松舞ラブストーリー

山陰の仮想の町松舞町を舞台にした、様々な恋愛を見守ってやって下さいね

カテゴリ: ショートショート

私達3人は、雲の端っこから身を乗り出して、下に広がる世界を眺めていた。
「ねぇ美結ちゃん、もうパパとママ決めた?」
横に座った次郎君が、私に話かけて来ました。
こんにちは、背中に羽の生えてる、美結です。
―――――――――8月15日(月)―――――――――
「ううん、パパは決めたんだけど、ママをどっちにしようか悩んでるの。次郎君は決まったの?」
「うん、ほらあそこのバス停でバスを待ってる男の人と、あっちの坂を必死で自転車漕いでる女の人」
「ふ~ん、どうしてあの人達にしたの?」
次郎君の向こうに座っていた、俊君が話かけてきた。
「えっとね俊君、男の人はバス停まで歩いている時に、何度も木の前で止まってその木を見上げていたの。・・・あれは、きっとカブトムシかクワガタ探しているんだよ。そんなお父さんなら一杯昆虫採集に連れて行ってくれそうでしょ。」
「ママの方は?」
「あのね美結ちゃん、昆虫好きな男の人の奥さんなんだよ。僕の前にお姉ちゃんがいるんだよ。ほら、あの自転車の前のカゴにね、坂の下のケーキ屋さんで買ったケーキが乗ってるんだ。ケーキ好きなママって、何か良くない?」
・・・男の子って、単純ですね(笑)

次郎君が、もう一度下界を眺めながら俊君に話かけた。
「俊君はパパとママ決めたの?」
「えっ? 僕? ううん、僕も悩んでいるんだ。」
「二人とも、そろそろ決めないと誕生の時に間に合わなくなっちゃうよ」
「そう焦らさないでよ、次郎君~」
「だって俊君、人間になっても僕ら3人一緒に居たいもん。」
「そうよね次郎君。人間になっても一緒に遊びたいわよね。」
「でも、焦って適当な相手同士くっつけちゃうと、後々離婚って出来事に見舞われるって、先生が言ってたよ。」
「そうよ俊君。確か3組目のカップルを作る時、俊君が適当に相手を選んじゃうから、結局別れちゃったでしょ。」
「違うよ美結ちゃん。あの女の子は、初恋ランクの女の子だったんだよ。本来卒業試験で使う人間を、間違えて僕らに当てがった先生が悪いんだよ。」
「だめだよ俊君、先生の悪口言うと、神様に聞こえちゃうよ。それこそ、一緒に人間に成れなくなっちゃうよ。」
私達3人は、少し身を小さくして辺りをうかがった。

そうです私達は、天使です。
3人一組でチームを組んで、下界の人達をちゃんと恋人同士に出来るよう修業を積んできました。
そしてこの前、卒業試験に合格したので、晴れて人間として下界に下りる事が決まりました。
人間界に下りるには、自分が選んだ男女を結婚させて、その女の人のお腹の中に宿るしか方法は有りません。
だから、私達は天使となって、完ぺきな恋人同士を作る事を学んでいました。


そんな日々を繰り返しているうちに、いよいよ先生にパパとママを教えてあげる日がやってきました。
先生が私達の話を、神様・・・ううん校長先生に伝えてOKだったら、下界に下りる準備を始めます。

「俊君美結ちゃん、いよいよだね。」
「うん、美結ね、ちゃんと決めたよあのね、弥生ちゃんって女の子。眞子ちゃんって女の子とどっちにしようか、最後まで悩んだんだけどね。」

「うわ~ん、僕、ママは決まったんだけど、パパが決まってないよ。」
「え~っ、俊君。だってもう、先生の所に行く時間だよ」
「だって、だってぇ・・・」
俊君が半べそをきています。
「ねぇ、俊君はどの人で悩んでいるの? 私達も一緒に考えるから教えて。」
「あのねあのね・・・ほら、あそこで車運転している男の人と、あっちでお庭の掃除している男の人」
「う~ん、確かにどっちもイケメンよねぇ」
「ダメだよ美結ちゃん、そう言う理由で選んじゃあ。う~ん、どっちもこれっと言った特徴の無い人だよねぇ」
「うん、でも車乗っている人はおもちゃ屋に勤めてるんだよ。お庭掃除している人は、いつもニコニコしていて優しそうなんだ。」

「ふ~ん」次郎君がもう一度下を覗いてみた。
「あっ俊君、あのお庭の掃除している人・・・大きな犬連れて散歩に出かけたよ」
「えっ?大きな犬?」俊君は実は犬が苦手なんですよね。
「うわ~ん、あんな大きな犬怖いよぉ。やっぱり、おもちゃ屋の人かなぁ・・・」
3人で雲の端っこから顔を突き出して、もう一度下界を眺めてみる。
「ねぇ・・・あの車の人、なんか凄くスピード出してない? あっ、ほら。今、信号無視したよ」
「本当だぁ~」
「あ~どっちの人も、ダメだよ~。もう良いや、あっちで魚釣りしている男の人で良いよぉ」
「ダメだよ俊君、そんな適当に決めたら。結局、離婚しちゃうんだから。」
「だって、僕もみんなと一緒に人間になりたいもん。さぁ、先生の所に出かけようよ、遅れちゃうよ。」
今日を逃すと、また1年天使として過ごさなくちゃあいけないので、遅刻する訳にはいかないんです。


「お前達3人かぁ。ここに来たという事は、下界での宿命先を見つけたって事だな」
「はい先生。僕は、」「俊君ずるい、美結が先だってぇ」「2人とも、順番は守ろうよ、リーダーの僕が最初だよぉ」
「うるさい! お前ら3人は相変わらずだな。そんなんで、下界でちゃんと生活出来るのか?」
次郎君が一歩前に出た
「はい、大丈夫です先生。僕達3人、下界でも仲良く過ごすって約束しました。」

「よし、じゃあ先ずは次郎からだ。お前はどの人間達に決めたんだ?」
「僕は、松舞出身現在地元松舞でサラリーマンをしている島信也と、その奥さんの島昭子の間の子供として降界します。」
・・・次は私の番です。
「ふむ。しかと聞き受けた。あそこには、もう子供が居るから大丈夫だろう、堅実的な選択だな。次、美結は?」

「はい、私は、加田出身現在松舞高校3年の木下幸一と、松舞出身同じく松舞高校3年の長瀬弥生の間の子供として降界します。」
「むっ・・・高校生同士か、少し状況が厳しいな。校長に確認してみるが、了承されるか分からないぞ」
「そんなぁ・・・了承されない場合はどうなるんですか先生?」
「すぐ、次の相手を見つけなければならないな。見つからなかった場合は来年に持ち越しだ。」
「え~折角、美結頑張ったのに」
「まぁ結果次第だな。最後、俊。」
「はい、僕は・・・」

