先週、約束した通り今日は、佳奈絵さんのクッキー作り教室を開きます。
本田は、昨日もグチグチ文句を言ってましたが、一体、誰の為の企画だと思っているんでしょうか?
えっ?誰です、押し付けるのは良くないなんて言ってるのは!
おはようございます、森山楓です。
―――――――――3月6日(土)―――――――――
ピンポ~ン
はいはい、早速誰か到着したみたいですね。
玄関を開けると、おっきなビニール袋を持った、本田が立っていた。
「う~っす。」
「おはよ、本田」
「楓、おばさん居る? これ、うちの母ちゃんから持って行けって渡されたんだ。隠岐産の干物の詰め合わせだってさ。」
「うわっ、こんなに沢山! おばさんにお礼しなきゃね、先にお兄ちゃんの部屋に上がっといて・・・お母さん~本田のおばちゃんから、干物を沢山貰ったよ~」
とりあえず、干物を台所のテーブルの上に置き、2階に上がろうとした時、今度はお兄ちゃんと佳奈絵さんが玄関から顔を覗かせた。
「あっ、お兄ちゃんおはよ。佳奈絵さんも、おはようございます。すいません、今日は無理なお願いしちゃって。」
「ううん、いいのよ。はいこれ、千華屋の田舎饅頭。」
「スイマセン、いつもいつも・・・」
「んで、彼はもう来てるの?」
「あっ、はい、2階のお兄ちゃんの部屋に居ますよ」
「じゃあ、ヒグラシはお茶でも淹れて来いよ、俺、先に上がっとくから」
・・・相変わらず、お兄ちゃんは人使いが荒いですね。
「あっ、良いですよ、佳奈絵さん。私がお茶淹れて上がりますから。」
「ん~、いいのよいいのよ、私も手伝うから」
うん、佳奈絵さんは本当素敵な女性です・・・将来、私の儀姉さんになる?のかと、思うとちょっぴり嬉しいです。
煎茶を淹れて2階に上がると、お兄ちゃんと本田は、ゲームの話で盛り上がっていた。
「ヒグラシ、こいつが本田健吾。小さい頃から兄弟みたいに育ったんだ。」
「初めまして、本田健吾です。今日は、楓がわがまま言ってすいません。」
ちょっと、私のわがまま?
「本田、それは無いでしょ。あんたの為に佳奈絵さんや私が一肌脱ごうって言うんだからね。」
「いや、楓。俺はお前に頼んだ覚えは無いって。」
「まあまあ、いいじゃないの二人とも。ねぇねぇ本田君の彼女って、収穫祭の時、一緒にお餅突きしてた子?」
「え~っと、そうですよ。でも彼女じゃないっすよ。」
「そ・・・そうね。あの子って名前なんて言うの?」
「沢田です、沢田瑞希。」
「あっ、やっぱり沢田先輩の妹さんだ。5歳年上のお姉さんが居ない?彼女に」
「え~、歳は分かんないけど、お姉さんが居るって言ってましたよ」
「私が高1の時の美術部の部長さんなのよ、モリヒデ、覚えてるでしょ? 顔が似てるから、どうかな~って思ってたんだ。」
「沢田先輩? おう、覚えてる覚えてる、すげー美人だったからな。写真部の長田部長の彼女だったんだよな。」
「そうそう、あの二人お似合いだったもんね。それでねぇ、楓ちゃん、それで今回はどんなクッキーを考えてるの?」
えっ? 漠然にクッキーとしか考えていませんでした。
「え~っと、どうしましょう~。ほら、本田も考えなさいよ」
