒を飲む時は、煙草を吸うんです」と、静かに答えた。
「何をお作りしましょうか?」竹下がおしぼりを手渡しながら尋ねてきた。
「そうですねぇ、ミントジュレップ作って頂けますか?」
「はい、分かりました。さすがハーブショップの店員さんですね、ミントジュレップを選ばれるなんて。でも圭之介みたいに、うちのミントにケチを付けないで下さいね。」
「いっいえ、別にそう言う訳じゃないですけどね。嘉本チーフ、このお店の常連さんなんですか?」
「常連と言うか、あいつとは高校の同級生なんだ。俺もたまにしか顔は出せないんだけどな。神田さんは、この店は初めて?」
「はい、学生時代から気にはなっていたんですけど、学生がワイワイ騒ぐ雰囲気のお店じゃない気がして、なかなか店の扉を開けれなかったんです。今日は思い切って店の扉を開けてみて、正解でしたね。」
「確かに、ちょっと落ち着いた雰囲気の店だからね。でも、ダチの俺が言うのも照れ臭い話だけど、竹の作るカクテルは上手いんだぜ。」
「お待たせ致しました、ミントジュレップです。おい圭之介、そんなにお世辞言ったって、これ以上サービスしないぞ。ほいこれ、オリジナルカクテルの題して『夏のひと時』だ。」
「何だよ、折角この店のアピールをしてやったって言うのによ。うお、何だこのカクテル? 金魚鉢見ているみたいな取り合わせだぞ。」
「まぁ、文句言わず飲んでみろよ」
「じゃあ、神田さん。一日お疲れ様でした乾杯~」
奴のオリジナルカクテル「夏のひと時」を口に含む。
口の中一杯に炭酸の泡が弾ける。そしてジンとライムの香りが、後を追う様に広がってくる。
「へぇ、結構爽やかなカクテルだな。んで、中に入ってる赤い物は‥‥‥赤トウガラシ?」
「そうだ、鷹の爪だ。その水草の代わりに入っているのは、水菜だ。金魚鉢の中の金魚みたいだろ。」
神田さんが俺の手元を覗き込んでくる。
「あぁ、確かに金魚鉢の中の金魚に見えますね。」
レコードをひっくり返しながら、竹下が得意げに話始めた。
「実は、焼酎を炭酸で割って、鷹の爪と小松菜をあしらった、金魚酎って酎ハイが、有るんですよ。それをジンライムソーダに応用してみたんです、ナカナカ涼しげでしょ。」
「うん、竹の作った創作カクテルにしては、上手くまとまっているな」
「あっ、ひどい言い草だなぁ。神田さん気を付けて下さいね、圭之介は昔っからこう言う奴なんですよ」
「はい、十分気を付けます」神田さんがクスクスと笑った。そしてこう続けた
「チーフ、このお店って、凄く良い雰囲気ですね。ジャズって結構騒がしい曲ばっかりだと思ってましたけど、こんな静かな曲も有るんですね。」
「神田さんが想像しているのは、きっとスイングだな。スイングはアップテンポな曲が多いからね。ここのレコードは、竹の親父さんのコレクションなんだ。店のコーディネイトは、俺も手伝ったんだぞ。なかなか渋い感じだろ。」
「はい、何だか落ち着きますね。こんな夜にピッタリのお店です。」
「そう言えば神田さん、今日は先約が有ったんじゃなかったっけ?」
「あっ、それは‥‥‥もう済んじゃいました‥‥‥」
少し伏せ目がちになる神田さん。
あれ?マズイ事を聞いちゃったみたいです。
「どうです、神田さん。うちの店気にって頂けましたか?」会話を聞いていた竹が、空気を察して話題を振ってくれた。
「はい、いっぺんで好きになっちゃいました。ミントジュレップもとても美味しかったです。」
「何かお作りしましょうか?私のおごりです。」
「良いんですか?じゃあ、今度はモヒートお願い致します」
「承知致しました。圭之介も何か作ろうか?」
「じゃあ俺もモヒートもらおうかな?」
「少々お待ち下さい」
「実は、ここのミントって俺の兄貴夫婦が作ってる有機ミントなんだよ」
「へぇ~、そうなんですか。ミント大好きなんですよ、私。」
「ミントにも色々な種類が有るけど、神田さんは、どれが一番好みなの。」
「やっぱりオーソドックスな、ぺパーミントですかね。チーフお勧めのミントってございますか?」
「ん?お勧め?そうだな、一つ挙げるとすると、アップルミントかな。香りもフルーティーだし、花も赤でかわいい感じだし」
「お待たせ致しました」
そう言って、竹がロンググラスを二つ、カウンターの上を滑らせた。
「これが、チーフのお兄さんの育てたミントなんですね。葉の発色が良くて生き生きしてますね。」
「そりゃ、俺が技術指導してるからな(笑)」