折角頑張って選んだのに、ダメかもしれないなんて最悪です。
自分達の雲に戻って、落ち込んで座り込んでしまいました。
「美結ちゃん、大丈夫だって。」
「そうだよ。僕だって適当に決めたパパだけど、先生には褒められたんだからさ。」
「うん、俊君、次郎君ありがとう。」
「ねぇ、3人が下界でもちゃんと分かる様に、何か目印付けておかない?」
「あっそうだね次郎君。何にしようか? みんなお尻にホクロ付けておく?」
「次郎君と俊君は男の子同士だから良いけど、美結はみんなにお尻なんか見せるの恥ずかしいよ。」
「そうかぁ、じゃあ腕にホクロ付ける?」
「そうだね、僕と次郎君は右で、美結ちゃんは左でどう?」
「それなら、OKだよ。」

「お前らの宿命先の結果が出たぞ」
後ろで、先生の声がしました。
「先生、どうでした?」
「うむ、次郎と純は問題無く了承された。」
「良かったぁ~。んで先生、美結ちゃんは?」
「むっ、残念だが了承されなかった。高校生って事は問題なかったんだが、死神の断命者リストに長瀬弥生の名前が有ったんだ。例え美結が宿命したとして、ちゃんと生まれるかどうか不確実なんだそうだ。」
「そんなぁ、それでも良い。美結は弥生ちゃんの子供になるって決めたんだから。」
「そうはいかんのだよ美結。天界としても、お前らを宿命させるからには、ちゃんと誕生してもらわないと、いけないんだ。」
「先生、死神のリストから外す事は出来ないんですか?」
「俊よ、そうなんだ。同じ神とは言え、私達の校長と死神は、反対の立場の神だからな。お互い、干渉する事は出来ないんだ。」
「高校生で、問題無いんだったら、もう一人のママなら大丈夫なんじゃないですか先生?」
「うむ、それは問題無いと思うが、父親が同じ場合は申請の変更に少し時間がかかるんだ。下界の時間にして2~3年は、誕生が遅くなると思うぞ。」

「それじゃあ、俊君や次郎君と、お友達になれないよ先生。ひどいよ先生ぃ」
私は、突然の悲しみに襲われ、逃げる様に走り出した。
「美結ちゃん!」次郎君が後を追いかけてきた。
「美結ちゃん次郎君、そっちは危ないよ。降界の階段が有るよ。」
「美結、次郎、ダメだそっちに行っては! もう、次郎と俊の為に階段の入り口が開いているんだぞ。」

突然、私の足元の雲が無くなり、真っ青な空が足元に見えた。
「うわぁぁあ~」
「美結ちゃん」「美結!」
気が付くと、私は青空の中に居た。
背中に力を込めたけど、白い羽は動かない。
どんどん、地上に落下していく。
背中の羽が、縮んで行くのを感じた。
最後に見た景色は、遠くに海が見える森に覆われた街並みだったと思う。
そして、耳なりの様に先生の声が聞こえた。
「美結、お前は校長の決断で、急遽長瀬弥生に宿命する事になった。同時に塚田眞子の娘になる手続きも取った。天界として出来るだけ、弥生が長生き出来る様に死神と掛け合ってみるが、正直言って、そう何十年も延命させる事は出来ない。だから、自分の力で出来るだけ頑張るんだ。これで、お前は私の声が聞こえなくなるが、いつでもお前の事を見守っているからな。」



・・・・・・はっ!

夢かぁ・・・
不思議な夢だったわね。洋介さんがツイッタ―にあんな記事を紹介するから、つい夢に出てきちゃったじゃないのよ。

私は、隣の部屋で寝ている美結ちゃんの様子を見に行った。
美結ちゃんは、スヤスヤと寝息を立てていた。
さっきの夢がもう一度頭の中を駆け巡った。
「弥生が授かり婚だったのは、美結ちゃんのオッチョコチョイのせいだったのね。」
跳ね退けていたタオルケットをちゃんと掛け直す。
「ありがとう美結ちゃん。私を選んでくれて。」
そう言いながら頬っぺにキスをすると、美結ちゃんが優しく微笑んだ様な気がした。


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android game編
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ちょい、言ったー。
僕と彼女の日々
ある高校生の夏休み編【完結】
(小夜曲)sérénade編【完結】
楓・青木先輩編【完結】
本田・沢田編【完結】
2009年収穫祭編【完結】


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「はいはい、積もる話は乾杯の後にしましょうね。」日向さんが皆にビールやジュースを渡す。
さすが日向さんです、モリヒデには有無を言わせずジュースを渡してます(笑)
「それじゃあ、みんな。今日は飲んで食べて楽しみましょう、かんぱ~い」
日向さんの挨拶で、みんなが乾杯をする。
たまには、こんな休日も良いですよね♪
しかし、世間は狭いって言うか、松舞が狭いのかな? 日向さんの彼氏さんと、小村さんがバスケの知り合いだなんて。
二人ともバスケ選手ってだけ有って、背が高くてカッコイイんですよね。
それに比べて‥‥‥写真部OBのあいつときたら(^_^;)
最近、ウエストが太くなって来ているらしい。
このところ、不摂生ばかりしているしね


みんなで、ワイワイと楽しく飲み食いをしていたら、みゆちゃんパパが「出来た~」っと声を挙げた。
みんなでワァ~っと集まる。
これが、噂のダッヂオーブンって奴ですね。
「すごいよなぁ、美結ちゃんパパって。一人で鶏の丸焼きなんか作っちゃうんだもんなぁ、なあ楓」健吾が話し掛けてきた。
「そうよね~。健吾あんたも、草食系男子を気取ってないで、もっとワイルドになってみたら?」
「大きなお世話だ、楓」

木下さんが重そうな黒い蓋をあけると、美味しそうな湯気が辺り一面に広がった。
「お~イイ香りだな、ヒグラシ」
「そうね、ローズマリー達のハーブの良い香りもするわね」
「そうよ金田さん、今日のチキンは自家製ハーブを使った木下家特製チキンなのよ」
「すごい、ハーブも自家製ですか」
「うん、未だ育て始めたばっかりだから、そんなに量は無いけどね」
なんか、木下さん夫婦を見ていると、私の目指している結婚生活のお手本の様な気がします。
木下さん達みたいな温かい家庭を築きたいものです。

大きなお皿の上には、こんがりと焼き上がったチキンが鎮座しています
「さあ、みんな好きに切り分けて食べてよね」
ナイフとフォークで、腿の部分を少し切り取り、付け合わせの野菜もお皿に取る。
う~ん、さすが美結ちゃんパパが、他人に振る舞いたくなるだけの事は有って、程よい塩気に、爽やかなハーブの香り、ピリッとスパイスも効いていて、凄く美味しいです。
「美味しいですね、比呂十さん。」
「そうですね、こんなレストランでしか食べれない料理を、松舞川の河川敷で食べれるとは思いませんでしたよ。エンジェルスの女の子達に言ったら、うらやましがるでしょうね、きっと」
「ですよね、『コーチ達ばっかりズルイ~』とか、絶対言われそうですよ(笑)」

