松舞ラブストーリー

山陰の仮想の町松舞町を舞台にした、様々な恋愛を見守ってやって下さいね

2014年03月

それは、去年のクリスマスイブの前日、天皇誕生日の23日の話、ヒグラシの奴は、雲山で真昼間からクリスマス女子会だった。
お昼前に雲山駅まで送って、夕方また雲山駅に迎えに行くと言う、完全なる奴隷状態。
一旦、松舞に帰るって選択肢も無い訳ではないけど、峠越えをする事を考えると、こっちで時間を潰した方が楽なので、適当に雲山の街をぶらついていた。
こんばんは、お久しぶりですモリヒデこと、森山英生です。
―――――――――3月16日(日)―――――――――
雲山の街は、クリスマス一色でした。
きっと全国的に、クリスマスカラー一色なんでしょうね。

そう言えば、ヒグラシへのクリスマスプレゼント、まだ決めかねていたなぁって思い、雲山で一番大きなショッピングセンターに寄りました。
エントランスの横の、花屋の前で見た事有る親子が。

「確か、あの人は・・・雲山設計の・・・」
そう、以前松舞川で一緒に、バーベキューした木下さんだった。
って事は、抱いてる子供は確か・・・美結ちゃんだったっけ?
いや、バーベキュー時点で、保育所だったから、それはあり得ないなぁ・・・
挨拶しようかどうしようか、少し躊躇していると店内から、これまた見覚えある顔の女性が・・・
奥さんだった。
そして嬉しそうに、花の鉢を抱えた女の子が・・・美結ちゃんだった。
って言う事は、木下さんが抱いてるのは下のお子さん?
二人目が生まれたんですね。

嬉しそうな笑顔で話す、木下さんと奥さんを見ていたら、何だか邪魔しちゃいけない様な気分になって、敢えて挨拶はしなかった。

「幸せそうだったなぁ」
気が付くと、俺はボソッと呟いていた。
バーベキュー大会からでも、気が付いたら3年は経っていた。
周りの人間は、確実に幸せになって行っているのに、俺達は相変わらず子供っぽいよなぁ。
颯太も、実はこっそり結婚資金を貯め始めているらしい、社会人先輩の俺なんて相変わらずのその日暮らしに近い状態だしな。
「そろそろ、俺も年貢の納め時かな?」なんて思い、苦笑いしてしまった。
出会った頃は、あんなに仲の悪かったヒグラシとの生活を、いつの頃からか真剣に描く様になっていたんですよね。

♪♪♪
ポケットの中の、スマホがメール着信を告げた。

『モリヒデ、ごめん一人急用が出来ちゃって、お開きになっちゃった。3時頃、雲山駅来れる?』
マジかよ、まだプレゼント買ってないのによぉ
焦った俺は、服飾コーナーに向かい、候補の一つだった手袋を手にした。
もう一つの候補だったマフラーは、ちょっぴり予算オーバーだった。
店員さんに、頼み込んでラッピング包装だけは、豪華めにしてもらった。
慣れた手付きでシュルルとリボンをかける店員の仕草を、ボ~ッと眺めながらチョッピリ不甲斐ない自分を悔いてしまった。
こんなんじゃあ、結婚式どころの話じゃないよなぁ。


「ワリイ、遅くなった」
俺は助手席のドアを開けながら、ヒグラシに謝った。
「ううん、こっちこそゴメンね。幸恵がね、憧れの先輩から急に映画の誘いが入っちゃって。」
「ほぉ~、ユキちゃんも遂に腐女子卒業か?」
「幸恵は、別に腐女子じゃないわよ、まぁ結構なアニオタだけどね。それよりさぁ、時間が有る事だしどこか寄り道して帰らない?」
「う~んそうだな・・・でもまぁ、時間が時間だし適当に流すか?」
「そうだね、お任せする。」
お任せが一番面倒なんだよな、まぁ取り敢えず疲れた時帰りやすい様に西にでも向かおう。

