松舞ラブストーリー

山陰の仮想の町松舞町を舞台にした、様々な恋愛を見守ってやって下さいね

2011年08月

[ヒデ兄、今夜泊らせて下さいよ。明日からブラスバンドのサマーキャンプで、朝6時に松舞高校集合なんです。]
そうヒデ兄にメールを打った。
「おしっ、これでOK」携帯をパタンと閉じて、飲みかけのコーラを一気に飲み干す。
おはようございます、健吾です。
―――――――――8月7日(日)―――――――――
「お~い健吾、起きちょお~かね?」
うちの庭から楓の叫ぶ声が聞こえた。
「あほっ、今何時だと思っちょうや、普通に起きちょうわや。上がって来いや」
窓から身を乗り出し、楓に声をかける。

「おじゃましま~す。おばさ~ん・・・おばさ~ん・・・あれっ?」
「あぁ、お袋なら今日は、雲山に出かけちょうけん、同窓会だと。」
「そげか・・・じゃあこれ、勝手に冷蔵庫に入れちょくね。今朝、お父さんが釣ってきたヤマメ」
「おっ、サンキュ。なぁ、お前サマーキャンプの準備終わったかや?」
「うん、後は着替えや歯磨き詰めぇくらい。健吾は?」
「いや、面倒臭いけんまだ何もしちょらんに。」
「相変わらずね。しゃん事だけん去年みたいにパンツ忘れぇわね。」
「トランクスって言えよトランクスって。パンツってお前・・・」素に女の子にそう言われると意外に照れるものですね。


「あっ、そげそげ。健吾聞いた? お盆の間だけでも、道の駅でバイトしてくれって、細木のおばさんが言っちょうらしいよ。」
「今年もかや。け~、部活や受験勉強で忙しいって、あぁほど言っちょうになぁ」
「う~ん、でも健吾が受験勉強しちょう所見た事ないしなぁ・・・。どげせゲームしかしちょらんでしょ? ちゃんと夏休みの課題進んじょうかね?」
「ゲームが佳境に入って来て面白いけんな、今。まぁ課題なんて最後の一日でチョチョチョっとやっちまえば、ええわや。」
「あいけ~去年もそげ言っちょって、最後には私に泣き付いたがね? ええ加減、成長すぅだわね。そぉ~に、受験す~のは私じゃないけんね」

「受験かぁ・・・ええよなぁ楓は、進路もう決めちょうけん。」
「呆れた。あんたこの時期になってまだ進路迷っちょうかね?」
「う~ん・・・正直言うとそげだな。親は島大進学しろって言っちょうけど、ヒデ兄を見ちょうと就職も悪うないかなって思ってるし、お前や佳奈絵さんみたいに情報処理の専門学校行って、手に職を付けときたいって気もしちょう。」
「うちの専門学校なら、大学落ちてからでも間に合うけん、就職か進学かどっちにするかだよね。」

「そげだよなぁ、この不景気で求人があんま来ちょらんって、進路の先生言っちょったし、かと言って島大受かる自信も無いけんなぁ。受かったとして4年後にはどの道就職先を探さなきゃいけんだろ、何か寄り道しちょうだけって気がすうに。」
「う~ん・・・そげ言われると悩んじゃうわよね。・・・そうだ、昨日芦川先輩達が帰省したんよね、話聞いてみぃだわね?」

「緑川さんにも会える?」
「そっちかよ健吾!!」
「おう、悪いか?」
「私と言う可愛い彼女がお~くせに、他の女に興味を示すなんて!」
「可愛いねぇ・・・」
「何だね、文句有ぁかね?」
「いや・・・その右手をグーにしちょうのが、妙に気になぁが・・・」
「じゃあ、さっきの発言撤回すうだわね」
「はい・・・そげします、撤回します。楓は可愛い彼女です。楓以外の女性には興味を示しません。・・・これで良いか?」
「妙に棒読み~。そうよ、最初からそげ言えば良いのよ。とりあえず、朝葉さんにメールしてみるけんね。あんたは、サマーキャンプの準備しちょうだわね。」


僕は渋々、押入れからエナメルを取り出し、準備を始めた。
サマーキャンプの準備って言ったって、着替えと洗面用具、筆記用具ぐらいなんですよね・・・あっ、DSとかPSPとか遊び道具を忘れちゃいけませんよね(^_^;)

「どげだ?進んじょうかね?」
「緑川さん、何だって?」
「午前中は店番だけど、お昼からは空いてるってさ。芦川先輩も、来るんだって♪」
「何だや楓だって、颯太さん来うって分かったら、やけに嬉しそうじゃんか」
「ふふ~んだ。どげした?嫉妬しちょうかね?」
「アホか、颯太さんは、お前みたいなガキはNO眼中に決まっちょうがや」
「え~っ、そげに幼稚園の時、将来颯太さんのお嫁さんになあって、約束しちょう仲だけんね、芦川先輩とは。」
「うわっ、マジかよ楓」
うっ、正直ちょっぴり動揺してしまいました。