「それで、小村さんのミニバスチームは強いんですか?」
少し酔っぱらった洋ちゃんが、小村さんに話し掛けています。
「今年は、一応夏季県大会に出場出来たんですよ。でも、うちのチームは背が高い訳でも、個人スキルが高い訳じゃないですからね。ただ美咲さんのトレーニングのお陰で、体力が付いて来ましたから、オールコートのマンツーで、ゲームが出来るんですよ。」
「そりゃ、子供達も大変ですね~(笑)。」
「ははっ、確かに。子供達には鬼コーチって呼ばれている事でしょう。 ところで、今、村田さんはどちらにお勤めです?」
「俺っすか? 営業会社で、松舞を皮切りに大阪、東京と転勤続きなんですよ。」
「そうなんだ、じゃあ今日会えたのは、本当に偶然だね」
「そうですよね、これからも日向の事を、よろしくお願い致しますね小村さん」
「イエイエこちらこ。って言うか、お願いするなら錦織先生の方じゃないかい?」
もう、洋ちゃんったら、余計な事を(笑)
「そう言えば、二人の馴れ染めを未だ聞いてなかったわね、日向先生~」
うっ、錦織先生‥‥酔っぱらってませんか?
「はいは~い、俺達知ってま~す」
モリヒデ君も酔っぱらってますね‥‥
「こら、未青年は黙っておきなさい。それより、ケーキ種を作るの手伝ってよねモリヒデ」佳奈絵ちゃんが、止めに入ってくれた。


なんでも、金田さんと森山さんが美結達の為に、ケーキを焼いてくれるそうで、ダッヂオーブンの使い方を教わりに来た。
火加減とかが難しいから、焼き担当は俺と真子がやる事にした。
美結も、何かと彼女達の手伝い‥‥って言うより邪魔をしている
普段、他の大人達と接する機会が少ないから、いいチャンスだと思う

「かなえおねえちゃん、ちいさくした、にんじんさんは、どうするの?」
「えっとね、美結ちゃん。このボールの中に入れてくれるかな」
朝ちゃんに急遽、メールでレシピを教えてもらっておいて良かったです。
ほんとう、頼りになる友人です、朝ちゃんは。
そう言えば、今年も朝ちゃんと颯太は、松舞の花火大会に合わせて帰って来るそうです。
朝ちゃんに、沢山話したい事が有るから今から楽しみです♪

幸ちゃんが、こんなに皆に頼りにされるなんて、思ってもいませんでした。
ダッヂオーブンに炭を乗せたり、下に炭を加えたりしながら、ケーキを焼いている幸ちゃんの横に座り、「お疲れさま」って缶ビールを差し出す。
「おっ、サンキュー真子」喉をグビグビ鳴らしながらビールを飲む幸一。
「丸焼きも随分はけたわよ。」
「そうみたいだな、後に残った骨は持って帰ろう。いいスープが取れるからな」
「うん、了解」食材を最後の最後まで使い切る、その姿勢も大好きなんですよね。少し暮らしが楽になったからと言って、決して贅沢はしない姿勢が。


「ちょっと、健吾。あんた未だ食べるの?」
「おう、だって旨いんだよ、このチキン。えっ?何すかヒデ兄? カルビが焼けたんですか? それも頂きます♪」
う~ん、信じられません、この食欲!
「楓、しっかし、バーベキューって楽しいもんだな。今度、家でもやろうな。」
「そりゃ、あんたは食べるだけだろうから、楽しいだろうね」
「ちゃんと、材料切る所から手伝うって。いつかキャンプにも行きたいな。」
「う‥‥うん」いくら草食系の健吾とは言え、二人でキャンプは‥‥‥でも楽しいでしょうね、満天の星空を眺めながら、二人でするキャンプって。


「じろうくん、もうすぐケーキがやけるね。」
「うん、たのしみだね、みゆちゃん」
「でも、ニンジンケーキって、ニンジンくさくないのかなぁ?」
「ダメだよ、みゆちゃん、ニンジンくさくっても、ちゃんと、たべなきゃあ。ちゃんとたべなきゃ、ぼくのおよめさんにしてあげないぞ」
「じろうくんの、いじわるぅ。みゆ、がんばって、たべるからぁ」

・・・・・・あらら、次郎君ったら、さり気無く美結ちゃんに、プロポーズなんかしてますね。
しかし、予想以上にバーベキュー大会は盛り上がってます。
企画した私としては、嬉しい限りです。
えっ?何?モリヒデ君?「また、企画して下さい」って?
「うん、良いけど、今度はフリーのイケメン男子を連れて来てよね、モリヒデ君」
・・・しまった洋介が睨んでいます・・・私まで酔っぱらってしまったのかしら?
「うそうそ、嘘だって、洋ちゃん。私は、洋ちゃんオンリーだって♪」

一瞬、みんながこっちを振り返った・・・
「日向さん、ラブラブだね。」「日向先生~、妬けちゃうわぁ」「ひなちゃん、ごちそうさま~」
みんなが口々に言いたい事を言ってくれます。
洋ちゃんは、小さく「馬鹿」って言いながら、飲みかけの缶ビールを高く上げた。


「さぁ、ケーキも焼けたぞ~」
木下君の掛け声に、またみんなが、ワァっと集まって来た・・・
「美味しそう~」「きれいな色だね」「良かった、ちゃんと出来た」
みんなでワイワイおしゃべりをしながら過ごす休日、今日は最高の一日です。




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「お~い、モリヒデ、健吾、起きなさ~い」
玄関越しに、ヒグラシと楓の叫ぶ声が聞こえる。
う~ん、昨日は調子にのってビール飲み過ぎたかな。
頭が少しボ~ッとしてます。
「ヒデ兄、おはようございます‥‥今、何時っすかぁ」
タオルケットに包まって雑魚寝していた健吾が、ノソノソと起き上がる
「ん? 9時だな‥‥あ~あいつらの声が頭に響くわぁ」
「ですよね~(笑)」そう言いながら健吾が玄関のカギを開ける。
―――――――――7月25日(日)―――――――――
「ったく、二人ともいつまで寝てるのよ~」
楓が、ドカドカと上がり込んできた。
「ぎゃぁっ、健吾何でパンツ一丁なのよ。汚いトランクス見せないでよ」
「だって部屋が蒸し暑いんだぞ」そう言いながら、健吾はゴソゴソと服を着ている。
「モリヒデもいつまで寝てるのよ。朝ご飯出来てるわよ。今日は朝から忙しいんだからね。」
「ほいほい、今行くって。」俺も、ゴソゴソと着替え始める。
今日は、日向さんや小村先輩、去年の収穫際で顔見知りになった園児の家族と松舞川の河原でバーベキューするんです。


「キャベツにナスビにジャガイモ、しいたけ‥‥そうそうニンジンも持って行って美結ちゃんに食べさせなくっちゃあね。」
「日向、今朝取れたてのトウモロコシも有るわよ。何本か持って行くかい」
「あっ、ありがとうお母さん。じゃあお父さん、これだけ野菜持って行くね。」
「おう日向、気を付けて行けよ。」
店先に車を止め、段ボール一杯の野菜を、トランクに詰め込む。
実家が八百屋だからバーベキューする時は、必ず野菜調達係なんですよね(笑)


「比呂十さん、おはようございます。お待たせしてすいません。」
美咲さんが、俺の車に乗り込んでくる。
「おはようございます、美咲さん。いい天気になりましたね。」
「ええ、思わずUVローションたっぷり塗っちゃいましたよ。」
「あっ俺、なにもローション持って来てないや。」
「だろうと思って、ちゃんと持って来ましたよ、ほら。」
「おお、さすがっすね。」
「なんて、実はいつでもバックに入れてるんです。園児達は、紫外線なんか関係ないですからね。それに、エンジェルスの練習の時も、外にランニングに出掛ける事有りますからね」
「お陰で、エンジェルスメンバーも結構体力つきましたよ。松舞地区代表として県大会出れるなんて、去年の秋の時点では考えもしませんでしたからね。」そう言いながら、俺はアクセルをゆっくり踏み込んだ。