「どこ行っちょった?」
「ん~適当にブラブラしちょった・・・そげ言やぁあ雲山設計の木下一家を、イオンで見かけたわ。」
「木下さんって、日向さんの友達の?」
「そうそう美結ちゃん一家。弟が生まれちょったわ。」
「ふ~ん、挨拶した?」
「えんや、ほがほがしちょったら、おらん様になったわ。」
「そげか。んでどぎゃん感じだった?」
「どぎゃんて、何がや?」
「幸せそうだったかね?」
「おう、木下さん子供抱いてニコニコしちょったずぇ。奥さんも美結ちゃんと楽しそうに手繋いどったし」
「そげかそげか。」

ふっと俺は、目の前の点滅信号を右折した。
「か、松崎行く道じゃないかいね?」
「あげだず、松崎海岸行ってみっか。」
「寒ないだあか?」
「そげに前通だけだけん。寒かったら、俺のコート着いだわや。」
「あんたのコート、汗臭いがね」
「まぁ、好きにす~だわや。」

次のT字路を右に曲がれば、松崎海岸です。
「うわ~やっぱり寒いわねぇ」
ハア~ァっと、手に息を吹きかけるヒグラシ。
「あっ、そげだわ」俺は、手袋を買っていたのを思い出し、車のトランクに隠しておいたプレゼントを取り出す。
「ほい、これ、クリスマスプレゼント。開けてみ~だわ。」
「あっ、ありがとうモリヒデ。ゴメン、私、明日渡すつもりだったけん、家に置いちょうわ。」
「俺も明日渡すつもりだったけど、『今でしょ』的なプレゼントだけん。」

ラッピングのリボンを解き、中を覗き込んだヒグラシが顔を上げ、ニッコリ微笑んだ。
「か、確かに『今でしょ』だわな。明日貰っちょったら、嬉しさ半減だったがね」
嬉しそうに手袋をはめ、空にかざして小躍りするヒグラシ。

その姿が、何だか凄く愛おしくって
「なあヒグラシ、こおから毎年クリスマスに手袋買ってや~けん、皺くちゃの手になっても、皺くちゃの手袋買ってや~けん、受け取ってごすかや?」
思わず、ず~っと言えんかった一言を口にしていた。

少しむくれながら、「皺くちゃの手袋は要らんわね。何だね、そ~はプロポーズのつも~かね?」って、ヒグラシが微笑んだ。
「うん」小さく頷く俺に、姿勢を正すヒグラシ。
「やっと、言ってごいたね。待ちょったけんね、その言葉。きっと、初めてここであんたと手を繋いだときから・・・」
急に俺は照れ臭くなり、フリースのポケットに手を突っ込み、黒くうねる波を見つめた。
「私の返事は、当の昔に決まっちょたけんね。・・・毎年、手袋貰っちゃあけん、幸せにしてごしないや」
ヒグラシは右手の手袋を外し、俺の目の前に突き出した。
「ど~せ、あんたの事だけん、指輪なんか準備しちょらんでしょ?」
うっ、確かに図星だった。
「このラッピングのリボン、指に結んでモリヒデ」
上目使いではにかむヒグラシに、ちょっぴりドキドキしながら、俺はぎこちなくヒグラシの左手の薬指にリボンを結び付けた。

「ありがとう、大切にするけんね」
そう言いながら、ポケットに手を入れ俺の手を強く握った。
「・・・しかし貰っちゃあけんって、相変わらずヒグラシらしい上から目線だな。」俺は、そう言いながら、ヒグラシの手を強く握り返した。

「ちょっとぉモリヒデぇ、何ニヤニヤしちょうかね」
風呂上り、ハンドクリームを塗っているヒグラシを見ていたら、ふっとプロポーズした時の事を思い出していた俺だった。

「あっ、動いた♪」
「うん、俺も解った。って言うか、これってエイリアンとかじゃないですよね?」
私のお腹に耳を当てていた、比呂斗さんがびっくりした顔で話し掛けて来ました。
こんばんわ、お久しぶりですね錦織美咲改め小村美咲です。
―――――――――3月15日(土)―――――――――
「比呂斗さん、実の子に何て事言うんですかぁ」
「だって今、お腹ボコボコって動きましたよね」
「うん、足をジタバタさせた感じでしたね。」
「痛くないです?」
「たまに苦しくなりますよ。あっ、また動いた」

