松舞ラブストーリー

山陰の仮想の町松舞町を舞台にした、様々な恋愛を見守ってやって下さいね

カテゴリ: 比呂十・美咲編

「あっ、動いた♪」
「うん、俺も解った。って言うか、これってエイリアンとかじゃないですよね?」
私のお腹に耳を当てていた、比呂斗さんがびっくりした顔で話し掛けて来ました。
こんばんわ、お久しぶりですね錦織美咲改め小村美咲です。
―――――――――3月15日(土)―――――――――
「比呂斗さん、実の子に何て事言うんですかぁ」
「だって今、お腹ボコボコって動きましたよね」
「うん、足をジタバタさせた感じでしたね。」
「痛くないです?」
「たまに苦しくなりますよ。あっ、また動いた」

結婚三年目、私達も新しい命を授かりました。
予定では5月に、私もお母さんになります。

「ところで比呂斗さん、名前決まりました?」
「いや、まだなんですよ。候補は幾つか有りますけどね。」
そう言いながら、チェストの上のタブレットの画面をタップしています。
「女の子なら、青葉か緑、男の子なら、元気か潤なんてどうですか?」
「潤って・・・」
「やっぱり、嫌ですか? 俺的には潤一さん嫌いじゃないから平気なんですが」

潤一・・・覚えていらっしゃいますか、不慮の事故で亡くなった私の昔の彼の名前です。
「お気持ちはありがたいのですが、いつまでも潤一の事を引きずる訳にはいきませんからね。」
私は、テーブルの上のスマートフォンを手に取った。
「実は私も幾つか考えたんですよ、ほら」
比呂斗さんは、私の手からスマートフォンを受けとると、しげしげと画面を眺めました。
「数、多過ぎません?」
「すいません、中々絞りきれなくって」
「あっ、でもこの萌衣(めい)とか、可愛いですね。男の子なら・・・五右衛門って、真面目に考えて下さいよぉ」
「だって、『5』の付く名前って言ったら、真っ先に浮かんじゃって。」

ブルッて、比呂斗さんが身震いをした。
「やっぱ、春になったけど、日中は暖かくても夜は寒いですね。」
「そうですね、コーヒーでも淹れましょうか?」
そう言って立ち上がろうとする私を、比呂斗さんは制し「僕がやりますよ、美咲さんはホットミルクですか?」
「すいません、ありがとうございます、」
元々優しい比呂斗さんですけど、私のお腹が大きくなり始めてからは、一段と優しくなりました。


「はい、お待たせ致しました」
そう言いながら、マグカップを私に手渡す比呂斗さん。
「コーヒー淹れながら考えてたんですけど、『5』にこだわるなら『ゴンザレス』とか、どうでしょう?」
飲みかけたミルクを思わず吹き出しそうになりました。
「さすがに、それはちょっとお・・・それに『ゴンザレス』は、名字なんですよ」
「あっ、そうなんですか?」
すまなそうに、苦笑いする比呂斗さん。
「あっ・・・ほら、お腹の赤ちゃんも怒って暴れてますよ。」
「お~そうかそうか、スマンスマン、お父さんが悪かった悪かった」
そう言いながら、もう一度私のお腹に耳を当てる比呂斗さん。
そんな彼を、微笑ましく見つめながら、「ゴンザレス」の「ゴ」は「五」で良いとして、「ん」って漢字無いから「五座礼子」なら、男の子でも女の子でも、使えるかなって考えてた私
「うおっ・・・今、一段と強く蹴りましたよねぇ」
・・・やっぱり、お腹の赤ちゃんに「ゴンザレス」は不評みたいです・・・

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(小夜曲)sérénade編【完結】
楓・青木先輩編【完結】
本田・沢田編【完結】
2009年収穫祭編【完結】