「炭OK。バーベキューコンロOK。」
「ねぇ、幸一。タープもちゃんと積んだ?」
「OK、OK。じゃあ忘れ物は無いかな?」
「とうしゃん、はやくしないと、じろうくんが、まちくたびれちゃうよ。」
「おう、そうだな。じゃあ、次郎君ちに向かおうか」
「待って待って、冷蔵庫の中の食材積み込まなきゃ。美結ちゃんも、ちゃんと運ぶの手伝ってよね」
「うん」
真子と美結は、パタパタと台所に駆けって行った。
いや、しかしアウトドアシーズンに入りましたね。
やっぱり夏は屋外バーベキューで決まりですね。


集合場所は、今回のバーベキュー会場でも有る、松舞川河川敷公園の駐車場でした。
「あっ、キュアピーチのおネエちゃんだぁ」
そう言われて振り返ると、そこに女の子と男の子が2人仲良く手を繋いで立っていた。
「美結ちゃんと、次郎君ね、おはよう~。今日も暑いわね」
「みゆね、ちゃんとユーブイローションぬってきたよ。おはだが、しみだらけに、なったら、いやだもんね」
うっ、私は、通学や野球の応援で真っ黒に日焼けしてると言うのに‥‥‥今の園児ときたら(・_・;)


「じゃあ、男性陣は、バーベキューやテーブルの準備お願いね。私達はお肉や飲み物買ってくるから」
今回の幹事、日向さんが皆に声をかける。

「あっ日向、じゃあうちの車で行こうか。うちの車なら8人乗れるし、荷物も詰めるから」
「そうね真子、運転お願いして良いかな?」
「OK。じゃあ幸一、取り急ぎ必要な荷物下してくれる?」

「おう、了解。」
その会話を聞いていた小村さんが、ヒデ兄に声をかける
「あっ、手伝いますよ、俺達も。ほら、森山お前も手伝えよな」


僕達は、河原へと荷物を運び込んだ。
「あち~。おい森山~クーラーボックスの中のビール取ってくれよ。木下さんも飲まれませんか?」
「そうですね、こう暑くちゃビールでも飲みながらでないと、やっておれませんよね。森山君も飲むだろ?」
「ダメっすよ、木下さん。森山は未だ20歳になってないんっすから」
「後、2カ月じゃないっすか、小村先輩~」
「知らねえぞ、佳奈絵ちゃんに文句言われても。」
「なんだ、森山君はもう彼女の尻に敷かれてるのか(笑)」
「うっす。じゃあいただきま~す。敬吾、お前はコーラか」
「うぃっす、頂きます。」
男4人、河原に座り込んで、喉を潤した。

「小村さんって、どちらにお勤めなんですか?」
木下さんが、小村先輩に話し掛けています。
「俺っすか、俺は松舞電設って電機工事屋です、森山はそこの後輩なんですよ。」
「松舞電設さんですか、うち雲山設計なんです。いっつも図面の仕事頂いてますよね、俺は一般建築がメインだから直接図面描いた事ないんですけどね。奇遇ですね。」
「あっ、木下さんって雲山設計さんだったんですね。」
つい、俺も口を挟んでしまった。
「お互い、忙しいっすよね、この業界。」
「ですよね、お互いお疲れさまです。」木下さんが缶ビールを前に突き出した。
4人で意味も無く乾杯をする。
「さて、お客さんより怖い、女連中が帰ってくる前に、炭を準備しておきましょうか」木下さんが、ゴソゴソと荷物をほどき始めた。


「ひなたしぇんしぇ、どうしてもにんじん、たべなきゃだめ?」
「そうよ、美結ちゃん。ニンジンは美容にも良いんだから。次郎君はちゃんと食べれるもんね」
「うん、ひなたせんせい。」
「だって、ニンジンって、くさいんだもん。」
「大丈夫だって。先生がちゃんと甘くて美味しいニンジンを選んで来たんだから。先生のおうちで売ってるお野菜は、甘くって美味しいって評判なんだよ。ねえ、錦織先生~」
「そうよ、美結ちゃん。錦織先生も、日向先生のお店のニンジン大好きなんだよ」

「そうだ美結ちゃん、じゃあお姉ちゃんが、今日ニンジンのケーキ作ってあげる。それなら食べれるでしょ。」
「ニンジンケーキ? たべたい。みゆ、たべたい」
「ぼくも、たべたい。いいでしょ、おねえちゃん」
「じゃあ、みんなで沢山作ろうね」
私は心配になりそっと聞いてみた。
「佳奈絵さん、オーブンも無いのに作れるんですか?」
「多分ね、楓ちゃん‥‥‥あの~木下さん、さっき下した荷物の中に、確か大きな鉄の鍋が有りましたよね?」
「えっ、あぁダッヂオーブンね。うん、鳥の丸焼きを皆に振る舞うって言ってたから、間違い無く持って来てるはずよ」
「じゃあ、木下さんの旦那さんに手伝ってもらえば、出来ると思う。実は私もあの鍋には興味が有ったのよ。ねえ楓ちゃん、ちょっとお菓子材料のコーナーに付き合って。日向さん達、先にお肉とか選んでもらってていいですか?」
「じゃあ、私たちは先にお肉やジュース買っておくからね」

「すごいわね彼女、思いつきでニンジンケーキ作るだなんて。」
「そうよね~、佳奈絵ちゃんはいっつも、うちの朝葉とお菓子とか作ってるからね」
日向と錦織先生が、佳奈絵ちゃんに関心しています。
確かに、思いつきで出来る様なケーキじゃないですからね。
「それで真子、お肉どれ位買うの?」
「そうねぇ、若い子も居るからねぇ。多めに買っておこうか。そうそう、精肉コーナーで予約しておいた、丸抜きのチキンも持って帰らなきゃね」

「鳥の丸焼き作るなんて、幸一の奴、本当に料理にはまってるのね。真子からソース入りタヌキうどんの話を聞いた時は、美結ちゃんの健康面心配したけどね。」
「なんですか日向先生、そのソース入りタヌキうどんって?」
「そっか、錦織先生には話してませんでしたよね」そう言いながら、日向がクスクス思い出し笑いをしています。

「お待たせしました。うわっ、沢山お肉買いましたね。」
「でも、うちのお兄ちゃんと健吾なら、食べちゃいそうですよ、この位。」
「おねえちゃん、ケーキのざいりょう、あったぁ?」
「有ったわよ、美結ちゃん。キュアピーチのお姉ちゃんと、佳奈絵お姉ちゃんが、頑張って作るから、ちゃんと手伝ってね。」
「うん、みゆも、おてつだいするね。」
はしゃぐ楓ちゃんや美結ちゃんを見ながら、私は少し焦っていました。
勢いで作るって言ったものの、考えてみたらケーキ作りは朝ちゃんの得意分野です。
たぶん、ニンジンを茹でてから潰せば大丈夫だと思うんですが、いや‥‥‥やっぱり生を擦りおろすんだったかな?
こうなったら、朝ちゃんにこっそりメールで教えてもらおう♪

