松舞ラブストーリー

山陰の仮想の町松舞町を舞台にした、様々な恋愛を見守ってやって下さいね

カテゴリ: 御主人様28号・詩音編

「マスター、ドライマティーニお願いね。」
私は、いつもと同じカウンターの端の席に腰を落とした。
「いらっしゃい詩音ちゃん。ドライマティーニとは珍しいね。どうしたの、彼氏と何か有った?」
「いいえ、残念ながら順調ですよ。ちょっと仕事でイヤな事が有ったからね」
「大変だね、クリエィターって職業は」そう言いながらマスターは静かにジンのボトルを手に取った。
こんばんわ、実はまだ主役は2回目の詩音です。
―――――――――9月9日(金)―――――――――
駅から自宅へと帰る途中に有るこのバーに寄るのが、ほとんど日課になってしまいました。
落ち着いた照明の中ジャズが静かに流れる店内の雰囲気と、気さくなマスターとの会話がお気に入りです。
ご主人様とも何回か来た事有るんですよ・・・でも私は、実家暮らしだからお店を出たらお互いに帰路につくんですが。

「そうそう、この前話していたNative Sonのアルバムが出てきたんだよ。ここでかけるにはアップテンポ過ぎる曲も有るから、CDに焼いておいたんだけど持って帰って聴いてみるかい?」カウンターの上の、マティーニグラスを滑らせながらマスターが囁いた。
「えっ? うん、聴いてみたい。いつも、ありがとうねマスター」
「いやいや、詩音ちゃんみたいな若い子とジャズ談義出来るなら、苦とは思わないよ。それより随分お疲れの様子だけど、大丈夫かい?」
「もう最悪ですよ、初めてのプレゼンなのにアイディアがまとまらないんですよ。クライアントはともかく、先輩達が色々と口を挟むから全然前に進んでる気がしないんですよね。」
「だからと言って、中途半端なプレゼンはしたくないって所かぁ」
「そうなんです、他の先輩達から見たら小さなプレゼンなんでしょうけど、私から見たら人生初の自分をアピール出来る機会ですからね。」
「まぁ・・・そんなに力まずに、もっと力を抜いてみたらどうだい? そんなに力んでたら、閃くはずのアイディアまで閃かなくなっちゃうよ。」

!?
「そ・・・そんなに、私力んでますか、マスター?」
「あぁ、ガチガチに力んでるってのが、顔に出てるよ。真剣に取り組んでいるのは分かるけど、真剣になり過ぎて焦りまくってる感じだな、悲壮感すら感じられるよ。そんな顔じゃあ、先輩が心配するのも無理ないんじゃないかな。」
「そ・・・そうなんですか? やだぁ、そんな変な顔してたんだ、私。・・・どうしよう・・・」
「だから、何事にも真剣に悩み過ぎなんだって、詩音ちゃんは。 そうだな・・・そうだ、君の彼氏・・・何て言ったっけ?」
「御主・・・隆文さんですか?」

「そうそう隆文・・・村下隆文君だったっけ。村下君なんか、力を抜いて上手い具合に世の中を渡り歩いているって感じだなぁ」
「そうですかぁ?私にはチャランポランな風にしか見えませんけどぉ。」
「オイオイ彼氏の事、そんな風に言ったら可愛想過ぎるだろ(笑) 村下君は、仕事の愚痴とか悩みとかを言った事有るかい?」
「そう言えば・・・無いですねぇ。やっぱり、ほらチャランポランだから(笑)」
「う~ん、それは違うと思うな。彼だって一端のサラリーマンなんだから、ストレスやプレッシャーを相当抱えてるんじゃないかな。でも彼は、それを上手く自分の中でコントロールしているんだと思うよ。」
「え~、抽象的過ぎて、意味が分かんないですよ、それって。」
「そうだな~、例えばONとOFFの切り替えがしっかりしているとか、ストレスやプレッシャーを上手く変換しているとか・・・そんな感じだな。」
「う~ん、そんな器用な人間じゃないですよぉ、隆文さんは。」
「それを無意識でやっているんだから、凄いんじゃないかな? きっと、意識してやっていたら逆にギクシャクしてストレスになったりする物なんだけど、そんな感じは全く無いだろう?」
「そう言えば、そうですね。全く愚痴らない、テンションが低い日が無い訳じゃないんですけど、気が付くといつも通り陽気に振舞ってますね隆文さんは。」
「そうそう、そう言う風に上手く逃がす事を覚えた方が良いんじゃないかな」
「でも、どう考えたって隆文さんのストレス解消法って、萌えキャラフィギアを眺めたり、萌え萌えアニメを見る事だったりするんですよ」
「あちゃぁ・・・そっちの病かぁ(笑) まぁ、ストレス解消法は人それぞれだから、詩音ちゃんは詩音ちゃんに合った解消法で良いんだよ」
「だったら今は、マスターのお店で寛ぐ事かなぁ」
「そう言って貰えると嬉しいね。何かご馳走しようか?」
「へへっ、じゃあお言葉に甘えて、今度はスィートマティーニ貰えますか。」


