松舞ラブストーリー

山陰の仮想の町松舞町を舞台にした、様々な恋愛を見守ってやって下さいね

2011年02月

「う~寒っ」
シュラフに頭を突っ込み直すと、吐く息が口の周りにまとわり付く。
少し咽返りそうになったけど、とても温かく感じられた。
そんな寒いテントの中にも、太陽の光が優しく降り注いでいます。
おはようございます、ちょっと二日酔い気味の竹下です。
―――――――――2月27日(日)―――――――――
結局昨日は、カオルさんにアドレスを聞く事が出来ませんでした。
彼女達が下山する時に、ひと言ふた言話しただけです。
えも知れぬ挫折感が僕を支配していきました。
思った通りの素敵な夜景を堪能して、実家の棚からくすねてきた親父の高そうなウィスキーを煽ったりもした。
でも結局テンションが上がる事は有りませんでした。

この症状って所謂「ひと目惚れ」って奴でしょうか?
地元の子なら何となくでも見覚え有だろうけど、見覚えの無いところをみると地元の女の子じゃ無さそうですし・・・
まぁ運良く再会出来たにしても、彼女の気持ちばかりは分かりませんけどね。
そんな事をうだうだと考えてぼ~っとしていると、益々気が滅入って来ます。
もう一度シュラフに頭を突っ込み直して、僕はうだうだとした時間を過ごしていた。


どれ位時が経っただろうか、テントをポフポフっと軽く叩く音が聞こえた。
「お~い少年、起きてるかぁ~?」
すわっ、その声はカオルさん!?
僕は、慌ててシュラフから上半身抜け出し、テントのファスナーを開けた。

「おっ、おはようございます。どっ、どうしたんですか?」
「何緊張してるのよ少年(笑)。折角、優しいお姉さんが朝食持って来てあげたと言うのに」
「自分で優しいとか言いますか、普通?」
「じゃあ、いらないのね。川原家直伝のパワーランチ・・・朝食だけど名前はパワーランチ」
「頂けるんなら、勿論頂きますよ。って言うか、カワハラさんって言うんですね、カワハラカオルさん。」
「そう三本川の川に原っぱの原、カヲルはカタカナでヲは大きい方じゃなくて、小さい方のヲ」
「小さい方って、カヲルさん?」
「う~ん、口にしても何も変わらない気もするけど、カオルじゃなくてカヲルなのよ」少し照れ臭そうにカヲルさんが笑っています。
その笑顔をもう一度見れたんだから、飛び上がるほど嬉しいはずなのに、胸がキュンっと締め付けられます。
やばっ、マジ惚れみたいです・・・


「さぁ少年そんな事はどうだって良いからさ、さっさと寝袋から出て歯磨きしなさいよ」
「少年少年って、僕だって竹下純って名前が有るんですからね」
「ふ~ん、ジュンって言うんだ。ジュンはどの字? 潤う? ロンブーの淳って書く方?」
「純情の純」少しふてくされた様な口調で、僕は答えた。
「純情の純って、そっちこそ恥ずかしげもなく自分で言うかって話じゃん少年」
「だから少年じゃないですって」
「そうよねぇ、少年はお酒飲んじゃあイケナイもんねぇ、竹下くぅん」
「うっ・・・ちょっとしか飲んでませんって。」
「はいはい、とにかくテントから出てらっしゃいよ、竹下くん」
ちっ、悔しいけど完全に子供扱いですね。

僕は、テントの中で着替えをして、歯ブラシを持って外に出た。
地表に降りた霜が、朝方の冷え込みを物語っていた。
「ほら見て御覧なさいよ、宍道湖の方に雲海が広がってるよ、早起きして良かったでしょ」カヲルさんが指さす方向に目をやると、白い雲の海から島々の様に山々が浮かんでいて、幻想的な世界が広がっていた。

僕は歯磨きもそこそこにテントに頭を突っ込み、急いでカメラを取り出す。
冬の晴れた朝しか見られない貴重な風景です、それだけでも寒い中テント泊をした意味が有るってもんです。
レンズを広角に差し替え、ひたすらシャッターを押した。
森山さんに自慢出来る一枚が撮れた様な気がします。

「ほら朝ご飯の準備出来たわよ、竹下君」
カヲルさんの声に振り返ると、ベンチの真ん中に湯気を立てたスープやサンドイッチが並んでいた。
「おぉ、すげぇ~」
「でしょう、全部今朝早起きして作ったんだからね。」
「ひょっとして僕の為にっすか?」
「馬鹿ねぇ、何ときめいているのよ。昨日ワンバーナーのガスを結構使っちゃったから、朝ご飯とか作っている最中にガス欠になったら、申し訳無いって思っただけよ。それに・・・」
「それに?」僕は期待の意味を込めて聞き直した。
「少年が凍死してたら、後味が悪いでしょ」
「凍死って・・・大丈夫って言ったでしょ。それにガスだって予備持って来てるし、折りたたみ式の焚火コンロも持って来てますから大丈夫でしたのに」
「へぇ~そうなんだ・・・まぁとにかく食べた食べた」
「それじゃあ遠慮せずに頂きますね。川原家特製パワーランチって、カヲルさんも家族で山登りとかしてたんですか?」
「そうね、小学校卒業位までかな。さすがに中学入ると親と出掛けるのが恥ずかしくって行かなくなったわね。でも、やっぱり山が恋しくて短大ではワンダーフォーゲル部に所属しちゃったけどね。」
「じゃあ昨日一緒だった人もワンゲル仲間ですか?」
「ううん、彼女は社会人になってからの仲間よ。彼女、看護士していて今日は、普通に勤務なのよね。因みに私も同じ病院で働いているんだけどね」
「って事はお医者さん?・・・あっ、考え難いけど看護婦さんとか」
「どう言う意味よ、『考え難い』って・・・残念ながらどちらも外れ、私は事務方なの。それと今は看護婦って言わないのよ」

