それは、昨日の夜の事
「ただいまぁ~」
いつもの様に、幸一が仕事から帰ってきた。
「とうしゃん、おかえり~」そう言いながら、美結ちゃんが玄関に駆けって行く。
「美結、ただいま。」
「だめでしょ美結ちゃん、『お帰り~』じゃなくて、ちゃんと『お帰りなさい』って言わなきゃ」そう言いながら、私も玄関に幸一を出迎える。
「お帰りなさい、幸一さん」そう言いながら、幸一からお弁当の入ったカバンを受け取る。
「ただいま、真子。なぁ、明日って何か予定有るか?って言うか、予定はキャンセルしろよ‥‥‥じゃ~ん、松舞葡萄園レストランの招待券もらったんだ」
こんにちは、木下真子です
―――――――――5月29日(土)―――――――――
松舞葡萄園‥‥それは、出雲大社の近くの島根ワイナリー程、有名では無いけれど、美味しいワインを作っている小さな葡萄園です。
そこのレストランも、ワインに負けず劣らず美味しいって評判なんですよ。
ただ夕方までしか、お店が開いていないから、もっぱらランチメニューしか無いんですが。
でもでも、ランチメニューとは言え2000円ちょっとするんで、貧乏な我が家には、なかなか手の出せるランチじゃないんですよね。
そんなレストランのチケットが手に入るなんて、何てラッキーなんでしょう。
何でも、取り引き先の社長さんが、「今月末まで有効な招待チケットなんだけど、自分は出張で行けないから」って、譲って下さったらしいんです。
しかも、お土産付きなんだそうで、益々もって嬉しい話ですよね。
13時に予約入れてあるって事で、うちを出たのは12時過ぎでした。
「美結、今日行く葡萄園にはロバがいるんだって。初めてだよなロバを見るのって。分かるかロバ?」
「うん、しってるよ。おみずのなかにいて、おおきなおくちのどうぶつでしょ」
「美結、それはカバだって(笑) ロバはね、ほら『ブレーメンの音楽隊』で、ニワトリやネコを背中に乗せて、ヒヒ~ンって鳴く‥‥‥あれ?ヒヒ~ン?馬?」
「んもう~、幸一さんったら(笑)。ロバさんはね、え~っと‥‥そうねぇ‥‥あれ?‥‥なんの童話に出てたっけ?」
「なんだ、おとうしゃんも、おかあしゃんも、しらないんだ。」
「まっまぁ、見に行けば分かるって美結。でも見た感じは、馬に似てるんだぞ」
「わかった、わかった、おとうしゃん。むきになって、おとなげないわよ」
相変わらずオシャマな美結ちゃんに、思わず笑ってしまいました。
空は曇り空ですが、気分は爽快です。やっぱり幸一と結婚して良かったって思う一瞬です。
葡萄園は小高い丘の斜面に広がっていて、その丘のてっぺんが、ワイナリーとレストランです。
13時まで少し時間が有るから、少し周りを散策する事にしました。
ワイナリーの周りには、パン工房やお豆腐屋、野菜市場も有るんですよ、帰りには、パンやお野菜も買って帰ろうかなぁ♪
美結ちゃんが何かを見付けたみたいで、テケテケと一目散に走り始めました。
「美結ちゃん、走ったら危ないわよ」私も後を追っかけます。
「まこしゃん、おうまさんだ~」
「ん? 美結ちゃん、これがロバさんよ。確かにお馬さんに似てるわよね。」
「ふ~ん、このこがロバさんなのね。こんにちは、ロバさん」
何事も無いかの様に、ロバは黙々と足元の雑草をついばんでいます。
「美結ちゃんと一緒で、ロバさんもお昼ご飯の時間なのよ、きっと。ほら、この葉っぱあげてごらん、ロバさん食べるかもしれないわよ。」そう言いながら、足元に生えている雑草を美結ちゃんに手渡した。
「はい、ロバさん。このはっぱ、おいしいわよ たべてごらん」そう言いながら美結ちゃんがロバの目の前に雑草を突き出した。
ロバは、モソモソとその雑草を食べ始めた。
美結ちゃんはそれを嬉しそうに眺めていた。
「まこしゃん、ほらぁロバさんが、おいしいっていってるよぉ」
「あっ美結ちゃん、そろそろ草を離さないと」
そう言った次の瞬間、ロバが美結ちゃんの手をぺロッと舐めた。
予想外の行動に美結ちゃんは、びっくりして泣き出した。
「ロバさんが、なめた~。みゆのてをなめたぁ」
そう言いながら私に泣き付く、美結ちゃん