マスターの店を後にして、表通りを歩く。
夜風が心地よく吹いています。
「ん~随分夜は涼しくなったわね。」
そう言えば、ご主人様は来々週の3連休は休みなんだろうかなぁ。
プレゼンもその頃には決着が付いているはずだから、どこか旅行にでも行きたいなぁ
携帯を取り出し、ご主人様にメールを送ろうとすると、先にご主人様からメールが届いていた。マナーモードだったから、気が付かなかった。
「え~っと、何々」

[詩音お疲れ様。今日営業で秋葉原言った時に、ヘンリエッタのフィギュア見つけた。これはレア過ぎる(^_^;) 思わず大枚はたいて買っちまったぁ やっぱり、GUNSLINGER GIRLは最高だな。んじゃあ、明日も頑張ろうな、おやすみ~]
・・・・・やっぱり、チャランポランな性格にしか思えないんですが(^_^;)
まぁ、元々ヲタク繋がりで付き合い始めた様な物ですから、人の事は言えないんですけどね。
♪♪♪
また、御主人様からメールが届きました。
[書き忘れた。愛してる。では、今度こそ本当におやすみぃぃぃ【布団】*-ω-)ノ" オヤスミー♪]
「・・・・・んもうぅ、御主人様ったら、一番大切な事を書き忘れてるんだからぁ」
気が付いたら、クスクスと笑っている自分が居た。
何だかんだ言っても、私にとって一番の精神安定剤は御主人様なんですね♪






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「ご主人様ぁ[emoji:e-266]今晩泊りに行っても良いですかぁ?[emoji:e-349]」
携帯に、詩音の甘えた文面のメールが届いていた。
「俺、残業かもしれないから、合鍵で勝手に部屋に入ってて良いよ」
そう返信した。
相変わらず、二人の時はご主人様と呼ばれてます、こんばんわ旧名、御主人様28号こと、隆文です。
―――――――――6月24日(金)―――――――――
詩音が、社会人となって3カ月近くが経ちました。
震災の影響で採用取り消しになるんではと、懸念していましたが、特にそんな動きもなく入社日を迎えたみたいです。

それはそうと詩音が、また最近甘ん坊になってきたんですよ♪
きっと、また社内の人間関係とか、愚痴をこぼしたいんでしょうね。
こっちも、会社の仕事や人間関係で毎日疲れているんですが、詩音をおざなりにする訳にはいきません。
自分の事は二の次にして、詩音の相手をしてやろうと思います。
まぁ、詩音と一緒に過ごす時間自体が、僕にとっては一番の治療薬ってのもありますしね♪

そうと分かれば、サクサク仕事をこなして、少しでも早く帰れる様に
しなきゃいけませんね。
後は、提案書を仕上げて部長の認めを貰えば、それを先方に届けて数件顧客訪問・・・帰社して、溜まった営業報告を仕上げる・・・うわぁ、こりゃ簡単に終わりそうも有りませんね(^_^;)


「それじゃあ、ご提案させて頂いた事案の方、何卒よろしくお願い致します」そう言って、事務所のドアを閉めた。
とりあえず、提案書の提出まではスムーズに終わりました。後は帰って、事務整理ですね。
時計は、5時になろうとしています。
この先の時間計算をすると、退社出来るのは早くても11時を回りそうです。

残業確定を詩音にメールしておこうと、携帯を取り出すと、着信履歴が着いていた。
会社からの着信です・・・何か嫌な予感がします。
少しブルーが入りますが、かと言ってスルーする訳にもいきません。

「あっ、もしもし村下です。お疲れ様です。携帯に着信入ってたんですけど? はい・・・」
電話の向こうで、事務の女の子が電話の主を探しています。
[もしもし村下さん、部長が電話したそうですけど、今、他の電話に出ておられます・・・あっ、ちょっと待って下さい、電話終わりそうです]
保留音を聞きながら、電話を折り返した事を後悔した。
どうせ、部長の事だから、面倒臭い仕事を押し付けるつもりなんだろう。
益々、退社が遅くなってしまいますよ、これじゃあ

[もしもし、村下君?  おう、提案書どうだった?]