「そうなんっすか? おっ、このサンドイッチうまいっすね。」僕は、失礼な事を言った気がして何となく話題を逸らした
「特製ポークチリビーンズサンドいけるでしょ、食べている最中に垂れてこない様に片栗粉入れるのがポイントなのよ。ねぇところで、さっき雲海の写真撮ってたけど、写真も趣味なの?」
「ええ。まぁ最近始めた趣味なんですけどね、会社の先輩の影響です。そうだ、登る時に霧大丈夫でした?」
「麓は結構霧が出てたわよ。昨日も登ってるから大丈夫だったけど、初めての山だったら諦めていたかもね。」
「そこまでして来なくても良かったのに」
「だから少年の事が心配だったんだって・・・それと・・・
「それと?」
「・・・あっ、スープ飲む時熱いから気をつけてね」
インスタントスープの入ったカップを手に取った僕に、そう注意を促した。
「うぉっ、まじ熱いっすね。俺、猫舌なんですよ。うん、でも旨いっす。」
「あっ、私も猫なんだよね。」カヲルさんはそう言いながら、カップをフウッ~っと吹いていた。
その横顔が、僕より年上とは思えない位可愛らしくて、また胸がキュンっとなった。


「ねぇ、竹下くんの住まいは松舞?」食べ終わった朝食のラップを小さく畳ながらカヲルさんが聞いてきた。
「そうです地元ですよ。地元って言っても実家は下奥沢だから、アパート住まいなんですけどね。カヲルさんも松舞ですか?」
「ううん、私は雲山なの。生まれも育ちも雲山なんだけど、親に干渉されるのが嫌で、実家を出てアパート住まいなんだけどね。」
「え~、衣食住の心配がいらないのに、わざわざ出ちゃったんですか?」
「そうよ、自由が一番よ。竹下くんこそ、アパート住まいなら食事とか大変じゃない? スーパーの総菜やコンビニ弁当ばっかりじゃ、栄養のバランス取れないし飽きるでしょ。それとも生意気にも食事の世話してくれる彼女が居るとか」
「生意気って・・・失礼な(笑) でもまぁ、そんな献身的な相手居たら紹介して欲しいっすよ。」
「じゃあやっぱり、外食かコンビニ弁当?」
「それが最近、お弁当男子デビューしちゃったんですよ、俺」
「お~、えらいぞ少年! じゃあ、料理得意なんだ」
「いやまだ始めたばっかりだし、勉強中ですよ。 そうだ朝食のお礼にコーヒー沸かしましょうか?」
「あっ、うん、飲む飲む。ねぇ折角だから、焚き火コンロ使ってみせてよ」

「もう使い込んでボロボロですよ。使うんなら先ずは枯れ木とか集めなきゃ」
「そっか、そこから始めなきゃだね。手伝うわよ、どんな枯れ木集めれば良いの?」
「そうっすねぇ・・・着火材代わりの松葉が一握り、後は細めの枝や枯葉ですね。それらで火を焚こしながら太めの枝に着火させるんです。」
「ふ~ん、結構手間なのね」
「でもまぁ言うほど手間じゃないんですよ、最初に入れ方をちゃんとしておけば、その一回でお湯くらい沸きますから。問題は、この霜でしょ乾いた枯れ木が有るかどうか」

僕らは広場の周りの木の生えてる所を探し始めた。
「有った有った少年。表面は霜が解けて湿ってるけど、そこをどければ乾いた枯枝が有るわ。」
「こっちも、そこそこ集まりましたよ」
お互いが、抱え上げた枯枝や枯葉を見つめて笑い有った。
「カヲルさん、そんなに拾わなくても」
「少年こそ、狼煙でも上げるつもり」
あ~ぁ、何だか山登り万歳って感じです。

「じゃあ、このコンロに入る大きさにポキポキ折ってもらえますか?」
「こんな感じで良いのかな?」
「あっそれ位の大きさでOKです。そうしたら、一番下にティッシュを一枚敷いて、その上に松葉や枯葉を乗せて・・・」
「結構手間かかるのね、焚き火コンロって」
「その分、愛着が湧いてきますよこのコンロは。次に細めの枝を乗せて、仕上げに太めの枝を乗せるっと・・・五徳をセットして準備完了です。」
「お水は、このペットボトルのお水で良いの?」
「ハイ、そっちのコッフェルに入れちゃって下さい。」
「じゃあ、着火しますよ。ほら、ここの穴から紙縒ったティッシュの切れ端を差し込んで、導火線代わりにするんです。今日は風がそこそこ吹いてるから、問題なく着火すると思うんですけど・・・」
「あっ、点いた点いた・・・煙が上がってきたよ少年」
「じゃあカヲルさん、焚き火番お願いしても良いですか? その間にコーヒー準備しますから。」