♪♪♪
日向先生の携帯にメールですね。
携帯を開いて、ニンマリ笑ってます。
ボタンを操作して、携帯を閉じる彼女に話し掛ける。
「日向先生、ニンマリ笑ってたけど、何?噂の彼氏からのメール?」

錦織先生に、そう問われて、表情に現れていた事が恥ずかしくなった。
「う、うん。あのね、一昨日から広島に出張に来てるらしいんだけど、急に明日、雲山で打ち合わせが有るんだって。今、こっちに向かって車を走らせているんだって」
「えっ、日向さんの彼氏さん、こっちに来られるんですか? きゃ~、会ってみたい~」
話を聞いていた佳奈絵ちゃんが、はしゃいでいます。
「うん、一応松舞川の河原に居るって、メール返信したけどね。」
「じゃあ、バーベキュー食べに来るんですね、ラッキー♪」
「ちょっと佳奈絵ちゃん、変に期待しないでよね、そんなに良い男じゃないんだから。」
「日向先生、『そんなに』って事は、少しは良い男って事ですよね。私も楽しみだわぁ、お会いするのが」
「またぁ、日向~。洋介さんって結構イケメンじゃないのぉ」
「美結ちゃんママは、会われた事有るんですか?」
「えぇ、錦織先生。最近は会ってないですけど、以前に何回か。」
う~ん、何か話が大袈裟になってきましたね。


河原に戻ってみると、バーベキュー台からモクモクと白い煙が上がってました。
「幸ちゃん、準備OK?」
「おう。いつでもいけるぞ。」
「じゃあ、みんなで急いで、材料の準備しなきゃね。美結は椅子に座って、次郎君と休憩してなさい」
「うん、わかった。おかあしゃん、ジュースのんでいい?」
「飲みすぎちゃあダメだよ、コップはいつものコンテナの中に入っているからね」

美結ちゃんが、ゴソゴソとコンテナボックスから、コップを2個取り出してきました。すごい、賢い子供ですね、美結ちゃんって。
「それじゃあ、私と楓ちゃんは野菜を切っていきますね、日向さん」
「うん、お願い。私と美咲先生は、お肉の方準備するから」
美結ちゃんパパとママは、手際良くチキンのお腹の中に、色々詰めておられます。
「さぁ、モリヒデ、健吾君、野菜を洗うわよ‥‥‥って、何、19歳の分際でビール飲んでんのよ~」

あらら、確かにお兄ちゃんはビール飲んで、出来上がり始めてます(・_・;)
「良いだろ、あと2カ月で成人なんだから」ブツブツ言いながら、お兄ちゃんと健吾が、野菜を袋から取り出し、水飲み場に運んで行きました。
「じゃあ佳奈絵さん、私も洗うの手伝ってきますね。」そう言い、私は二人の後を追いかけた。

「おし、準備OK。真子、ダッチオーブンにオリーブオイル引いてくれるか?」
「うん、ニンニクも入れちゃうわよ」
「おう頼むわ。」
いや、真子が居てくれて本当に助かります。さすが、俺が認めた伴侶です(笑)
しかしこんなに早く他人にダッヂ料理を振る舞う事になるとは、思ってもいませんでした。って言うか、料理を他人に振る舞う事自体、結婚前には考えられなかった事です。
美結や真子が「美味しい」って言ってくれるから(お世辞かも知れませんが)、ついつい又作りたくなっちゃうんですよね。

「大体お肉は準備し終わったわね、日向先生。」
そう言いながら美咲さんが、日向さんに缶ビールを手渡す。
「あっ、ありがとう~錦織先生~、ちょうど喉が乾いてたんだ」
「比呂十さんも、もう一本飲まれますか?」
「あっ、はい、頂きます。」
僕らの会話を聞きながら、日向さんがクスクス笑ってます。
「あれ?俺、何か変な事言いました?」
「あは、ごめんなさい小村さん、錦織先生。もう、付き合い始めて、1年近く経つのに、相変わらず礼儀正しいと言うか、他人行儀というか(笑)」
「そうですか? エンジェルスの練習の時とか、馴れ馴れしく呼び合う訳にいかないからですかな?」
「そう言えば、松舞エンジェルス夏季県大会出場ですってね、おめでとうございます。」
「ありがとうございます、日向さん。まぁ、県大会でどこまで頑張れるか、微妙ですけどね。」
そうなんです、県大会ともなれば、県内の強豪が集まりますからね。
正直エンジェルスの今のレベルでは、1勝も出来ない可能性が高いです。

「それでね、じろうくん、あきこちゃんたら、ひどいんだよ。ゆうこちゃんのかいた、えに、ぐしゃぐしゃに、らくがきするんだよ。‥‥ねえ、みゆの、はなしきいてる?」
じろうくんったら、おとうしゃんがつくってる、チキンのまるやきが、きになるみたいです。
「ねぇ、みゆちゃんのおとうさん、なにつくってるの? みにいって、みようよ」
「うん、いってみようか。おとうしゃ~ん」

僕の前を、美結ちゃんと次郎君がトコトコ手を繋いで歩いていく。
いいなぁ、あの頃の年代なら恥ずかしげも無く手が繋げて。
「ちょっと健吾、何、美結ちゃんに見取れてるのよ。あんたひょっとしてロリコン?」
「馬鹿、んな訳ないだろ。んな事より楓、お前転ぶなよ。」
「大丈夫だって。ねぇ、私達も幼稚園の頃、ああやって手を繋いで、通園してたんだっけ」
「そう言えばそうだったかもな。お前が歩くの遅いから、引っ張って行くの、大変だったんだぞ」
「そんな事今更言われても‥‥ねぇ。 佳奈絵さん、そう思いません?」
「そうよねぇ。そう言えば私も幼稚園の時、近所の男の子と手を繋いで歩いてたわぁ。」
「へぇ~、そんな物好きが居たんだ、ヒグラシ。」
「そうよ、これでも、幼稚園の頃は男の子に人気有ったんだから」野菜を切る手を止めて、佳奈絵さんが反論しています。
「ヒデ兄~、実は内心穏やかじゃないんでしょう(笑)」
「馬鹿、健吾。俺は別に」「はいはい、お兄ちゃんの言いたい事は、分かってますよ。あっ、緑川さん、こっちも切り終わりましたぁ‥‥‥て、あれ?緑川さんが居ない」
4人で辺りをキョロキョロと見渡す。
少し離れた駐車場に、日向さんと男の人が立っているのを、僕は見つけた。
「日向さん、あそこで誰かと話していますよ。」
「あっ、あの人が、日向さんの彼氏さんかな?」
「えっ?マジ? 俺初めて見るわ、日向さんの彼氏」
「私だって、初めて見るわよモリヒデ。」
「あの人だろ、ヒグラシ。ほら、俺らが高一の時、日向さんを映画に誘った人って」
「そうそう、そうだったわね、モリヒデ」