「何でだよ、お前が任せておけって言ったんだろ。愛の使者楓様が。」
「何だよ、愛の使者楓って・・・。楓に任せておいたら、まとまる話もまとまらなくなるぞ、健吾。」
「あっ、ヒデにいも、そう思うでしょ」
「二人とも楓ちゃんをいじめなくても、良いでしょ。楓ちゃんは本田君の事を思って、一生懸命にやっているんだから。じゃあ、楓ちゃんイチゴジャム混ぜ込んで、ピンク色のクッキーにしようか、もちろんハート型のね」
「あっ、それ良いですね~。ホワイトクッキーと2色にすると、キレイかもしれませんね。じゃあ、早速準備するわよ健吾」
「じゃあ、モリヒデ。車の中から私のトートバッグ取って来てよ、道具や材料が一式入ってるから。」
「はいはい、うちの女どもは人使い荒いよな~、健吾」
健吾がクスクス笑ってます。
「いや、佳奈絵さんなら大歓迎ですけど、楓はね~」
なっ何よ、どうしてそこで差別すんのよ。
「じゃあ始めるわよ~モリヒデに本田君、ちゃんと手を洗った? ホワイトディのプレゼントで食中毒なんて洒落にならないからね。」
「おう、ちゃんと洗ったぞ、ヒグラシ」
「じゃあ、ボールに小麦粉入れて・・・あっ、本田君直接入れるんじゃなくて、このふるい器使って篩ってね。そうしないと粉がダマになっちゃうから。」
「はい分かりました、佳奈絵さん。おい、楓これどう使うんだ?」
「えっとね、これはこうやって取っ手を握ると、小麦粉が篩われるのよ。」
「へぇ、面白いもんだな。やっぱ、女の子はこう言う事詳しいな」
何?・・・珍しく健吾が、褒めるから、何か気持ち悪いですね。
「じゃあ、モリヒデはこの無塩バターを、しゃもじで柔らかくなるまで、混ぜてよ。」
「へいへい、分かりました・・・って、このバター、カチカチじゃんか、電子レンジで温めるんか?」
「ダメダメ、そんな事したら分離しちゃうでしょ、丁寧に練って練って柔らかくするのよ」
「え~、面倒臭いなぁ」お兄ちゃんはブツブツ文句を言いながらも、ボールの中の無塩バターを混ぜてます・・・何だかんだ言って、佳奈絵さんの言う事聞くんですね、こりゃマジ惚れですね。
「楓ちゃん、オーブンの余熱始めてね。本田君小麦粉篩ったら、牛乳をカップで計って、小麦粉に加えてね。」
「おい楓、バター柔らかくするの、手伝えよ~。流石に腕が疲れて来たわ。」
「んもう~、お兄ちゃんったら、根性が無いんだからぁ」
「佳奈絵さん、牛乳加えました~、次は何しましょう」
「ちょっと待ってね、ねぇモリヒデ何休んでんのよ、バターの次はジャムとバニラエッセンスを準備してよね」
うちの狭い台所で、4人が笑いながらドタバタとお菓子作りに夢中になってます。
こう言う休日も楽しいですね。
本当なら青木先輩と、楽しくお菓子作りをやってみたかったんですけどね。
でもほら、青木先輩って、そう言う感じのキャラじゃ有りませんし・・・
それに青木先輩は・・・。
大体、キャラじゃないって言ったら、本田はどうなんだ?って言われそうですよね。
でも年上の女性を口説くんですから、可愛い男子って路線も有りだと思ったんですけど、どう思われます?