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「比呂十さん、これで案内状は全部出し終わりましたね」
「そうだね美咲さん。後は・・・そろそろマジで新居を決めないとですね」
「そうですよねぇ~。2つに絞り込んだまでは順調だったですけどね。実は、今でもどっちにしようか悩んでるんですよ」
美咲さんは、口を少し尖らせて、テーブルの上の物件のコピーを手に取った。
そんな横顔も結構好きですよ、こんにちは比呂十です。
―――――――――5月21日(土)―――――――――
各方面から、話が入っているとは思いますが、僕達来月結婚します。
出会って3回目に一度プロポーズしてますが、去年の9月にもう一度改めてプロポーズしました。

プロポーズしたのは、ドライブ帰りの車の中。
途中から雨が降り出して、ドライブとしては最低でしたが、僕の人生の中では最高の一日です。

雲山市街を見渡せる、山道の路肩に車を止め、お互いの仕事の話をしたりしていました。
ふっと会話が途切れ、視線をフロントウィンドウに移す。
ワイパーが掻いた雨が、ウインドウを伝い流れ落ちて行く様をぼんやりと眺めていた。

ここの所、ずっと気になっていた事をふっと思い出す。
あの時は、半分勢い的な調子で美咲さんにプロポーズして、彼女からも返事をもらったけど、美咲さんの中であの時の思いが今でも揺らいでないか、気になっていた。

「あの美咲さん、突然こんな話で恐縮なんですが・・・」
「どうしたんです比呂十さん?そんなに改まって」
「いや・・・あのぉ。そろそろ付き合い始めて1年が経ちますよね。あの時自販機の前で言った事、覚えてます?」
「えっ? う、うん・・・」少し美咲さんがうつむいた。
「俺の気持ちは、あの時と変わっていません。むしろ1年経って、余計にその想いは強くなりました。ですから、ですから・・・」
「ですから?」
「・・・・・・改めて言います。僕と・・・僕と・・・」

おっと恥ずかしい位情けない自分をさらけ出す所でしたね。
そんなこんなで、今日も美咲さんのアパートで、打ち合わせやら何やらして過ごしています。


僕は、テーブルの上のもう一枚の物件のコピーを手に取った。
「比呂十さんが持ってる物件の方が、お互い勤め先には近いですよね。サンモールやホームセンターも近いから便利は便利なんですけど・・・」
「でも、美咲さんが持ってる方の物件が、部屋数多くて少し家賃も安いんですよねぇ」
「そうなんですよねぇ、いずれは比呂十さんの実家で暮すにして、それまでに子供が生まれたりした時の事考えると、悩んじゃうんですよ」
「まぁ俺的にはどっちのアパートも実家よりは会社に近いから、問題ないんですけど。ポイントは、部屋数を取るか利便性を取るかですよね」

お互い、あ~でもない こ~でもないっと意見を出し合いましたが、結局これっと言った決定打が生まれず、今日もまた煮詰まってしまいそうです。

「ふぁ~、やっぱり悩みますねぇ美咲さん・・・気分転換にコーヒーでも飲みませんか」
そう言って僕は席を立った。
「あっ、園長先生からお裾分けのクッキーもらって来たんですよ」そう言いながら、美咲さんも席を立つ。

「森山の奴がね、コーヒーは蒸らしと湯温が大切だって熱弁するんですよ。あいつ変な所にコダワリ持ってますからね。」
「モリヒデ君って、そんな感じしますよね(笑)」
やかんがカタカタと鳴り始めた。コンロの火を止め沸きたてのお湯を注ぐ
「あいつ曰く、蒸らしは220秒が一番美味しいらしいですよ」
壁際の時計に目をやる二人。
「・・・・・・」「・・・・・・」
「・・・・・・220秒って結構長い時間蒸らすんですね。」
「これで美味しくなかったら、月曜日文句言っておきますね。」

コーヒーサーバーを無言で覗き込む自分たちの姿に、思わず吹き出しそうになる。
「二人でコーヒーサーバー覗き込んで何してんでしょうね、そんな事したって時間が早く進む訳じゃないですのにね」
「まぁ確かに比呂十さんの言う通りなんですけどね。でも、一緒の時間を共有している実感が有って、結構私は好きですよ。これからも、ず~っとこうして二人で時間を共有していくんですね」