「さぁ、そうと決まったらさっさとサマーキャンプの準備して松舞に下りよう健吾。」
「おう、後は着替え入れたら終わぁけんな」
「パンツどこよ、入れといてあげぇ~けん。」
「いや、だけんトランクスって言うだわや楓ぇ(^_^;)」

松舞ラブストーリーアーカイブ
 
ショート・ショート編
モリヒデ・ヒグラシ編
颯太・朝葉編
洋介・日向編
幸一・真子・美結編
御主人様28号・詩音編
比呂十・美咲編
優ママ編
本田・楓編
android game編
純・カヲル編
ちょい、言ったー。
僕と彼女の日々
ある高校生の夏休み編【完結】
(小夜曲)sérénade編【完結】
楓・青木先輩編【完結】
本田・沢田編【完結】
2009年収穫祭編【完結】


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ホームの端に立ち、その向こうに続く線路眺める。
線路沿いに咲いた日向葵が、楽しそうに風に揺れています。
こんにちは神田瑞穂です。
―――――――――8月6日(土)―――――――――
昨日田中君から、今日の16時着の列車で松舞に帰るって、メールが届きました。

「はぁ、ちょっと早かったわねぇ」
四カ月会えなかった寂しさから、つい早く家を出てしまった・・・今はまだ、15時過ぎです。

・・・考えてみたら、松舞駅に来たのは何カ月ぶりでしょう
私は地元の会社に就職しましたから、列車に乗る事も有りません。
高校時代みたいに友達と、駅で列車が来るまでオシャベリするなんて事も無くなりましたから、駅に来る用事が本当に無いんですよね。
あの頃、よく落書きをしていた伝言板は、今でも高校生達の落書きが一杯でした。

「しかし、今日も暑いわねぇ・・・」
かぶっていた麦わら帽子を、うちわ代わりにしてパタパタと扇ぎながら、今度はホームの反対側に視線を移す。
駅員さんが、撒いた打ち水が空中に解き放たれた瞬間、太陽に反射してキラキラ輝いています。


「・・・もしこれで、田中君が列車に乗ってなかったら、バレンタインディーの二の舞よね。」
あの時は結局、3本の列車を待って田中君に会う事が出来ました。
でも、素直にチョコレートを渡す事が出来ず、結局義理チョコって渡しました。
少し照れながらも笑顔で受け取ってくれましたから、まぁそれはそれで良かったのでしょう。


このまま立っていても仕方ないので、近くのベンチに腰を下す。
バッグから、鏡を取り出し覗いてみる。
「やば、慌ててたから、チーク塗り忘れてるわぁ」
この4カ月の間に私は、ピアスを開け髪を染めて化粧をする様になった・・・こんな私を見たら、田中君びっくりするかなぁ?
案外、私以上に彼の方が変わっていたりして・・・
ロンゲ金髪鼻ピなんてなってたら、どうしましょ(^_^;)

格好はともかく、私の気持ちはあの頃と変わってはいなかった・・・むしろ田中君に対する思いは強くなる一方です。
片や田中君の方はどうなんだろう?
ほぼ毎日メールを送ってくれているから、きっと悪い方へは変わっていないとは思うけど、相変わらず彼の中で私は、友達以上恋人未満って存在なんだろうか?
ひょっとして私がどんなに望んでも、叶わない切ない初恋なんでしょうか?
そんな思いが日増しに強くなって、息も出来ない位に胸が熱くなります。


うううっ、暗い事ばかり考えていても仕方有りませんよね。
少しは明るい事でも考えましょう。
いつまでこっちに居るのかは分からないけど、高校時代一緒に行けなかった海水浴や花火大会とか、一緒に出かけちゃお。
こっちは社会人、車だって手に入れちゃってますから、高校生カップルみたいに時間を気にする事なく過ごせちゃいますからね。
いつまでも高校時代みたいに、消極的じゃあ人生面白くないです。
もし、田中君にその気がなくても、絶対に振り向かせてやるんだから。
田中君が、フィアンセを連れて帰って来てたとしても、そのフィアンセから田中君を奪い盗ってやるんだ。
・・・って、ちょっと大袈裟かな? でも、誰かを傷つけてでも離れたくない、そんな気持ちで一杯です。


・・・あっ今、遠くで気笛が聞こえました。
立ち上がり、耳を澄ませてみる・・・聞こえる、微かに汽笛の音が
振り返ると、日向葵が風に揺れていた。


※くりむぞんより
渡辺美里の名曲すきを、オマージュしてみました。

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ショート・ショート編
モリヒデ・ヒグラシ編
颯太・朝葉編
洋介・日向編
幸一・真子・美結編
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比呂十・美咲編
優ママ編
本田・楓編
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純・カヲル編
ちょい、言ったー。
僕と彼女の日々
ある高校生の夏休み編【完結】
(小夜曲)sérénade編【完結】
楓・青木先輩編【完結】
本田・沢田編【完結】
2009年収穫祭編【完結】


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