松舞ラブストーリー

山陰の仮想の町松舞町を舞台にした、様々な恋愛を見守ってやって下さいね

カテゴリ: 颯太・朝葉編

「ねえ朝ちゃん?」
「朝ちゃんってば!」

「あっゴメンゴメン、考え事してた。」
私は、イタズラっぽくペロッと舌を出した。
こんにちは、巷ではうちの姉が色々とお騒がせしている様ですね、緑川朝葉です。
―――――――――3月8日(土)―――――――――
先ずは、私達の近況です。
私は、JA雲南の松舞支所で金融窓口勤務です。
颯太君は、雲山にアパート借りて事務機関係の営業マンしています。

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今日は、颯太君のアパートでカナカナの披露宴で流すビデオの編集や、飾り物の作成にです。
って言うのは口実で、実は昨日の夜から颯太君のアパートに、お泊まりしています。
「んで、何?颯太君?」
「うん、披露宴で流すDVDだけどさ、もう少しシーンを省かないと時間が足りないんだよね。どれか省けそうなシーン無いかなぁ?」

高校1年の夏の松ケ浜海水浴に始まって、夏の合宿、花火大会に精霊流し・・・あれ?うちのお姉ちゃん達が写ってる、これって伝説?のBBQ大会の写真ね。
どれも懐かしい思い出です。
「精霊流しの部分、少しカットする?」
「OK、それならカット出来る写真が有るわ。そっちのボードはどう?上手くいってる?」
「う~ん、プロポーズシーンの再現が難しいのよねぇ。お姉ちゃんや錦織先生なら、工作とか得意なんだろうけどねぇ」

いつかはあの二人、結婚するんだろうとは思ってましたけど、意外とあっさりそんな日が来ちゃいましたね。
私達は、どうなるんでしょうね?
もしプロポーズされたら、素直に頷く心の準備は出来ていますが、肝心の颯太君の方がそんな考えないのか、気配すら感じません。

♪♪♪
ん?誰からでしょう、颯太君のスマホにメールが届きました。

・・・
「朝ちゃん、健吾からメールで楓ちゃんと雲山に来てるから、何か手伝いましょうかだって」
「楓ちゃんなら工作とか上手そうだよね。健吾君も、プログラマーだから颯太君も助かるんじゃない?」
「確かにそうだな、あいつノートパソコン持ち歩いているだろうしな。」
・・・折角の二人の時間を邪魔されたくはないですけど、背に腹は代えられませんよね。

「とりあえず、ささっと部屋片づけちゃおうか」
気が付いたらリビング中が、写真やDVDで散らかっていました。
「そうだな、とりあえずあいつらの作業スペース確保しないとな。」
そう言いながら颯太君は、ゆっくり立ち上がりDVDのケースを集め始めました。

そのちょっぴり猫背の背中を見ていたら、意味もなく幸せな気分になってきました。
私達だって、あの夏休みからず~っと一緒に過ごして来たんですもんね。
カナカナ達はカナカナ達、私達は私達でそれぞれの時間を歩めば良いんですよね。
ちょっぴり、カナカナの結婚には刺激されましたが、今は未だこのままの生活でも良いかなって思います。

「・・・ほらぁ、朝ちゃんもボ~ッとしてないで、写真片づけなよぉ」
そう笑う颯太君に「あっ、ゴメンゴメン」って言いながら、微笑み返すいつもの私がいた。

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♪♪♪
おっ、朝ちゃんからメールです。
ジョギング後のシャワー、ちょうど浴び終わった所です。
「はいはい・・・何々?」
こんにちは、颯太です
―――――――――8月6日(日)―――――――――
「・・・そうかぁ、楓ちゃん達もう高校卒業かぁ」
人の進路相談より、自分の身の振り方を心配しなきゃいけないんですけどね。
一応、大学卒業後は松舞で就職しようとは考えていますが、就職氷河期ですから来年度どころか今年度の求人情報すら少ない状態なんですよね。


待ち合わせたサンモールの喫茶店に、少し早めに着いた。
奥の窓際席に座り、読みかけだった文庫本を広げた。
ほどなくウェイトレスが来たので、アイスコーヒーを注文。
何気なく窓の外を眺めると、目の前を高校生の集団が通り過ぎていった。
本を一旦閉じて、届いたアイスコーヒーを口にする。
「高校生かぁ・・・」

