松舞ラブストーリー

山陰の仮想の町松舞町を舞台にした、様々な恋愛を見守ってやって下さいね

カテゴリ: 幸一・真子・美結編

それは、昨日の夜の事
「ただいまぁ~」
いつもの様に、幸一が仕事から帰ってきた。
「とうしゃん、おかえり~」そう言いながら、美結ちゃんが玄関に駆けって行く。
「美結、ただいま。」
「だめでしょ美結ちゃん、『お帰り~』じゃなくて、ちゃんと『お帰りなさい』って言わなきゃ」そう言いながら、私も玄関に幸一を出迎える。
「お帰りなさい、幸一さん」そう言いながら、幸一からお弁当の入ったカバンを受け取る。
「ただいま、真子。なぁ、明日って何か予定有るか?って言うか、予定はキャンセルしろよ‥‥‥じゃ~ん、松舞葡萄園レストランの招待券もらったんだ」
こんにちは、木下真子です
―――――――――5月29日(土)―――――――――
松舞葡萄園‥‥それは、出雲大社の近くの島根ワイナリー程、有名では無いけれど、美味しいワインを作っている小さな葡萄園です。
そこのレストランも、ワインに負けず劣らず美味しいって評判なんですよ。
ただ夕方までしか、お店が開いていないから、もっぱらランチメニューしか無いんですが。
でもでも、ランチメニューとは言え2000円ちょっとするんで、貧乏な我が家には、なかなか手の出せるランチじゃないんですよね。
そんなレストランのチケットが手に入るなんて、何てラッキーなんでしょう。
何でも、取り引き先の社長さんが、「今月末まで有効な招待チケットなんだけど、自分は出張で行けないから」って、譲って下さったらしいんです。
しかも、お土産付きなんだそうで、益々もって嬉しい話ですよね。

13時に予約入れてあるって事で、うちを出たのは12時過ぎでした。
「美結、今日行く葡萄園にはロバがいるんだって。初めてだよなロバを見るのって。分かるかロバ?」
「うん、しってるよ。おみずのなかにいて、おおきなおくちのどうぶつでしょ」
「美結、それはカバだって(笑) ロバはね、ほら『ブレーメンの音楽隊』で、ニワトリやネコを背中に乗せて、ヒヒ~ンって鳴く‥‥‥あれ?ヒヒ~ン?馬?」
「んもう~、幸一さんったら(笑)。ロバさんはね、え~っと‥‥そうねぇ‥‥あれ?‥‥なんの童話に出てたっけ?」
「なんだ、おとうしゃんも、おかあしゃんも、しらないんだ。」
「まっまぁ、見に行けば分かるって美結。でも見た感じは、馬に似てるんだぞ」
「わかった、わかった、おとうしゃん。むきになって、おとなげないわよ」
相変わらずオシャマな美結ちゃんに、思わず笑ってしまいました。
空は曇り空ですが、気分は爽快です。やっぱり幸一と結婚して良かったって思う一瞬です。