「営業部長に目を通して頂きまして、OK頂きました。最終的には常務の決済が要るとの事で、週明けにこちらから確認する事になってます。」

[そうかそうか、お疲れさん。 お前まだ、横浜だろ? すまんが、その足で鎌倉の○○物産に行って来てくれんか?]

「鎌倉ですか?」

[あぁ、ちょっと手違いが有って、商品の中に破損品が入っていたらしい。回収がてら、断りに行って来てくれ]

「あの担当が扱い難い?」

[そうだ、例の○○物産だ、丁寧に対応頼んだぞ。詳細は、お前の携帯にメールするから。それが終わったら、直帰していいぞ今日は。]

「直帰ですか?でも、部長に提出する営業報告作らなきゃいけないですから、帰社します。」

[それは、来週入ってからで良いぞ。とにかく、先方対応に全力で当たってくれ]

「は、はぁ・・・分かりました。じゃあメール待って対応します。」

直帰出来るのは嬉しいんですが、○○物産の担当者って相当気分屋で扱い難いって、誰もが言うんですよね。
しかも、うちの上得意さんだから下手な対応は出来ないですし。
部長自ら電話してきたって事は、部長自身のミスなんでしょうね。
対価としての直帰は、割りに合わない様な気もします。




「それじゃあ、申し訳ございませんでした。失礼致します。」

僕は逃げる様に○○物産を出た。
担当の気分が変わらないうちに、ここから離れたい気持ちで一杯だった。
正直言って、担当の機嫌が良かったのはラッキーでした。
「さっき、お宅の部長さんから電話有ったよ。明日の朝には、代替品届くんだってな。 破損品?おう、これな。次からはちゃんと頼むよ。」そう言うと、担当者は事務所の奥に消えていった。

部長に結果報告の電話を入れ、駅へと向かう。
まだ、6時半です。このまま直帰となれば、乗り換えなしの1時間ちょっとでアパートに帰れます。
ラッキーが重なりましたね、これは♪
詩音に、7時半にはアパートに帰っている事をメールする。


ホームで電車待ちの間にメールの返信が届いた。
[ご主人様、[emoji:e-266]お仕事お疲れ様ですぅ、[emoji:e-423]ニャンニャン。[emoji:e-251]詩音は、急用が有るって定時退社してしまいました[emoji:e-282](私、悪い子でしょうか?[emoji:e-465])。今、駅[emoji:e-341]を降りてご主人様のアパー[emoji:e-514]トに向かって歩いてますよ。[emoji:e-330] アパートの冷蔵庫さんと相談してから、夕ご飯のお買い物[emoji:e-290]に出掛けてこようと思いますが、何かリクエスト[emoji:e-430]はございますか、ご主人様?[emoji:e-51]]

・・・いつも以上に甘えた感じのメールです。
そりゃ相当ストレスが溜まってそうですね(^_^;)
[詩音の作る料理なら、何でもOKだよ。明日の朝ご飯は、久しぶりに駅前の喫茶店でモーニング食べようか。最近、新メニューでバゲットサンドが加わったよ。]そう、メールを返信する。


電車が来るまで、あと3分
それまでの時間、ゆっくり詩音の事を考えていようかな。
真剣に考え事をしている顔、ちょっと怒った顔、詩音の笑顔、笑い声、甘えた上目遣い、甘く切ないの吐息・・・