高3の夏、何をしていたか、あれこれと思い出してみた。
基本的には全国大会に向けて、部活三昧だったけど、部活の後や休みの日は、殆ど朝ちゃんやモリヒデ達と過ごしていた気がする。
あの時、朝ちゃんも志望校を絞るのに悩んでいた。
モリヒデは、ちらほら求人が出始めていたが、中々これっと言った企業が見つからず焦っていて、いつも愚痴っていたんだよな。
金田は、専門学校進学って意思が固まっていたから、落ち付いていたと思う。
俺自身は、全国大会で良い記録を残す事が、大学入学への一番最短距離で有る事が分かっていたから、別の意味で毎日が大変だった。
まぁその分、大学の推薦が通って、一番最初にひと安心出来たんですけどね。

でも、一番先に進路決めたくせに、朝ちゃんと離れ離れになるんではと、内心落ち込んでいました。
まぁ、結果的には最高のシチュエーションで大学生活を送る事が出来たんですけどね。

きっと、健吾も心のどこかで楓ちゃんとの事が引っ掛かっているんでしょうね。
二人には幸せになって貰いたいんですが、その為だけに進路を決めてしまうのも、どうかなって気もします。
もし、朝ちゃんが東京の大学に受かってなかったっとしても、俺は今の大学に通っていた事だろう。
例え遠距離恋愛になったとしても、陸上は続けたかったし、逆に朝ちゃんと別れるなんて考えも無かった。
遠距離恋愛に関して、当時は根拠の無い自信が有ったんだろうと、今、冷静に分析してみて思う。
だから健吾にも楓ちゃんにも、今一番自分がしたい事に向かって進んで行くように言おうと思う。

アイスコーヒーの氷が、カランっと音を立てた。
ふっと我に帰る。
閉じた文庫本を、もう一度手に取る俺の前に、静かに朝ちゃんが微笑んでいた。


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「お~いモリヒデ、こっちこっち」
「ふぇ~、日曜の朝だって言うのに地下鉄混んでんなぁ」
「そんなもんだって東京なんて。再来週は、東京マラソンだからもっと混雑するぞ、きっと」
「あ~嫌だ嫌だ、俺、人が多いの苦手だからさ」
そりゃ人が多いのが得意な人はいないと思う
こんにちは、芦川颯太です。
―――――――――2月13日(日)―――――――――
今、悪友のモリヒデと彼女の金田が遊びに来ています。
「駅から、緑川のアパートまでは結構歩くん?」
「いいや、5分程だぞ・・・あれ?お前ら荷物はどうしたん?」
「おう、朝のうちにホテルから宅配便で送り出した。どうせ着替えとかばっかだしな。」
「そうだよな、スーツケース転がしながら、街中歩けないもんな」
「あ~、この通りも結構おしゃれじゃないモリヒデ」
「本当だなぁ、やっぱ東京は違うなぁ颯太」
「そうかぁ? 住み続けてると気にならないけどなぁ・・・次の角、曲がったらその先だから」
「確かに駅から近いわね。でもスーパーとか無さそうじゃない、ここって」
「商店街は、この奥の坂を下った所に広がってるからなぁ・・・ほらここ、ここの2階」

「ただいま~」「朝ちゃん、おはよ~」「緑川、お邪魔するぞぉ」
「はいは~い、おはよう~カナカナ、モリヒデくん」
「うわ~きれいな部屋だね、朝ちゃん」
「そう? 普段散らかしちゃってるから、昨日は一日片付けしちゃってたんだけどね。 まぁ、とにかく座って座って♪ 二人ともコーヒーでいいかな?」
「あっ、じゃあ俺コーヒーいれるよ、新しい豆買って来たしね」

僕はいつも様に、コーヒーポットを棚から取り出し、水を入れ沸かし始める。
「ふ~ん颯太、お前やけにこの部屋の中詳しくないかぁ?」
ニヤニヤしながらモリヒデが覗き込んで来た。
「お前だって人の事言えねえだろ、金田の家がリビングでお前の部屋が寝室みたいなもんじゃんか」
「おう、たまに大家さん所が食卓になったりするけどな」
モリヒデの奴はマジで結婚まで秒読み段階って感じですね(^_^;)