葡萄園は小高い丘の斜面に広がっていて、その丘のてっぺんが、ワイナリーとレストランです。
13時まで少し時間が有るから、少し周りを散策する事にしました。
ワイナリーの周りには、パン工房やお豆腐屋、野菜市場も有るんですよ、帰りには、パンやお野菜も買って帰ろうかなぁ♪
美結ちゃんが何かを見付けたみたいで、テケテケと一目散に走り始めました。
「美結ちゃん、走ったら危ないわよ」私も後を追っかけます。
「まこしゃん、おうまさんだ~」
「ん? 美結ちゃん、これがロバさんよ。確かにお馬さんに似てるわよね。」
「ふ~ん、このこがロバさんなのね。こんにちは、ロバさん」
何事も無いかの様に、ロバは黙々と足元の雑草をついばんでいます。
「美結ちゃんと一緒で、ロバさんもお昼ご飯の時間なのよ、きっと。ほら、この葉っぱあげてごらん、ロバさん食べるかもしれないわよ。」そう言いながら、足元に生えている雑草を美結ちゃんに手渡した。
「はい、ロバさん。このはっぱ、おいしいわよ たべてごらん」そう言いながら美結ちゃんがロバの目の前に雑草を突き出した。
ロバは、モソモソとその雑草を食べ始めた。
美結ちゃんはそれを嬉しそうに眺めていた。
「まこしゃん、ほらぁロバさんが、おいしいっていってるよぉ」
「あっ美結ちゃん、そろそろ草を離さないと」
そう言った次の瞬間、ロバが美結ちゃんの手をぺロッと舐めた。
予想外の行動に美結ちゃんは、びっくりして泣き出した。
「ロバさんが、なめた~。みゆのてをなめたぁ」
そう言いながら私に泣き付く、美結ちゃん
「美味しかったんだよ、あの葉っぱが。『ありがとう』って、ロバさんは言いたかったんだよ、だから大丈夫だよ美結ちゃん」
「どうした美結、びっくりしたか? ロバだって美結が泣き出すからビックリしただろうで。さて、そろそろ1時になるからレストランに行こうか。」そう言って幸一が美結ちゃんを抱き上げる。
美結ちゃんには悪いけど、「貴重な体験が出来て良かったね」って思います。

「いただきま~す」
3人で手を合わせて合掌する。
先ずはオードブル‥‥鯛のアラカルトだそうです。
「すげ~。なぁ真子。俺、オードブルが有る料理なんて初めてだぞ。」
「ちょっと、恥ずかしいからそんな大声で喋らないでよね」
「そうだよ、とうしゃん。みゆも、はずかしいよ」
「お~、スマンスマン。どうだ美結、お子様ランチは」
「わたしだけ、おこさまあつかいなんだもんな、しつれいしちゃうわよ」
「いや、美結。お前はどこから見たって、お子様だって(笑) ほら、お前のご飯にしか、旗が付いてないだろ」
「いいなぁ、美結ちゃん、お母さんもその旗欲しいなぁ~」
「だめ、このはたは、みゆのだもん。」
「じゃあ、やっぱり美結ちゃんはお子様ランチで良かったじゃない。」
「うん」
「ほら、美結見てごらん、お父さんだって美結と一緒で飲んでるのは、ブドウジュースだぞ。良いなあお母さんは、ワイン飲めて」
「だって、おとうしゃんは、うんてんしゅでしょ。おさけのんだら、けいさつのおじさんにつかまっちゃうよ」
「そうだよね、美結ちゃん。だからお母さんがお父さんの代わりに飲んでるんだよね。」
「うん、でも、おかあしゃんも、のみすぎたらダメだよ」
「はい、分かりました。これで終わりにしますね(笑)」
メインディシュは、子牛のハッシュ ド ビーフ♪
赤ワインをベースにトロトロに煮込まれたお肉が、口の中でとろけます。
残ったソースをご飯にかけて食べたい衝動に駆られてのは、私だけじゃないと思う。
デザートは、葡萄のムース。
う~ん、葡萄をお腹一杯堪能致しました。

「ご馳走様でした。すごく美味しかったですよ」そう言いながらレジでサービスチケットを差し出す。
「ありがとうございます、是非ともまたお越し下さいね」そう言いながら、ウエイトレスさんがお土産の自家製チーズとワインのセットを、渡して下さいました。
そして美結ちゃんの方を向き「お嬢ちゃん、お名前は?」と、尋ねてきました。
「みゆ、きのしたみゆ‥です」
「あのね美結ちゃん、『さっきは驚かしてごめんなさい』って、ロバさんがこれを持って来たわよ」そう言うと、美結ちゃんに小さな紙袋を渡した。
「ありがとう、おねえちゃん」
「ううん、お礼ならロバさんに言ってあげてね」
「あら、申し訳ございません、気を使わせてしまって」幸一と私は頭を下げた。
「いえいえ、うちのシェフがたまたま見かけたもんで。こちらこそ、申し訳ございませんでした。」
こんな小さな心遣いが嬉しいですよね。
「良かったな美結。ロバさんにもお礼を言いに行こうか。」
「うん、いくぅ」
幸一と美結ちゃんは、先に表に出ていきました。
私は、折角ですから、レストランに併設されたショップコーナーを覗いて見る事に。
以前から探していたハーブソルトを見付け、ついつい衝動買いしちゃいました。
美味しそうなワインが並んでますが、お土産にもらったばっかりですから、今回は諦めておきます。