そして僕の中に、す~っと詩音が流れ込んできた。


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「いらっしゃいませ~いらっしゃいませ~」「ついに出ました、新製品の‥‥‥」
僕は、サンタクロースの格好をして、アルバイトの女の子と一緒に、声を張り上げて呼び込みをしていた。
12月に入り、一つのプロジェクトを任される様になり、プロジェクトリーダーとして忙しい日々が続いています。
詩音の方はと言うと、引き続き就職活動しており、それに加えて卒業制作も始まったそうで色々と忙しいみたいで、メールすら交わせない日々が続いています。
でも、ちょっぴり仕事が面白くなってきて、少しだけ充実した日々を送っていたりする。
こんばんわ、ご主人様28号こと村下隆文です。
―――――――――12月24日(金)―――――――――
街行く人々は、クリスマスイブが忙しいのだろう、僕らの呼び込みに気を止める様子も無く、足早に通り過ぎて行く。
辺りは暗くなり始め、クリスマスイルミネーションが今年最後の輝きを見せ始め、遠くから、6時を告げる金の音が聞こえてきた。
空を見上げると、雪が舞い始めている。
「ラス~ト クリスマス ソふふ ふんふん‥‥‥」
ワムの「ラスト クリスマス」を口ずさんでみるが、サビの出だし以外は歌詞を知らない。
そんな自分がおかしくて、少し笑ってしまった。

「お~い。一応目標数はクリアしてるし、今日はもう終わりにしようか。

バイトの女の子に声を掛ける。
「でも、バイトは7時までの契約ですよ」
「ゆっくり片付けてたら時間なんてすぐ経つさ、それにクリスマスイブなんだから予定が有るんだろ。さっさと片付けて上がっていいよ、ちゃんとバイトは7時までで報告上げとくからさ。」
「マジですか?ありがとうございま~す♪ あっ、でも実は予定が入っているのは、村下さんの方じゃないんですか?」彼女は慣れた手付きで、荷物を片付けていく。
「俺? 俺はフリーだぞ。ひょっとして俺のシングルベルに付き合ってくれるんか?」
「う~ん、今日は先約が有りますから遠慮しておきます。今度、金欠の時に誘ってくださいよ。」
「馬鹿、俺だって毎月金欠なんだから。ほら、その荷物詰め込んだら終わっていいぞ」
「ありがとうございます、じゃあお先に失礼致しま~す」


「さて、一服してから車に詰め込むかぁ」冷めてしまった飲みかけの缶コーヒーを飲み干し、広場の向かい側の公園の喫煙コーナーへと歩き始める。
腕を組み楽しそうに歩くカップル、大きなプレゼントボックスにはしゃぐ子供達、クリスマスケーキの箱を手に家路を急ぐサラリーマン。
街中からクリスマスソングが流れ、世の中全体がクリスマス気分で浮かれている。
こっちは、詩音との予定が有る訳でもなく、直帰してコンビニ弁当で夕飯済ませたら、ビール片手に今日の報告書を課長にメール送信して眠るだけ。
金曜日の夜、増してやクリスマスイブだと言うのに、合コンやパーテ
ィーのお誘いもなく同僚との飲み会の予定すらない。
「何で、こうなんだろうなぁ」つい愚痴ってしまう。
詩音との生活を夢見て就いた仕事なのに、実際にはその仕事が二人の距離を遠ざけている。
詩音もなかなか就職が決まらず、毎日ドタバタしているので、大なり小なり衝突してしまう事が増えた。
時期的な一過性の物とは分かっているけどが、それでもやっぱり滅入ってしまう。


公園の手前で、子供の手を引くお母さんとすれ違った。
「ママぁ、サンタクロースさんだぁ」
「ほんとだね‥‥‥あれ?‥‥村下君?」
その声は‥‥‥
忘れもしないさっちゃんの声だった。
「山瀬さん? うわっ偶然。確かこの前会ったのも暮れだったよね、娘ちゃんも大きくなったな。

「そうそう大晦日の新玉線の中だったね。優はね、もうすぐで3歳になるんよ。でもどうしたん?こんな所でそんな格好して

「仕事だよ仕事。新商品の販促プロジェクトを任されたんだよ。」
「そっか、凄いじゃないの。んで、どんな仕事してるの?」
「これだよこれ。それと‥‥‥はい、これは優ちゃんにクリスマスプレゼント