「しかし颯太、お前昨日一昨日も忙しかったんだな。陸上?それともバイト?」
「いや・・・それが、単位落としそうで必至にレポート書いてたんだ。でもまぁ無事三回生に上がれたぞ」
「お前が、夜這いばっかしてっからだぞ」
「馬鹿、俺達は至って真面目で健全・・・かな・・・まあ、とにかく普通だぞ」
「こら~モリヒデ~野暮な事聞かないの」リビングの方から金田の奴が叫んでます。

「じゃあ余裕見て、4時半に浜松町のモノレール連絡通路の所ね、朝ちゃん」
「うん、了解だよ颯太君 そうだ、二人で変なお店行っちゃあダメだよ。」
「そうだぞモリヒデも。そんな所寄った日には宍道湖上空から突き落とすからね。」
「いや、それは無理だろ金田」
「・・・ヒグラシに帰ってからイジメ抜かれる位なら、宍道湖に飛び込んだ方が楽なんだぞ颯太よ」
「あっ、ひど~いモリヒデ 明日から弁当作ってやんないからね」
「相変わらずだね、カナカナもモリヒデ君も」朝ちゃんがクスクス笑ってます。
「じゃあ、僕たち秋葉に向かうわ。おい行くぞモリヒデ」
「おう・・・緑川、コーヒーごちそうさん」そう言いながら、モリヒデはカップを流しまで運んで行った
・・・う~ん、ずいぶん金田に教育されたみたいだな、以前じゃ絶対考えられない行動です(笑)


約1時間後、僕達は秋葉原のホームに降り立った。
「ふぇ~、東京って小さい様に見えて結構広いんだなぁ」
「ん~確かにそうだなぁ・・・オレも秋葉原はそんなに行く事が無いからなぁ」
「え~マジで?勿体ない」
「だって俺はモリヒデ程、パソコンとか家電に執着ないからなぁ」
「だってメイドカフェだって有るんだぜ」
「馬鹿、もっと興味無いわいモリヒデ」
「まぁ俺も口では言ってるけど、実際行きたいとは思わないなぁ」
「あぁ~やっぱりモリヒデもそうなんだ。お互い彼女が居るからなぁ」
「って言うより、あの『美味しくなぁれ美味しくなぁれ、萌え萌え萌え』ってされるのうざくない?」
「そっちかよ」
・・・しかも随分マニアックなフレーズを知ってますよねモリヒデ(^^ゞ

「あ~ここ、この店ネットでも結構安く売り出してんだよなぁ・・・ちょっくら寄っていいか颯太?」
「おう、お前が行きたい店遠慮せずに入っていけよ」
「うお~、この無線サーバー安いじゃん。これなら俺の部屋に置いておいても、ヒグラシの部屋まで電波届きそうだな。」
いや、お前はどんだけ金田ん家に入り浸るつもりなんよ(^_^;)

「あっ、これこれ。健太が欲しがってたゲームソフト・・・中古がもう出てんだな、買って帰ってやるか」
・・・これで7件目です、さすがにちょっと疲れてきましたよ俺は
「なぁモリヒデ・・・もう1時半だしそろそろ昼飯にしないか?」
「そうだな・・・少し腹減ったよな、どっかお勧めの店有る?」
う~ん、マジでアキバは滅多に来ませんからね・・・しばし僕は悩みました。
「あっそうだ! お前に最適のバーガーショップが有るぞ。俺も一度行ってみたかったけど、朝ちゃんと一緒だと絶対に朝ちゃんが拒否りそうだから行けなかったんだよな」
「何々? メイドさんの居るバーガーショップ?」
「いや、そう言うんじゃなくて・・・サイズがデカいんだよ、そこのバーガー、アメリカンサイズって言う感じだな」
「おっ良いねぇ・・・当分食いたくないって位食べてみたいねぇ」