「良いわよ。火が弱まったら、上から枯れ木入れれば良いの?」
「そうっすね・・・あっ、風下に居ると結構煙いっすよ。」

一人用のコーヒーミルを取り出しながら、カヲルさんにコーヒーの好みを聞くのを忘れた事を思い出す。
振り返ると、子供みたいに小さく蹲り焚き火の世話をするカヲルさんが居た。
ルックスだけじゃなくて、仕草の一つ一つが子供みたいで可愛いです。
「ん?どうしたぁ少年」僕の視線に気付いたカヲルさんが、顔を上げた。
「あっ・・・コーヒーは濃い目でも良いですか?後、砂糖とミルクは?」
「濃い目で良いわよ、ミルクを思いっきり入れてカフェオレにするの。」
嗜好まで、可愛く感じてしまうのが、惚れてしまった男の悲しい性なんでしょうか・・・
「あれ?それってコーヒー豆挽く機械?」
「えっ、そうですよ。これも会社の先輩に、コーヒー豆は挽きたてが一番って唆されて買っちゃったんです。でも、確かに豆のままの方が味も落ちにくいし、お湯が湧くまでの暇つぶしに丁度良いんですよ。」
「そんな小さなのが有るんだ、間違いなくアウトドア向けって感じだね。」
「そうっすね、ほらハンドルも折り畳めてコンパクトになるんですよ、これ」
「あっ本当だ凄~い。男の子って、こんな小物見付けるの得意だよね」興味深そうにカヲルさんが覗き込んできた。
「ゴリゴリしてみます?」
「うん、するする。ゴ~リゴリゴ~リゴリ♪」
「なんっすか、その変な歌は(笑)」・・・駄目です、もう全てが可愛くって、僕はどうにかなっちゃいそうです(^_^;)



日が傾き始めた頃、僕達は山の麓の駐車場に居た。
「カヲルさん、今日はパワーランチ御馳走様でした。」
「ううん、こっちこそコーヒーにお昼まで御馳走になっちゃって。」
「いや・・・インスタントラーメンっすから。」
春がそこまで来ていると言うのに、夕暮れの風はまだまだ冷たかった。
「寒いねここ・・・そろそろ行こっか」
「そうっすね、昼間は暑いくらいだったのに・・・」

「ねぇ・・・」「あのぉ・・・」
お互いが何かを言いかけ言葉につまった。
「なによ少年?」
「いい加減、少年は止めて下さいよカヲルさん・・・そうじゃなくて、あの・・・」
「何よハッキリしないわね・・・そんなんじゃこれからも少年って呼んじゃうよ・・・」
「これからも?」
「そう、これからも・・・ず~っとよ。・・・だから、少年って呼ばれたくないなら、ちゃんと言いたい事言いなさい。」
カヲルさんはそう言いながら、背筋をピッと伸ばしまっすぐ僕の方を向いた。
大丈夫だから、そう言われている気がした。
僕も、背筋を伸ばしカヲルさんの方を向いた。そしてゆっくり喋り始めるのだった。



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、オオイヌフグリが咲き始めてるじゃん」
今年の冬は例年に無い大雪ですね。
でも、松舞の山々は確実に春の準備を始めていました。
こんにちは、俺、竹下純って言います。
―――――――――2月26日(土)―――――――――
今、夜景を見たくって、松舞の北の外れにある大平山に登ってます・・・今夜は山頂にテントを張って泊まる予定です。
まだ、登山道のあちこちに残雪が有りますが、整備された登山道ですから足元がぬかるむ事も無く、さくさく進めます。

一人で山登りなんて、同年代の奴らからしたら地味な趣味かもしれませんが、子供の頃から親父と野山を歩き回り慣れ親しんできた事ですから、余り気にはしていません。
それに、会社の先輩に影響されて始めた写真撮影が面白くって、ワクワクしながら山を登ってしています。

中腹まで登った道の脇に、小さなベンチが有りました。
眼下には松舞の街並み、そして山と山の間には宍道湖が見えています。
「暑~っ、ちょっとひと休憩しようかな。」
色々な被写体を見つける度に立ちどまってカメラに収めていましたから、意外と疲れてはいないんですけど、まぁ急いで登る必要もありませんしね。

ザックを背負ったままベンチにどっかと腰かける。
何たって、テントに食糧や水、防寒装備まで含めると15Kg位は有りますから、ザックを下すとまた担ぐのが嫌になりそうで、いつも背負ったまま休憩しています。
・・・まぁ、結局立ち上がる際に力を「よっこいしょ」って声が出る位だから、座る事自体が負けなんでしょうけどね。

腰ベルトに装着した小物入れから、おつまみ兼おやつの入ったジップロックの袋を取り出す。
この位置なら、ザックを下す事無く移動中でも必要な物が取り出せますから、おやつポケットの他、地図類の入ったポケットと、ドリンクホルダー、デジカメケースがセットして有ります。

「あ~美味い。やっぱ、この組み合わせが最高やな~」
今日のおやつは、手軽に栄養補給出来るチョコやナッツ類を、ごみ減量の観点から袋から出して適当にブレンドしてきました。
チョコにナッツの塩気が付いたりしちゃいますが、それはそれで美味いと思っているので、そんなに気にはなりません。
ただ食べ過ぎちゃうと、夜のつまみが減っちゃいますから、ホドホドにセーブしなきゃいけないのが、難点なんですけど。


チョコを頬張っていると麓から、カラフルなウェアでコーディネイトした女性が2人登って来ました。
いわゆる山ガールって言うやつですね。
彼女達は僕に軽くあいさつをして、そのまま頂上に向かって歩き続けて行きました。
いや~、今まで山で出会うのは、中高年のオバサン達が多かったから、新鮮ですね。
都会で流行っているのは知ってましたが、その波が松舞にまで押し寄せてきているのは、ちょっぴり意外でした。
これが一過性の流行でなく、日常的な物になると僕も出会いが増えて嬉しいんですけどね。

「よっこいしょ・・・っと」
あっ!やっぱりベンチから立ち上がる時、言ってしまいましたね(^_^;ゞ
僕は一歩一歩確かめる様にゆっくりと歩き始めた。
その後30分くらい歩いて頂上に到着しました。

山頂は、ちゃんと整備してあって少し平地になっており、その周辺部にベンチが数台設置してあります。
南向きのベンチの1つでは、さっきの山ガールが一足先に休憩していました。
「お疲れ様~」って、僕らは声を掛け合った。
さっきは気がつきませんでしたが、二人とも僕と同世代位な感じの若さです。
意味も無く、胸がざわざわしてきます(笑)
夜景とか撮影するに好都合ですから、僕は彼女達と反対側の松舞側のベンチに腰を下す事にする。