僕は新製品のパンフと、景品のマスコット人形詰め合わせセットを渡す。
「あっ、これ知ってる。へぇ~村下君、ここに勤めてるんだ。」
「まぁ、まだまだ下っぱだけどね。 ところで山瀬さん、こんな所でどうしたんよ?」
「こんな所って、ここは思いっきり地元だよ、覚えてないさいたま市に住んでるって言ったの?」
‥‥‥そう言えば、去年会った時にそんな事聞いた様な気がした
「そうかそうか、そう言えばそんな事言ってたね。じゃあ今日はクリスマスのお買い物?」
「そう、今からスーパーに行くところ、今夜は優と二人でクリスマスパーティーなんだ。 村下君、彼女さん元気?詩音さんだったっけ?」
「あぁ、元気だと思うよ」
「思うよって、うまく行ってないの?」
「いや、別れた訳じゃないんだけど、お互い忙しくって、ここん所会ってないんだよな」
「ダメじゃん、村下君には幸せになってもらわないと、松舞駅でサヨナラした意味がないじゃないのよ」
「そう言うなよな。俺だって頑張ってんだから。」
「ごめんごめん、責めるつもりはないんよ。 私だって、意中の人は居るけど、相変わらずシングルなんだしさ。」
「なんだお互い様じゃんか(笑) お互いなかなか、上手くいかないもんだな。」
「そんなもんじゃないのかな。でもそれなりに幸せだよ私。」
「そりゃ俺だって一緒さ。今はそれなりに充実した日々を送ってるぞ」
どうしてなんでしょうね、山瀬さんの前ではついつい意地を張っちゃってます。
「また~無理しちゃって」クスッと笑う山瀬さん。

僕の気持ちを見透かされてますね。
「お互い相変わらず意地っ張りだよね。あの時と同じだね。」
さっちゃんは、空を見上げながらそう呟いた。
「そうだな、成長いる様な気がするだけで、本質は何も変わってないかもしれないな」
「変わった点は、私には優が居て、村下君には別の彼女居る事だね」
「そう言われると、ちょっぴり切ないよな。」
「あらっ、だってもう私の事なんて忘れてたんじゃないの?たっくん」
「そんな事ないよ、さっちゃん。さっちゃんは、いつまでも俺の大事な人だから」
「ちょっと、そんな事言ったら詩音さんに失礼でしょ。デリカシーの無い所もあの頃のままなんだからぁ、たっくんは」
「確かに詩音の事は大好きだ。将来の事だって真剣に考えてる。でも‥‥‥」この先の言葉を言ってしまったら、僕はまた自分が苦しむ様な気がして怖かった。
「でも、何?」さっちゃんが、少し目を潤ませながら僕を見つめる

「いや、何でもない‥‥‥冷えてきたな、こりゃ本格的なホワイトクリスマスになりそうだね。
僕は空を見上げる。
「そうね」山瀬さんも空を見上げる。
「ママぁ、お腹すいたぁ」優ちゃんが山瀬さんにすがりついて来た。
「あっゴメンね優ちゃん。ママを引き留めちゃって。早く帰ってクリスマスケーキ食べなきゃね」僕は屈み込んで、優ちゃんに話し掛ける。
「うん。サンタさんも一緒に食べる?」
思わず山瀬さんの顔を見上げる。
彼女は困った様な、でも少しだけ嬉しそうな顔をしていた。

その笑顔の意味は、聞くまでもなく分かった様な気がする。
もし、ここで「一緒に食べる」って言ってしまえば、僕達の距離が以前の様に縮まるだろう。
でもそれを言う事によって、二人の3年間が無駄になってしまう。
別々の道を歩むと決めて、過ごしてきた3年間が。
お互いに思う人が居る今、二人で過ごす日々は意味の無い物に思えた。
それよりも、また破局を迎えるのが怖かった。
折角の素敵な思いでの一日が、壊れるのが怖かった。
やっぱりあの日の約束を貫こう。
こんな時まで意地を張る必要は無いのかも知れない。
でも、この日の為に意地を張って今まで生きて来たのかも知れない。


「ゴメンね優ちゃん、サンタさんはこれからまだ沢山のお友達にプレゼントを配らなくちゃあいけないからね。ママと、サンタさんの分まで沢山ケーキを食べちゃってくれるかな?」
「うん」優ちゃんはコクリと頷いた。
「来年は、サンタクロースがケーキを食べに行くかも知れないから、それまで良い子にしておくんだよ」そう言いながら軽く頭を撫でてみた。
‥‥‥そう、僕じゃなくて別のサンタクロースが、ママと優ちゃんの元に現れる事を願ってるからね。