それから3件ほど通りすがりの店を冷やかしてから、やっとで目的のバーガーショップに辿り着きました(-_-;)
「おぉぉぉマジでデカいじゃん、このハンバーガー」
「だろ~、こんなんだから朝ちゃんを誘えなくってな」
「ヒグラシならバクバク食いそうだけどな(笑)」
「そう言えば、もう金田のお母さんや大家さんに挨拶したんかモリヒデ?」
「何で? もう住んで3年近いんだぜ今更何を挨拶しろって言うんだよ?」
「いや普通の挨拶じゃなくて・・・『お嬢さんを下さい』とか・・・ほら、色々あんだろ普通」
「あぁ・・・そっちかぁ、そっちの挨拶はまだだな。まだ、完全に一緒になるって決まった訳じゃないし」
「だってプロポーズしたんだろお前」
「まぁ、したと言えばしたけどさぁ・・・まだ、正式なプロポーズじゃないし。はっきりしたヒグラシの返事貰った訳じゃないしな」
「でもまぁ、結婚する気はお互い有るんだろモリヒデ?」
「俺はな・・・ヒグラシの気持ちは・・・どうなんだろ・・・おっ結構味も美味いじゃん、このハンバーグ♪」
あっ、モリヒデの奴上手く話を逸らしましたね・・・まぁ、絶対金田も同じ気持ちなんだろうけど、やっぱり本人の口から聞かないと100%とは言えませんもんね。

もし僕が朝ちゃんにプロポーズしたとして、どんな反応が返ってくるか少し心配になった。
そう考えると、モリヒデが弱腰なのも何となく頷けます。
でもまぁ、まだ2年間は学生なんだし、その後だって就職して落ち着くまでは結婚とか考える事はないんでしょうね。
それまでの時間で、ゆっくりと朝ちゃんとの関係を深めていけば、きっと大丈夫ですよね。
「焦る事はない、僕らは僕らの時間軸で過ごしていけば良いんだから」って、自分に言い聞かせてみる。
・・・うん、確かに美味いっすね、このハンバーガー♪






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「ったくもう・・・モリヒデの奴、大丈夫かなぁ・・・まぁ颯太君が一緒だから大丈夫だろうけどね。颯太君ってそう言う所行きそうな感じしないもんね。いいなぁ朝ちゃんは幸せで。」
「そんな事無いよ・・・私達だって良く喧嘩するんだからねカナカナ。」
「そっか、去年の夏休み喧嘩してたもんね」
カナカナが私のアパート訪ねて来るなんて、考えもしなかったからとっても嬉しいです、こんにちは緑川朝葉です
―――――――――2月13日(日)―――――――――
「しかし、このアパート中々お洒落だね朝ちゃん。」
「うん、誰もが掘り出し物だったねって言ってくれるよ」
「良いなぁ、こんなお洒落な部屋で一人暮らししてみたかったなぁ」
「そっかカナカナはアパートとは言え、一人暮らしじゃないもんね」
「それどころか、厄介な奴がほぼ居候しているし(笑)」
「お母さんや健太君、おじいちゃんやおじさん一家まで公認って言うのが凄いよね」
「う~ん・・・確かに凄い事かもね。まぁそれにつけ上がるのもどうかと思うけどね(笑)」
「でも、カナカナもまんざら嫌じゃないんでしょ?」
「えっ?・・・まぁ・・・まあね・・・私より朝ちゃんの方はどうなのよ?日向さんが、色々心配してるわよ」
「お姉ちゃんだって、人の事言えないのにねぇ・・・私と颯太君はいたって普通だよ」
「やっぱ、卒業したら結婚するの?」
「えっ、そんな事まだまだ先の話だし・・・」