外に出てみると、幸一と美結ちゃんが、ロバの広場から手を振ってます。
「おかあしゃん、ロバさんにおれいいったよ。ロバさんが、ウンウンっていってたぁ」
「そう、良かったわね美結ちゃん」
「うん、ねぇおかあしゃん。むこうでパンをうってるって。いってみよ~」
「はいはい、そんなに手を引っ張らないで美結ちゃん。どんなパンが有るかな?美結ちゃんの好きなパンも売ってるかな?」
「うん、あるといいなぁ。」
「真子、向こうの豆腐も美味しそうだったぞ。ワインに冷奴って合うんかなぁ?」
美結ちゃんを真ん中に3人で手を繋いで歩く・・・・・
レストランのお土産より、幸一や美結ちゃんと過ごすこの瞬間が一番のプレゼントだった気がするのは、私だけですか?


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「美結ちゃんダメだって、お父さんの傍に行っちゃあ。もう、幸ちゃんも美結ちゃんが火傷しちゃうでしょ、気をつけててね。
じゃあ私は、家の中の事しちゃうからね、美結ちゃん、お父さんの言う事ちゃんと聞いてね」
・・・クリスマスに、ダッチオーブンでローストチキンを作ってからって言うもの、幸一がダッチオーブンや、炭火、焚火を使った料理にハマッてます。
パチンコや競馬にはまるより、全然良い事なんですけどね。
それで、問題の出来上がりですが、そこそこ食べれる料理も有れば、真っ黒焦げの料理も有ったりと、様々な結果なんです・・・
こんにちは、木下真子です。
―――――――――3月14日(日)―――――――――
今日はホワイトディですね。
幸一ったら、ダッチオーブンでケーキを焼いて私達に振る舞うって、朝から張り切ってます。

「美結、あんまり近付くなよ、火傷するからな。」
「やだ、みゆも、ケーキやくの~」
「ったく・・・そうだ美結、台所に行ってお母さんに、マシュマロを貰って来いよ」
「マシュマロ? おとうしゃん、たべたいの?」
「いや、俺が食べるんじゃなくて(^^;) マシュマロを美結に美味しくしてもらおうかなって、思って。」
「マシュマロをおいしくぅ? うん、わかった。おかあしゃ~ん」
はいはい、ちゃんと聞こえてますよ、マシュマロですね。
そう言えば、何故か昨日、幸一が買って来てましたね・・・確か、サンモールの袋の中に・・・有りました有りました。
「おかあしゃん、おとうしゃんが、マシュマロちょうだいって」
「はい美結ちゃん、落とさない様に気を付けて運ぶのよ。美味しくなったら、ママにも頂戴ね。」
「うん、わかったぁ」
美結ちゃんが、廊下をテケテケと走って行く。
その後ろ姿を見ているだけで、何故か幸せな気分になっちゃいます。
部屋の掃除も終わった事だし、気分転換に私も、本を持って庭に出てみようかな・・・