「じゃあ山瀬さん、俺、荷物の積み込みが有るから‥‥」
「うん、引き留めちゃってゴメンね村下君」
「俺こそゴメン。さっちゃんにもサンタクロースがプレゼント持ってくると良いな」
「ふふふ、そうだね。たっくんにもね。じゃあ、元気でね村下君」
「おう、山瀬さんもな。風邪ひくなよ。」
僕は、公園の向こうの駐車場に向かって歩き始めた。
プレゼントかぁ‥‥‥
僕は、十分なプレゼントを貰えた気がしていた。
クリスマスイブの夜に、「たっくん」「さっちゃん」と呼び合い、一瞬でもあの日に戻れた事が何よりのプレゼントだったと思う。


「‥っくん」
その声に振り返る。
さっちゃんが、優ちゃんを抱きかかえながら大きく手を振っていた。
「さっちゃん」
僕も大きく手を振り返す。
彼女は小さく頷いた後、後ろを向き歩き始めた。
僕も前を向き、少し大股で歩き始めた。
近くの店から、ワムの「ラスト クリスマス」が聞こえてきた。
「洒落になってねえなぁ」僕は少し微笑み、空を見上げる。
街明かりに照らされ、雪達が静かに舞っていた。



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「遅いな~、ご主人‥‥‥隆文さん」
夏も終わり、夕暮れが早くなりました。
ここ、渋谷の街も、薄っすらオレンジ色に染まっています。
今日は、渋谷で待ち合わせをして、これから一緒に隆文さんが春までバイトをしていた、お台場のレストランに出掛けます。

こんばんわ、実はここに主役で登場するのは、初めての詩音・・・福富詩音です。
―――――――――9月1日(火)―――――――――
さて、お気付きかも知れませんが、「ご主人様」ではなくて、隆文さんと呼んでいる(さっきは素に御主人様って言いそうでしたが)のには、訳が有るんです。
実は今、トレードマークのメイド服ではなくて、リクルートスーツ姿なんです。
そう、今日はデザイン事務所の面接が、目黒で有ったんです。
感触ですか?う~んどうなんでしょう・・・自分では精一杯頑張ったつもりなんですが・・・
おっと、話が逸れましたね。
リクルートスーツで「御主人様ぁ」って、話し掛けても恰好が付きませんから・・・だから今日は、隆文さんなんです。
きっとこれからは、隆文さんって呼ぶ事が増えるんでしょうね。
ええ、自分でも判ってます。いつまでも御主人様とメイドの関係では居られない事くらい・・・
いつかは、隆文さんと詩音って関係に、ならなきゃいけないんですよね。
少し寂しい気もしますし、それで関係がギクシャクする事は無いとは思いますが、私的にはもう少しメイドとして、御主人様に甘えていたい気もします。

どこからか、鐘の音が聞こえてきました・・・6時を回ったみたいです。
隆文さんとは、5時に待ち合わせだったんです(鈴木雅之さんと菊地桃子さんの曲みたいですぅ)が、客先での会議が渋谷で有って、それが終わり次第直帰するって話でしたから、まだ会議が終わってないのかもしれません。
「まだかなぁ~、隆文さん。」
忙しなく動く人混みの中、ハチ公の前に立っている私だけ時間が止まった気分です。
‥‥‥隆文さんと知り合って、1年以上経ちました。
何となくこの一年の事を思い出してみる。
色々喧嘩したりもしましたが、二人で過ごす日々は思い出がいっぱい生まれましたし、どれも甘酸っぱくて、一つ一つ、思い出すと胸がキュンと締め付けられます。
こんな恋愛は、初めてです‥‥‥と言っても、そんなに恋愛経験が豊富な訳では無いんですけどね(^_^;ゞ
これで就職が決まったら、お互い仕事帰りに待ち合わせしたりと、新たな思い出が沢山出来るんでしょうね。
オープンカフェでお茶しながら、互いの仕事の愚痴を言い合ったり、慰めたり。
たまには、お洒落なバーで飲んだりもしたいですね。

渋谷の空に、ネオンの灯りが点り始めました。
う~ん、本当に遅いですぅ、隆文さん。
メールも送ってこない所を見ると、忙しいのでしょうか?
でも、待つのって意外と、嫌じゃないんですよね。
待つ相手が居るだけマシと言うか、独りぼっちじゃない事を実感出来ますからね。
相手の顔が見えた瞬間の、嬉しさが堪らなく好きだったりします。
‥‥‥とは言え、やっぱり待つのは退屈ですけどね。
携帯でもう一度メールチェックをしてみる。
やっぱり、メール届いていませんね、残念ですぅ。
隆文さんが、あんなに楽しみにしていたから、まさか忘れてるなんて事は無いとは思いますが‥‥