いや~、何とか54号線を飛ばして間に合いました。
しかし、こんな展開になるとは‥‥ほとんどの人と初対面だから、妙に緊張します。
「ねえ洋ちゃん、みんなお待ちかねよ。なんか噂が先走りしてるけどね」
「どんな噂なんだよ日向~」なんか、益々緊張して来ました。
差し入れのビールとウーロン茶を、助手席から取り出し、歩き始める。
「すいません、急にお邪魔しちゃって」そう言いながら、俺は皆に挨拶をする。

お~、この人が日向の彼氏かぁ。
優しそうな感じの人じゃないか、日向にはお似合いかもな。
俺は、クーラーボックスから、缶ビールを取り出し、彼に差し出しながら挨拶をする。
「初めまして、日向の‥‥日向さんの高校の時の同級生で、木下って言います、こっちが妻の真子、それとあっちに娘の美結が居ます」
「村田さん、お久しぶりです。これが、うちの旦那です」
「あれ?真子は、会った事有ったんだ。」
「うん、何度かね」

あの人が、日向さんの彼氏さんですか‥‥きゃ~、結構イケメンじゃないですか、凄く優しそうな感じだし
「佳奈絵さん、結構イケメンですね、日向さんの彼氏って」
どうやら、楓ちゃんも同じ感想みたいですね♪
「そうね、優しそうな感じだし、日向さん幸せそうだね」

「初めまして、日向さんの妹の朝葉ちゃん同級の森山です。こっちが妹の楓、彼氏の健吾。そしてこいつが‥‥‥朝葉ちゃんの友達の金田です」
「こりゃ、ご丁寧にありがとうございます。村田です、いっつも日向が無理言ってすいません。」

「もう、みんな、固苦しいんだからぁ。洋ちゃん、彼女が同じ松舞保育園の保育士の錦織先生、それからふフィアンセの小村さん。」

小村‥‥小村   どこかで見た事在る様な‥‥
それは、向こうも同じみたいで、こっちを見つめている
‥‥‥! 「松舞高校の小村さん?」


やっぱりそうだ。1年下だけど、島根でも有名なポイントゲッターだった、村田君だ。
「雲山高校のバスケ部のポイントゲッター、村田君だよね。お久し振りです。」
「そうです、お久しぶりです。お元気でいらっしゃいましたか。」

‥‥そっか、洋君もバスケやってたから、顔見知りでもおかしくないわよね。
「小村さん、洋君ってそんなに有名だったんですか」
「そうっすよ、日向先生。雲山の村田って言ったら、県内でも有名なポイントゲッターだったんですから。」
「そんな、ヨイショし過ぎですよ、小村さん。俺達は、そう言う小村さん率いる松舞高校バスケ部に負けたんですからね、どうです今でもバスケされてますか?」
「現役は高校時代までですね、松舞に社会人チームなんて有りませんから。今は、ミニバス女子チームのコーチを、錦織先生としているんですよ。」




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いや~今日も凄い雨でしたね。
少々の雨なら、店頭にハーブポッドの陳列台を出すんですが、さすがに今日みたいな雨だと、ハーブ達が痛みますからね。
それに、こんな悪天候の平日にお客様なんて来られませんし。
だから、今日は溜まっていた事務処理を、後輩スタッフの神田さんと手分けして行ってました。
こんにちは、ハーブショップ みんとぱ~てぃ~の店長代理 嘉本圭之介と言います。
―――――――――7月16日(金)―――――――――
「あれ? 納品書に数字じゃなくて、変な英語が表示されてる? ねぇ、神田さん これってどうすれば良いの?」
「えっ、何て表示されてます?」
「バリューって読むのかな? V A L U E‥‥‥」
「それだったら、その関数の参照先セルのどこかに、文字列が入ってませんか? その前の操作で、セルを追加したり削除したりしてません?」
「あぁ、確かどこかで、セルを1個追加したなぁ。ここだここ・・・・・それで・・・・・参照先セル・・・・・?」
「はいはいチーフ、ちょっとそのファイル保存して閉じてもらえます。そうしないと私がそのファイルに入れませんから。」
「お・・・おぅ。ちょっと待てよ・・・・・・OK閉じた。」
彼女は、モニター画面を見つめたまま、黙々とキーボードを打ちこんでいる。
いや、実は俺、パソコンって苦手なんですよね。
どれ、ここは彼女のご機嫌を取る為にも、アイスミントティーでも入れて来ようかね。
冷蔵庫で冷やしておいた、アイスミントティーをグラスに注ぎ、事務室に戻る頃には、彼女はもう伝票をペラペラと捲り他の作業をしていた。
「チーフ、エクセルの関数直しておきましたからね。」
「あぁ、ありがとう・・・一息入れようぜ。ほい、ミントティー」
「あっ、ありがとうございます。ちょうど喉が渇いていたんですよね」
「しかし、神田さんはパソコン詳しいね。」
「まぁ一応、情報処理専門学校を卒業しましたからね。」
「そうか、そうだったな。じゃあうちみたいな小さな店じゃなくて、一流企業の経理とか行けたんじゃないの?」
「う~ん、求人は確かに有りましたけどね。元々親の勧めで通った専門学校でしたし、やっぱり植物に興味が有りましたからね。だから、この店の求人がうちの専門学校に来た時は、即応募しましたよ。」
「夢の職業って訳か。でも勤めてきたら、現実は全然違っていたろ」
「まぁ、確かに・・・接客業がこんなに大変な物とは思っていませんでした。でも、ハーブに囲まれて、毎日楽しいですよ。」
「そう言ってもらえると、店長代理としては助かるなぁ」
「そう言えば、チーフはどうしてこの店に勤める様になったんですか?」
「俺か?俺は、やっぱり小さい頃から、花に囲まれた生活してたからなぁ。うちの実家が切花農家だからなぁ。今でも松舞の畑で、菊とかを育ててるぞ」
「じゃあ、将来は実家を継ぐんですか?」
「いや、兄貴夫婦が居るから。まぁ、兄貴達は切花じゃなくて、野菜やハーブがメインなんだけどな。だから俺が後を継ぐ必要は無いんだな。・・・・・さぁ、さっさと事務仕事終わらせて、今日は定時退社しようぜ」
「そうですね、折角のチャンスですからね。定時で終われる様に頑張りますよ。」
そう言うと、彼女はまたパラパラと伝票を捲り始めた。

あんなに土砂降りだった雨も、閉店の頃にはすっかり上がってました。
店のシャッターを勢いよく下ろす。
そのガラガラと言う音を聞くと、今日も1日終わったなって、気分になります。
「19:00に仕事終われるんなんて、研修期間が終わってから初めてですよ~」
「そっかぁ? いつも、残業させてすまんなぁ」
「いえ別にそう言う意味じゃないですから・・・すいません」
「いや、良いんだって。本当の事なんだしさ。それより良かったら、どこか夕飯食いに行かないか?」
「あっ、すいません。今夜は先約入れちゃったんです。次は絶対付き合いますから、ごめんなさい。」
「あっ、別に気を遣わなくても良いんだぞ。じゃあ、次、定時退社した時には、どこか食いに行こうな。今日は助かったよ、ありがとう。お疲れ様。」
「あっ、はい。お疲れさまでした。」
駐車場の前で、神田さんと別れた・・・下心は無いけど、勇気を振り絞って誘っただけに、少し落ち込みますね。
さてっと、普段が普段だから、逆に時間が有ると、何をしたら良いか悩みますね。
久しぶりに、あのレストランに顔出そうかな‥‥でも、さすがにあの店に一人じゃ寂し過ぎるからなぁ。
そう言えば友人の竹下が経営するバーに数カ月顔出して無いな。
適当に夕ご飯食べて、あいつの店にでも顔を出すかなぁ。