結婚三年目、私達も新しい命を授かりました。
予定では5月に、私もお母さんになります。

「ところで比呂斗さん、名前決まりました?」
「いや、まだなんですよ。候補は幾つか有りますけどね。」
そう言いながら、チェストの上のタブレットの画面をタップしています。
「女の子なら、青葉か緑、男の子なら、元気か潤なんてどうですか?」
「潤って・・・」
「やっぱり、嫌ですか? 俺的には潤一さん嫌いじゃないから平気なんですが」

潤一・・・覚えていらっしゃいますか、不慮の事故で亡くなった私の昔の彼の名前です。
「お気持ちはありがたいのですが、いつまでも潤一の事を引きずる訳にはいきませんからね。」
私は、テーブルの上のスマートフォンを手に取った。
「実は私も幾つか考えたんですよ、ほら」
比呂斗さんは、私の手からスマートフォンを受けとると、しげしげと画面を眺めました。
「数、多過ぎません?」
「すいません、中々絞りきれなくって」
「あっ、でもこの萌衣(めい)とか、可愛いですね。男の子なら・・・五右衛門って、真面目に考えて下さいよぉ」
「だって、『5』の付く名前って言ったら、真っ先に浮かんじゃって。」

ブルッて、比呂斗さんが身震いをした。
「やっぱ、春になったけど、日中は暖かくても夜は寒いですね。」
「そうですね、コーヒーでも淹れましょうか?」
そう言って立ち上がろうとする私を、比呂斗さんは制し「僕がやりますよ、美咲さんはホットミルクですか?」
「すいません、ありがとうございます、」
元々優しい比呂斗さんですけど、私のお腹が大きくなり始めてからは、一段と優しくなりました。


「はい、お待たせ致しました」
そう言いながら、マグカップを私に手渡す比呂斗さん。
「コーヒー淹れながら考えてたんですけど、『5』にこだわるなら『ゴンザレス』とか、どうでしょう?」
飲みかけたミルクを思わず吹き出しそうになりました。
「さすがに、それはちょっとお・・・それに『ゴンザレス』は、名字なんですよ」
「あっ、そうなんですか?」
すまなそうに、苦笑いする比呂斗さん。
「あっ・・・ほら、お腹の赤ちゃんも怒って暴れてますよ。」
「お~そうかそうか、スマンスマン、お父さんが悪かった悪かった」
そう言いながら、もう一度私のお腹に耳を当てる比呂斗さん。
そんな彼を、微笑ましく見つめながら、「ゴンザレス」の「ゴ」は「五」で良いとして、「ん」って漢字無いから「五座礼子」なら、男の子でも女の子でも、使えるかなって考えてた私
「うおっ・・・今、一段と強く蹴りましたよねぇ」
・・・やっぱり、お腹の赤ちゃんに「ゴンザレス」は不評みたいです・・・

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「ねえ朝ちゃん?」
「朝ちゃんってば!」

「あっゴメンゴメン、考え事してた。」
私は、イタズラっぽくペロッと舌を出した。
こんにちは、巷ではうちの姉が色々とお騒がせしている様ですね、緑川朝葉です。
―――――――――3月8日(土)―――――――――
先ずは、私達の近況です。
私は、JA雲南の松舞支所で金融窓口勤務です。
颯太君は、雲山にアパート借りて事務機関係の営業マンしています。

83f0640b.jpg
今日は、颯太君のアパートでカナカナの披露宴で流すビデオの編集や、飾り物の作成にです。
って言うのは口実で、実は昨日の夜から颯太君のアパートに、お泊まりしています。
「んで、何?颯太君?」
「うん、披露宴で流すDVDだけどさ、もう少しシーンを省かないと時間が足りないんだよね。どれか省けそうなシーン無いかなぁ?」

高校1年の夏の松ケ浜海水浴に始まって、夏の合宿、花火大会に精霊流し・・・あれ?うちのお姉ちゃん達が写ってる、これって伝説?のBBQ大会の写真ね。
どれも懐かしい思い出です。
「精霊流しの部分、少しカットする?」
「OK、それならカット出来る写真が有るわ。そっちのボードはどう?上手くいってる?」
「う~ん、プロポーズシーンの再現が難しいのよねぇ。お姉ちゃんや錦織先生なら、工作とか得意なんだろうけどねぇ」