彼女達の後ろを通り過ぎる時、かすかに話し声が聞き取れた。
「あっ、カオルちゃんゴメン、ガスが切れそう・・・まだお湯すら沸いてないのに」
・・・どうやら、携帯コンロのガスが切れたみたいですね、時期的に気温が低いからガスの気化が進まないのかもしれません・・・この時期に良くあるトラブルです、僕も何回かやっちゃってます。(^^ゞ

適当な場所を見付け僕は、ザックのショルダーベルトを緩め、腰を捻る様にしながら足元にザックを下す。
一気に身体が軽くなり、そのまま空に浮かんで行けそうな気分です。

夕暮れまでに、テントやその他の準備をしておかなければいけませんから、ザックの上蓋を開けすぐに準備を始める。
荷物仮置き用のビニールシートを広げ、ザックの上の方に入れたテントやタープ等を取り出し始める。

ふっとザックの中のバーナーが目に止まる。
そう言えばさっき、山ガール達がガス欠って言っていたよな。
こっちは、泊まりだから少しはガスカートリッジの予備を持って来てるし、困った時はお互い様ですよね。
振り返ると彼女達は、カートリッジを手で覆って温めたりしている。
そんな姿見たら、尚の事放っておけないです。

ちょっぴり、勇気を振り絞って声をかけてみた。

「あの~、良かったら使われませんか?」
話し掛けた僕に彼女達が顔を上げる。
うっ、どっちの女の子も可愛い♪
先に口を開いたのは、少し年下っぽい、「カオルちゃん」と呼ばれていた女の子の方だった。
「あっ、すいません。でも、そちらも使われるんじゃないですか?」
「僕なら2つ持って来てますから、帰られるまで使われて構いませんよ。」僕はそう言いながら、シングルバーナーを差し出した。
2、3つ押し問答の結果、彼女達が折れる事で決着した。


僕は、自分の場所に戻り、テントの設営を始めた。
父から譲って貰ったテントは10年以上前の1人用テントだけど、軽いので結構気に入っている。
テントの下に敷くビニールシートを敷いて位置を決めてから、テント本体を乗せ手際よく組み立てていく。
屋根の防水シートとなるオレンジ色のフライシートを被せて固定して設置完了。
手慣れている事もありますが、5分程度で簡単に設置出来るのもこのテントを気に入っている理由の一つです。
続いてリビングスペースとなるタープを設置する。
こっちも、父親から半分強引に譲って貰った古いモデルだけど、登山モデルなだけ有って軽くて重宝しています。
僕は馴れた手付きでタープを立てるポールを設置し始める。

「あっ、タープ立てるの手伝いましょうか?」背後から「カオルちゃん」が声をかけてきた。
「ありがとうございます、一人でも大丈夫ですよ・・・・・・でも、折角ですから手伝いをお願いしてもいいですか?」
「はい、喜んで。こっちのポール支えておけばいいですか?」
「はい、ありがとうございます。今、張綱を張ってしましますから、少し待って下さいね。」
僕は固定用のペグの位置を素早く決め、地面に打ち込んでいく。
「このタープ、色からするとモンベルですか?」カオルちゃんが、腰を上げた僕に尋ねてきた。
「そうです、ずいぶん古いモデルなんですけどね。色で判断出来るなんて、結構詳しいんですね。」
「ええ・・・短大時代は、ワンゲル部に居ましたから」
・・・短大時代って事は、結構童顔で幼く見えたけど、僕より年上って事ですね。

「こっちのテントは、アライテントのエアライズですよね。ひょっとして今夜、ここに泊まるんですか?」
張綱を絞ってタープの調整をしている僕に、カオルちゃんが話し掛けてきた
「はい、ここから夜景を眺めたら綺麗かなって思って。」
彼女は周囲を見渡しながら、「そうですね、確かにここからなら夜景が綺麗ですよね。でも、まだまだ夜中は氷点下なんじゃないですか、大丈夫です?」って聞いてきた。
タープの調整が終わり、僕は腰を上げながらザックを指さした。
「装備ならバッチリですよ、ダウンシュラフにインナーシーツ、シュラフカバーまで持って来てますから。いざとなったら、酒飲んで温まりますよ」

つい口を滑らせてしまった、僕は未だ未青年です
「あっ、アルコールの事は黙っていて下さいね」
カオルちゃんは不思議そうに聞き返した
「どうして内緒なんですか? あっ、病院の先生にアルコール止められているとか。ダメですよ、肝硬変とかは一生の病気なんですからね。」
「あっ、そう言うんじゃなくて、法律的に・・・」
「・・・え~っ、未青年? うそ~」
「いや、そんなに驚かなくっても。一応、社会人なんですよ・・・って言うか、俺ってオヤジっぽいですか?」
「あっごめん、そう言う訳じゃなくって。ほら、山登りって中高年ってイメージ有るでしょ。若い人とは思ってたけど、未青年なんて驚いちゃうわよ。」
「あっ、やっぱり趣味がオヤジ臭いですか?」
「そんな事ないって。普段、山で会う男性ってオジサンか、独身だったとしてもムサイ運動会系の人が多いから」
う~ん答えになっている様な、なっていない様な・・・

「カオルちゃ~ん、お昼出来たよ~」
もう一人の女性の方が、彼女に声をかけてきた。
「うん、今行くね」
じゃあ後でって、彼女は手を振って背中を向けた。
「あっはい、ありがとうございました、助かりました」そう背中に話し掛ける。
「ううん、こっちこそ」彼女は振り返り、笑顔で答えてくれた。
やばっ、年上だけどマジ可愛いかも・・・
ワンバーナー返してもらう時に、アドレス交換しちゃおうかな。
でも初対面でそんな事言ったら、失礼だよな。
そんな事を考えながら、僕はザックの中身をテントの中に押し込め始めるのだった。