「あっ、いい匂いがする♪ ねぇ、健吾」
「おっ、おう、焼きたてって感じのいい香りだ。」
「もう少しで焼き上がるわよ。じゃあ楓ちゃん、紅茶準備して試食しようか。」
「はい、佳奈絵さん。今日はどの紅茶にします?」
「そうね~、水色の鮮やかなオレンジペコにしようか。あっ、ちょっと私達、おばさん達の所に行ってくるから、ちゃんとオーブン見ててね。」
「は~い、じゃあ御茶の準備しておきますね、あっ本田、ヤカンでお湯沸かしてくれる?」
「へいへい・・・」
今日一日で、健吾も随分と従順になりました(笑)
ヤカンから、モクモクと沸き上がる湯気を、ぼ~っと見つめていた。
「なぁ、楓・・・お前、青木先輩と何か有ったんか?」
オーブンを覗き込んでいた本田が、こっちを振り返ってそう聞いてきた
「えっ?何で?」
「だって、ここん所お前、一人で帰ってるだろ、それに今日一言も青木先輩の事を口にしてないだろ」
「何もないよ、最近なかなか時間が合わないだけよ、ほら青木先輩は普通科だから、大学進学の事も考えなきゃいけないしね。」
「そっか、お前がそう言うんなら、大丈夫だな。お前は昔っから不器用だからな、人の心配する前に自分の心配しろよ。それから、これ、少し早いけど、ホワイトディのプレゼント」
そう言って、健吾がカバンからプレゼントボックスを取り出した。
「本田・・・。」
「馬鹿、勘違いするなよ、義理だからな義理!」
「分かってるわよ、そんなの・・・。今更あんたに、本命プレゼント貰ったって・・・」
そう言いながら、包み紙を開ける。
箱を開けると中から、リラックマのコーヒーカップが出てきた。
「あっ、リラックマだ♪ ありがとう本田。欲しかったんだリラックマのカップ・・・よく分かったね。」
「そりゃ、最近、お前の持ち物全部そのクマのイラスト付いてるからな、馬鹿だって気が付くさ」
本田がファンシーコーナーで、リラックマのカップをあれこれ物色している姿を想像したら、何となく笑えてきた。
「なんだ、あんたもちゃんとプレゼント選べるんじゃん。」
「当たり前だろ、ガキじゃないんだからな」
「ありがとう、大切にするね。」
「おう。あっそろそろクッキー焼けたんじゃないか?」
「どれどれ・・・あっ本当だ、良い具合に焼けてるね。」
このクッキーは、本田が沢田先輩の為に焼いたクッキー・・・これを沢田先輩に渡しながら告白をする。
そうさせようとしているのは、この私なんだけど・・・幼馴染みの本田が、凄く遠い存在に感じられて来た。
小さい頃から一緒に過ごし、気が付くと私の横には、いつも本田が居た。
思い出の風景の中にも、必ず本田が写り込んでいて、笑顔でこっちを見ている。
そんな本田が、沢田先輩の彼氏になる・・・祝福すべき事なんだけど、今更ながら素直に祝福出来ない自分に気が付いた。
今日だって、本田が一緒だったから、楽しかったんだと思う。青木先輩が一緒にクッキー作っていたとして、それはそれで楽しかったんだろうけど、本田と過ごしている時の楽しさとは、どこか違う気がした。
私って本当わがままですよね、私には青木先輩って彼が居て、本田には沢田先輩って好きな女の子が居る、なのに本田が自分の方を向いていないと、気が済まない。
まだ心のどこかに、本田の事を好きって言う気持ちが、残っている事に気が付いた。
そして、そんな気持ちを否定する為に、青木先輩を好きになり、そして本田には新しい彼女を作らせようとしている事に・・・
「おい、楓どうした?ぼ~っとして。」
「あっ、ゴメンゴメン本田。じゃあクッキー取り出そうか」
「おう。おっ、美味しそうに焼けてるなぁ。どれどれ一つ味見してみよ。うん、いいイチゴの香りがする、ほら楓も食ってみろよ。」
「だめだめ、沢田先輩にあげちゃう分が無くなっちゃうよ。」
「そんときゃ、もう一回焼きゃいいさ。このクッキーは、お前と作った二人のクッキーなんだから、沢田先輩に渡すのは変な話だろ。」
「二人のクッキーって・・・」
その言葉に胸が熱くなってきた。
やっぱり、あんたは私の大切なボーイフレンドなんだね。
そう、ず~っとず~っと大切なボーイフレンド。
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ある高校生の夏休み編【完結】
(小夜曲)sérénade編【完結】
ショート・ショート編
モリヒデ・ヒグラシ編
颯太・朝葉編
洋介・日向編
幸一・真子・美結編
楓・青木先輩編
御主人様28号・詩音編
比呂十・美咲編
本田・沢田編
優ママ編
2009年収穫祭編【完結】
本田は、昨日もグチグチ文句を言ってましたが、一体、誰の為の企画だと思っているんでしょうか?