美咲さんの言葉に、ガラにもなく胸がキュンとなる。
隣に立つ美咲さんの右手をそっと握る。
一瞬ビクってしましたが、すぐ強く握り返してくる。
コーヒーサーバーを覗き込んでいる視線の端で、美咲さんを追いかける。
同じ様にまっすぐコーヒーサーバーを覗き込んでいるけど、握り返した手を表情のどこかで意識しているのが分かる。
「・・・そうですね。これからず~っと、こうやって二人の時間が流れて行くんですね、美咲さん」
視線の端に、微笑みながら小さくコクリと頷く美咲さんが居た。



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今日は、休日出勤だったんですが、午後早引きさせてもらって、松舞小学校に行きました。
美咲さんの歓迎会を兼ねた、松舞エンジェルスのクリスマスパーティーでした。
パーティーの前に、先ずは父兄との交流を兼ねた親子対決をやりました。
やはり、美咲さんの独壇場で、色々なトリックプレーが飛び出しました。
こんばんわ、小村比呂十です。
―――――――――12月23日(水)―――――――――
さて、松舞エンジェルスのクリスマスパーティーは、実は口実なんですよね。
本当の目的は、美咲さんと約束したクリスマスパーティーなんですよね。
日中空いていれば、雲山にでも繰り出したんでしょうが、エンジェルスの子供達との約束も、無碍に出来ませんからね。
二人で行う初めてのクリスマスパーティーは、美咲さんのアパートで行う事になりました。

「ごめんなさい比呂十さん、全部出来合い物ばっかりで。来年はちゃんと手作りしますからね」
「いや気にしないで下さい、今回はスケジュールがスケジュールでしたからね。ところでクリスマスケーキなんですが、この場合何本ロウソクを立てれば良いんでしょうね?」
「えっ?ロウソク立てるのはバースディーケーキですって。もし、お互いの年齢分のロウソクを、この小さいケーキに立てよう思っても、立たないんじゃないでしょうか?それに、きっとロウソクが多すぎてケーキが焦げちゃいますよ」美咲さんは、大笑いしています。
うん、やっぱり美咲さんは笑顔が似合うよなぁ。
なぁそうだろ、潤一。
電灯を消して、小さなアロマキャンドルに火を点した。
「綺麗・・・」
ロウソクの明かりの向こうに美咲さんの、うっとりしている顔が見える。
「そうですね。さぁグラス貸して、シャンメリー注ぐから。」
「あっ、ちょっと待って、テレビで宣伝していたスパークリングワイン買って有るから。」
「あっ、あの黒い奴でしょ。飲んでみたかったんですよ。でも、俺車だから。」
「だから?」
ロウソクの向こうの美咲さんが俺を見つめる・・・
「・・・泊まらせてもらえますか?」
「はい、ひろとクン良く出来ました♪」
「参ったなぁ・・・美咲先生・・・」
「あっ、でもひろとクン。子供がお酒飲んじゃあ駄目だよね」
「そりゃないでしょう、美咲さん~」二人で笑いながら、グラスを重ねる。
これで良いんだよな潤一・・・今夜これからの事は、目をつむっててくれるよな・・・


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一昨日の私は、どうにかしてたんでしょうね。
でも、もう大丈夫です、潤一への思いを断ち切る事が出来ました。
色々、ご心配をお掛けしました。
こんにちわ、美咲です。
―――――――――11月03日(火)―――――――――
今日は、比呂十さんと雲山のスポーツショップに、バスケットシューズを買いに出掛けてます。
そうです、松舞エンジェルスのサブコーチとして、13年振りにミニバスケットボールに係わる事になりました。
選手経験の少ない私は、テクニカルサポートよりも、メンタルサポートの方が、メインになりますが、精一杯子供達と頑張って行こうと思います。