ディレクターチェアを持って、庭に出て見ると、幸一がうずくまって、炭火の調節をしていました。
その横で、美結ちゃんが楽しそうな声を挙げていました。
「美結、よそ見してると、すぐ真っ黒になっちゃうぞ。」
「うん、みゆ、ちゃ~んとマシュマロみてるから・・・あっ、おかあしゃんだ。」
「美結ちゃん、何してるの?」
「うん、あのね、マシュマロやいてるの」
「あ~、ほら美結~、マシュマロが焦げちゃったぞ。それ、お父さんが食べるから、ほら次のを焼いてみな」
「うん、こんどはちゃんと、みてるね」
焼きマシュマロ? 初めて聞く料理です。
「できたぁ~。はい、おかあしゃん、あげるぅ」
美結ちゃんが差し出した、串の先のマシュマロをパクッて頬張ってみる
あっ、表面はサラッとしてるけど、中側のマシュマロは、しっとりと蕩けています。うん、意外と美味しいです。
「へぇ~、美味しいね美結ちゃん。どうやって作るのこれ?」
「あのね、こうやって、くしにさして、ひに、ちかづけるんだよ。おかあしゃん、やけどしないように、きをつけてね。」
はいはい、どっちがお母さんなんだか。
面白そうだから、私もマシュマロを串に刺し、炭火に近付けてみる。
「おかあしゃんも、ちゃんとマシュマロみてなきゃだめだよ。すぐ、まっくろに、なっちゃうからね」
「はい、分かりました、美結ママ♪・・・あらっ?」
ほんの少し、美結ちゃんの方を見てただけなのに、マシュマロに火が点いて「あれよあれよ」と言う間に、真っ黒になっちゃいました。
「もう~、だから、みゆが、ちゃんとみてなさいって、いったでしょ」
「え~ん、美結ママ、ごめんなさい~」
「じゃあ、ほら、これやいてごらん」
う~ん、美結ちゃんは完全にお母さん気取りです(笑)

春のポカポカ陽気の下、私は読書を楽しんでいます。
幸一は、炭火の脇で焼いたソーセージをつまみに、ビールを飲みながら、ダッチオーブンの世話をしています。
美結ちゃんは、ビニールシートの上にぬいぐるみを並べて、お母さんごっこをしています。
何か幸せな気分です。
そう言えば、この前、会社の先輩に、幸一が料理にハマッている事を話したら、凄くうらやましがってました。
なんでも、彼女の旦那さんは、家事を一切手伝ってくれないそうなんです。
確かに私は、幸せなのかも知れませんね。
可愛い娘に、料理好きの素敵な旦那さんが居るんですから。
ポカポカ陽気の空の下、原っぱにシートを広げ、楽しくお弁当を食べる・・・そんな家族を持つのが夢でした。
夢見た事が、今現実になったんですから、こんな幸せな事ってないですよね。

「お~い、フルーツケーキ焼けたぞ~。」
いつの間に広げたのか、テーブルにディレクターチェアがセットしてあり、テーブルの上には紅茶が準備して有った。
「美結ちゃん、お父さんがケーキ焼けたって。食べに行こうか」
「うん、たべるぅ~。おかあしゃん、みぃちゃんとラビくんも、ケーキたべたいって」
「う~ん、ちゃんとみぃちゃんとラビ君のケーキも準備して有るかな?」
「なかったら、みゆのケーキをはんぶんっこするぅ~」
「じゃあ、お母さんのケーキも、分けてあげるね」
美結ちゃん、ほんとう優しい女の子になってきました。
みぃちゃんとラビ君の椅子も追加して、3人プラス2匹のティタイムです。
正に夢に見た風景です。
香り高い紅茶を飲みながら、旦那様手作りのケーキを頂く。
そよ風が心地良いです。
こんな幸せ、1年前は想像も出来ませんでした。
そんな幸せを与えてくれた幸一と美結ちゃんに感謝です、そしてこれからも、もっと皆で幸せになろうね。


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今年もやって来ました、この日が・・・
今年は確実に2つは、手作りチョコが貰えると思うんですが・・・
こんにちは、幸一です。
―――――――――2月14日(日)―――――――――
今日は、美結に付き合って、次郎君の家にチョコを届けに出掛けてます。
ったく、今の子供は、マセてますよね。
ところで、1年前は駿君駿君って言っていたんですが、今じゃ駿君の駿の字も口にしません。
「駿君って誰?」って、言いかねない勢いです(笑)