えっ?誰です、押し付けるのは良くないなんて言ってるのは!
おはようございます、森山楓です。
―――――――――3月6日(土)―――――――――
ピンポ~ン
はいはい、早速誰か到着したみたいですね。
玄関を開けると、おっきなビニール袋を持った、本田が立っていた。
「う~っす。」
「おはよ、本田」
「楓、おばさん居る? これ、うちの母ちゃんから持って行けって渡されたんだ。隠岐産の干物の詰め合わせだってさ。」
「うわっ、こんなに沢山! おばさんにお礼しなきゃね、先にお兄ちゃんの部屋に上がっといて・・・お母さん~本田のおばちゃんから、干物を沢山貰ったよ~」
とりあえず、干物を台所のテーブルの上に置き、2階に上がろうとした時、今度はお兄ちゃんと佳奈絵さんが玄関から顔を覗かせた。
「あっ、お兄ちゃんおはよ。佳奈絵さんも、おはようございます。すいません、今日は無理なお願いしちゃって。」
「ううん、いいのよ。はいこれ、千華屋の田舎饅頭。」
「スイマセン、いつもいつも・・・」
「んで、彼はもう来てるの?」
「あっ、はい、2階のお兄ちゃんの部屋に居ますよ」
「じゃあ、ヒグラシはお茶でも淹れて来いよ、俺、先に上がっとくから」
・・・相変わらず、お兄ちゃんは人使いが荒いですね。
「あっ、良いですよ、佳奈絵さん。私がお茶淹れて上がりますから。」
「ん~、いいのよいいのよ、私も手伝うから」
うん、佳奈絵さんは本当素敵な女性です・・・将来、私の儀姉さんになる?のかと、思うとちょっぴり嬉しいです。
煎茶を淹れて2階に上がると、お兄ちゃんと本田は、ゲームの話で盛り上がっていた。
「ヒグラシ、こいつが本田健吾。小さい頃から兄弟みたいに育ったんだ。」
「初めまして、本田健吾です。今日は、楓がわがまま言ってすいません。」
ちょっと、私のわがまま?
「本田、それは無いでしょ。あんたの為に佳奈絵さんや私が一肌脱ごうって言うんだからね。」
「いや、楓。俺はお前に頼んだ覚えは無いって。」
「まあまあ、いいじゃないの二人とも。ねぇねぇ本田君の彼女って、収穫祭の時、一緒にお餅突きしてた子?」
「え~っと、そうですよ。でも彼女じゃないっすよ。」
「そ・・・そうね。あの子って名前なんて言うの?」
「沢田です、沢田瑞希。」
「あっ、やっぱり沢田先輩の妹さんだ。5歳年上のお姉さんが居ない?彼女に」
「え~、歳は分かんないけど、お姉さんが居るって言ってましたよ」
「私が高1の時の美術部の部長さんなのよ、モリヒデ、覚えてるでしょ? 顔が似てるから、どうかな~って思ってたんだ。」
「沢田先輩? おう、覚えてる覚えてる、すげー美人だったからな。写真部の長田部長の彼女だったんだよな。」
「そうそう、あの二人お似合いだったもんね。それでねぇ、楓ちゃん、それで今回はどんなクッキーを考えてるの?」
えっ? 漠然にクッキーとしか考えていませんでした。
「え~っと、どうしましょう~。ほら、本田も考えなさいよ」
「何でだよ、お前が任せておけって言ったんだろ。愛の使者楓様が。」