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「はぁ~暑ぅ~」
自転車小屋に着く頃には、私はもう汗だくでした。
見慣れた田中君の自転車を発見し、わざとその隣に自転車を止めてみる・・・根拠の無いおまじないみたいなものですね。
「今年もバレンタインが来たなぁ・・・」って呟いてみる、こんにちは、神田瑞穂って言います。
―――――――――2月14日(月)―――――――――
手袋をしていても冷たくなってしまった手に、息をハ~ッと吹きかけてみる。
白い息が、子犬みたいに私にまとわり付きながら、キンっと引き締まった寒空に溶け込んでいきました。
それを静かに見守るかの様に空を見上げてみた。

東京にアパートを探しに行っていた田中くんが、今日松舞に帰ってきます。
待ち合わせをしている訳じゃないんです、待ち合わせどころか何時の列車で帰ってくるのか知らないんですけど、昨日もらったメールに、今日の列車でこっちに戻ってくるって書いて有りましたから、何となくフラフラと駅に来てしまいました。
そんなメールを貰ったからと言って、別に付き合っているとか彼氏とかって関係では無いんですよ、田中君とはただのクラスメイトで同じ部活ってだけの関係なんです。

1年生の夏合宿の時、二人こっそり抜け出して砂浜で星空を見たのがきっかけでした。
その時は、ただの解放感から彼について行ったんですけど、今にして思えば、あの時私の心の奥底に田中君への想いが芽生えたのかもしれません。

田中君が東京の大学志望なのは、当時から知っていましたし、私は就職希望でしたから、卒業と同時に離ればなれになってしまうのは分かり切った事。
それでも、高校生活の間だけと割り切れれば、素直に告白出来たかもしれませんが、結末が分かり切った恋愛なんて切ないだけですから、秘かに彼の事を見つめ彼の事を思うだけで満足する様に努めてきたつもりです。
バレンタインのチョコだって、義理を公言してから渡していた位ですから。
田中君もそんな私の気持ちに気がついていたのか、特に進展しない付かず離れずの距離のまま、2年半が過ぎました。

一緒に映画を見に行ったり、花火をしたり、クリスマスイブを二人っきりで過ごした事も有った。
そう言えばその時、笑いながら小さなキスを交わしたんですよ。
それは、ただ遊びみたいな気持ちで交わした小さな小さな、でも後にも先にもたった一度っきりのキスなんですけどね。
どれも切ないけど、私には大切な思い出です。
でも、そんな思い出ももう少しで途切れてしまうんですね。

あの夏休みから、何回も何百回も繰り返してきた質問を、また自分に問いかけてみる
「本当にこれで良かったのかな?」って
でも正解を知るのが怖くって、いつもと同じ「これで良かったんだ」って結論に無理やり持っていきました。
もう一度、空を見上げてみる・・・相変わらず灰色の空に静かに雪が舞っています。

構内から、アナウンスが流れてきました・・・雪でちょっと列車が遅れているみたいです。
私って馬鹿みたいですよね、次の列車で帰って来るかどうかも分からないのに、こうして駅前でドキドキしながら待っているんですから。
しかも肩にかけたバッグの中には、ガラにも無く手作りしたチョコが忍ばせてあります。
深い意味は無いんですよ、自由登校で暇だったから雑誌のバレンタイン特集をまねして作ってみただけなんですから。

作っていくうちに誰かに渡したくなって、でも思いつく人物が一人しか居なくって、まだ出来たてのホヤホヤ状態のチョコをバッグに突っ込んで、家を飛び出しました。
自転車で駅までの道すがら、何回も渡すシチュエーションを考えシュミレーションしてみる。
でも、どのシチュエーションも私が告白しようとするシーンで、途切れてしまいました。
やっぱり義理チョコとして渡すのが一番ですよね・・・今更ながら、調子に乗ってハート型のチョコにした事を後悔してします。

ホームから、ベルの音が聞こえてきた・・・心臓の鼓動が激しくなっていくのが、分かります。
列車は静かにホームに滑り込み、沢山の荷物を抱えたおばちゃん、ホームに降りてスグ携帯で電話をかけるサラリーマン、おなじ高校3年生なんだろうか自由登校っぽいキャピキャピした女子校生の集団が降りてきた。
そしてそんな女子を尻目に足早にホームに降り立つ男子も・・・



ひとしきり往来が有った後、駅にはまた静寂が戻った。
どうやら田中くんは、この列車じゃなかったみたいです。
本当にバカバカしい事をしている自分が恥ずかしくなり、小走りで自転車小屋に向かった。

折角作ったチョコなんだし、捨てるのは忍びない。
隣に止まっている田中君の自転車の前かごに、チョコを放り込む。
そんな事したら、他人が盗っちゃうかもしれないけど、それならそれでも良いと思った・・・どの道、田中君の手元には届かない運命だったって事なんだから。

自転車にまたがり、力任せにペダルを漕ぐ。
自転車はグイグイ加速していく。
信号が青から点滅して赤に変わる頃、もう駅が見えない距離まで走っていた。
自転車を降りて、信号が青になるのをじっと待つ・・・まだまだ走り足らない、もっともっと遠くに行かなきゃ。
信号が青に変わったら、もう一度地面を蹴ってペダルを漕ぎださなくっちゃ。

・・・こう言う時に限って、信号を長く感じるんですよね
取りあえず、呼吸を整えておこう。
そう思い、「すううううぅぅぅぅ」わざとらしい音を立てながら、冷たい空気を吸い込む。