「美味しかったんだよ、あの葉っぱが。『ありがとう』って、ロバさんは言いたかったんだよ、だから大丈夫だよ美結ちゃん」
「どうした美結、びっくりしたか? ロバだって美結が泣き出すからビックリしただろうで。さて、そろそろ1時になるからレストランに行こうか。」そう言って幸一が美結ちゃんを抱き上げる。
美結ちゃんには悪いけど、「貴重な体験が出来て良かったね」って思います。
「いただきま~す」
3人で手を合わせて合掌する。
先ずはオードブル‥‥鯛のアラカルトだそうです。
「すげ~。なぁ真子。俺、オードブルが有る料理なんて初めてだぞ。」
「ちょっと、恥ずかしいからそんな大声で喋らないでよね」
「そうだよ、とうしゃん。みゆも、はずかしいよ」
「お~、スマンスマン。どうだ美結、お子様ランチは」
「わたしだけ、おこさまあつかいなんだもんな、しつれいしちゃうわよ」
「いや、美結。お前はどこから見たって、お子様だって(笑) ほら、お前のご飯にしか、旗が付いてないだろ」
「いいなぁ、美結ちゃん、お母さんもその旗欲しいなぁ~」
「だめ、このはたは、みゆのだもん。」
「じゃあ、やっぱり美結ちゃんはお子様ランチで良かったじゃない。」
「うん」
「ほら、美結見てごらん、お父さんだって美結と一緒で飲んでるのは、ブドウジュースだぞ。良いなあお母さんは、ワイン飲めて」
「だって、おとうしゃんは、うんてんしゅでしょ。おさけのんだら、けいさつのおじさんにつかまっちゃうよ」
「そうだよね、美結ちゃん。だからお母さんがお父さんの代わりに飲んでるんだよね。」
「うん、でも、おかあしゃんも、のみすぎたらダメだよ」
「はい、分かりました。これで終わりにしますね(笑)」
メインディシュは、子牛のハッシュ ド ビーフ♪
赤ワインをベースにトロトロに煮込まれたお肉が、口の中でとろけます。
残ったソースをご飯にかけて食べたい衝動に駆られてのは、私だけじゃないと思う。
デザートは、葡萄のムース。
う~ん、葡萄をお腹一杯堪能致しました。
「ご馳走様でした。すごく美味しかったですよ」そう言いながらレジでサービスチケットを差し出す。
「ありがとうございます、是非ともまたお越し下さいね」そう言いながら、ウエイトレスさんがお土産の自家製チーズとワインのセットを、渡して下さいました。
そして美結ちゃんの方を向き「お嬢ちゃん、お名前は?」と、尋ねてきました。
「みゆ、きのしたみゆ‥です」
「あのね美結ちゃん、『さっきは驚かしてごめんなさい』って、ロバさんがこれを持って来たわよ」そう言うと、美結ちゃんに小さな紙袋を渡した。
「ありがとう、おねえちゃん」
「ううん、お礼ならロバさんに言ってあげてね」
「あら、申し訳ございません、気を使わせてしまって」幸一と私は頭を下げた。
「いえいえ、うちのシェフがたまたま見かけたもんで。こちらこそ、申し訳ございませんでした。」
こんな小さな心遣いが嬉しいですよね。
「良かったな美結。ロバさんにもお礼を言いに行こうか。」
「うん、いくぅ」
幸一と美結ちゃんは、先に表に出ていきました。
私は、折角ですから、レストランに併設されたショップコーナーを覗いて見る事に。
以前から探していたハーブソルトを見付け、ついつい衝動買いしちゃいました。
美味しそうなワインが並んでますが、お土産にもらったばっかりですから、今回は諦めておきます。
外に出てみると、幸一と美結ちゃんが、ロバの広場から手を振ってます。
「おかあしゃん、ロバさんにおれいいったよ。ロバさんが、ウンウンっていってたぁ」
「そう、良かったわね美結ちゃん」
「うん、ねぇおかあしゃん。むこうでパンをうってるって。いってみよ~」
「はいはい、そんなに手を引っ張らないで美結ちゃん。どんなパンが有るかな?美結ちゃんの好きなパンも売ってるかな?」
「うん、あるといいなぁ。」
「真子、向こうの豆腐も美味しそうだったぞ。ワインに冷奴って合うんかなぁ?」
美結ちゃんを真ん中に3人で手を繋いで歩く・・・・・
レストランのお土産より、幸一や美結ちゃんと過ごすこの瞬間が一番のプレゼントだった気がするのは、私だけですか?