「う~ん、品揃えが多過ぎて、迷ってしまいますね。小村さん、お勧めのシューズってございますか?」
「えっ、そうですね~。オーソドックスなデザインのアシックスのこの辺りか、デザイン重視ならナイキのこいつとかどうでしょう」
「う~ん、デザインならこっちの方が好みですので、やっぱりこっちのオーソドックスな方に致します。」
会計を済ませ、出口の方に歩いていくと、店内に5人くらい女の子が入ってきました。
「やばっ」比呂十さんが呟きました。
「あ~、小村コーチだ。」あっ、どうやら松舞エンジェルスのメンバーみたいです。
「あっ、本当だ~。こんにちは、コーチ」
「コーチだ」「こんにちは~」女の子達がかわるがわる挨拶をしています。
そして、比呂十さんの隣に立っている私を見付け、「あっ、小村コーチひょっとして、デートの真っ最中?」「え~っデート!」「ひゅ~っひゅ~」「あっ、この前の日曜日に電話してた人? コーチ~」って、茶化します。
「ば、馬鹿、デートじゃないって。」
「コーチ、デートじゃないなんて言い切っちゃって良いんですか~? 彼女さん睨んでますよ~」
「えっ? ウソ、マジか、ゆ~な?」
慌てて比呂十さんが私の方に振り返る。
もちろん、私が睨んでいる訳も無く、にっこりと微笑み返してあげました。
う~ん比呂十さんって、完全に彼女達のおもちゃなんですね(笑)
「おっお前ら、何か買いに来たんだろ、さっさと買い物しに行けよ~」比呂十さんがほっぺたを少し膨らませながら、彼女達を追いやった。
「さとなつ、ゆ~な、邪魔しちゃ悪いから、行こう」
「じゃあね~コーチーお幸せに~。」「さようなら~」
口々に挨拶をして、彼女達は売り場へと消えて行った。
「ったく、うちのメンバー達は~」
「でも、皆さん、小村さんの事大好きみたいですね。私の強力なライバルが一杯いますね、松舞エンジェルスには。」
「いや、錦織さん、あんなガキ達に興味無いですって。それよりお腹空きませんか?」
「そうですね、そろそろお昼にしましょうか。今日こそは、私がお支払い致しますからね。」
「はい分かりました、それじゃあお言葉に甘えさせて頂きます。それで、何を食べます?」
「そうですねぇ・・・あっ折角、雲山に来たんですから、ハンバーガー食べませんか?マックかモスあたり・・・ダメでしょうか?」
もっとお洒落なお店とか行ってみたいんですが、背伸びしたって疲れるだけですから、ここは等身大の私のままで、行こうと思います。
「あっ、マック良いですね~。俺、ビックマックをオカズに、クォーターパウンダーを食べちゃう位好きなんですよ。近くに有りますし、そこにしましょうか。」
・・・ビックマックにクォーターパウンダーですか。聞いただけで私、お腹一杯になりそうです。
でも、気取らない比呂十さんに、好感が持てます。

「うまっ・・・クォーターパウンダー。肉の味が活きてますよね~。ビックマックもこのオリジナルソースが美味しいんですよね。」
う~ん、比喩ではなく、本当にビックマックをオカズに、クォーターパウンダーを食べちゃうんですね、比呂十さんって・・・
コーラーを飲みながらふっと窓の外を見ると、さっきの女の子達がこの店に入ってくるのが見えました。
「あっ、またエンジェルスのメンバー達ですよ、ほら。」
比呂十さんに、窓の方を指さしました。
「あ~、もうあいつら、どこまで着いて来るんだよ~。頼むから一階席でおとなしくしてろよ~」