いつかはあの二人、結婚するんだろうとは思ってましたけど、意外とあっさりそんな日が来ちゃいましたね。
私達は、どうなるんでしょうね?
もしプロポーズされたら、素直に頷く心の準備は出来ていますが、肝心の颯太君の方がそんな考えないのか、気配すら感じません。

♪♪♪
ん?誰からでしょう、颯太君のスマホにメールが届きました。

・・・
「朝ちゃん、健吾からメールで楓ちゃんと雲山に来てるから、何か手伝いましょうかだって」
「楓ちゃんなら工作とか上手そうだよね。健吾君も、プログラマーだから颯太君も助かるんじゃない?」
「確かにそうだな、あいつノートパソコン持ち歩いているだろうしな。」
・・・折角の二人の時間を邪魔されたくはないですけど、背に腹は代えられませんよね。

「とりあえず、ささっと部屋片づけちゃおうか」
気が付いたらリビング中が、写真やDVDで散らかっていました。
「そうだな、とりあえずあいつらの作業スペース確保しないとな。」
そう言いながら颯太君は、ゆっくり立ち上がりDVDのケースを集め始めました。

そのちょっぴり猫背の背中を見ていたら、意味もなく幸せな気分になってきました。
私達だって、あの夏休みからず~っと一緒に過ごして来たんですもんね。
カナカナ達はカナカナ達、私達は私達でそれぞれの時間を歩めば良いんですよね。
ちょっぴり、カナカナの結婚には刺激されましたが、今は未だこのままの生活でも良いかなって思います。

「・・・ほらぁ、朝ちゃんもボ~ッとしてないで、写真片づけなよぉ」
そう笑う颯太君に「あっ、ゴメンゴメン」って言いながら、微笑み返すいつもの私がいた。

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ちょっとモリヒデ、いつまで寝てるのよ遅刻するわよ」
「うおぉ~」ガバっとモリヒデは起き上がり、目覚まし時計を確認する。
「朝ごはん出来ちょ~よ」そう言いながら、モリヒデのほっぺにキスをする。
そんな、いつもと同じ朝のひと時
・・・・・あっ、一つだけ今までと違う事が有りました。
おはようございます、皆さんお久しぶりですカナカナこと、佳奈絵です
―――――――――3月7日(金)―――――――――
今までと違う事それは、苗字が金田から森山に変わりました(^^ゞ
ほら、2014年入ったのに何かの拍子に2013年って書く事有りませんか?
それ位、ごく自然な流れで、私とモリヒデは結婚しました。

と、言っても披露宴とか結婚式はこれからで、戸籍上の夫婦となっただけなんですが。
序に言うと、住まいは相変わらず203号室・・・つまり、私の実家の隣の部屋のままです。
味噌汁の冷めない距離と言うか、煮え滾ったままの距離です。

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「おいヒグラシ、なに思い出し笑いしちょ~や、先に飯食うけんな」
「あっ、ゴメンゴメン」
二人でテーブルに向かい合い、「いただきます」っと合唱する。
今まで、何百回と繰り返して来た事ですが、夫婦と思うと何か特別な気がしますね。

「今夜、小村先輩と竹下と飲み会だけん、ちょっと遅くな~わ。」
「あんたと竹下君は大丈夫でも、小村さんは飲んでて大丈夫なの?もうすぐ錦織先生、臨月でしょう!」
「だから、1、2杯飲むだけだけん。」
「じゃあちゃんと、代行で帰って来~だよ」
「おう・・・だけん代行代恵んでごす?」
「えっ?もうお小遣い残っちょらんかね! また、ゲーム買ったでしょ!」
「・・・あっやべえ、きゃん時間だがや、俺、先に出~けん、洗いモンは帰ってからす~けんな」
そう言いながら、ばたばたと荷物をバッグに詰め込むモリヒデ。
「ちょっと、今週の日曜日は開けといてよね、会場との打ち合わせが有~けんね!」
「分かちょうわや。んじゃあ、行ってく~けんな」そう言いながら、口をモリヒデが突き出した。
・・・やれやれって思いながらも、私はいつもの朝と同じようにモリヒデの肩に手を回した。

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