唐突にそんな話題を振られても困りますよね、普通・・・
漠然とは考える時は有りますけど、やっぱり二人ともまだ学生だから、就職とかそっちの問題が片付いた後じゃないと、結婚なんて考えられないですよね。
「朝ちゃんは、大学卒業したら松舞に帰ってくるつもり?それともこのまま東京で就職するの?」
「そうなのよねぇ・・・そろそろその辺の事考えて、就活を始めなきゃいけない時期なんだけどね」
「颯太君の方はどうなの? やっぱりこっちで就職なのかな?」
「あっ、颯太君は一人っ子だし、卒業後は帰って松舞か雲山で働くつもりなんだって」
「そっかじゃあ朝ちゃんも、帰って来る可能性高いのね」
「え~、だから、まだそんな事決まって無いってばぁ」
「ゴメンゴメン。回りでも結婚し始めてるから、つい気になっちゃって。ほら、農業科のヤンキ―で目立ってた子覚えてる?この前赤ちゃん抱いて男と歩いてたし、写真部の子の1人も先月出来ちゃった結婚したってモリヒデが言ってたわよ。」
「あ~もうそんな話が有るんだね。なんか私、取り残された気分だわ。」
「え~そんな事無いってぇ、大学行ってる子は普通にチャラチャラしてるし・・・あっ、ゴメン朝ちゃんの事じゃないからね。」
「うん分かってるって」
でも正直チャラチャラと言われると、他人事とは思えません。
モリヒデ君はしっかり社会人してるし、カナカナだってこの春からはOLなんですからね。
大学の講義がどれほど実生活に活かされるかと考えると、そう言う人種は頭の良いほんの一握りか、専門的な職業に就いた人だけで、私なんか大学卒業って履歴が付くだけで、それ以上何も意味が無い様な気がします。

「でも正直言うと、朝ちゃんがちょっぴり羨ましいわ」
「えっ?何で?」
「だって、まだ無限の可能性が残されているでしょ。私なんて、後は雲山と松舞の往復人生だけだから。きっと会社で上司やお局さんに絞られて、クタクタになってアパート帰ってそれから家事して、お風呂入って寝るだけなんだから」
「でも、それが人間の最終形態でしょ。みんなそこに向かって歩んでいるんだから。私からしてみると逆に、みんなよりスタートダッシュで出遅れたって気がするけど」

「う~ん・・・私と朝ちゃんは走るコースが少し違うって。朝ちゃんは私より上級コースを走っているんだから。高校卒業から見れば、遠回りしている様に見えるけど、きっと就職して同じトラックに戻ってみたら、私やモリヒデを周回遅れにしてるんじゃないかな?」
「そうかなぁ・・・私が周回遅れの様な気がするけどなぁ」
「う~ん・・・遊びに熱中してチャラチャラしている女子になら負けている気はしないけど、朝ちゃんみたいに真面目に大学生している子には負けてる気がするよ・・・スキルはもちろんだし、収入面でもね。モリヒデなんか、基本給が私と大差なくてショック受けてる位だから、朝ちゃんや颯太君が就職した時の初任給を聞いたら、絶対にたかられるわよ(笑)」

「でも、お金だけじゃないでしょ?」
「そりゃ、お金より大切な物が有るって言いたいけど、実際お金は大切なんだしね。」
「夢が無いって言うか・・・リアル過ぎる話だね、カナカナぁ」
「ゴメンね朝ちゃん。でも、こうして社会人として現実に直面すると、結局そこに落ち着いちゃうのよね」
「そうよね、私より先にカナカナの方が事実に直面している訳だもんね」
「そう、だから朝ちゃんにはもっと頑張って上を目指して貰いたいんだよね。そうすれば私もたかりやすいし(笑)」
「あっ、カナカナまで私達にたかるんだ(笑) でも、ありがとう、何だか少しすっきりしたわ。」

私は、もう1杯紅茶を飲もうとティーポットを傾けてみたが、生憎ティーポットの紅茶は飲み干した後だった。
「カナカナも紅茶飲む? 何なら、颯太君が育てた自家製ミントティーも有るよ」
「へぇ颯太君、東京でも植物育ててるんだ、さすが農業科。」
「うん相変わらず育ててるよ。そうそう明日のバレンタインはチョコにプラスして小さな鉢植えを送ろうかなって考えてるんだ」
「私は折角だから、渋谷で何か買おうと考えてるけどね。朝ちゃん何かお勧めない?」
「そうねぇ・・・モリヒデ君の場合、質より量でしょ・・・」
「そうなのよねぇ・・・もっと、お洒落な生き方してくれれば、良いんだけどねぇ」
でも、そう話すカナカナの顔は凄く幸せそうだった。
私も、こんな幸せそうな顔で颯太君の事話しているのかなぁ
あんまり自信は無いけど、いつかはそんな風になりたいと思う。
そして、笑顔で二人の将来の事を話す日が来れば・・・