「へぇ~、錦織さんって松舞保育園の先生なんだ~」
「ありなつ、それを言うなら保母さんでしょ」
「ゆ~な、それも違うよ。今は保育士さんって、言うんだよ」
「しょうこ、そのナゲット一個ちょうだい」
「んで、コーチとはどうやって知り合ったんですか?錦織さん?」
う~ん、一気に賑やかになりましたね。
エンジェルスメンバー達、やっぱり二階席に上がって来ちゃって、しっかり見付かってしまいました。
「えっ? 知り合ったきっかけ? それは~」
「こらっお前ら、そんなに色々質問したから、錦織さんが困っているだろうが」
「あっ、いえ別に私困ってませんから。」
「コーチ、どうして錦織さんの事、下の名前で呼ばないんですか? なんか、よそよそしいですよ。」
「馬鹿、さとなつ、大人には大人の事情って物が」
「大人の事情って、まさかして不倫?」
「あのなぁ~、さお。お前らいい加減さっさとハンバーガー食って立ち去れよ」
「さお、怒られてやんの~。さ~て、コーチを苛めるのも飽きたし、そろそろ3on3コートに行く?」
「なんだ?お前ら、市立体育館の3on3コート行くんか?」
「そうですよコーチ。 あっ、錦織さんも来られませんか?」
「えっ?私? そ、そうね~?」
チラッと比呂十さんを見る。
比呂十さんもこっちを見つめており、目が合いました。
比呂十さんが、少し肩をすくめて、やれやれって感じで、頷かれました。
「それじゃあ、みんなと、少し練習しようかな。言うのが遅くなったけど、私、来週から松舞エンジェルスの練習のお手伝いする事に、なってるからね。」
「え~、ほんと~」「楽しみ~」「やった~、女のコーチだ~」「そうだね、小村コーチ汗臭いもん」「錦織コーチ、ヨロシクお願いしま~す」
汗臭いって・・・そうなの???
「そ、そんな期待しないでよみんな。私は、ストレッチとか、マネージャーの仕事するだけだから。」

みんなで、ワイワイおお喋りしながら、公園に移動します。
「すいません、錦織さん。とんだ事に付き合わせてしまって・・・」
こっそり、比呂十さんが謝ってきた。
「全然平気ですよ、一週間ほど予定が早まっただけですから。それに、私も、勘を取り戻しておかないと、いけませんしね。」
「そう言って頂けると、こっちも少しは救われます。」
う~ん、正直言って、本当に高校卒業して以来、バスケットボールを手にした事すらないから、ちょっぴり不安なんですよね。
「さぁ、じゃあ、ウォーミングアップするわよ。」
とは、言った物の、園児相手に走り回る位しか運動してませんから、ウォーミングアップするだけで、息が上がっちゃいそうです。
比呂十さんは、流石現役コーチですね、少しも息が上がってません。
「じゃ・・じゃあ、次はストレッチね~」
う~ん、普段使っていない筋肉が、ゆっくりと解れていくのが分かります。
今回、比呂十さんに私、エンジェルスメンバーが、佐藤さん(通称さとなつ)有田さん(通称ありなつ)
小西さん(通称しょうこ)小松原さん(通称さお)村上さん(通称ゆ~な)の合計7名。
比呂十チームに比呂十さん、ありなつ、さお、私のチームは、ハンデで4名。私、さとなつ、しょうこ、ゆ~なと言う組み合わせに決まりました。
最初は私達がオフェンスです。
さとなつから、私、私からしょうこ、しょうこがスリーポイントを打ったけど、リングに弾かれ、リバウンドを素早くゆ~なが処理して、さとなつにパス。さとなつがドリブルで切り込んで、レイアップシュートを決めました。
次は、比呂十さんチームがオフェンス。
さおから、比呂十さん、ありなつへとパスを繋ぐ。ありなつが素早くドリブルで切り込み、そのままレイアップシュート。
へぇ~、結構みんなうまいんじゃないですか。
今度は私たちの攻撃です。
さとなつが切り込んで、横にいたしょうこにパス。しょうこから私へパスが来た。
私の目の前には、比呂十さんが手を広げて立ちはだかってます。
ドリブルで間合いを図りつつ、右へ切り込む。
モーションプレーに釣られて体を左へ傾けた比呂十さんの右脇を一気にすり抜け、そのままジャンプシュート。
決まりました・・・まだ、高校の頃の勘は鈍っていないみたいです。
「すご~い」「はやっ」口々に子供達が歓声を上げます。
次のディフェンスはゆ~なが、ボールスティルを決めて、しょうこにパス。そのまましょうこがスリーポイントを決める。
次のオフェンスは、私がドリブルで切り込んで、ゆ~なにバックパス。少しゆ~なは慌ててましたが、そのボールを落ち着いて、さとなつにパスして、さとなつがジャンプシュートで決めてくれました。