俺は、一旦アパートに帰り、コンビニ弁当で夕ご飯を済ませ、シャワーを浴びて、夜の街に繰り出した。
飲み屋街のちょうど真ん中に有る、飲み屋が集まったビルの2階に、奴は店を出している。
木製だけれど重厚な扉を開けると、少し照明を落とした店内に静かにジャズが流れている。
この、落ち着いた雰囲気が結構好きなんですよね。
「いらっしゃいませ・・・お~っ、圭之介~!久しぶり、元気だったかぁ?」
カウンターの奥で、シェーカーを振っていた竹下が、俺に気付き声をかけた。
「よう竹、元気だったぞ。相変わらず、この店は繁盛してるな。」
美味いカクテルが評判のこの店は、結構若い女性に人気がある。
今日だって、店内の3分の2は、女性客で埋まっている。
俺は、壁際のカウンター席に座る。
「はいよ、おしぼり。ちょっと待ってろよ」
そう言うと、奴は、テーブル席の方に、カクテルを運んで行った。
この繁盛店を一人で切り盛りしてんだから、奴には頭の下がる思いがする。
「待たせたな、何作ろうか?」
「そうだな~。やはり一杯目はマティーニかな。」
「おいおい、一杯目にマティーニを頼むなんて、挑戦的だな。」
そう彼は、笑いながら、ジンのボトルを手に取る。
「いや、久しぶりだから、お前の腕が落ちてないか、心配なんだよ。」
「御心配無く、腕は落ちてないって。しかし、本当久しぶりだな圭之介、相変わらず忙しいんか?」
「あぁ、こっちもお陰様でな。忙しすぎるから、雲山にアパートを借りたんだ。」
「お~じゃあ、終電や代行代を気にする事無く、飲めるな。」
「まぁ、確かにそりゃそうかもな。ここからなら、その気になればアパートまで歩いて帰れそうだしな。」
そう言いながら奴は、軽やかにシェーカーを振る。
そう竹下の作るマティーニは、ジンとベルモットをステアするのではなく、シェイクするのだった。
「その方が、味が均一で美味い」それが、彼の持論だった。
シェイクされたマティーニを、マティーニグラスに注ぎ、オリーブを静かに落とし込む。
「お待たせしました」そう静かに囁き、目の前のカウンターに、マティーニグラスを置く彼は、間違いなく一流のバーテンダーだった。
カクテルピンに刺さったオリーブをグラスの淵に固定して、静かに渇いた喉にマティーニを流し込む。
こんな日は、ベルモットをドライベルモットに替えたドライマティーニが、美味しい事を奴はちゃんと心得ていた。
「うん、相変わらず美味いマティーニだな。」
「ありがとうございます。」
「そう言えばさぁ、この前来た時に、日本酒とジンで作る酒ティー二の話したよな。あれから作ってみた?」
「酒ティー二かぁ・・・、一時期メニューに載せてたんだけどな。やっぱり飽きられるのも早かったぞ。ドライマティーニにオリーブの代わりにパールオニオンを沈めたギブソンってカクテルが有るんだけど、酒ティー二には、パールオニオンならぬらっきょを使ったのが、面白かったんだけどな。」
「らっきょかよ~。相変わらず、創作カクテル作ってるんか?」
「おう、作ってるぞ。そうだ圭之介、自信作を一杯御馳走してやろうか?」
「それって・・・実験台って訳じゃないだろうな?」
「ふふふ・・・」
「いや、その笑いは何だよ・・・」
そんな馬鹿話をしている時だった。
店の扉が静かに開いた。