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「ひどいよ、もう最低、信じられない。」
彼女は、そう言いながら、アパートのドアも閉めずに、外に飛び出して行った。
こんな酷い喧嘩をしたのは、初めてだった。
俺は、虫の居所が収まらないし、どうしたらいいのか分からず、部屋の隅にうずくまっていた。
それは盆前の土曜日の話だった。
それ以来、彼女と連絡が取れません。
こんばんわ、颯太です。
―――――――――8月20日(金)―――――――――
なぜ、あんなに仲が良かったのに喧嘩したかって?
それは、些細な事だったと思う、思い出せない位小さな事。
今、それを思い出そうとしても、しんどいだけですから、それ以上は語りたくないですね。

どうやら彼女‥‥朝ちゃんは、松舞に帰ったみたいです。
俺はと言うと、部活やバイトって適当に理由を付けて、東京に残る事にしました。
松舞に帰っても、同じアパートにモリヒデや金田が住んでいる訳で、色々と世話を焼かれるのも何となく癪ですからね。
今にして思えば、あの二人に仲介を頼むって手も有ったんですよね。

窓の外を眺めると、土砂ぶりの雨は小康状態になってますが、遠くで雷が鳴っているのが聞こえます。
窓を開けて空を眺めると、今の気持ちと同じで、どんよりとした雲が鈍く街の明かりに照らされています。

「そう言えば、朝ちゃんのアパートのベランダに置いてあるハーブ達、大丈夫だったかな?」
ふっと、そんな事を考えた。
合鍵は有るから、入ろうと思えば入れるんですが、喧嘩の真っ最中ですから、こっちから負けを認める様で、入りたいとも思いません。

そんな事を考えていたら、また怒りが沸々と蘇って来た。
朝ちゃんが他の男と会っていた‥‥‥
お昼から夕方にかけての話だから、多分疾しい事では、無いと思う。
でも会っていたのは事実だし、何度もメールで会話もしていた。
そんな朝ちゃんを、見て尋常で居られるほど、俺は人間が出来ていない。
「そんなに私の事が信用出来ないの?」って、彼女は聞いてきた。
本当に朝ちゃんの言う様に、相談に乗っていたのだけかもしれない。
困っている人を放っておけない性格、それだから彼女の事を好きなんだよな。
でも、俺には、他の女の子との接点を嫌う癖に、朝ちゃんは他の男と接点を持っている。
その不公平さが、我侭さが許せなかったのも事実だ。

今までの出来事をあれこれと思い出してみる。
楽しかった事、嫌だった事、その一つ一つがどれも、大切な思い出であり、例え小さな思い出でも、複雑に絡み合ってやはり捨て切れない大切な思い出だったりしている。
「やっぱり、ハーブ仕舞いに行こうかな‥‥でもやっぱりなぁ‥‥」
俺の心は、揺れ動いていた。
また降り出しそうな曇り空と一緒で、心もザワザワ揺れている。


そんな事を、ウダウダと考えているうちに、壁にすがって居眠りしていたようです、気がつくと空がうっすらと白くなり始めていた。
新聞配達の自転車が、カチャカチャと音を立てながら、窓の下を走り抜けて行く。
「このまま、ぼ~っとしてても時間の無駄か‥‥」
俺は、Tシャツとランニングパンツに着替え、軽くストレッチをした。
外に出てみると、いつの間にか雲が薄くなっていた。
澄んだ空気を味わう様に、深く深呼吸をする。
一歩づつゆっくりと歩き始める。
意識している訳ではないが、足は朝ちゃんのアパートが有る三軒茶屋へと向かっていた。

歩道には所々、水たまりが残っている。
そのうち、消えて無くなる水たまり、それは俺の心のわだかまりと、同じ様に思えてきた。
そのうち、消えて無くなる些細な出来事だったんだよ、きっと。
道の真ん中に出来た、大きな水たまりを飛び越えた瞬間、俺の気持ちは曇りが取れた。
「何も無かった顔をして、会いに行こう。」
俺は、走り出した。
朝ちゃんと色々な話がしたかった。
何でも無いここ数日の些細な事とか、とにかく何でもいい、彼女の声が聞きたかった。
もちろん、アパートに朝ちゃんが居る保証は無いんですが、行かないと気が済まなかったんです。