「あ~面白かった~。しかし、錦織さんってバスケ本当にうまいんですね。」スポーツタオルで汗を拭いながら、さとなつが話し掛けて来た。
「えっ?そんな事無いって。私高校時代は補欠だったんだから。」
「高校って、松舞高校ですか?」しょうかが聞いて来た。
「ううん、私、広島出身だから。広島の白百合女子って高校よ」
「え~、白百合だったんですか、錦織さん!」比呂十さんが、驚いた顔して話に割り込んで来た。
「コーチ、有名なんですか?白百合女子って?」
「おう、何回も全国大会優勝している中国地方1番の女子チームだぞ。そこで補欠なら、こっちじゃあ確実にポイントゲッターだな。」
「え~すっご~い。」「色んなテクニック教えて下さいね、錦織さん」
比呂十さんの一言で、彼女達の私を見る目が変わった様な気がします。
いや、チームは確かに全国大会で優勝したけど、その時はまだベンチにも入れなかったし、3年間補欠だったんですから私。

結局、夕方まで3on3を楽しんだ後、彼女達を車に乗せて挨拶も兼ねて自宅まで送り届けました。
そして、私もアパートの前まで送ってもらった。
「邪魔が入ってゆっくり出来ませんでしたね、錦織さん。あいつらには、良く言い聞かせておきますから。」
「いえ、そんな事ないですよ。すごく楽しかったですよ。久しぶりにいい汗をかきました。」
「じゃあ、また」そう言って比呂十さんは車に乗り込んだ。
「あっ・・・小村さん。良かったらお茶でも飲んでいきませんか?」
「でも、いきなり独身女性のアパートに上がるのは・・・」
ふふ、結構生真面目なんですね、比呂十さんって。
「いえ、大丈夫ですよ。それに、もっと松舞エンジェルスの事、教えておいてもらいたいですし。」
「エンジェルスの事ですか?」
「もちろん、小村さん・・・比呂十さんの事も教えてもらいたいです。」
あっ、ちょっぴり大胆発言でしたかね・・・でも、今は、本当に比呂十さんの事を知りたいんです。
比呂十さんとなら、楽しく毎日が過ごせる気がするから・・・



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小村さん・・・小村さん・・・
寒いよ・・・
潤一が、亡くなった時は夏だったから、喪服の中がジワッと汗ばんでいたのを思い出した。
きっと、これが最後ですよね・・・美咲です。
―――――――――11月1日(日)―――――――――
潤一が亡くなった自動販売機の前に、今居ます。
夜は車も少なく、本当にさみしい場所です。
この場所で死んだなら、きっと潤一の所へ、間違えずに行けるでしょうね。
これが本当に最後です。これで、何も苦しまずに済むんです。
もし、潤一に会えたなら、思いきり抱きついて、甘えてやろうと思います。
「お待たせ・・・」って、ちゃんと笑顔で言えるかな?

ひなちゃんの顔が脳裏を横切った。
仕事帰りに、喫茶店でお茶して恋愛話に盛り上がった事も有りました。
彼女の彼氏、洋介さんとケンカした時も、必死に説得したよなぁ
ゴメンね、ひなちゃん・・・貴方の結婚式に参列できなくって。
私の分まで、こっちで幸せになってね。

松舞保育園の園児達の顔を一人一人思い出してみる。
健介君、もうオネショしない様に、ちゃんと寝る前にはトイレ行くのよ。隆俊君は、ちゃんと歯磨きをする様に。一郎君は、美奈子ちゃんに優しくしてあげる様に。優ちゃんは、早くお着替えが出来る様に頑張ろうね。沙希ちゃんは、大好きなお絵描きがもっとうまくなるといいね。・・・みんなイイ子で元気に過ごすのよ。