「何だよ、愛の使者楓って・・・。楓に任せておいたら、まとまる話もまとまらなくなるぞ、健吾。」
「あっ、ヒデにいも、そう思うでしょ」
「二人とも楓ちゃんをいじめなくても、良いでしょ。楓ちゃんは本田君の事を思って、一生懸命にやっているんだから。じゃあ、楓ちゃんイチゴジャム混ぜ込んで、ピンク色のクッキーにしようか、もちろんハート型のね」
「あっ、それ良いですね~。ホワイトクッキーと2色にすると、キレイかもしれませんね。じゃあ、早速準備するわよ健吾」
「じゃあ、モリヒデ。車の中から私のトートバッグ取って来てよ、道具や材料が一式入ってるから。」
「はいはい、うちの女どもは人使い荒いよな~、健吾」
健吾がクスクス笑ってます。
「いや、佳奈絵さんなら大歓迎ですけど、楓はね~」
なっ何よ、どうしてそこで差別すんのよ。
「じゃあ始めるわよ~モリヒデに本田君、ちゃんと手を洗った? ホワイトディのプレゼントで食中毒なんて洒落にならないからね。」
「おう、ちゃんと洗ったぞ、ヒグラシ」
「じゃあ、ボールに小麦粉入れて・・・あっ、本田君直接入れるんじゃなくて、このふるい器使って篩ってね。そうしないと粉がダマになっちゃうから。」
「はい分かりました、佳奈絵さん。おい、楓これどう使うんだ?」
「えっとね、これはこうやって取っ手を握ると、小麦粉が篩われるのよ。」
「へぇ、面白いもんだな。やっぱ、女の子はこう言う事詳しいな」
何?・・・珍しく健吾が、褒めるから、何か気持ち悪いですね。
「じゃあ、モリヒデはこの無塩バターを、しゃもじで柔らかくなるまで、混ぜてよ。」
「へいへい、分かりました・・・って、このバター、カチカチじゃんか、電子レンジで温めるんか?」
「ダメダメ、そんな事したら分離しちゃうでしょ、丁寧に練って練って柔らかくするのよ」
「え~、面倒臭いなぁ」お兄ちゃんはブツブツ文句を言いながらも、ボールの中の無塩バターを混ぜてます・・・何だかんだ言って、佳奈絵さんの言う事聞くんですね、こりゃマジ惚れですね。
「楓ちゃん、オーブンの余熱始めてね。本田君小麦粉篩ったら、牛乳をカップで計って、小麦粉に加えてね。」
「おい楓、バター柔らかくするの、手伝えよ~。流石に腕が疲れて来たわ。」
「んもう~、お兄ちゃんったら、根性が無いんだからぁ」
「佳奈絵さん、牛乳加えました~、次は何しましょう」
「ちょっと待ってね、ねぇモリヒデ何休んでんのよ、バターの次はジャムとバニラエッセンスを準備してよね」
うちの狭い台所で、4人が笑いながらドタバタとお菓子作りに夢中になってます。
こう言う休日も楽しいですね。
本当なら青木先輩と、楽しくお菓子作りをやってみたかったんですけどね。
でもほら、青木先輩って、そう言う感じのキャラじゃ有りませんし・・・
それに青木先輩は・・・。
大体、キャラじゃないって言ったら、本田はどうなんだ?って言われそうですよね。
でも年上の女性を口説くんですから、可愛い男子って路線も有りだと思ったんですけど、どう思われます?