松舞ラブストーリーアーカイブ
ショート・ショート編
モリヒデ・ヒグラシ編
颯太・朝葉編
洋介・日向編
幸一・真子・美結編
御主人様28号・詩音編
比呂十・美咲編
優ママ編
本田・楓編
ある高校生の夏休み編【完結】
(小夜曲)sérénade編【完結】
楓・青木先輩編【完結】
本田・沢田編【完結】
2009年収穫祭編【完結】
「ただいまぁ~」
いつもの様に、幸一が仕事から帰ってきた。
「とうしゃん、おかえり~」そう言いながら、美結ちゃんが玄関に駆けって行く。
「美結、ただいま。」
「だめでしょ美結ちゃん、『お帰り~』じゃなくて、ちゃんと『お帰りなさい』って言わなきゃ」そう言いながら、私も玄関に幸一を出迎える。
「お帰りなさい、幸一さん」そう言いながら、幸一からお弁当の入ったカバンを受け取る。
「ただいま、真子。なぁ、明日って何か予定有るか?って言うか、予定はキャンセルしろよ‥‥‥じゃ~ん、松舞葡萄園レストランの招待券もらったんだ」
こんにちは、木下真子です
―――――――――5月29日(土)―――――――――
松舞葡萄園‥‥それは、出雲大社の近くの島根ワイナリー程、有名では無いけれど、美味しいワインを作っている小さな葡萄園です。
そこのレストランも、ワインに負けず劣らず美味しいって評判なんですよ。
ただ夕方までしか、お店が開いていないから、もっぱらランチメニューしか無いんですが。
でもでも、ランチメニューとは言え2000円ちょっとするんで、貧乏な我が家には、なかなか手の出せるランチじゃないんですよね。
そんなレストランのチケットが手に入るなんて、何てラッキーなんでしょう。
何でも、取り引き先の社長さんが、「今月末まで有効な招待チケットなんだけど、自分は出張で行けないから」って、譲って下さったらしいんです。
しかも、お土産付きなんだそうで、益々もって嬉しい話ですよね。
13時に予約入れてあるって事で、うちを出たのは12時過ぎでした。
「美結、今日行く葡萄園にはロバがいるんだって。初めてだよなロバを見るのって。分かるかロバ?」
「うん、しってるよ。おみずのなかにいて、おおきなおくちのどうぶつでしょ」
「美結、それはカバだって(笑) ロバはね、ほら『ブレーメンの音楽隊』で、ニワトリやネコを背中に乗せて、ヒヒ~ンって鳴く‥‥‥あれ?ヒヒ~ン?馬?」
「んもう~、幸一さんったら(笑)。ロバさんはね、え~っと‥‥そうねぇ‥‥あれ?‥‥なんの童話に出てたっけ?」
「なんだ、おとうしゃんも、おかあしゃんも、しらないんだ。」
「まっまぁ、見に行けば分かるって美結。でも見た感じは、馬に似てるんだぞ」
「わかった、わかった、おとうしゃん。むきになって、おとなげないわよ」
相変わらずオシャマな美結ちゃんに、思わず笑ってしまいました。
空は曇り空ですが、気分は爽快です。やっぱり幸一と結婚して良かったって思う一瞬です。
葡萄園は小高い丘の斜面に広がっていて、その丘のてっぺんが、ワイナリーとレストランです。
13時まで少し時間が有るから、少し周りを散策する事にしました。
ワイナリーの周りには、パン工房やお豆腐屋、野菜市場も有るんですよ、帰りには、パンやお野菜も買って帰ろうかなぁ♪
美結ちゃんが何かを見付けたみたいで、テケテケと一目散に走り始めました。
「美結ちゃん、走ったら危ないわよ」私も後を追っかけます。
「まこしゃん、おうまさんだ~」
「ん? 美結ちゃん、これがロバさんよ。確かにお馬さんに似てるわよね。」
「ふ~ん、このこがロバさんなのね。こんにちは、ロバさん」
何事も無いかの様に、ロバは黙々と足元の雑草をついばんでいます。
「美結ちゃんと一緒で、ロバさんもお昼ご飯の時間なのよ、きっと。ほら、この葉っぱあげてごらん、ロバさん食べるかもしれないわよ。」そう言いながら、足元に生えている雑草を美結ちゃんに手渡した。
「はい、ロバさん。このはっぱ、おいしいわよ たべてごらん」そう言いながら美結ちゃんがロバの目の前に雑草を突き出した。
ロバは、モソモソとその雑草を食べ始めた。
美結ちゃんはそれを嬉しそうに眺めていた。
「まこしゃん、ほらぁロバさんが、おいしいっていってるよぉ」
「あっ美結ちゃん、そろそろ草を離さないと」
そう言った次の瞬間、ロバが美結ちゃんの手をぺロッと舐めた。
予想外の行動に美結ちゃんは、びっくりして泣き出した。