マドラーで軽くミントを潰し、モヒートを口にする。
「う~ん、爽やかなミントの香りが、口の中に広がりますね♪」
「うちのモヒートは、ライムジュースの緑を殺したくないから、ホワイトラム使って、少し自家製のミントリキュールを垂らしているんです。だから、香りが引き立つでしょ。」
「はい、美味しいです。色も素敵な緑色ですね。」
「ありがとうございます。でも飲み易いから、ついつい飲みすぎちゃんですよね、ラムベースだから、アルコール度も高いですんで、気を付けて下さいね。」
「ありがとうございます、でも今夜は酔いたい気分なんです」神田さんはそう言いながらニッコリと笑う。
「じゃあ、尚の事お気を付け下さい。実は圭之介は、ロールキャベツ系男子ですから」
「何だよ、そのロールキャベツ系って」
「草食系に見えて中身は肉食系男子の事さ。」
「なんだよ、それじゃあまるで、俺が羊の皮を被ったオオカミみたいじゃないか」
「えっ、本当じゃん。こいつ結構手が早いんですよ。」
「はい、知ってます」ケラケラと神田さんが笑う。
「ひどいなぁ、神田さんまで~」
「嘘ですよ。マスター、チーフは凄く優しいお兄さんって感じですよ」
お兄さんかよ‥‥‥
「チーフ、実は今日、2年間付き合った彼と別れちゃったんです。彼が浮気しちゃってて、しかもその相手も専門学校のクラスメイトなんです。マヌケですよね、信用してた相手に、裏切られるなんて。」
「いや、マヌケじゃないって。そりゃ人に裏切られたくはないけど、裏切る人間よりかは、裏切られる人間の方が、素敵だと思うぞ。それだけ純真なんだから。」
「ありがとうございます、チーフ。そう言って頂けると少しは救われた気分になります。私、酔っぱらってますね、こんな話するつもりは無かったのに」
そう言いながら、神田さんはうつむいた。
「神田さん‥‥俺、こう言うシーンは苦手だから、気の効いたセリフは言ってやれないけどさ、神田さんは何も悪くない、その彼氏が見る目が無かっただけさ。神田さんを捨てる様な、そんな男に神田さんはもったいないよ。まだ若いんだから、素敵な出会いはこの先沢山有るって」
「はい、そうでうね。今夜この店に来て本当良かったです。素敵な音楽、インテリア、そして美味しいカクテルに、マスターやチーフとの楽しい会話。全てが素敵な出会いでした。ラストの一杯は、私におごらせてもらえますか?マスター、同じ物を3つ。マスターにもおごっちゃいます。」
「私もですか‥‥では、遠慮無く頂戴致します。」
運ばれてきたモヒートを手にした神田さんが、グラスを高々と上げる。
「じゃあ、今夜の出会いを記念して、かんぱ~い」
やれやれ、神田さん結構出来上がってるみたいですね。

二人で、竹の店を後にする。
「チーフ、ありがとうございました。独りで過ごすには辛い夜だったんですが、チーフやマスターとおしゃべりしている内に、あいつの事なんかどうでも良くなっちゃいました。」
「そりゃ良かった、モヒートのお蔭だな。また、竹の店に友達とでも顔出してやってくれや。」
「はい、そうします。でもチーフともまた飲みたいですね。今度はちゃんと、夕ご飯から付き合いますからね。では、神田は帰ります。」
「おう、明日からまた頑張ろうな、代行だろ、気を付けて帰ろよ。」
「あっ、大丈夫です大丈夫です、車は担いで帰りますから」そう言うと俺に背を向け歩き出した。
おいおい、随分酔っぱらってるな、彼女。
そう思っていたら、神田さんがクルっと振り返った。
「嘉本チーフ。チーフの事好きなっても良いですか?」
‥‥思いも寄らぬセリフに、一瞬戸惑ってしまった。
「今夜はモヒートの魔力が効いているからな。そのセリフは、モヒートの魔力が冷めている時に、聞かせてくれよ。」
俺はそう言うと、軽く手を振りながら、振り返った。
彼女に興味が無いって言ったら嘘になる。
ただ、こんな夜に神田さんと深い仲になったとしても、それはきっと彼女が後悔する事になると思えた。
だから今夜は、フェミニストを気取ってみた‥‥‥どうやら、俺も相当モヒートの魔力にやられたみたいだな。
街の空気は、蒸せ返る程ムッとしていたが、梅雨前線を押し上げる様に、強い風が吹いていた。
その心地好い風に吹かれながら、この街の梅雨明けを俺は感じていた。


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