園長先生・・・わがままを言って申し訳ございません。
短い間でしたが、大変お世話になりました。

お父さんお母さん・・・親不孝な娘でごめんなさい。
もうすぐで、広島にも雪が降ります。お身体には気をつけて。いつまでもお元気にお過ごし下さい。

お兄ちゃん・・・ゴメンね。義姉さんといつまでもお幸せに。

最後に小村さんの事を、考えてみる・・・
潤一と同じ様に子供好きで、笑顔が素敵な人でした。
もし、普通に恋愛を出来たなら、きっと私は松舞エンジェルスのコーチとして、小村さんとがんばってチームを盛り上げていったと思います。
「ごめんなさい・・・今日は練習試合の応援に行けなくって・・・」
もし、お互い生まれ変わってもう一度出会う事が有ったら、その時は・・・その時は・・・貴方の恋人で居させて下さい。
今日何度目かの涙が頬を伝う・・・
小村さん・・・もっと早く知り合っていたら、私の心を温めてくれていたのかな?
私の事は早く忘れて、素敵な彼女を見付けて、幸せに暮らして下さい・・・

セカンドバッグから、潤一の写真を取り出す。
「潤一・・・今からそっちに行くからね・・・ちゃんと迎えに来てよ。ほら、私って方向音痴でしょ。絶対に道を間違えちゃうから、必ず迎えに来てね。ちゃんと、アップルティー準備してある?また、一緒に温かいチャイを飲みながら、一杯お話ししようね。」
相変わらず、写真の潤一は笑ってます。
「うん、分かった。じゃあ少し待ってってね」
写真をガードレールの根元に起き、もう一度セカンドバッグを手に取り、家から持って来た剃刀を取り出した。
「いよいよ、本当に最後ね。」
剃刀のキャップを外し、左の手首に宛がう。

ふっと、目の前を光の筋が横切った。
どこからか、蛍が飛んで来て、潤一の写真の上に止まった。
「蛍?この時期に?」
そして蛍は、一際明るく光ったかと思ったら、写真の中に吸い込まれる様に消えていった。
「美咲~美咲~」
小村さんの声が聞こえてきた・・・
「えっ?小村さん?どうして此処に???」
息を切らせながら、小村さんが走り寄って来た。
「はぁはぁ・・・美咲ちゃん・・・早まっちゃあダメだ。君は俺が幸せにする。潤一が出来なかった分まで、幸せにするから・・・ゼエゼエ・・・」
えっ? どうして潤一の事知ってるの?
「小村さん、どうして此処が分かったの?」
「ハァハァ・・・それは・・・光が・・・潤一が導いてくれたから・・・。潤一は、君が死ぬ事を望んでなんかいないんだ。そんな事したって奴は救われないよ。幸せに暮らす事・・・それがあいつへの償いなんだ。奴が潤一がそう言ってた。」
潤一が・・・?
「うそ・・・だって潤一はもう死んでるのよ。小村さんが潤一と話する事なんて出来ないじゃないですか。」
「じゃあ、なんで俺は此処に来れたんだ? さっきの蛍が俺をここに導いたんだ。 君は、勘違いしている。潤一が望んでいるのは君の幸せなんだ、だから俺が選ばれ、此処に導かれたんだ。俺が君を幸せにする、必ず幸せにするから・・・だから、だから・・・・・俺と結婚してくれ・・・」
えっ・・・今何て?・・・結婚?
気が付いたら、私は頷いていた・・・
「小村さん・・・貴方と一緒に生きていきます・・・」
ガードレールの根元に置いた写真が風で舞い上がった。それは、高く高く舞い上がり、一瞬だけ光ったと思ったら消えてしまった・・・
それを、二人で見上げながら手を振った。

「さぁ、帰ろうか・・・緑川さんも森山も、あいつの彼女も心配してるぞ、きっと。しかし、ここは寒いなぁ・・・。おっ、この自販機、ホットのアップルティー有るじゃんか。俺、アップルティー大好きなんだよね。」
思わず私はほほ笑んだ。
私の最期の時はこうして終わった・・・そして新しい私の最初が同時に始まった。

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