「あっ・・・」
そう言えば、クリスマスイブに交わしたキスの時、田中君が「すううぅぅ」って深呼吸しちゃって、思わず吹き出してしまった事を思い出した。

確か、彼の部屋でラブコメディのDVDを見ていた時だと思う。
主人公とその彼女がラストシーンでキスをするのに、思わず胸がキュンっとなっちゃって・・・田中君の方をチラッと見ると、彼も私の方を視線の端に入れているのが分かった。
「なぁ、キスしてみよっか?」
彼が静かにそう呟く。私はノリで軽く頷いていた。
互いの目を見つめ、タイミングを図る・・・ここぞとテンションが盛り上がった瞬間、彼は思いっきり深呼吸をした。
その気の抜けた「すうぅ」って音に、思わず吹き出してしまった。
「ちょっと、そんなに気合いを入れなくってもぉ」
「だって、キスの最中に息苦しくなったらどうするんだよ」
そう言われて、私も思わず考え込んでしまった。
どの雑誌にもキスの先の事は書いて有っても、キスの仕方については、殆ど触れていない事が多かったからだ。
それだけ簡単な事なのかもしれないけど、キス未体験の私にしてみれば、それだけでも重要な問題だ。
ん? って事は・・・田中君もキス未体験って事なん?
普段背伸びをしてちょっとカッコイイ事言ってるけど、実はめっちゃ初な性格だったんですね。
そう考えると、今まで散々私を子供扱いしてきた事の腹いせをしたくなってしまった。

「じゃあボクぅ、ちゃんとお勉強してくるまで、キスはお預けねぇ」
「何だよそれ~、そのめっちゃ上から目線はなんなんだよ~」
そのちょっぴり泣きそうな情けない顔を両手で引っ張り寄せ、唇を寄せた。
「・・・・・」「・・・・・」
「ねっ、深呼吸必要無かったでしょ?」「あぁ」お互い顔を見合わせて、笑った。



・・・・・・
何もこのタイミングで思い出す事ないですよね。
気がつくと、また雪が舞い始めていました。
すこし落ち着いた息が、白く雪空に溶け込んでいくのを、もう一度眺める。

小ちゃな思い出だけど、私には失いたくない大切なストーリー。
ふられるかもしれない、OKだったとしても3月には終わってしまうかもしれない。
でも、せっかくの思い出をうやむやなまま終わらせてしまっては、何もならない様な気がした。
大切な思い出だからこそ、しっかりけじめを付けておかなくっちゃ、辛い別れで終わりと分かっていても、最後の1ページまで書いておかなくちゃ、後悔しちゃいますよね。
同じ後悔するなら納得いく後悔をしたい。

気がつくと、私は寒空の中、もう一度駅に向かってペダルをこぎ出していた。
ぐいぐい加速していく・・・どんどん加速していく・・・

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「ふぇ~、日曜の朝だって言うのに地下鉄混んでんなぁ」
「そんなもんだって東京なんて。再来週は、東京マラソンだからもっと混雑するぞ、きっと」
「あ~嫌だ嫌だ、俺、人が多いの苦手だからさ」
そりゃ人が多いのが得意な人はいないと思う
こんにちは、芦川颯太です。
―――――――――2月13日(日)―――――――――
今、悪友のモリヒデと彼女の金田が遊びに来ています。
「駅から、緑川のアパートまでは結構歩くん?」
「いいや、5分程だぞ・・・あれ?お前ら荷物はどうしたん?」
「おう、朝のうちにホテルから宅配便で送り出した。どうせ着替えとかばっかだしな。」
「そうだよな、スーツケース転がしながら、街中歩けないもんな」
「あ~、この通りも結構おしゃれじゃないモリヒデ」
「本当だなぁ、やっぱ東京は違うなぁ颯太」
「そうかぁ? 住み続けてると気にならないけどなぁ・・・次の角、曲がったらその先だから」
「確かに駅から近いわね。でもスーパーとか無さそうじゃない、ここって」
「商店街は、この奥の坂を下った所に広がってるからなぁ・・・ほらここ、ここの2階」

「ただいま~」「朝ちゃん、おはよ~」「緑川、お邪魔するぞぉ」
「はいは~い、おはよう~カナカナ、モリヒデくん」
「うわ~きれいな部屋だね、朝ちゃん」
「そう? 普段散らかしちゃってるから、昨日は一日片付けしちゃってたんだけどね。 まぁ、とにかく座って座って♪ 二人ともコーヒーでいいかな?」
「あっ、じゃあ俺コーヒーいれるよ、新しい豆買って来たしね」

僕はいつも様に、コーヒーポットを棚から取り出し、水を入れ沸かし始める。
「ふ~ん颯太、お前やけにこの部屋の中詳しくないかぁ?」
ニヤニヤしながらモリヒデが覗き込んで来た。
「お前だって人の事言えねえだろ、金田の家がリビングでお前の部屋が寝室みたいなもんじゃんか」
「おう、たまに大家さん所が食卓になったりするけどな」
モリヒデの奴はマジで結婚まで秒読み段階って感じですね(^_^;)

「しかし颯太、お前昨日一昨日も忙しかったんだな。陸上?それともバイト?」
「いや・・・それが、単位落としそうで必至にレポート書いてたんだ。でもまぁ無事三回生に上がれたぞ」
「お前が、夜這いばっかしてっからだぞ」
「馬鹿、俺達は至って真面目で健全・・・かな・・・まあ、とにかく普通だぞ」
「こら~モリヒデ~野暮な事聞かないの」リビングの方から金田の奴が叫んでます。