「とうしゃん、まだ~? チョコがとけちゃうよ~」
「まぁ、待てよ。おかしいなぁ~地図だとこの辺なんだけどなぁ・・・」
車の窓を開けて、一軒一軒表札をチェックする姿は、不審者みたいですよね。
「有った・・・ここか? 島さん?」
「そうだよ~、じろうくんは、しまじろうくんだよ。」
島次郎・・・どこかのアニメのキャラクターみたいな名前だ(笑)
「じゃあ、間違いないな、美結着いたぞ。じゃあ行こうか」
「おとうしゃんは、こなくていいよ。みゆ、ひとりでいくから。」
少し照れ臭そうな美結が、可愛いです・・・って、親バカですか俺?
「じゃあ、お父さんは車で待ってるから、ちゃんと挨拶するんだぞ。」
「うん、わかったぁ」
そう言うと、車を降りて駆け出して行く。
その後ろ姿を見ながら、色々と想いを巡らせた。
二人が小学校に上がったら、キャンプにでも連れて行こうかな?
次郎君と小学校、中学校、高校と一緒に過ごし、行々は結婚なんて事になったら、素敵だろうなぁ。
美結が失恋したとして、相談するのは俺じゃなくて真子だろうけど、少しは俺にも相談して欲しいかな。
出来る事なら、美結には失恋とか別れとかを経験してもらいたくないと思う。
「子供のくせに、恋愛なんて・・・」って言う父親、特に娘を持った父親の場合、多いかもしれないが、俺は娘の恋愛に賛成派だな。
「自分がそうだった」って言うのも有るけど、小さな子供だって立派な人間。人格が有る限りは、恋愛感情だって当然生まれてくると思う。
その感情を、全否定して摘み取るのは、間違っていると思う。
やはり、美結には自由にすくすくと育って欲しいと思う。

・・・次郎君の家の玄関先では、さすがの美結も照れ臭いのか、ウロウロキョロキョロしています。
ったく美結の奴、さっさとチャイム鳴らして・・・チャイムなら・・・チャイム・・・に、手が届く訳がないですよね。
美結がウロウロしている理由が、今分かりました。
ったく、世話が焼けるんだから・・・そう言いながらも、僕は微笑んでいました。

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3人での生活にも慣れて、家の中が落ち着いて来ると、色々と日用品で足らない物が出てきました。
今日は、3人でホームセンターに行きました。
美結を挟んで親子3人手をつないで、買い物です。
それは、真子にとって、そして美結にとって、もちろん僕にとっても、幸せな時間です。
こんばんわ、幸一です。
―――――――――01月24日(日)―――――――――
「父しゃん、プリキュアのDVD買ってぇ~」
「え~、だって美結、この前もお母さんに買って貰っただろう。」
「そうよ、この前買ってあげたばかりでしょ、美結ちゃん」
「だって、あのDVDもう見飽きちゃったんだもん。ねっ、美結ちゃんと良い子にして、まこしゃんのお手伝いもするからぁ」
「だめだめ、そんな我儘は許さないぞ。」
「やだやだ~、買って買って~」