読みかけの文庫本をバッグから取り出し、ペラペラと捲る。
数ページ読んだところで、本を閉じる・・・この喧噪の中じゃ本の内容が、頭の中に入って来ませんでした。
携帯をもう一度取り出し、「待ちぼうけ中~」って、ツイートしてみる。
こう言う時って、車だったら音楽かラジオを聴きながら、時間潰しが出来るんですけどね。
流石に少し退屈になって来ました。

♪♪♪
メールです、急いで携帯を開いてみる。残念ながら隆文さんからのメールでは無くて、フォロワーの優ママさんからでした。
「退屈だろうけど、頑張って。私も、昔よく待ちぼうけを喰わされましたよ」
その言葉に少し勇気が湧いてきました。
「こうなったら、死ぬ気で待ってみます。渋谷の街はすっかり夜の帳が降りちゃいましたよ~」そうツイートする。
優ママさんには、ブログ書いていた頃から、お世話になってました。
でも、よく話を聞いてみたら、私より年下なんですよね・・・(^_^;)
あっ、因みに隆文さんには、ブログの事もツイッターの事も話していません。
何か恥ずかしいですからね(^_^;)

♪♪♪
また、優ママさんでしょうか?
メールをチェックする。
「ごめん、詩音。今、会議が終わった。5分位でそっちに行けると思う。急いで行くから」
隆文さんからのメールでした。
やっぱり、会議長引いたんですね。
やっとで会えると思ったら、ちょっぴり緊張してきました。
お店のウィンドウに映った自分の姿をチェックしてみる。
‥‥‥大丈夫みたいですぅ。
そうそうツイートしておかなくっちゃあ
「彼がやっとで来ます♪ 今、メールが来ましたぁ」
‥‥これでOKっと。
振り返ると、隆文さんが手を振っているのが見えました。
私も大きく手を振り返します。
「御主人様~ぁ」って叫びながら
‥‥‥しまった、周りに居る人達が一斉に私の方に振り返りました。
うううぅ‥‥やっぱり私はドジッ娘なんですね。
でも良いんです、やっぱり隆文さんは私の御主人様なんだから♪


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6月も、もう下旬になりますね。
同期の人間の中には、鬱になったり、5月病でリタイアする人間も出始めました。
僕はと言うと‥‥‥
まぁ元々、マイペースな人間ですから、周りに流される事無く、自分を貫き通してます。
ただ、詩音と過ごす時間が極端に減ったのは、辛いです。
こんばんわ、御主人様28号こと、隆文です。
―――――――――6月18日(金)―――――――――
巷では、アフター5は皇居RUNとか、合コンを満喫なんて話を聞きますが、それって極一部の人間であって、大半のサラリーマンは大なり小なり残業してるんですね。
僕も、アフター5は残業を満喫しています♪
って、そんなもん満喫したくねぇよ~(ToT)
今夜も、もちろん残業でした。
詩音との甘い生活なんて、夢のまた夢って感じです。
電車を待つ地下鉄のホームから、詩音に「カエルメール」を打つ。
入ってきた電車は、朝より幾分か空いてはいますが、それでも松舞ならあり得ない混雑です(笑)
満員電車の窓から見えるオフィスビル群には、まだまだ明かりの灯った部屋が結構有ります。
就職難のご時世ですから、就職出来ただけでもありがたいと思わなきゃいけないのは、勿論分かってます。
でも、そこに人間としての最低限必要な健全な生活を、求めるのっていけない事なんですかね?