「じゃあ余裕見て、4時半に浜松町のモノレール連絡通路の所ね、朝ちゃん」
「うん、了解だよ颯太君 そうだ、二人で変なお店行っちゃあダメだよ。」
「そうだぞモリヒデも。そんな所寄った日には宍道湖上空から突き落とすからね。」
「いや、それは無理だろ金田」
「・・・ヒグラシに帰ってからイジメ抜かれる位なら、宍道湖に飛び込んだ方が楽なんだぞ颯太よ」
「あっ、ひど~いモリヒデ 明日から弁当作ってやんないからね」
「相変わらずだね、カナカナもモリヒデ君も」朝ちゃんがクスクス笑ってます。
「じゃあ、僕たち秋葉に向かうわ。おい行くぞモリヒデ」
「おう・・・緑川、コーヒーごちそうさん」そう言いながら、モリヒデはカップを流しまで運んで行った
・・・う~ん、ずいぶん金田に教育されたみたいだな、以前じゃ絶対考えられない行動です(笑)


約1時間後、僕達は秋葉原のホームに降り立った。
「ふぇ~、東京って小さい様に見えて結構広いんだなぁ」
「ん~確かにそうだなぁ・・・オレも秋葉原はそんなに行く事が無いからなぁ」
「え~マジで?勿体ない」
「だって俺はモリヒデ程、パソコンとか家電に執着ないからなぁ」
「だってメイドカフェだって有るんだぜ」
「馬鹿、もっと興味無いわいモリヒデ」
「まぁ俺も口では言ってるけど、実際行きたいとは思わないなぁ」
「あぁ~やっぱりモリヒデもそうなんだ。お互い彼女が居るからなぁ」
「って言うより、あの『美味しくなぁれ美味しくなぁれ、萌え萌え萌え』ってされるのうざくない?」
「そっちかよ」
・・・しかも随分マニアックなフレーズを知ってますよねモリヒデ(^^ゞ

「あ~ここ、この店ネットでも結構安く売り出してんだよなぁ・・・ちょっくら寄っていいか颯太?」
「おう、お前が行きたい店遠慮せずに入っていけよ」
「うお~、この無線サーバー安いじゃん。これなら俺の部屋に置いておいても、ヒグラシの部屋まで電波届きそうだな。」
いや、お前はどんだけ金田ん家に入り浸るつもりなんよ(^_^;)

「あっ、これこれ。健太が欲しがってたゲームソフト・・・中古がもう出てんだな、買って帰ってやるか」
・・・これで7件目です、さすがにちょっと疲れてきましたよ俺は
「なぁモリヒデ・・・もう1時半だしそろそろ昼飯にしないか?」
「そうだな・・・少し腹減ったよな、どっかお勧めの店有る?」
う~ん、マジでアキバは滅多に来ませんからね・・・しばし僕は悩みました。
「あっそうだ! お前に最適のバーガーショップが有るぞ。俺も一度行ってみたかったけど、朝ちゃんと一緒だと絶対に朝ちゃんが拒否りそうだから行けなかったんだよな」
「何々? メイドさんの居るバーガーショップ?」
「いや、そう言うんじゃなくて・・・サイズがデカいんだよ、そこのバーガー、アメリカンサイズって言う感じだな」
「おっ良いねぇ・・・当分食いたくないって位食べてみたいねぇ」


それから3件ほど通りすがりの店を冷やかしてから、やっとで目的のバーガーショップに辿り着きました(-_-;)
「おぉぉぉマジでデカいじゃん、このハンバーガー」
「だろ~、こんなんだから朝ちゃんを誘えなくってな」
「ヒグラシならバクバク食いそうだけどな(笑)」
「そう言えば、もう金田のお母さんや大家さんに挨拶したんかモリヒデ?」
「何で? もう住んで3年近いんだぜ今更何を挨拶しろって言うんだよ?」
「いや普通の挨拶じゃなくて・・・『お嬢さんを下さい』とか・・・ほら、色々あんだろ普通」
「あぁ・・・そっちかぁ、そっちの挨拶はまだだな。まだ、完全に一緒になるって決まった訳じゃないし」
「だってプロポーズしたんだろお前」
「まぁ、したと言えばしたけどさぁ・・・まだ、正式なプロポーズじゃないし。はっきりしたヒグラシの返事貰った訳じゃないしな」
「でもまぁ、結婚する気はお互い有るんだろモリヒデ?」
「俺はな・・・ヒグラシの気持ちは・・・どうなんだろ・・・おっ結構味も美味いじゃん、このハンバーグ♪」
あっ、モリヒデの奴上手く話を逸らしましたね・・・まぁ、絶対金田も同じ気持ちなんだろうけど、やっぱり本人の口から聞かないと100%とは言えませんもんね。

もし僕が朝ちゃんにプロポーズしたとして、どんな反応が返ってくるか少し心配になった。
そう考えると、モリヒデが弱腰なのも何となく頷けます。
でもまぁ、まだ2年間は学生なんだし、その後だって就職して落ち着くまでは結婚とか考える事はないんでしょうね。
それまでの時間で、ゆっくりと朝ちゃんとの関係を深めていけば、きっと大丈夫ですよね。
「焦る事はない、僕らは僕らの時間軸で過ごしていけば良いんだから」って、自分に言い聞かせてみる。
・・・うん、確かに美味いっすね、このハンバーガー♪