「ロバさんが、なめた~。みゆのてをなめたぁ」
そう言いながら私に泣き付く、美結ちゃん
「美味しかったんだよ、あの葉っぱが。『ありがとう』って、ロバさんは言いたかったんだよ、だから大丈夫だよ美結ちゃん」
「どうした美結、びっくりしたか? ロバだって美結が泣き出すからビックリしただろうで。さて、そろそろ1時になるからレストランに行こうか。」そう言って幸一が美結ちゃんを抱き上げる。
美結ちゃんには悪いけど、「貴重な体験が出来て良かったね」って思います。
「いただきま~す」
3人で手を合わせて合掌する。
先ずはオードブル‥‥鯛のアラカルトだそうです。
「すげ~。なぁ真子。俺、オードブルが有る料理なんて初めてだぞ。」
「ちょっと、恥ずかしいからそんな大声で喋らないでよね」
「そうだよ、とうしゃん。みゆも、はずかしいよ」
「お~、スマンスマン。どうだ美結、お子様ランチは」
「わたしだけ、おこさまあつかいなんだもんな、しつれいしちゃうわよ」
「いや、美結。お前はどこから見たって、お子様だって(笑) ほら、お前のご飯にしか、旗が付いてないだろ」
「いいなぁ、美結ちゃん、お母さんもその旗欲しいなぁ~」
「だめ、このはたは、みゆのだもん。」
「じゃあ、やっぱり美結ちゃんはお子様ランチで良かったじゃない。」
「うん」
「ほら、美結見てごらん、お父さんだって美結と一緒で飲んでるのは、ブドウジュースだぞ。良いなあお母さんは、ワイン飲めて」
「だって、おとうしゃんは、うんてんしゅでしょ。おさけのんだら、けいさつのおじさんにつかまっちゃうよ」
「そうだよね、美結ちゃん。だからお母さんがお父さんの代わりに飲んでるんだよね。」
「うん、でも、おかあしゃんも、のみすぎたらダメだよ」
「はい、分かりました。これで終わりにしますね(笑)」
メインディシュは、子牛のハッシュ ド ビーフ♪
赤ワインをベースにトロトロに煮込まれたお肉が、口の中でとろけます。
残ったソースをご飯にかけて食べたい衝動に駆られてのは、私だけじゃないと思う。
デザートは、葡萄のムース。
う~ん、葡萄をお腹一杯堪能致しました。
「ご馳走様でした。すごく美味しかったですよ」そう言いながらレジでサービスチケットを差し出す。
「ありがとうございます、是非ともまたお越し下さいね」そう言いながら、ウエイトレスさんがお土産の自家製チーズとワインのセットを、渡して下さいました。
そして美結ちゃんの方を向き「お嬢ちゃん、お名前は?」と、尋ねてきました。
「みゆ、きのしたみゆ‥です」
「あのね美結ちゃん、『さっきは驚かしてごめんなさい』って、ロバさんがこれを持って来たわよ」そう言うと、美結ちゃんに小さな紙袋を渡した。
「ありがとう、おねえちゃん」
「ううん、お礼ならロバさんに言ってあげてね」
「あら、申し訳ございません、気を使わせてしまって」幸一と私は頭を下げた。
「いえいえ、うちのシェフがたまたま見かけたもんで。こちらこそ、申し訳ございませんでした。」
こんな小さな心遣いが嬉しいですよね。
「良かったな美結。ロバさんにもお礼を言いに行こうか。」
「うん、いくぅ」
幸一と美結ちゃんは、先に表に出ていきました。
私は、折角ですから、レストランに併設されたショップコーナーを覗いて見る事に。
以前から探していたハーブソルトを見付け、ついつい衝動買いしちゃいました。
美味しそうなワインが並んでますが、お土産にもらったばっかりですから、今回は諦めておきます。
外に出てみると、幸一と美結ちゃんが、ロバの広場から手を振ってます。
「おかあしゃん、ロバさんにおれいいったよ。ロバさんが、ウンウンっていってたぁ」
「そう、良かったわね美結ちゃん」
「うん、ねぇおかあしゃん。むこうでパンをうってるって。いってみよ~」
「はいはい、そんなに手を引っ張らないで美結ちゃん。どんなパンが有るかな?美結ちゃんの好きなパンも売ってるかな?」
「うん、あるといいなぁ。」
「真子、向こうの豆腐も美味しそうだったぞ。ワインに冷奴って合うんかなぁ?」
美結ちゃんを真ん中に3人で手を繋いで歩く・・・・・
レストランのお土産より、幸一や美結ちゃんと過ごすこの瞬間が一番のプレゼントだった気がするのは、私だけですか?
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