駅のホームに降り立ち、メールをチェックしたら、詩音から返信が届いてました。
「御主人様、お仕事お疲れ様です。明日はお休みですか?今夜は御主人様のアパートにお泊まりします。夕ご飯出来てますよ♪」
そう残業続きで、詩音が僕のアパートに入り浸る機会は少なくなりました。
詩音を一緒に過ごす夜は何週間ぶりなんだろう。
ホームを上ると、改札の向こうで手を振る詩音が見えた。
ショボくれたサラリーマン達の中に、メイド服で立ってるんだから、目立たない訳がないですよね。
そんな詩音の顔を見たら思わず、僕は笑顔になった。
「お帰りなさい、御主人様。お腹空きました?」
周りのサラリーマンが、目を丸くしているのが、笑えました。
「ただいま、詩音。お腹ペコペコだよぉ。今夜の夕ご飯のおかずは何?」
「はい、御主人様の大好きな、唐揚げと餃子にしましたぁ」
「お~、そりゃ楽しみだ。急いで帰らなきゃ。」
「はいなのですぅ」詩音が、僕の腕に手を回してきた。
「しかし、今週も毎日残業だったな。まぁ、先週みたいに午前様だったり、会社泊まり込みじゃなかっただけ、良かったけどな。」
「御主人様、毎晩残業で大変ですね。お身体大丈夫ですか?」
「あぁ、何とか持ちこたえてるよ。でも、ほら北海道から来ている近藤が、体調崩して入院しちゃったし、鉄ちゃんの佐々木は、鬱病になって会社を休んでるし‥‥社会人って、結構大変なものだな」
「入院ですか‥‥御主人様は無理なさらないで下さいね。」
「うん、ありがとう。でも、こうして詩音の笑顔見てたら、疲れなんてふっ飛ぶさ」
我ながら、クサイ台詞だと苦笑いしてしまった。
もっと気の効いた台詞が、言えたら良いんだけども。
そんな僕のクサイ台詞に、詩音は少しハニカミながら「ありがとうございます、ご主人様にそう言って頂けると幸せですぅ」と、答えた。
いやいや、お世辞なんかじゃ無くて本当に、そう思えるんだけどね。
「しかし、社会人って本当に大変なんですね。私も来年春には社会人なんですよね。少し憂鬱になっちゃいます。」
「そうだよな、どうだ就活は順調に進んでる?」
「いえ、やっぱり不況なんですね求人がさっぱりなんですよね。」
「グラフィックデザイナーなんて、一杯求人有ると思っていたんだけど、そっちの業界も不況なんだな。」
「はいなのです、まぁ大学時代のスキルを活かして、生花店に務めるか、親戚を頼ってウェイトレスって道も残ってますけどね。」
「‥‥ウェイトレスって、何か今と制服は変わん無いんじゃか?」
「そっ、そうですよね。案外良いかもしれませんね」
う~ん、来年以降もこの制服なのか‥‥それはちょっと考えちゃうなぁ
「でもでも、やっぱり第一志望はデザイナーですね。その為に専門学校通ってるんですから。」
「そう言えば、詩音の専門学校卒業生って、やっぱりアニメーターや漫画家志望が多いの?」
「はい、2/3は、そっちの業界に進みますね。でも最近はアニメ業界も中国スタッフの進出が多くて、結構大変みたいですよ。」
「でも、デザイナーだって、残業多くて大変な業界なんじゃないの?」
「確かにそれは言えるんですけどね‥‥」
詩音が少し暗い顔になった。
少し現実的な話をし過ぎたかな?
彼女の行動自体が非現実的だから、その辺はフォローしなくちゃいけないかな?
でも現実から、いつまでも目を背けている訳にもいきませんし。
少し、僕は考え込んでしまった。
「まぁ、『案ずるより、生むが易し』って言うだろ、思う様にやってみれば良いじゃん。俺だってそれなりに社会人してるんだから、しっかりしてる詩音なら大丈夫だって。」
‥‥「はいなのです、御主人様。ありがとうございますぅ」
う~ん、結局は詩音を甘やかせてしまった。
でも、実際の話、詩音ならきっと上手く立ち振舞えると思う。
「私が就職しても、こうやって一緒に帰宅したいですね」
「う‥‥うん、そうだね。駅で待ち合わせとかして、どこかで夕ご飯食べて腕を組んで帰りたいね」
「う~、夢の様な生活ですね。たまにはワインとチーズ買って帰ったりしたいですね。」
「うん、いいねぇ。なんだか楽しくなってきたぞ。」
「はいなのです。その為に詩音も就活頑張りますから」
「おう、俺だって、頑張って働くからな。」
「あっ、でもでも御主人様ぁ。私、きっとスーツか何か着てますよ。メイド服じゃなくても良いんですかぁ?」
‥‥‥いや、それが普通だって。
別に詩音のメイド姿に惚れた訳じゃないから(^^;)ゞ


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