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「ったくもう・・・モリヒデの奴、大丈夫かなぁ・・・まぁ颯太君が一緒だから大丈夫だろうけどね。颯太君ってそう言う所行きそうな感じしないもんね。いいなぁ朝ちゃんは幸せで。」
「そんな事無いよ・・・私達だって良く喧嘩するんだからねカナカナ。」
「そっか、去年の夏休み喧嘩してたもんね」
カナカナが私のアパート訪ねて来るなんて、考えもしなかったからとっても嬉しいです、こんにちは緑川朝葉です
―――――――――2月13日(日)―――――――――
「しかし、このアパート中々お洒落だね朝ちゃん。」
「うん、誰もが掘り出し物だったねって言ってくれるよ」
「良いなぁ、こんなお洒落な部屋で一人暮らししてみたかったなぁ」
「そっかカナカナはアパートとは言え、一人暮らしじゃないもんね」
「それどころか、厄介な奴がほぼ居候しているし(笑)」
「お母さんや健太君、おじいちゃんやおじさん一家まで公認って言うのが凄いよね」
「う~ん・・・確かに凄い事かもね。まぁそれにつけ上がるのもどうかと思うけどね(笑)」
「でも、カナカナもまんざら嫌じゃないんでしょ?」
「えっ?・・・まぁ・・・まあね・・・私より朝ちゃんの方はどうなのよ?日向さんが、色々心配してるわよ」
「お姉ちゃんだって、人の事言えないのにねぇ・・・私と颯太君はいたって普通だよ」
「やっぱ、卒業したら結婚するの?」
「えっ、そんな事まだまだ先の話だし・・・」

唐突にそんな話題を振られても困りますよね、普通・・・
漠然とは考える時は有りますけど、やっぱり二人ともまだ学生だから、就職とかそっちの問題が片付いた後じゃないと、結婚なんて考えられないですよね。
「朝ちゃんは、大学卒業したら松舞に帰ってくるつもり?それともこのまま東京で就職するの?」
「そうなのよねぇ・・・そろそろその辺の事考えて、就活を始めなきゃいけない時期なんだけどね」
「颯太君の方はどうなの? やっぱりこっちで就職なのかな?」
「あっ、颯太君は一人っ子だし、卒業後は帰って松舞か雲山で働くつもりなんだって」
「そっかじゃあ朝ちゃんも、帰って来る可能性高いのね」
「え~、だから、まだそんな事決まって無いってばぁ」
「ゴメンゴメン。回りでも結婚し始めてるから、つい気になっちゃって。ほら、農業科のヤンキ―で目立ってた子覚えてる?この前赤ちゃん抱いて男と歩いてたし、写真部の子の1人も先月出来ちゃった結婚したってモリヒデが言ってたわよ。」
「あ~もうそんな話が有るんだね。なんか私、取り残された気分だわ。」
「え~そんな事無いってぇ、大学行ってる子は普通にチャラチャラしてるし・・・あっ、ゴメン朝ちゃんの事じゃないからね。」
「うん分かってるって」
でも正直チャラチャラと言われると、他人事とは思えません。
モリヒデ君はしっかり社会人してるし、カナカナだってこの春からはOLなんですからね。
大学の講義がどれほど実生活に活かされるかと考えると、そう言う人種は頭の良いほんの一握りか、専門的な職業に就いた人だけで、私なんか大学卒業って履歴が付くだけで、それ以上何も意味が無い様な気がします。

「でも正直言うと、朝ちゃんがちょっぴり羨ましいわ」
「えっ?何で?」
「だって、まだ無限の可能性が残されているでしょ。私なんて、後は雲山と松舞の往復人生だけだから。きっと会社で上司やお局さんに絞られて、クタクタになってアパート帰ってそれから家事して、お風呂入って寝るだけなんだから」
「でも、それが人間の最終形態でしょ。みんなそこに向かって歩んでいるんだから。私からしてみると逆に、みんなよりスタートダッシュで出遅れたって気がするけど」

「う~ん・・・私と朝ちゃんは走るコースが少し違うって。朝ちゃんは私より上級コースを走っているんだから。高校卒業から見れば、遠回りしている様に見えるけど、きっと就職して同じトラックに戻ってみたら、私やモリヒデを周回遅れにしてるんじゃないかな?」
「そうかなぁ・・・私が周回遅れの様な気がするけどなぁ」
「う~ん・・・遊びに熱中してチャラチャラしている女子になら負けている気はしないけど、朝ちゃんみたいに真面目に大学生している子には負けてる気がするよ・・・スキルはもちろんだし、収入面でもね。モリヒデなんか、基本給が私と大差なくてショック受けてる位だから、朝ちゃんや颯太君が就職した時の初任給を聞いたら、絶対にたかられるわよ(笑)」

「でも、お金だけじゃないでしょ?」
「そりゃ、お金より大切な物が有るって言いたいけど、実際お金は大切なんだしね。」
「夢が無いって言うか・・・リアル過ぎる話だね、カナカナぁ」
「ゴメンね朝ちゃん。でも、こうして社会人として現実に直面すると、結局そこに落ち着いちゃうのよね」
「そうよね、私より先にカナカナの方が事実に直面している訳だもんね」
「そう、だから朝ちゃんにはもっと頑張って上を目指して貰いたいんだよね。そうすれば私もたかりやすいし(笑)」
「あっ、カナカナまで私達にたかるんだ(笑) でも、ありがとう、何だか少しすっきりしたわ。」

私は、もう1杯紅茶を飲もうとティーポットを傾けてみたが、生憎ティーポットの紅茶は飲み干した後だった。
「カナカナも紅茶飲む? 何なら、颯太君が育てた自家製ミントティーも有るよ」
「へぇ颯太君、東京でも植物育ててるんだ、さすが農業科。」
「うん相変わらず育ててるよ。そうそう明日のバレンタインはチョコにプラスして小さな鉢植えを送ろうかなって考えてるんだ」
「私は折角だから、渋谷で何か買おうと考えてるけどね。朝ちゃん何かお勧めない?」
「そうねぇ・・・モリヒデ君の場合、質より量でしょ・・・」
「そうなのよねぇ・・・もっと、お洒落な生き方してくれれば、良いんだけどねぇ」
でも、そう話すカナカナの顔は凄く幸せそうだった。
私も、こんな幸せそうな顔で颯太君の事話しているのかなぁ
あんまり自信は無いけど、いつかはそんな風になりたいと思う。
そして、笑顔で二人の将来の事を話す日が来れば・・・






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