‥‥‥やはり、アパートに未だ戻って来てませんでした、朝ちゃんは。
ハーブの事も気になりましたが、合鍵を持っているとは言え、勝手に女性の部屋に入るのはちょっと気が引けましたから、今回はあきらめました。
とりあえず、自分の思うがままに行動した、それだけで満足です。
「んじゃあ、コンビニで朝飯でも買って帰るか」
俺は来た道を、走り出した。


コンビニで牛乳とサンドイッチを買う。
自動ドアが開いた瞬間、ムッとした空気が俺の身体を包み込む。
「こりゃ、朝から暑くなりそうだな。」見上げると、抜ける様な青空が広がっていた。
アパート近くの公園を抜ける時、セミの鳴き声が聞こえてきた。
ふっと、ヒグラシこと金田の事を思い出す。
「モリヒデの奴も、金田とこんな事を繰り返しているんだろうな」
そう考えると、たまに喧嘩するのも悪くないかなっと思えてきた。
俺はベンチに座り、サンドイッチを頬張りながら、頭上の樹をしげしげと眺めた。
「あっ、こいつはミンミン鳴いているから、アブラゼミだよな・・・(笑)」
そんな、つまらないネタでも、朝ちゃんはククッっと笑ってくれる。
そんな笑顔をふっと思い出したら、凄く寂しく思えてきた。
俺が素直になっていれば、いや・・・見栄を張らずに松舞に帰っていれば・・・
いつもの休日みたいに、青く晴れた公園で、手作りのサンドイッチを頬張りながらお喋りしていたい
会いたいな・・・会いたいよ・・・朝ちゃん
そんな事を呟いている自分に、ハッと気が付き恥ずかしくなってしまう。
「誰も聴いてなかったっと」そう言いながら、公園を見渡す。
下北沢の街は既に動き始めており、通勤途中のサラリーマンが俺の事など気にもせず、せわしなく歩いています。
そんな人ごみの中、重そうにトランクケースを転がす女性が目に止まる

「?! 朝ちゃん?」
その女性は、公園の入り口を抜け、こっちに向かって歩いてくる。
しばらく眺めていると、俺の存在に気が付き、足を止めた。
やっぱり、朝ちゃんだ。
彼女はゆっくりと俺に向かって歩き始める。
そして、俺の目の前で立ち止まった
「よお、おはよう。今朝も朝から暑いな」
「そっ‥‥そうね。何してるの、こんな所で?」
「‥‥‥三軒茶屋まで、ランニングした帰りさ。セミが鳴いててさ、ちょっと休憩してたんだ」俺は頭上の樹をもう一度見上げる。
相変わらずミンミンと鳴き続けていた
「アブラゼミだよね?颯太君 」
「そうだな、ヒグラシじゃないぞ、こいつは」
プッって、朝ちゃんが吹き出した。
「分かるわよ、私だってそれ位。ヒグラシは松舞に居るって言いたいんでしょ。カナカナに随分と説教されて来ました。」
「やっぱ、松舞に帰ってたんだ。」
「そうだよ、でも颯太君の居ない松舞はつまんなかったよ。花火大会だって、行ってないんだから・・・あのね・・・ごめんね颯太君・・・」
「俺こそごめん・・・朝ちゃんの事信じてるから。そんな事より、花火見てないんだ・・・確か今夜、二子玉川の花火大会だったはずだよ、見に行こうか」
「うん、行く行くぅ・・・でもその前に荷物を置いてこなきゃ。」
「花火は夜なんだから、まだ時間は一杯有るって。それに、二子玉なら三軒茶屋にどのみち出なきゃいけないし。」
「そうよね・・・まだ朝よね」クスッと朝ちゃんが笑う。
何日振りかに見るその笑顔に、俺も笑顔になる。
「取りあえず、俺、シャワー浴びて着替えるから、俺のアパートに来いよ。ほら、荷物持ってやるって」
「ありがとう、颯太君」
俺と朝ちゃんは、干からびた水溜りを、一つ飛び越えて歩き出した。


くりむぞんより・・・
すいません、スガシカオの最新アルバムFUNKASTiCの中の一曲、「雨上がりの朝に」にインスパイアされて書きました・・・


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