駄々を捏ねて、半べそをかいている美結の手を引っ張って歩いていたら、後ろから声をかけられた。
「よう、木下~。久しぶり~」
振り返るとそこには、高校時代のクラスメイトの男が数人で、買い物をしてました。
「よう、川本~久しぶりだな。なんだ相変わらず、お前ら釣るんでんだ。」
「あっ、みんな久しぶり~」
「えっ?塚田さん? あれっ?お前ら結婚したの? だって木下は・・・」
「まぁまぁ、それよりこの女の子が、お前の娘?」
少しは事情を知っている足立が、助け船を出してくれた。
「そう、美結って言うんだ。ほら、美結オジサン達に挨拶は?」
「オジサンは、ないだろ~」
「ふふ、美結ちゃんから見れば、みんなオジサンだって(笑)」
「じゃあ、塚田さんだってオバサンじゃん」
「大丈夫、私は永遠に若いんだから」
みんなで一斉に笑ってしまった。
「塚田は、相変わらず明るいなぁ。今日は家族でお買い物?」
「そうそう。俺、今、加田に住んでんだけど、色々と日用雑貨が足らなくてなぁ。」
「お~、しっかり父親してるなぁ。それに比べて川本は、PSⅢのソフト買いに来たんだもんなぁ」
「なんだよ、そう言う浅野だって、車のパーツ物色しに来たんだろ。足立も、スノボーのグローブ探しに来てんだぜ」
「相変わらず、お前らは遊び好きだな~。」
「そうだ、俺この前、車を買い替えたんだ。憧れのBMWよBMW。またドライブ行こうな」
「お~川本、BM買ったんだ。お前高校時代から、欲しいって騒いでたモンな。」

「父しゃん、お腹空いた~」
おっと、美結の事を忘れて、つい話し込んでしまいました。
「じゃあ、又、どこか遊びに行こうな~」
「おう、電話すぅけんな。美結ちゃんバイバイ~」
川本達と手を振って分かれた。
「スマンスマン、美結。今の人達は、お父さんが高校生の時のお友達なんだ。」
「ふ~ん、お父しゃん美結ね、アイスが食べたい」
「え~、寒いぞ~。じゃあ小さいアイスな。」
「うん」そう言うと美結は、目の前のアイスコーナーに走っていった。
すっかりDVDの事は忘れたみたいですね、百円のアイスなら安いもんですね。
三人でベンチに座り、一つのソフトクリームを交代で舐める。
「お~、寒~。ほら、美結、落とすなよ」
美結は、嬉しそうにソフトクリームを舐めている。
「ねぇ幸ちゃん・・・ううん何でもない」
美結をチラッと見た真子が、言葉を飲み込む。
「なんだよ、気になるなぁ~」
「だから、何でも無いって・・・あっ美結ちゃん、コーンの後ろを齧ったら、クリームが垂れて来ちゃうよ」そう言いながらバックからハンカチを取り出す。
「俺も、子供の頃ケツを齧ってて、いっつも叱られてたわ。やっぱり親子だな」
二人で、美結を見つめ笑い合った。

キッチンに真子が降りてきた。
「美結ちゃん、寝たよ。」テレビを見ながら、先に始めてる僕にそう話し掛ける。
「そっか。真子もビール飲むか?」
「ソフトクリームは寒いって言ってたくせに、ビールはOKなんだ。それともそれ、ビールの熱燗?」
「飲めるか、そんなの。ビールは冬でも旨いんだって」
そう言いながら、真子のグラスにビールを注ぐ。
「それじゃあ、今日も一日お疲れ様でした。」
グラスを鳴らして、真子が一口ビールを飲んだ。
「確かに、冬でもビールは美味しいわね。ねぇ、今日川本君達と会った時、自分だけ取り残された気分にならなかった?」
残りのビールを、僕のグラスに注ぎながら、真子が聞いて来た。
「取り残されたって?」
「う~ん、なんて言うか・・・、同級生は遊び放題遊んでいるのに、自分は家庭を抱えあくせく働いているみたいな焦り? 川本君達みたいに、色々遊びたいんじゃないの?」
「う~ん、そう言う思いは無いかな。弥生と結婚するって決めた時に、そんな思いは無くなったかな。むしろ、あいつらより優越感を感じてるよ。」
「優越感って?」
「確かに、独身だったら川本みたいに遊んでいたかも知れないけど、俺には美結や真子って大切な家族が居る。
家族で過ごす幸せを、あいつらより早く実感出来ている事が、嬉しいんだ。
遊びはいつでも出来るさ。でも子供と遊ぶ時、自分にそんな元気が無かったら、どうする?きっと後悔すると思うんだ。
若い親って大変だけど、他人には出来ない事をやっているって、誇りに思ってるよ。」
「そっか、なら安心した。疎外感を感じてないか、ちょっぴり心配してたんだ」
「大丈夫だって、俺は今の生活に満足しているよ。『若いお父さん』って、チヤホヤされるの結構気に入ってんだぜ。」
「ふ~ん、チヤホヤされてんだ、色んな所で(笑)」
「まっまぁな・・・それに響きがかっこいいだろ、『若いお父さん』って。」
「まぁ、確かに響きはカッコイイかもね。スタイルは、そんなビール腹だけどね。」
「は~ん、そんなビール腹の男に惚れたのは、どいつだっけ?」
「ビール腹に惚れた訳じゃないからね、私は。美結ちゃんの将来が心配だったから、助け舟出しただけよ」
そう、真子は悪戯っぽく笑った。
その笑顔を見て、僕は気が付いた。
美結に真子と一緒に暮らしている事自体に、誰よりも優越感を感じている事を。