竹下は、さっと入り口の方を向き「いらっしゃいませ。」と、声をかけた。
「あの~すいません、一人なんですけど、良いですか?」
「はい、カウンターで宜しければ・・・」
どうやら、女性の一人客みたいだ。
こんな店に一人で来るんだから、何か訳有りの感じですよね。
って言うか、この声・・・聞き覚えが・・・
俺はポケットの携帯を探すふりをして、さり気無く振り返った。
そこに立っていた女性と眼が合う。
「あっ、チーフ・・・嘉本チーフ・・・」
「神田さん? こんなとこで会うなんて、びっくりだな。」
「あれ、お二人はお知り合いなんですか?」
「おう、うちのショップのスタッフなんだ。神田さん、良かった一杯御馳走させてもらえるかな?」
「・・・はい、ありがとうございます。結局、今夜一緒になっちゃいましたね。」そう言いながら彼女が静かに笑う。
俺の横のカウンターチェアに腰かけ、彼女はポーチから細めの煙草を取り出した。
「あれ?神田さんって煙草吸ったっけ?」
ちょっぴり戸惑いながら「はい、お酒を飲む時は、煙草を吸うんです」と、静かに答えた。
「何をお作りしましょうか?」竹下がおしぼりを手渡しながら尋ねてきた。
「そうですねぇ、ミントジュレップ作って頂けますか?」
「はい、分かりました。さすがハーブショップの店員さんですね、ミントジュレップを選ばれるなんて。でも圭之介みたいに、うちのミントにケチを付けないで下さいね。」
「いっいえ、別にそう言う訳じゃないですけどね。嘉本チーフ、このお店の常連さんなんですか?」
「常連と言うか、あいつとは高校の同級生なんだ。俺もたまにしか顔は出せないんだけどな。神田さんは、この店は初めて?」
「はい、学生時代から気にはなっていたんですけど、学生がワイワイ騒ぐ雰囲気のお店じゃない気がして、なかなか店の扉を開けれなかったんです。今日は思い切って店の扉を開けてみて、正解でしたね。」
「確かに、ちょっと落ち着いた雰囲気の店だからね。でも、ダチの俺が言うのも照れ臭い話だけど、竹の作るカクテルは上手いんだぜ。」
「お待たせ致しました、ミントジュレップです。おい圭之介、そんなにお世辞言ったって、これ以上サービスしないぞ。ほいこれ、オリジナルカクテルの題して『夏のひと時』だ。」
「何だよ、折角この店のアピールをしてやったって言うのによ。うお、何だこのカクテル? 金魚鉢見ているみたいな取り合わせだぞ。」
「まぁ、文句言わず飲んでみろよ」
「じゃあ、神田さん。一日お疲れ様でした乾杯~」
奴のオリジナルカクテル「夏のひと時」を口に含む。
口の中一杯に炭酸の泡が弾ける。そしてジンとライムの香りが、後を追う様に広がってくる。
「へぇ、結構爽やかなカクテルだな。んで、中に入ってる赤い物は‥‥‥赤トウガラシ?」
「そうだ、鷹の爪だ。その水草の代わりに入っているのは、水菜だ。金魚鉢の中の金魚みたいだろ。」
神田さんが俺の手元を覗き込んでくる。
「あぁ、確かに金魚鉢の中の金魚に見えますね。」
レコードをひっくり返しながら、竹下が得意げに話始めた。
「実は、焼酎を炭酸で割って、鷹の爪と小松菜をあしらった、金魚酎って酎ハイが、有るんですよ。それをジンライムソーダに応用してみたんです、ナカナカ涼しげでしょ。」
「うん、竹の作った創作カクテルにしては、上手くまとまっているな」
「あっ、ひどい言い草だなぁ。神田さん気を付けて下さいね、圭之介は昔っからこう言う奴なんですよ」
「はい、十分気を付けます」神田さんがクスクスと笑った。そしてこう続けた
「チーフ、このお店って、凄く良い雰囲気ですね。ジャズって結構騒がしい曲ばっかりだと思ってましたけど、こんな静かな曲も有るんですね。」
「神田さんが想像しているのは、きっとスイングだな。スイングはアップテンポな曲が多いからね。ここのレコードは、竹の親父さんのコレクションなんだ。店のコーディネイトは、俺も手伝ったんだぞ。なかなか渋い感じだろ。」
「はい、何だか落ち着きますね。こんな夜にピッタリのお店です。」
「そう言えば神田さん、今日は先約が有ったんじゃなかったっけ?」
「あっ、それは‥‥‥もう済んじゃいました‥‥‥」
少し伏せ目がちになる神田さん。
あれ?マズイ事を聞いちゃったみたいです。
「どうです、神田さん。うちの店気にって頂けましたか?」会話を聞いていた竹が、空気を察して話題を振ってくれた。
「はい、いっぺんで好きになっちゃいました。ミントジュレップもとても美味しかったです。」
「何かお作りしましょうか?私のおごりです。」
「良いんですか?じゃあ、今度はモヒートお願い致します」
「承知致しました。圭之介も何か作ろうか?」
「じゃあ俺もモヒートもらおうかな?」
「少々お待ち下さい」
「実は、ここのミントって俺の兄貴夫婦が作ってる有機ミントなんだよ」
「へぇ~、そうなんですか。ミント大好きなんですよ、私。」
「ミントにも色々な種類が有るけど、神田さんは、どれが一番好みなの。」
「やっぱりオーソドックスな、ぺパーミントですかね。チーフお勧めのミントってございますか?」
「ん?お勧め?そうだな、一つ挙げるとすると、アップルミントかな。香りもフルーティーだし、花も赤でかわいい感じだし」
「お待たせ致しました」
そう言って、竹がロンググラスを二つ、カウンターの上を滑らせた。
「これが、チーフのお兄さんの育てたミントなんですね。葉の発色が良くて生き生きしてますね。」
「そりゃ、俺が技術指導してるからな(笑)」
マドラーで軽くミントを潰し、モヒートを口にする。
「う~ん、爽やかなミントの香りが、口の中に広がりますね♪」
「うちのモヒートは、ライムジュースの緑を殺したくないから、ホワイトラム使って、少し自家製のミントリキュールを垂らしているんです。だから、香りが引き立つでしょ。」
「はい、美味しいです。色も素敵な緑色ですね。」
「ありがとうございます。でも飲み易いから、ついつい飲みすぎちゃんですよね、ラムベースだから、アルコール度も高いですんで、気を付けて下さいね。」
「ありがとうございます、でも今夜は酔いたい気分なんです」神田さんはそう言いながらニッコリと笑う。
「じゃあ、尚の事お気を付け下さい。実は圭之介は、ロールキャベツ系男子ですから」
「何だよ、そのロールキャベツ系って」
「草食系に見えて中身は肉食系男子の事さ。」
「なんだよ、それじゃあまるで、俺が羊の皮を被ったオオカミみたいじゃないか」
「えっ、本当じゃん。こいつ結構手が早いんですよ。」
「はい、知ってます」ケラケラと神田さんが笑う。
「ひどいなぁ、神田さんまで~」
「嘘ですよ。マスター、チーフは凄く優しいお兄さんって感じですよ」
お兄さんかよ‥‥‥
「チーフ、実は今日、2年間付き合った彼と別れちゃったんです。彼が浮気しちゃってて、しかもその相手も専門学校のクラスメイトなんです。マヌケですよね、信用してた相手に、裏切られるなんて。」
「いや、マヌケじゃないって。そりゃ人に裏切られたくはないけど、裏切る人間よりかは、裏切られる人間の方が、素敵だと思うぞ。それだけ純真なんだから。」
「ありがとうございます、チーフ。そう言って頂けると少しは救われた気分になります。私、酔っぱらってますね、こんな話するつもりは無かったのに」
そう言いながら、神田さんはうつむいた。
「神田さん‥‥俺、こう言うシーンは苦手だから、気の効いたセリフは言ってやれないけどさ、神田さんは何も悪くない、その彼氏が見る目が無かっただけさ。神田さんを捨てる様な、そんな男に神田さんはもったいないよ。まだ若いんだから、素敵な出会いはこの先沢山有るって」
「はい、そうでうね。今夜この店に来て本当良かったです。素敵な音楽、インテリア、そして美味しいカクテルに、マスターやチーフとの楽しい会話。全てが素敵な出会いでした。ラストの一杯は、私におごらせてもらえますか?マスター、同じ物を3つ。マスターにもおごっちゃいます。」
「私もですか‥‥では、遠慮無く頂戴致します。」
運ばれてきたモヒートを手にした神田さんが、グラスを高々と上げる。
「じゃあ、今夜の出会いを記念して、かんぱ~い」
やれやれ、神田さん結構出来上がってるみたいですね。

二人で、竹の店を後にする。
「チーフ、ありがとうございました。独りで過ごすには辛い夜だったんですが、チーフやマスターとおしゃべりしている内に、あいつの事なんかどうでも良くなっちゃいました。」
「そりゃ良かった、モヒートのお蔭だな。また、竹の店に友達とでも顔出してやってくれや。」
「はい、そうします。でもチーフともまた飲みたいですね。今度はちゃんと、夕ご飯から付き合いますからね。では、神田は帰ります。」
「おう、明日からまた頑張ろうな、代行だろ、気を付けて帰ろよ。」
「あっ、大丈夫です大丈夫です、車は担いで帰りますから」そう言うと俺に背を向け歩き出した。
おいおい、随分酔っぱらってるな、彼女。
そう思っていたら、神田さんがクルっと振り返った。
「嘉本チーフ。チーフの事好きなっても良いですか?」
‥‥思いも寄らぬセリフに、一瞬戸惑ってしまった。
「今夜はモヒートの魔力が効いているからな。そのセリフは、モヒートの魔力が冷めている時に、聞かせてくれよ。」
俺はそう言うと、軽く手を振りながら、振り返った。
彼女に興味が無いって言ったら嘘になる。
ただ、こんな夜に神田さんと深い仲になったとしても、それはきっと彼女が後悔する事になると思えた。
だから今夜は、フェミニストを気取ってみた‥‥‥どうやら、俺も相当モヒートの魔力にやられたみたいだな。
街の空気は、蒸せ返る程ムッとしていたが、梅雨前線を押し上げる様に、強い風が吹いていた。
その心地好い風に吹かれながら、この街の梅雨明けを俺は感じていた。


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