「あっ、いい匂いがする♪ ねぇ、健吾」
「おっ、おう、焼きたてって感じのいい香りだ。」
「もう少しで焼き上がるわよ。じゃあ楓ちゃん、紅茶準備して試食しようか。」
「はい、佳奈絵さん。今日はどの紅茶にします?」
「そうね~、水色の鮮やかなオレンジペコにしようか。あっ、ちょっと私達、おばさん達の所に行ってくるから、ちゃんとオーブン見ててね。」
「は~い、じゃあ御茶の準備しておきますね、あっ本田、ヤカンでお湯沸かしてくれる?」
「へいへい・・・」
今日一日で、健吾も随分と従順になりました(笑)
ヤカンから、モクモクと沸き上がる湯気を、ぼ~っと見つめていた。
「なぁ、楓・・・お前、青木先輩と何か有ったんか?」
オーブンを覗き込んでいた本田が、こっちを振り返ってそう聞いてきた
「えっ?何で?」
「だって、ここん所お前、一人で帰ってるだろ、それに今日一言も青木先輩の事を口にしてないだろ」
「何もないよ、最近なかなか時間が合わないだけよ、ほら青木先輩は普通科だから、大学進学の事も考えなきゃいけないしね。」
「そっか、お前がそう言うんなら、大丈夫だな。お前は昔っから不器用だからな、人の心配する前に自分の心配しろよ。それから、これ、少し早いけど、ホワイトディのプレゼント」
そう言って、健吾がカバンからプレゼントボックスを取り出した。
「本田・・・。」
「馬鹿、勘違いするなよ、義理だからな義理!」
「分かってるわよ、そんなの・・・。今更あんたに、本命プレゼント貰ったって・・・」
そう言いながら、包み紙を開ける。
箱を開けると中から、リラックマのコーヒーカップが出てきた。
「あっ、リラックマだ♪ ありがとう本田。欲しかったんだリラックマのカップ・・・よく分かったね。」
「そりゃ、最近、お前の持ち物全部そのクマのイラスト付いてるからな、馬鹿だって気が付くさ」
本田がファンシーコーナーで、リラックマのカップをあれこれ物色している姿を想像したら、何となく笑えてきた。
「なんだ、あんたもちゃんとプレゼント選べるんじゃん。」
「当たり前だろ、ガキじゃないんだからな」
「ありがとう、大切にするね。」
「おう。あっそろそろクッキー焼けたんじゃないか?」
「どれどれ・・・あっ本当だ、良い具合に焼けてるね。」
このクッキーは、本田が沢田先輩の為に焼いたクッキー・・・これを沢田先輩に渡しながら告白をする。
そうさせようとしているのは、この私なんだけど・・・幼馴染みの本田が、凄く遠い存在に感じられて来た。
小さい頃から一緒に過ごし、気が付くと私の横には、いつも本田が居た。
思い出の風景の中にも、必ず本田が写り込んでいて、笑顔でこっちを見ている。
そんな本田が、沢田先輩の彼氏になる・・・祝福すべき事なんだけど、今更ながら素直に祝福出来ない自分に気が付いた。
今日だって、本田が一緒だったから、楽しかったんだと思う。青木先輩が一緒にクッキー作っていたとして、それはそれで楽しかったんだろうけど、本田と過ごしている時の楽しさとは、どこか違う気がした。
私って本当わがままですよね、私には青木先輩って彼が居て、本田には沢田先輩って好きな女の子が居る、なのに本田が自分の方を向いていないと、気が済まない。
まだ心のどこかに、本田の事を好きって言う気持ちが、残っている事に気が付いた。
そして、そんな気持ちを否定する為に、青木先輩を好きになり、そして本田には新しい彼女を作らせようとしている事に・・・
「おい、楓どうした?ぼ~っとして。」
「あっ、ゴメンゴメン本田。じゃあクッキー取り出そうか」
「おう。おっ、美味しそうに焼けてるなぁ。どれどれ一つ味見してみよ。うん、いいイチゴの香りがする、ほら楓も食ってみろよ。」
「だめだめ、沢田先輩にあげちゃう分が無くなっちゃうよ。」
「そんときゃ、もう一回焼きゃいいさ。このクッキーは、お前と作った二人のクッキーなんだから、沢田先輩に渡すのは変な話だろ。」
「二人のクッキーって・・・」
その言葉に胸が熱くなってきた。
やっぱり、あんたは私の大切なボーイフレンドなんだね。
そう、ず~っとず~っと大切なボーイフレンド。
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