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風は冷たいですが、ポカポカとした日差しのお蔭で、結構過ごし易いです、今日は。
例年この時期は、年末に向けての追い込みで、ろくに美結の面倒を見てやれないんですが、今年は不景気の為か、注文数が少なく、ゆっくりと年内最後の祝日を楽しめそうです。
おはようございます、幸一です。
―――――――――12月23日(水)―――――――――
表の庭に、キャンプ用のディレクターチェアと、ビールを持ち出して、ドッカと座り込む。
今夜は一日早いですが、クリスマスパーティーを行います。今日はこれから、パーティー用のローストチキンを庭で焼き上げようと思います。
オーブンがわが家に有れば、全然問題ない話だったんですが、わが家にそんなリッチな器具など無く、今年勢いで買ってしまったキャンプで使うダッヂオーブンで、ローストチキンを作ろうと思います。
食材は、精肉店で予め内蔵を取り除いてもらっておいた鶏の丸抜き、人参、ジャガイモ、しめじ位です。
調理器具としては、ダッヂオーブン、炭を熱源にするので、夏に大活躍したバーベキューコンロを、納屋から引っ張り出しました。
僕がゴソゴソしているもんだから、美結が玄関から顔を出してきました。
「おとうしゃん、いまからキャンプいくの?」
「えっ?違うよ。今日はお庭で料理作るんだよ。美結も手伝ってくれる?」
「ん~とね、みゆね、きょうはみかこちゃんとあそぶんだぁ」
休日は、松舞保育園のお友達が周りに居ないから、三軒向こうの叔母さんのお孫さんと、遊ぶ様になりました。美夏子ちゃんはもう小学生だから、物足んないかも知れませんけど、妹みたいに遊んでくれています。
「そっか、危ない事しちゃだめだぞ」
「うん、わかったぁ」そう言うと、美結は小さな手提げカバンを持って出掛けて行った。
一度キッチンに戻り、冷蔵庫から食材を取り出す。
洗濯物を干し終えた真子が勝手口から現れた。
「あっ?もう準備出来たの?」
「おう、後は下ごしらえしてから、炭を熾すわ。」
「こっちも、洗濯物干し終わったから、手伝うね。あれ?美結は?」
「ん、美夏子ちゃんちに遊びに行ったぞ」
「あら、朝から遊びに行っちゃったの? 美夏子ちゃんの勉強の邪魔にならなきゃ良いけど」
うん、最近一段と真子がお母さんらしくなりました。本当頼もしい相方です。
「それで、下ごしらえって何するの?」
「そうだな~。じゃあ真子は、ジャガイモ洗って、人参の皮剥いてくれるか? 俺はチキンの下ごしらえするからさ」
え~っと、本によると・・・丁寧に鶏肉の表面の水気をキッチンペーパーでふき取って・・・身体の外側と中側にたっぷりと塩を擦り込んで、冷蔵庫で30分寝かせる・・・あれっ?なんだいきなりする事が無くなったじゃんか。
真子の方も、手際よく野菜を切り分け終わっている。
ボーっとしてても退屈なので、二人で10時のお茶にする事になった。
「このクッキーね、美夏子ママの手作りなんだって。上手だよね美夏子ママ、今度教わりに行く事になってんだ。」
「おっ、確かに美味しいな。これって中に何か入ってるん?」
「うん、紅茶の葉っぱ入ってる分と、ハーブゼラニュームが入っている分が有るんだって。ねぇ、春になったら、うちの庭にハーブガーデン作らない?ミントやローズマリーとか、育ててみたいなぁ」
ハーブガーデンかぁ・・・美結も花が大好きだし、良いかも知れないな。
「作るとしたら、どの辺りに作る?門を潜って右側は松とか埋ってるから、作るとしたら左側だよなぁ。駐車場が狭くなっちゃうかな?」
「そうかぁ・・・裏庭だと目が行き届かなさそうだし・・・」
僕らは、ハーブガーデンの話で盛り上がった。美結には申し訳ないが、二人っきりで過ごすこの時間が凄く大好きです。

冷蔵庫からチキンを取り出し、真子にお腹の中に野菜を詰め込んでもらう。
その間に、炭を熾す。
この夏、随分バーベキューをやったから、炭熾しも随分慣れました。
風上側を頭にしてUの字型に安い炭を並べる。そして上に備長炭を積み重ねる。新聞紙を捩じってUの字の頭の部分に差し込み火を点ける。
今日は比較的風が有るから、仰いで酸素を送り込む必要は無さそうです。
備長炭にも火が回って安定して来ました。
少し炭を取り分けてから、バーベキューコンロにダッヂオーブンを乗せる。
そして蓋の部分に取り分けた炭を乗せる。
結構使い込んで黒光りするダッヂオーブンを、ニンマリしながら眺めていたら、真子がチキンを持って現れた。
「そろそろ準備出来た幸一?」
「おう、ばっちりだぞ」
ダッヂオーブンの蓋を開け、サラダ油を内側に塗る。
「チキンって、このまま入れるだけでいいの?」真子が少し不安そうに尋ねてくる。
「ん、たしかそのはずだよ・・・」傍らに置いておいたマニュアル本をペラペラめくり、確認する。
「ちゃんと出来るの?」
うっ・・・何たって初挑戦だからなぁ・・・失敗したらすごく侘しいクリスマスパーティーになってしまうよな~(・_・;)
チキンをダッヂオーブンの中に入れ、蓋をする。
後は、炭火の面倒を見ながら2時間待つだけです。
「そろそろ、お昼よね・・・美結を呼んでこなくちゃね。ねぇ、天気も良いし、キャンプ用のテーブルを持ち出して、庭でお昼食べない?」
「あっ、それ良いかもな。じゃあテーブルやイスを準備しておくよ。んで、お昼のメニューは何?」
「う~ん、ラーメンにしようかと思ってたけど、庭でラーメンも変よね・・・」
「ははっ、そりゃ確かに可笑しいよな・・・。何か無かったっけ?」
「え~っとね、パスタなら有るわよ。そうだ、そろそろチーズが固くなり始めたから、チーズフォンデュでもしようかな。美結もチーズ大好きだしね。」
チーズフォンデュかぁ・・・ちょっぴり興味ある料理だよな。
「イイねぇ・・・パンや野菜、ソーセージとか、冷蔵庫掃除にもなるな。」
「じゃあ、早速準備するね。」真子はキッチンに消えていった。

ダッヂオーブンから、美味しそうな音が立ち始め、いい香りの湯気が立ち上り始めた。
この家に戻ってきて良かったと、初めて心から思えた。
そしてこの家族と巡り合えた事に、心から感謝していた。
「さて、美結を迎えに行くかな・・・」
門扉を開き、振り返った・・・子供の頃の幸せだった家がそこに有った。


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